【2945】 船貸しきって駄目人間爆走中  (bqex 2009-05-09 23:11:03)


パラレル西遊記シリーズ

【No:2860】発端編
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【No:2864】三蔵パシリ編
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【No:2878】金角銀角編
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【No:2894】聖の嫁変化編
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【No:2910】志摩子と父編
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【No:2915】火焔山編
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【No:2926】大掃除編
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【No:2931】ウサギガンティア編
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【No:2940】カメラ編
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【これ】
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【No:2949】黄色編
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【No:2952】最終回



 私、二条乃梨子は、孫悟空の聖さま、猪八戒の蓉子さま、沙悟浄の江利子さまと一緒に天竺目指して旅をして……いや、マラソンをしている。

 ぜー……はー……ぜー……はー……

 お三方は衣装で身体能力がかなりパワーアップされてるけど、私はパワーアップされていないので通常通りの二条乃梨子の体力でしかない。そして、普通通りの二条乃梨子は残念な事に運動がそれほど得意じゃない。
 なのに、江利子さまが門限に間に合わないって言い出して、天竺までマラソンになってしまった。
 全力疾走中だが、どんどん離されていく……

 目の前に川が現れた。
 足が止まる。
 向こう岸の方を見るが、向こう岸は良く見えない程の広い川だ。
 辺りには船も橋も見えない。
 お三方は泳いで行ったのだろうか?
 トライアスロンかよ。
 疲れてその場に座り込む。

 ぽつん。

 一人ぼっちで膝を抱えてぼーっとしているうちに疲れて眠ってしまった。



「……」

「……う〜ん」

「きゃああぁぁ!!」

 突然目の前で悲鳴が上がって目が覚めた。
 驚いて見ると目の前にはびっくりした顔の実の妹がいる。

「な、何?」

 辺りを見回す。
 千葉の実家ではないし、菫子さんの家でもない。妹は昔の中国っぽい衣装を着ている。相変わらず例の西遊記の世界のようだ。
 つまり、彼女はパラレル妹らしい。

「ん?」

 何となく違和感を覚えて我が身を見ると、下着姿になっている。
 妹の手には私の着ていた僧侶の衣装が……

 妹よ、ここじゃあんたは「追いはぎ」なのか?

「あっ!」

 首筋に手を当てる。
 ロザリオが、ない!
 入浴時以外は肌身離さずつけている、あの、ロザリオがない!
 志摩子さんがかけてくれたあのロザリオがぁ! ないっ!!

「返しなさい!」

 妹に飛びかかる。

「ひぃっ!」

 妹は衣装を投げつけるが、その中にロザリオはない。

「こらあっ! ロザリオ返せっ!!」

 ヘッドロックをかけて締め上げる。

「と、とられる方が悪いんだからっ!」

 金目のものだと思ってとったようだが、値段はそう高いものではない。
 だが、あのロザリオに受け継がれてきた想いはプライスレスじゃあっ!!

「あんたはねえっ! そんな屁理屈を言ってるんじゃあないっ!!」

 げんこつを作ってほっぺにグリグリとお見舞いしてやる。

「いっ! 痛たあぁ!!」

「これ以上痛い目に遭いたくなかったら大人しくロザリオを返せえっ!!」

「だ、誰が──」

 その時だった。
 バンッ、っと勢いよく部屋の扉が開いて聖さまが入ってきた。

「乃梨子ちゃん」

 一瞬の隙をついて妹が逃走を図る。

「おっと」

 聖さまが素早く妹の手をつかむ。
 次の瞬間、聖さまは手早く妹を抱え込むと胸を揉む。

「あっ、ああ……何を! や、やめっ……」

 妹は思わずロザリオを手放した。
 私はしっかりとロザリオをキャッチした。
 ああ、もう少しで志摩子さんに一生顔向けできないところだった。
 大切なロザリオを私は首にかけた。

「何するのさ! 変態セクハラ猿!」

 妹は涙目になって逃げて行った。

「ありがとうございました」

 助けてもらった事には変わりない。礼を述べた。

「いやあ、ノリリン。君の肌の色ならオレンジよりピンクの方が似合わぎゃふっ!!」

 聖さまにはグリグリではなく、幻の右をお見舞いしてやった。



 衣装を着ると、私は聖さまに連れられて家を出た。

「お2人は?」

「先に行ってるって」

 やれやれ、と聖さまが言う。

「よく、ここがわかりましたね」

 同じような家がぽつんぽつんとあるだけの村を見回して言う。

「村の人に、『この辺りでお坊さんを拉致監禁しそうな家はありますか?』って聞いたらここだっていうから」

 さらり、と聖さまは言う。

「拉致監禁が前提ですか」

 まあ、狙われてばかりだし、実際にあの家にいたのだが。

「そりゃあ、こんなに可愛いノリリンじゃ狙われるのは当たり前でしょう」

 聖さまが後ろから抱きついてくる。

「わかりましたから、早く行きましょう」

 冷静に言う。喜ばせる気はない。

「本当に、君はつまらないな」

 ちょっと拗ねたように聖さまは言った。

「志摩子さんにリアクションの良さで選ばれたわけじゃありませんから」

「志摩子はそんな理由で妹を選ばないでしょ」

 と聖さまが言う。全くそれはその通り。

「まあ、どんな理由があるにせよ、そのロザリオは妹にする子以外には渡さないでよ」

 ぽん、と頭に手を置かれて不意打ちを食らった。
 その時だけはその手を払う気にはなれなかった。



 再び川が見えてきた。

「キント雲で渡るんですか?」

「無理。やってみたけど、この川は普通に渡れないみたい」

 外国人がやるように両手を広げて聖さまが答える。

「あれ? お2人は先に行ったって」

「川の中を潜って歩いてる。あの2人は水に関する術が使えるから。でも、私は残念だけど水に関する術は使えない」

 そうだ。たしか孫悟空は水に関する術が使えなくて、その時は猪八戒と沙悟浄が活躍するんだった。

「で、志摩子を呼んでなんとかできる術でもないかなって思って」

 聖さまがにっこりと笑う。

「確かに、それが手っ取り早い解決法ですね」

「そこの2人」

 呼びかけようとして、私達が呼びかけられる。
 この聞き覚えのある声は……
 振り向くとそこには菫子さんが立っていた。

「ああ、先程はどうも」

 聖さまが挨拶する。たぶん、私があの家に連れ込まれた事を教えたのが菫子さんなんだろう。

「おや、その子が連れだったのかい?」

 菫子さんがじろじろと私の顔を見る。

「ええ。これから天竺の雷音寺に行くんです」

 聖さまが答える。

「ん? あれ、あんたは志摩子さんとやらを嫁にもらったんじゃないのかい?」

 な、な、な、何を言うんだ、菫子さん。

「姉妹までは許しますが、結婚は許しません」

 聖さまが答える。

「変な事言わないでください……あっ!」

 私は記憶の底に封印していたものを思い出してしまった。
 13階層もあったあの悪夢の寺に住んでいた偽乃梨子の事を。
 偽乃梨子は偽志摩子さんを嫁と言っていた。
 偽志摩子さんは志摩子さんと言うらしい。ややこしいなあ。

「あの、私はロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの二条乃梨子です。もしかして、お人違いでは?」

 恐る恐る言ってみる。

「ああ、あんたは九頭じゃないんだ」

 偽乃梨子は九頭と言うらしい。

「それは災難だったね。あの一家は九頭の実家でねえ。九頭が使い込みを働いてすっかり落ちぶれて追いはぎみたいな事をやっているのさ」

 偽乃梨子、あんたも使い込みしたのかよ。
 私も受験料を使い込みはしたが、せいぜい京都に行って玉虫観音を拝観出来るぐらいの額だった。
 まあ、その後人生は大きく変わったが。
 哀れなパラレル二条家。一家で追いはぎとは。
 偽乃梨子め。なんという親不孝。
 ……元の世界の二条家、リリアンの学費が苦で、一家で悪事をしているって事はない。たぶん。きっと。

「まあ、九頭は志摩子さんとやらにいれあげて、家族に志摩子さん、志摩子さん、って言ってウザがられていたから、その仕返しかもしれないねえ」

 ……まさか、元の世界の二条家でも、私の事をウザいと思ってるって事はないよね?
 春休みにちょっと帰省しよう。

「で、あなたは私が九頭だと思って呼び止めたのですか?」

「いいや。あんた達川を渡るんだろう? お節介をしてやろうと思ってね」

「お節介?」

「これを使えば川を渡れる」

 菫子さんが差し出したのは白ポンチョだった。

「これを、どうしろと?」

「まあ、とにかく着て渡ってごらん。ああ、返さなくていいよ。向こうの岸に私と同じくらいの婆さんがいるから、彼女に渡せばいい」

 この世界の白ポンチョにどんな効力が?
 白ポンチョ、白ポンチョ、どこまで私を悩ませる。

 私達は騙されたつもりで白ポンチョを身につけると川に向かった。

「おっ!」

 聖さまが声を上げる。
 聖さまは水面に立っていた。
 私は川に入る。
 不思議な感覚だった。ゼリーの上に立っているように私は水面に立っていた。

「おお」

 向こう岸を目指して歩く2つのてるてる坊主。
 ぷるんぷるんとした水面を跳ねるように歩く。
 普通に歩くよりずっと早い。
 これならお2人にも追いつけそうだ。
 何だか楽しくなってきた。

 そのてるてる坊主に向かって何かが近付いてくる気配がした。
 まず、カンツォーネが聞こえてきて、水をかく音がした。
 そして、ゴンドラの姿が浮かび上がる。
 ゴンドラを漕いでいるのは山口真美さまだった。

「ごきげんよう。ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンの二条乃梨子さんね」

 この世界にきて初めてこの称号(?)をスラスラと言える人に遭遇した。

「もし、そうだとしたら、何だと言うのですか?」

「食べるに決まってるじゃない」

 ニヤリ、と真美さまは言った。

 聖さまがちび聖さまを召喚した!
 しかし、ちび聖さまは次々と水の中に飲み込まれていった。

「あ、ああ……」

「そんな術じゃあ勝てないわよ。なぜなら、私は水──」

「ストップ」

 聖さまが止めた。

「中の人ネタはいいから」

「中の人なんかいないわよ!」

 真美さまは真っ赤になって怒った。

「後悔させてあげるわ!」

 真美さまはオールを振り上げた。
 オールの動きに合わせて水の柱が何本も立ち上がる。

「ひっ!」

 聖さまが術でパワーアップして素早く水の柱をなぎ払う。

「やるじゃない。じゃあ、これはどうかしら?」

 ぱちん、と真美さまが指をはじくとパッカリと水面が割れた。

「え!?」

 足もとの水がなくなり、私達は落下する。
 落下予想地点を蓉子さまと江利子さまが歩いていた。

「うわあぁ!!」

「ああっ!!」

「ぅああぁっ!!」

 とっさに蓉子さまが放った水の玉に包まれて、激突は避ける事が出来たが、次は左右から水の壁が襲ってくる。
 水の玉に入ったまま、私達はぐるんぐるんと回される。

「あ〜れ〜」

 4人ともヘロヘロになったところに真美さまが現れた。
 不敵な笑みを浮かべている。

「私の調査では、ロサ・ギガンティア・アン・ブゥトンは雷の術を使える。でも、水中では全員感電死の恐れが使えない。孫悟空は水に関する術を使えない。猪八戒は水中で生きていられるよう水の玉を維持するので精一杯。残るは沙悟浄のみ」

 リリアンかわら版編集長ばりの調査能力。
 真美さま、お見事です。

 ……なんて、感心している場合じゃない!
 ここは我々の命運を握る江利子さまを信じよう。

「行くわよ!」

 そう言って江利子さまは逃げだした。

「まともに相手してたら家に7時に帰れなくってよ!」

 江利子さまはもう、家に帰ることしか頭にないようだった。

「待ちなさい!」

 真美さまが追ってきて前に回り込む。

「くっ」

 江利子さまは私達3人を置いて、真美さまを振りきり走り去った。

「一人でも、帰る気ね」

 真美さまは、江利子さまを無理には追わずに、私達を確実に捕らえる作戦に切り替えたようだ。

「まあ、手出しは出来ないんだから、1人ずつじっくりと……」

 そう言いながら真美さまは私の方に近づいてきた。
 そりゃあ、そうだろうな。
 久々に人生の走馬灯が上映される。

「待ちたまえ」

 突然老紳士の声がした。
 タクヤ君だ!

「た、た、た、た、太上老君!」

 真美さまがわなわなと震えだした。

「そうです。僕は太上老君、君の飼い主です」

 ニコニコとタクヤ君は真美さまに近づく。
 真美さまはヘビに睨まれたカエルのように身動き一つしない。
 こつん、とタクヤ君が持っていた派手な棒で真美さまをつつくと、真美さまはカエルになってしまった。

「僕の飼っているペットが大変失礼しました」

 タクヤ君はカエルをかごにしまうと丁寧に詫びた。

「お詫びに皆さんをお送りしますよ。それくらいはさせてください」

 こうして、我々は太上老君マジックで川を渡った。

 この世界でもタクヤ君は手際が良かった。
 白ポンチョを指定された老婦人に渡すと天竺領内に連れて行ってくれたのだ。

「ここから先は、君達が自力で行かなくてはいけない事になっているので、僕はこれで」

 そう言ってタクヤ君は立ち去った。
 遂に天竺に到着した。
 さあ、後は雷音寺まで行くぞ!

「で、江利子は?」

「ああっ!」

 どうしよう……

続く【No:2949】


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