【2979】 絶対他人に話さない事分かってほしい  (鬼饗 雪姫 2009-07-06 17:05:27)


 ※オリジナル設定・オリジナルキャラクターを多数、使用しております。
  苦手な方・お嫌いな方は、スルーして下さい。
  
 【No:2978】『残念な事に暴露されたら困る秘密』の続きとなっております。

 
 「おはよう・・・お母さん。」

 「おはよう、幸穂。」

 ベッドから、もぞもぞと出てきた幸穂は、ひどく眠そうだった。

 早寝早起きをモットーにしている幸穂とはいえ、朝の5時に起きるのは辛いのか、まだ寝ぼけていた。

 「さぁ、顔を洗ってらっしゃい。準備が出来次第、出発するわよ?」

 「ふぁ〜い。」

 アクビを噛みしめながら、幸穂は着替えを始めた。


 天使(エンジェル)さまがみてる 第5話


 「ごきげんよう、祐巳。」

 「おはよう、祐巳お姉ちゃん!」

 「ごきげんよう、お姉様、幸穂ちゃん。」

 M駅のロータリーで待ち合わせていた祐巳と会う頃には、幸穂の目はすっかり醒ましたようだ。

 「祐巳お姉ちゃん、そのワンピース可愛いね。」

 「幸穂ちゃんも、その青のワンピース似合っているよ?」

 「えへへ。お母さんのお下がりをもらったのだ。」

 そう言うと、幸穂は裾を掴むと、くるりと回って見せた。

 「それじゃあ、そろそろ行きましょうか?」

 祥子に言われて、2人は車に乗り込んだ。



 「美味しい〜。」

 「本当ね、祐巳のお母さんに感謝しないと。」

 「喜んでもらえて、お母さんも喜ぶと思いますよ。」

 3人は車内で、祐巳の母・みき特製のお弁当を食べ始めた。

 「あら、幸穂どうしたの?」

 「あう〜、梅干し嫌い・・・。」

 そう言って、幸穂がおにぎりから梅干しを除け始めた。

 「あら?好き嫌いは良くないわよ?」

 「だって・・・。」

 「お姉様。無理に勧めるのは、よろしくないと思うのですが・・・。」

 嫌がっている幸穂に祐巳は、そう祥子に進言した。

 「あら、小さい頃から、好き嫌いをしていると良くないわ。お母さんも半分食べてあげるから、食べなさい。」

 「はい・・・。」
 
 祥子に言われて、幸穂はしぶしぶ食べ始めた。
 
 「うぅ・・・すっぱいよ。」
 
 そう言いながら、幸穂はおにぎりを食べた。
 
 「ごちそうさまでした。」
 
 「それじゃあ、祐巳。私は少し眠るわ。」
 
 お弁当を食べ終わると、祥子がそう言ってきたので、祐巳は驚いた。
 
 「祐巳お姉ちゃん、私も少し眠いから眠るね。」
 
 「う、うん。」
 
 幸穂もそう言って、祥子に寄りかかって眠り始めてしまった。
 
 二人とも眠ってしまうと、祐巳は、やることはなくなってしまう。
 
 退屈しのぎのつもりで持ってきた本にしても、今はトランクの中で読むことも出来ない状態である。
 
 (あ、あれ・・・?)
 
 祥子にもらった酔い止めの為か、祐巳も眠りに落ちた。


 そこで祐巳は夢を見た。

 富士登山をしている由乃と令。神社仏閣や教会を見て回っている志摩子と乃梨子。

 すると、顔の見えない女性と女の子が、どこかの森を歩いているのが見えた。

 「誰・・・?」

 祐巳の一人言に気が付いたのか、女の子が駆け寄ってきた。

 「お姉ちゃん、これあげる。」

 「幸穂ちゃん・・・?」
 
 駆け寄って来たのは、紛れもなく幸穂だった。
 
 「画用紙・・・?」
 
 手渡されたモノは、画用紙であった。
 
 その画用紙には、ただこう書かれているだけだった。
 
 『波瀾万丈』と。
 

 「・・・お姉ちゃん、祐巳お姉ちゃん。」

 「う・・・うん、幸穂ちゃん?」

 祐巳は、揺さぶられているのに気が付いた。

 「インターチェンジに着いたから、お手洗いに行こう?」

 3人は、インターチェンジでお手洗いを済ませると、売店で売っているアイスクリームが目に止まった。


 「美味しいね、祐巳お姉ちゃん。」

 「そうだね。」

 「まったく、祐巳たら、アイスクリームが食べたいだなんて。幸穂と同じで子供ね。」

 二人にアイスクリームを買った祥子は、やれやれと思いつつも、二人の笑顔を見て、微笑んだ。

 「お母さんも一口どう?」

 「私は良いわ。」

 その後、車内に戻った三人は、様々な話で盛り上がった。


 「お帰りなさいませ、祥子お嬢様。」

 車が別荘に到着すると、沢村夫妻が三人を出迎えた。

 「今年もお世話になるわね。源助、キヨ。二人とも紹介するわね。こっちは妹になった福沢祐巳よ。」

 「初めまして、福沢祐巳と言います。」

 「ようこそ、祐巳様。ご自宅だと思って、くつろいで下さいね。」

 「ありがとうございます。」

 そう言って、祐巳が頭を下げたのを見て、沢村夫妻はにこやかに微笑んだ。

 「それから、この子が、こないだ話した娘の幸穂よ。」

 「祥子お嬢様の小さかった頃によく似ていてらっしゃいますね。」

 「源助おじいちゃん、キヨおばあちゃん、今年もよろしくお願いします。」

 「幸穂、失礼でしょ?」

 いかに使用人といえ、おじいちゃん・おばあちゃん呼ばわりは、小笠原家としての示しが付かない。

 祥子は幸穂をそういって、軽く叱った。

 「いえいえ、祥子お嬢様。そう呼んで下さっても、ちっとも構いませんよ。」

 「そうですよ。まるで、祥子お嬢様の小さかった頃が、目に浮かぶようです。」

 「もう、いやだわ。源助もキヨも。」

 沢村夫妻は、そう呼ばれたことがよほど嬉しかったのか、にこやかに微笑んでいた。


 荷物を車から降ろし、それぞれの部屋へと運び込み始めた。

 「それじゃあ、祐巳、幸穂。私はこっちの部屋だから。」

 「え?幸穂ちゃんと一緒じゃないのですか?」

 祥子と幸穂は同室で寝るものだと思っていた祐巳は、軽い肩透かしを喰らった気分だった。

 「私は夜に起き出して、本を読むかも知れないわ。そうなったら、幸穂にも悪いわ。」

 「祐巳お姉ちゃん。そこまで、私は赤ちゃんじゃないよ。」

 クスクスと笑う幸穂を見て、祐巳は、幸穂の表情が、どこか普段とは違う表情が浮かんだような気がした。

 荷物を解き終えると、ベッドでごろりとしていた、すると、ノック音が聞こえた。

 「祐巳お姉ちゃん、起きている?」

 「幸穂ちゃん・・・?どうしたの?」

 祐巳がドアを開けると、花柄のリボンの麦わら帽子を被った幸穂が立っていた。

 「お昼ご飯の前に、お散歩に行こう?」
 
 「お姉様は良いの?」
 
 「お母さんだったら、寝ているよ。」
 
 「寝ている?」
 
 車の中でも寝ていた祥子が体調を崩したのだろうかと、祐巳は心配になった。
 
 「お母さんは、別荘に来た日は、夜まで寝ていることが多いから。」
 
 「へぇ、そうなのだ。」
 
 祐巳は沢村夫妻に一声を掛けた後、別荘の裏にある森を歩き始めた。
 
 「あ・・・。」
 
 歩き始めて、数分もしない内に、ある大樹の前で立ち止まった。
 
 「どうしたの?」
 
 「え?う、うん。ブランコ無いのだなって思って。」
 
 「ブランコ?」
 
 「うん。ここにあるはずなのだけどね・・・。」
 
 「・・・。」
 
 祐巳はそれを聞いて、幸穂が未来から来たという事実を思いだした。
 
 「お母さんも言っていたのだ。私の世界とは違うことが多いから、気をつけてって。」
 
 そう言って、幸穂は少しだけ寂しそうな顔をした。
 
 どんなにあがいても、ここは幸穂の知っている過去よりも過去である。
 
 当然、彼女の覚えている記憶と一致しないことは多いだろう。
 
 「幸穂ちゃん・・・帰ろうか。」
 
 「うん、そうだね。」

 別荘へと戻った祐巳と幸穂は、沢村夫妻の作ってくれたクラブサンドを食べた。
 
 その後は、祐巳は幸穂とゲームをしながら過ごした。
 
 「祐巳、幸穂、ごめんなさいね。構ってあげられなくて。」
 
 リビングへと目を醒ました祥子が降りてきた。
 
 「気にしないでよ。お母さん。」
 
 「もう大丈夫なのですか?」
 
 「ええ。幸穂、もうすぐ、晩ご飯だそうだから、手を洗っていらっしゃい。」
 
 「うん。」
 
 幸穂が出て行ったのを見送って、祥子は祐巳の方を見た。
 
 「祐巳、幸穂はどうだったかしら?良い子にしてかしら?」
 
 「はい。先程まで、一緒にゲームをしていました。」
 
 「そうなの。だったら、夕食の後に、私も混ぜてもらおうかしら?」
 
 「はい。手加減はしませんよ。」
 
 「望むところよ。」
 
 そういって、祐巳と祥子は、手を洗うために、洗面所へと向かった。

                                   <つづく>


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