【2969】 上をむいて可愛いキャラクター  (鬼饗 雪姫 2009-06-13 17:46:50)


 ※オリジナル設定・オリジナルキャラクターを多数、使用しております。
  苦手な方・お嫌いな方は、スルーして下さい。

 【No:2965】『目には見えぬ絆貴女の温もりが私の力』の続きとなっております。

 「幸穂・・・?」

 祥子は、目が醒めると、隣で眠っているはずの幸穂の姿がなかった。

 眠り眼だった祥子は驚き、あわてて布団から飛び出した。

 「幸穂!どこに行ったの!?」

この広い屋敷では、幼い彼女にとっては、それなりに危ない場所もある。

ケガを負うだけならば、まだしも、最悪死んでしまうかもしれないと思うと、祥子は、居ても立ってもいられずに、部屋を飛び出した。


 「あら、祥子さん、おはよう。」

 「お母さん、おはよう。」

 祥子は幸穂の姿を探すために、髪をかき乱して、屋敷中を探し回った。

 結果、もっとも居ないだろうと踏んだキッチンに、2人が居るのを見つけて、全身の力が抜けてしまった。

 「お母さん、どうしたの?」

 座り込んでいる祥子に、可愛らしいエプロンをした幸穂が近づいてきた。

 「何でもないわ。ところで何をしているの?」

 「お祖母ちゃんと一緒に、朝ご飯を作っていたのだよ。」

 すごいでしょ?と言わんばかりに、幸穂が胸を張っているのを見て、祥子は自然と笑みがこぼれてしまった。

 「お母さん、もうすぐご飯が出来るから、待っていてね。」

 分かったわと返事をすると、祥子は、ひとまず身支度を整える為に、自室へと戻ることにした。





 天使(エンジェル)さまがみてる 第2話



 祥子が、朝食用の紅茶を煎れていると、ワゴンに朝食を載せて、清子と幸穂がやって来てた。

 「それじゃあ、食べましょうか?」

 祥子達は、テーブルに着き、朝食を食べ始めた。

 「どうかな?」

 「とても上手に出来ているわよ。」

 幸穂は、良かったと嬉しそうに言いながら、ジャムたっぷりのトーストを食べた。



 「それじゃあ、行ってくるわね。」

 朝食を終え、祥子が身支度を整えると、幸穂が見送りにやって来た。

 「いってらっしゃい、お母さん。」

 「早めに帰ってくるから、良い子で待っているのよ?」

 「うん。」

 祥子は、優しく微笑みながら、幸穂の見送りを受けながら、リリアンへと向かった。



 「幸穂ちゃんは、どうですか?お姉様。」

 祥子が薔薇の館へと行くと、祐巳が早速、そう聞いてきた。

 「とても良い子よ。ついつい楽しくて、昨日は、お母様と3人でお風呂にも入ってしまったわ。」

 「良かったですね、お姉様。」

 祐巳は、祥子が楽しそうに笑うのを見て、ホッとした。

 祥子の祖母が亡くなってからの一連の騒動で、一時はスール解消寸前まで行ってしまったのは、祐巳にとっては、記憶に新しい。



 「どこかへ連れて行ってあげたいのだけど、なかなか難しいのよね。」

 「それでしたら、夏休みにしか行けない所を考えられてはどうですか?」

 ここぞとばかりに、由乃がそう祥子に意見をした、

 「夏休みにしか行けない所?」

 由乃がそう言ったので、祥子は首を傾げた。

 「由乃さんは、どこかに行くの?」

 参考にさせてもらおうと、祐巳は由乃に聞いてみた。

 「富士登山に行くことになったのよ。前からやりたかったのよね。主治医と保護者の了承も取ったしね。」

 「由乃さん、また令様を困らせたでしょ?」

 祐巳は、由乃の強引な説得を受けたであろう令に、同情をすると同時に、由乃の健康状態が良くなっている事に安堵した。

 「志摩子さん達は?」

 「乃梨子と日帰りで行ける教会とお寺を、回ることになっているのよ。」

 「2人らしい過ごし方だね。」

 なんせ、シスター志望の志摩子と仏像愛好家の乃梨子で、スールになりたての新婚さんでもある。

 少しでも、一緒に様々な事をしたいという気持ちがあるのだろう。

 祐巳にとっては、羨ましい限りであった。

 「お姉様、遊園地などどうでしょうか?」

 「遊園地というのは、夏休みは混むものなのでしょう?もう少し、涼しい時期になってからにしましょう。」

 「そうですか・・・。」

 遊園地ならば、祐巳はもちろん、幸穂も楽しめるのではないだろうかと思った。

 しかし、祥子は人混みが苦手なようだ。母親が一緒でなければ、幸穂もきっと嫌がるだろう。

 「ねぇ、祐巳。」

 「はい?何でしょうか?」

 「私は、毎年、夏は避暑地の別荘で過ごすのだけど、どうかしら?」

 「へ?あの・・・何のお話でしょうか?」

 祥子の発言の意図が読みきれずに、祐巳は首を傾げてしまった。

 「もう。あなたは、変なところで鈍いわね。別荘に来ないかって言っているのよ。」

 「ええ!?」

 まさか、自分も同行させてもらえると思わず、祐巳は驚いてしまった。

 「幸穂も、あなたが来てくれたら、喜ぶでしょうしね。どうかしら?」

 「行きます。是非、行かせていただきます!」

 祐巳の力の入った発言に、みんな笑いがこぼれたのだった。




 「え?別荘?」

 「ええ。行ったことないかしら?」

 家に帰ると、祥子はさっそく、幸穂に別荘行きの話をした。

 「ううん・・・行ったことあるよ。」

 どこか、寂しそうな表情を浮かべる幸穂に、祥子は不思議に思えた。

 「どうかしたの?」

 祥子は、幸穂の表情を読みとろうと、幸穂の顔を覗き込んだ。

 「ううん。何でもないよ?」

 祥子の表情を読み取ったのか、幸穂は、慌てて取り繕い始めた。

 「私と祐巳も一緒に行くから。」

 「ホント!?」

 先ほどまでの表情が一変し、幸穂は嬉しそうな顔をした。

 「行くのは、今度の月曜日からだけど、楽しみに待っていてね。」

 「うん。」

 幸穂は祥子と一緒に、別荘に行けることが、よっぽど嬉しかったらしい。

 そのためか、幸穂は、お茶を持ってきた清子に、嬉しそうに別荘行きの話しを始めた。


 「それじゃあ、何かと準備が必要でしょう。そうだわ。明日、お祖母ちゃんとお買い物に行きましょう。」

 「うん、行く行く。」

 「お母様。あまり、幸穂を甘やかさないでくださいね。」

 祥子はそう言って、清子に釘を刺した。

 「あらあら、そんなに心配だったら、一緒に祥子さんも行く?」

 「行く?」

 ステレオで聞いてきた2人に、祥子は一瞬、たじろいでしまった。

 「午後からになってしまうけれど、良いかしら?」

 結局、清子よりも自分の方が、幸穂を甘やかしているのではないかと、祥子は思ってしまうのだった。
                                   <つづく>


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