【2944】 高度な技に真っ向勝負  (若杉奈留美 2009-05-09 08:37:11)


「激闘!マナーの鉄娘」シリーズ。



(最終章その5・自由への戦い)

「きたわね、佐伯ちあき」

銃を構えた少女が血走った眼でこちらを見据えている。

「それ以上、お姉さまと智子に近づかないで」

少女はそれに答えず、いきなり銃を乱射した。
銃弾が雨あられとちあきの体に降り注ぐ。

「ぐぅぁっ!!」

思わず悲鳴をあげてその場にうずくまったちあきに、少女が1歩近づいた。
目の前には銃口。

「私、前々からあんたたち山百合会がうっとうしかったのよ。
学園内での人気をいいことに独裁体制を敷いて、反対する人間を次々に粛清してきたあんたたちがね。
普通の学校ならまずありえないこと。
それがリリアンではまかり通っている!
そんなふうにしてしまったのは、山百合会、あんたたちよ!
諸悪の根源であるあんたたちを、私は許さない。
とりわけ佐伯ちあき、あんたをね!」

すでに少女の目には憎しみ以外の何物も宿っていない。
もう、だめなのか。
ちあきの脳裏で、これまでの人生が高速でフラッシュバックする。

(ああ、もうこれで私は死ぬんだ…)

そう思って目を閉じたそのときだった。

「それは違うと思うよ」

聞き覚えのある声に、思わず耳を疑った。

「祐巳さま…!」
「祐巳さま、なぜこちらに!ここは危険すぎます!」

ちあきと智子が口々に叫び、瞳子はあまりのなりゆきに言葉を失って、ただ祐巳を見つめているだけ。

「じゃあ聞くけど、どうして山百合会がそんなにも支持を集めているのか、
考えたことある?」

そのあまりに澄み渡った声と、意表を突いた問いかけに、レジスタンスは絶句するばかり。

「私はどうかわからないけど、歴代山百合会には成績も性格も申し分なくて、仕事をする力量も十分に備えた人たちばかりが集まってきた。
全校生徒を引っ張ってゆくリーダーシップに、山百合会の仕事も勉強もきちんとこなせるだけの力。
相手の気持ちや状況をちゃんと見極めて物を言えるだけの力。
そしてときには、先生や学校のえらい人たちとも物おじせずに話ができるだけの力。
そういう力がある人たちがここにいる。
それを生徒たちはちゃんと見抜いているからだよ」

するとそれまで銃を構えていた少女の後ろにいたもう一人が、たまりかねたという表情で叫んだ。

「だからってリリアンにはそんな完璧な人たちばかりじゃないでしょう!?
できる人になりたくてもなれない、成績だってよくもないし、これといった魅力があるわけでもない。
そう言う人たちに山百合会は一瞥もくれなかった。
今更いい子ぶられてもうれしくなんてない!」
「それはあなたたちのひがみだよ」

祐巳はさらに一歩、間合いをつめた。
次の言葉を探しあぐねる少女。
だがそれも一瞬だった。

「…その上から目線が、ウザいのよ」

祐巳のこめかみに、銃口が突き付けられるのを、ちあきたちははっきりと目撃した。

「何するの!」
「これ以上近づいたら、この女を殺す」
「そうはさせない!」

たまらず瞳子が立ち上がり、手にしていたナイフを投げつけた。
ナイフは見事な放物線を描き、祐巳を狙っていた銃だけを床に落とした。

「私たちと勝負したいのなら、こんな銃なんかじゃなくて、家事スキルで勝負しなさい」

それを聞くと、ちあきはニヤリと笑った。

(さすが、祐巳さま。カリスマ性はまだ健在ってわけね)

言外に「どうするの?」という意志をこめて、反乱分子を冷たく見やる山百合会。

「…いいわ。残り試合はあと2つでしょう?受けて立つわよ」


一つ戻る   一つ進む