【2980】 激突!みんなのアイドル  (街 2009-07-07 09:19:04)


【No:2925】【No:2930】の続きです。が1話完結なので単品でも大丈夫です。



東京の郊外。

緑溢れるこの街に、小学校から大学まで一貫のリリアン学園があった。

学園に近接して建っている寮は、遠くから通う生徒、または家庭の事情などで親と離れて暮らす生徒、社会勉強のため集団生活を学ぶ生徒、そんな生徒のためにあった。



学園からポツリと一つだけ離れた場所にある一軒の家というには大きく、アパートというには小さい建物。

それは山百合寮という名の学生寮だった。

そこに住むのは眉目秀麗、成績優秀、ある分野に秀でた学生が住んでいた。
つまり、山百合寮に住むのはステータスである、そう生徒の間では言われていた。


しかしその裏で、山百合寮は訳ありの生徒が住む場所である、という噂があるのを私は知らなかった。










それは一種の儀式みたいなものだった。

きっかけは些細なことで。


「このでこちんがぁ!」


と聖さまの怒号から始まる場合もあり。


「このアメリカ人!!」

と江利子さまの怒号から始まる場合もあった。




三年生の御三方。
蓉子さま、江利子さま、聖さまは全校生徒の憧れそのもののような人たちだった。


圧倒的なカリスマ性。

名前を呼ばれれば、貴族みたいに優雅に手を振る姿は、一枚の絵のように美しかった。


私も遠巻きにそれを見ていた一員だったのに。


それが一つ屋根の下で暮らすようになった今、こんなことになるなんて。

ボフッ。


痛い。



顔面にクッションが当たり、涙目になりながら飛んできた方向を見る。



「ずるがしこいのよ、あんたは」

「はぁ?頭脳プレーは反則じゃないでしょ?」

「でこをピカピカ光らせて、あんたのでこが眩しすぎて集中できなかったのよ」

「きぃー!でこでこ言うな!!」


クッションや、スリッパ。当たってもそれほどダメージを与えないものが飛び交う。



どうしてこんなことになっているかというと、お2人はゲームで対戦していた。
江利子さまが勝ち、聖さまが負けた。

理由はそれだけだ。



そう、2人はとっても仲が悪い。

喧嘩の理由はそこら中に転がっている。


どっちが見たいテレビを見るか。
どっちが先にお風呂に入るか。
どっちが先に階段を登るか。
どっちの夕飯の肉が大きいか。


エトセトラエトセトラ。


私が小さい頃ですら、祐麒とそんなに喧嘩しなかった。


バフッ。

痛い。


今度はぬいぐるみが飛んできた。


「聖さま、江利子さま。もうやめてください」

談話室にいるのは、お2人を除くと私だけ。


どうしてだろう。最近お2人が喧嘩するときにそばにいるのは私だけな気がする。

みなさん、喧嘩が始まりそうな気配を感じると、どこかへ行っているのだろうか。

私にその気配を感じる能力が携わるのはいつだろう。



「女の子ばっかり追いかけてるから、頭も軽くなるのよ」

「熊ばっかり追いかけてるあんたに言われたくないわ」

私のことなんか完全に無視して、喧嘩は続いている。


後半は言葉が出尽くしたのか。

「ばーか」
「あほ」
「まぬけ」

低レベルな口喧嘩になっていた。


あっ、大変だ。
時計を見るともうすぐ。


「もうやめてください」

「何祐巳ちゃん!私たちは大事な話をしてるの」


ゲームで喧嘩のどこが大事な話なんですか?


「もうすぐ、蓉子さまが帰ってきます」


そのときただいま、と蓉子さまの声がした。


一気に青ざめる2人。


そこら中に散らばっていたものを慌てて片付ける。

それは、マッハと呼べるスピード。
さすがカリスマの2人。常人離れした速さで片付ける。

私も手伝う。



「ただいまー。あれ?何してるの?」


「え?」


一歩間に合わず、私たちは3人ともぬいぐるみを抱きかかえていた。


「ゆ、祐巳ちゃんが、お人形遊びしたいって言うからさ。ね?江利子」

「うん、そうなの。まったく、祐巳ちゃんたらまだ子供なんだから」

頭を撫でられる。


えー!!私のせいにされてる!


「ちょっ、むごむご」

「え?何?恥ずかしいからあんまりいいふらさないでって?可愛いんだから」


口を手でふさぎ、肩を抱いてくる聖さま。

聖さまの手に妙に力がこもっているのは気のせいではないだろう。

「ほんと祐巳ちゃん可愛い」

反対側から江利子さまにも肩を抱かれる。

何も余計なことを言ってくれるなと、無言の圧力を感じる。



「ほんとに?何か隠してない?」

じとーっと蓉子さまが疑惑の目を向ける。


「ううん」

2人とも首を振るタイミングは完璧に同じだ。

「喧嘩してないわよね?」

「何言ってるの?私と江利子が喧嘩?」

「そうよ、仲良く祐巳ちゃんと3人で遊んでただけ。ね?祐巳ちゃん」

「・・・・はい」



「祐巳ちゃんが来てから聖と江利子は仲良しね」

私着替えてくるね、そう言って蓉子さまが談話室から出て行った。

蓉子さま誤解です。




その瞬間、2人とも私から一気に離れて、お互いに距離をとる。


「何あんたのその猫なで声。気持ち悪い」
「聖こそ、にやにやしちゃって。気色悪い」

「はぁ?」
「何よ」


結局こうなるんだ。



お2人は蓉子さまの前では決して喧嘩をしない。
それは、蓉子さまが怒ると大変なことになるからだと、由乃さんに聞いたことがある。

詳しいことはとても口に出せないとぶるぶる震えていた様子を見ると、私も聞くのが怖くて何もいえなかった。




「べーっだ」
「いーっ」

とうとう幼稚舎レベルの喧嘩にまで下がった2人。



そのとき、再びドアが開き、蓉子さまが顔を出す。


「何で聖は舌を出してるの?」

「いや、祐巳ちゃんがお医者さんごっこしたいって言うから。私は医者役で、聖は患者役なの。ね?祐巳ちゃん?」


また私のせい!!


2人の目が真剣で必死すぎて怖い。

「は、はい」


「ぷっ。祐巳ちゃんは、まだまだ子供ね」

蓉子さま、そんな幼稚園生を見るような目で私を見ないで。
本当は違うんです。


あぁ、蓉子さまの中で私がどんどん私が幼稚化していく。



それにしてもこの2人。
ここまで見事に嘘をあわせられるなんて、結局は気が合うんじゃないかと私は思っている。



そんなこと、絶対本人たちは認めないだろうけど。





それから、数日後。


「祐巳ちゃん、これ私が小さい頃使ってたものだけど。あげるわ」


蓉子さまに手渡された紙袋。


中には、リカちゃん人形。おままごとセット。小さい頃に遊んでいたおもちゃの数々。



「ふふふ。遠慮しないでね」

ウィンクをして去っていく蓉子さま。



私はいいようもない脱力感に襲われる。



「あれ?祐巳ちゃん、何持ってるの?ぶはーっ」

盛大に噴出す聖さま。

「何々どうしたの?」

聖さまの笑い声を聞きつけて江利子さまもやってくる。


「ぷーっ。祐巳ちゃん、幼いとは思ってたけど、まさかそんなもので遊んでるとは思わなかったわ」

「ごめんね、本人の自由、ぶっ、だよね。笑っちゃ、ぶはっ、失礼だよ江利子」

「そうね。ごめんね祐巳ちゃん。ぷっ。今度私も昔遊んでたのもあげるわ」


ところどころに笑いを交えながら言うお2人。



私は先輩を尊敬してるし、或る程度の礼儀もわきまえているつもりだけど。
でも、その時だけは言ってしまった。


「誰のせいだと思ってるんですかー!!!!」






case3:聖と江利子


理由

2人の仲が悪すぎること。喧嘩が幼稚すぎてイメージを著しく損なうこと。
2人の喧嘩に巻き込まれると何かしらの被害をこうむること。



2人から一言

「え?何?江利子と仲が悪いのに、何で別の寮に移らないのかって?だって、喧嘩相手がいないと張り合いないでしょ、江利子が」

「寮を移らない理由?聖が私がいないと寂しがるからよ。何だかんだ言って、いっつも私にまとわりついてるんだもの」



結局似たものどうしの2人でした。







***



忘れ去られた頃に更新です。
王道、べたなネタ。
まぁ、こんなのもいいかなぁと思いまして。

次は誰でしょうか。
また、忘れられた頃に更新したい・・・・という気持ちは持っておきます。


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