夕焼けに染まる空を背に、福沢祐巳と山口真美という、なんとも珍しい組み合わせが二人して、校門をくぐり抜けた。
方や生徒会役員の一人であり、方や新聞部の部長、共にそれなりに忙しい立場故、クラスメイトであるにも関わらず、一緒に帰るタイミングが合うこと自体が珍しいのだ。
実際、お互いに「珍しいねぇ」「滅多に無いものね」などと会話しながら歩みを進めているのを見ると、さもありなんと言ったところ。
信号が青に変わるのを待っていると、交差点の向こう側の横断歩道を、一人の老婆が歩いていた。
しかし、既に歩行者信号は赤に変わっていて、老婆は道の半ばまでしか到達していない。
しかも、結構な数の自動車が、今や遅しと待ち受けているではないか。
こりゃ大変だと、祐巳と真美が駆けつけようとしたが、まだこちら側の信号は青に変わっていないので、助けに行くことも出来やしない。
ヤキモキしながら待っていると、小さな女の子──小学一年生ぐらいか──が、信号据付の旗を手にとって、歩道に駆け出して行くではないか。
女の子は、旗を広げて老婆の手を取ると、慌てず騒がず自動車に向かって会釈しながら、ゆっくりと誘導し始めた。
その様を見たドライバーたち、お年寄りを誘導する女の子に対して、怒鳴ったりクラクションを鳴らしたりと、そんな大人気ない行為が出来るハズもなく、じっと渡りきるのを待っていたが、これもある意味珍しい光景だ。
その頃には、既に祐巳も真美も信号を渡っていたが、女の子と老婆が無事歩道を渡りきったの見て、互いに顔を見合わせながら、安堵の溜息を吐いた。
小さいのに良く出来た子だ、と思いながら、口出しする必要もないだろうと判断し、微笑を浮かべつつ、会話している老婆と女の子の傍を通り過ぎようとすると。
「おばぁさん、おけがはないですか?」
「おやおや、ありがとうねぇお嬢ちゃん。お陰で無事渡る事が出来たよ。良かったら、お名前を教えてくれるかい?」
二人の会話が、耳に飛び込んできた。
「ヤマグチマミっていいます」
「私はフクザワユミだよ。本当にありがとうねマミちゃん」
「きをつけてかえってね、ユミおばぁちゃん」
「うん、マミちゃんも気を付けるんだよ」
それを聞いた祐巳と真美は、二人が自分達と全く同じ名前──漢字は分からないが──であることに、驚きの余り呆然とし、その場に立ち尽くしてしまった。
祐巳と真美の珍しい組み合わせが招いた、ユミとマミの珍しくも微笑ましい出来事に、なんだか幸せな気分になった二人は、再び顔を見合わせながら、暫くの間、クスクスコロコロと笑いを止めることが出来なかった。