【2965】 目には見えぬ絆貴女の温もりが私の力  (鬼饗 雪姫 2009-06-06 19:29:28)


 ※オリジナル設定・オリジナルキャラクターを多数、使用しております。
 苦手な方・お嫌いな方は、スルーして下さい。

 小笠原 幸穂は、別荘へと向かう車の後部座席に座り、ウトウトしていた。

 側には、可愛らしいキャラクターの描かれたバックがあり、別荘で過ごす為に必要なモノが一式が入っている。

 小笠原家の人々は、日々忙しく動き回っており、夏休み中の幸穂の面倒を見てられる者は、誰も居なかった。

 普段ならば、使用人や清子が、幸穂の面倒を見る。

 しかし、幸穂の夏休み期間中は、使用人が交代で夏休みを取ってしまう為に、幸穂の面倒まで手が回らなくなってしまう。

 結果として、幸穂は、夏休みに入ると同時に、別荘の管理人の沢村夫妻の元に送られてしまう。

 

 沢村夫妻は、幸穂を実の娘のように可愛がってくれるし、幸穂も、沢村夫妻が大好きだった。

 しかし、幸穂は、別荘へ行くことは嫌いだった。

 家族に会えなくなってしまうからだ。

 遅くなってしまう事もあるが、幸穂の為に、読み聞かせをしてくれる両親。

 寄る年波を感じさせることなく、一緒に遊んでくれる祖父母。

 そんな家族と、離れて暮らさなくてはならない期間。

 だから、幸穂は、別荘に行く以上に、夏休みが嫌いだった。

 
 天使(エンジェル)さまがみてる 第1話
 

 「・・・あれ・・・ここどこ?」

 ふと、目が覚めた幸穂が、周りを見渡すと、知らない場所だった。

 調度品などを見る限り、どこかの施設であることは分かったが、それ以上は分からなかった。

 「目が覚めたかしら?」

 幸穂が、声のする方を向くと、西洋人形と和人形のような容姿の女性達が立っていた。


 「ええと・・・どなたですか?」

 「私は、藤堂 志摩子。こっちは、妹の二条 乃梨子よ。」

 「ごきげんよう。」

 「ご、ごきげんよう。私は、小笠原 幸穂といいます。」

 2人に挨拶されて、幸穂は慌てて、そう自己紹介した。

 「小笠原?ということは、祥子様の関係者かしら?」

 「そうかもしれませんね。」

 そう志摩子と乃梨子が、結論付けるのだった。

 「あの・・・祥子様っておっしゃっていましたけど、お母さんのお知り合いなのですか?」

 「お母さん?」

 その発言を聞いて、志摩子は首を傾げた。

 「小笠原 祥子は、私のお母さんです。」

 幸穂の言った事実に、志摩子はおろか、乃梨子まで固まってしまった。

 「ひとまず、祥子様が来るまで、ここで待っていると良いよ。」

 先に硬直から解けた乃梨子が、そう言うと、幸穂はそれに同意した。

 

 

 「祥子様にお子さんが居たなんて、初耳ね。」

 出されたアイスティーを飲む幸穂を見ながら、志摩子がそう言った。

 「私だってそうですよ、志摩子さん。第一・・・。」

 「第一、何かしら?乃梨子。」

 「幸穂ちゃん、あなた、何歳?」

 「今度の誕生日で、9歳です。」

 「幸穂ちゃんが、現在8歳。どう考えても、祥子様が出産しているとは思えませんよ。」


 「そうよね。」

 とすると、この子は一体何者なのか?その疑問が、2人の頭を掠めた。

 「ねぇ、幸穂ちゃん。」

 「なんですか?乃梨子お姉様。」

 「お姉様は付けなくても良いよ。あなたの生年月日、分かるかな?」

 「2008年8月10日生まれです。」

 それを聞いた乃梨子も志摩子も、眉をひそめた。

 「2008年ということは・・・。」

 「今から、10年近く先の未来という事になりますね。」

 「それじゃあ、この子は、もしかして・・・。」

 「未来からやって来たと・・・考えるべきかもしれませんね・・・。」

 2人は、そこまで結論付けたが、それらしい確信を得ることは、出来なかった。

 

 「ごきげんよう。」

 「ごきげんよう!」

 そういって、ビスケット扉が開き、入ってきたのは、令と由乃だった。

 「あら?お客さん?」

 先に幸穂に気がついたのは、由乃だった。

 「可愛い子ね。志摩子か乃梨子ちゃんの知り合い?」

 「いえ、令様。祥子様の関係者の方のようですよ。」

 そう乃梨子に説明され、令と由乃は、席に着いた。

 乃梨子は、早速、2人にお茶を出すべく、準備を始めた。

 「ごきげんよう、小笠原 幸穂と言います。」

 「ごきげんよう。私は、支倉 令よ。」

 「ごきげんよう。私は、島津 由乃よ。よろしくね、幸穂ちゃん。」

 そう挨拶を交わすと、幸穂は、4人と楽しそうに話し始めた。

 

 「それにしても、祥子に良く似ているね。」

 「そうですか?」

 お茶に口をつけながら、令がそういうと、幸穂は照れくさそうにした。

 「何だか、祥子を小さくしたみたいだよ。」

 「よくお祖母ちゃんにも言われます。私はお母さん似だって。」

 「お母さん!?」

 その一言に、由乃はもちろん、令まで驚いたような顔をし始めた。

 「実は、幸穂ちゃんは、未来から来た祥子様の子供の可能性があるんです。」

 「どういう事?」

 乃梨子の仮説に、由乃が首を傾げた。

 「彼女の言う生年月日が、10年近い未来の2008年だそうです。」

 「イタズラの可能性は?」

 令は、もっともらしい部分を突いた。

 「彼女の持ち物から、その可能性は低そうです。例えば、彼女の携帯電話を見せてもらいましたが、今の最新機種よりも、明らかにグレードが高いです。」

 乃梨子は、そう補足した。

 「じゃあ、タイムスリップしてきたって言うの?」

 「その可能性が一番高そうです。」

 令は、乃梨子の分析能力の高さは買っている。

 全てを鵜呑みに出来るわけではないが、彼女の仮説は、ほぼ真実だろうと考えた。

 「まるで、映画とかの世界みたいね!」

 一瞬、目を丸めていた由乃だったが、次の瞬間には、そう言い始めた。



 ビスケット扉を開けて、入ってきた祥子に、幸穂は誰よりも反応した

 「ごきげん「あ、お母さん。」へ?」

 そして、祥子に駆け寄ってきた。

 「お、おおおお姉様!?」

 一緒に入ってきた祐巳は、その様子を見て、一瞬でパニックを起こした。

 「ちょ、お、落ち着きなさい、祐巳。」

 「祥子。貴女も落ち着いた方が良いと思うよ?」

 パニックが伝播したであろう友人の祥子を見ながら、令はヤレヤレと思った。



 「つまり、この子は未来の私の娘であると?」

 「はい。ただ、可能性の域を出ませんので、何とも言えませんが。」

 出されたお茶を飲みながら、乃梨子の仮説を聞くと、祥子も祐巳も落ち着きを取り戻した。

 「この子、どうする?」

 令は、祐巳達と楽しそうに、話をしている幸穂達を見た。

 「そうね。私が引き取るのが、筋でしょうね。」

 「筋って・・・。」

 言い切る祥子に、令は苦笑した。

 「それに、どこか他人じゃない気がするのよ。だから、引き取るわ。お母様だって、喜ぶでしょうしね。今日は、何も無いんだし、解散にしましょう。幸穂、帰りましょう?」

 祥子が、そう宣言したので、今日のお茶会は、終了となった。



 祥子と幸穂が、小笠原家へと帰宅すると、清子が待っていた。

 「あらあら、可愛らしい子ね。」

 清子に、前もって、連絡をしておいた。

 しかし、その柔軟すぎる態度に、祥子は、軽く目眩を覚えた。

 「ただいま、清子お祖母ちゃん!」

 「お帰りなさい、幸穂ちゃん。」

 幸穂は、清子に駆け寄り、抱きついた。

 それに驚くどころか、当たり前のように接する清子の態度にも、祥子は、驚いた。

 「あのね、お祖母ちゃん、あたしね、○たくさんもらったんだよ?」

 そういって、幸穂は、バックから通信簿を出して見せた。

 「あらあら、凄いわね。」

 「えへへ。」

 清子が、頭を軽く撫でると、嬉しそうに幸穂は、笑うのを見て、清子も笑った。

 祥子は、祖母が亡くなって以来、無理に笑っているような清子が、自然と笑顔を作っていた。

 それを見ただけで、祥子は幸穂を引き取って良かったと、思うのだった。

                                  <つづく>
 


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