※オリジナル設定・オリジナルキャラクターを多数、使用しております。
苦手な方・お嫌いな方は、スルーして下さい。
【No:2972】『正統派な大人の会話』の続きとなっております。
祥子は朝食を終えると、優の家へと向かった。
それは確認作業であると同時に、優への現状報告でもあった。
「さっちゃん、急にどうしたのだい?用があるのなら、僕の方から出向いたのに。」
祥子が優の部屋に通されると、優は明後日から行く花寺生徒会合宿の為の準備をしていた。
「今日ばかりは、私の家に来られると困るのよ。」
「?とりあえず、お茶を用意させるよ。」
優は祥子の発言に首を傾げながら、使用人に祥子のお茶を持ってくるように言いつけた。
天使(エンジェル)さまがみてる 第4話
「まずは、これを見てくれるかしら?」
祥子はそう言って、幸穂から借りてきた写真を、バックを取り出した。
「この写真は?」
「不思議に思わないかしら?」
「確かに・・・よく見れば見るほど、違和感があるね。特に真ん中に座っている女の子は誰だい?瞳子とは違うようだし。」
「あなたと私の子供で、名前は小笠原 幸穂っていうの。」
「へ?」
優が一瞬だけ動揺した顔を見て、祥子は驚いた。
普段から、どんな状況にも動揺一つ見せず、対処する優には珍しかったからだ。
「えっと・・・さっちゃん、これは、何かの冗談とかではないよね?」
「私が、そんな冗談を言う人間に見えるかしら?」
「確かに、君はそういう冗談を言う人じゃないね。」
何とか、平静になろうと必死になっている優に祥子は笑みがこぼれそうになってしまった。
「何だったら、私の家に来るかしら?別荘に行くための準備をしているわよ?」
「え?ああ・・・そうだね。僕の方の準備が出来次第、そちらの向かうとするよ。」
それだけ言うと、優は、明らかに動揺をした足取りで、部屋を出て行った。
笑ってはいけないとは分かっていても、祥子は知らず知らずの内に、帰りの車内で笑みがこぼれてしまった。
「あ、お母さん。お帰りなさい。」
祥子が家へと帰ると、幸穂は部屋でバックに着替えや宿題を詰め込んでいた。
「ただいま、幸穂。」
「どこに出掛けたの?」
「ちょっと、お父さんのところへと行ってきたのよ。」
「ふぅ〜ん、そうなのだ。」
幸穂は祥子の答えに対して、あまり興味なさそうだった。
「午後には帰ってくるそうよ。」
「え?ホント?」
幸穂は嬉しそうにしていたのを見て、祥子は、優に幸穂のことを伝えて良かったと思った。
「あ、お父さん!」
祥子と幸穂が昼食のお茶を飲んでいると、優がやって来たのだった。
「やあ、幸穂。良い子にしていたかな?」
「うん。良い子にしていたよ?」
「そうか。」
そういうと、優は幸穂の頭を軽く撫でた。
「それじゃあ、父さんと遊ぼうか?」
「うん。」
「さっちゃん、幸穂を借りていくよ?」
優は祥子に言ってきた。
「一々、私に何かを言わなくても良いわよ?」
祥子は優しく微笑みかけると、二人を見送った。
幸穂と優は手をつないで、中庭へと向かった。
「いやはや、子供は疲れを知らないというけど、本当だね。」
「もう疲れてしまったの?」
中庭を遊び回っている幸穂につき合っていた優は疲れきった顔をしており、それを見た祥子がやって来た位だった。
「お父さん、だらしないよ〜。」
麦わら帽子を被った幸穂がやって来た。
「そうね、お父さんはだらしないわね。」
「うん、だらしないよ。」
中庭のテーブルに3時のお茶を用意しながら、祥子がそう言ったのに、幸穂も同意していた。
「二人とも手厳しいな。」
ふぅっと一息をいれながら、優は、用意されたアイスティーを飲み始めた。
「それはそうと、君たちは、別荘に行くのだってね?」
「ええ。それが、どうかしたの?」
優は一息をいれて、そう言ってきたのに、祥子は首を傾げた。
「追いかける形になるけど、僕も向こうへ行く予定があってね。その時にでも、幸穂の遊び相手になろうと思うのだ。」
「そんなに、幸穂が可愛いかしら?」
「いや、そういう訳じゃないけれどね。僕に出来ることは、出来うる限りしようと思ってね。」
「相変わらず、女の子には優しいのね。」
「さっちゃんは、手厳しいな。でも、自分の娘だったら、誰だって、甘くなると思うけれどね。」
祥子の皮肉に、優はそう切り返してきた。
「アイスティーのお代わりは、いるかしら?幸穂?」
先程から静かにしている幸穂の方を二人が見ると、静かに寝息を立てて、眠っている幸穂の姿があった。
「こうやって寝顔を見ていると、小さい頃のさっちゃんに似ているね。」
「そうかしら?」
「君は覚えていないかもしれないけど、僕はよく覚えているよ。」
そういって、優は優しく幸穂の頭を撫でた。
「さて、小さなお姫様が風邪を引いたら大変だ。寝室へと連れ行こうか。彼女の寝室を教えてくれないかい?」
「ええ、こっちよ。」
優は幸穂を腕の中に抱えると、彼女を運んだ。
「さっちゃん。実は、僕はおじさん達から聞いているのだ。幸穂が僕の娘でない可能性も十分にある。」
「え?」
優は、幸穂の寝室へと運び終えた後、そう言い始めた。
「さっちゃんにしても、そうなんじゃないかな?君は、まだ幸穂を生んだ覚えもない。しかし、目の前に自分を母親として慕ってくる少女が居る。ただ、それだけの出来事にしか過ぎない。違うかな?」
「優さんは、あの子を信じないの?」
「信じてない訳じゃない。ただ、その可能性もあるということだけは、理解しなくちゃいけないと思う。」
そう言われて、祥子は初めて、『小笠原 幸穂』という存在を疑い始めた。
あの家族写真に関しても、誰かによって捏造されたものだとも言い切れない。
そうなると、彼女は未来の娘でないとすれば、誰なのか?
そんな疑問が祥子の中に渦巻き始めた。
「父親は産みの苦しみを知らない分、自分の子供を愛せないと言われている。その状況は、君にも言える事じゃないかな?」
「優さん。私は、あの子が誰であろうとも、私を母親と呼んでくれる以上、娘として育てたいわ。」
それは、祥子なりの決意でもあり、決心でもあった。
「さっちゃんが、そう言うなら、僕はこれだけは約束するよ。」
祥子の揺るぎない決心を見て、優は優しく言った。
「何かしら?」
「何があっても、僕はさっちゃんの味方だ。それだけは忘れないで欲しい。」
その発言は、幼い頃から自分に接してくれる優しい優お兄様ではなく、幸穂の父親である優のような雰囲気が醸し出されていた。
「ありがとう、優さん。」
「それじゃあ、僕はこれで帰るとするよ。向こうで、また会うとしようか。」
「ええ。」
優の背中を見ながら、祥子は、その背中が頼もしげに見ていたのだった。
<つづく>