【2988】 A nice day  (パレスチナ自治区 2009-07-24 02:32:26)


ごきげんよう。【No:2987】の続きです。
出雲の初回〜第3話以来の連投です。
出雲と違い雪美は三話目にして二日しか過ぎていないという亀の歩み。
あせらずゆっくりと進んでいきたいです。
百合表現を含みますので注意してください。

『雅様に、お姉さまに巡り合わせてくださってありがとうございます。マリア様』

こんな風にまともなお祈りを初めてしたのが昨日の事です。
うら若き乙女たちにニヤニヤしながら半ば罰当たりな学園生活が続くのかと思いきや、あっさりとそんな生活は幕を下ろしてしまいました。たった二日も続きませんでした。
雅様との幸せに満ちた『姉妹の契り』の後、二人でマリア様にお祈りをして、ちらっと見た雅様の顔は本当に幸せそうで、目尻にはほんの少し涙が浮かんでいてこの人に出会えてよかったと心の底からそう思いました。
我ながらずいぶん単純だなと感じたのですが、それでいいこともあるのだと雅様…いいやお姉さまの涙を見て実感しました。
おそらくしばらくの間はお姉さまの事しか考えられないと思います。
家に帰る間も、夕飯、お風呂、そしてベッドに入った後もお姉さまの事で頭がいっぱいでした。
男の子だった自分が急に女の子になってしまい、最初は面白くなりそうだとただ漠然とそう感じただけだったのに、今は女の子になって本当によかったと思います。
決していやらしい意味ではないことを先に弁明しておきます。

今はただお姉さまとの幸せな日々が永遠に続くことを願っています。

ぴぴぴぴ…
「ううん…ふあぁ…朝ですか…」
まだ眠いと閉じようとする瞼をこすり、ベッドから降りてスリッパをはいて洗面所へ。
「あ…」
鏡を見て映ったものはいつもと同じで、いつもとは違う自分でした。
「…お姉さま」
お姉さまから戴いた、首に架けて戴いた、白銀に輝く、クロスの中央に碧く輝く水晶のついたロザリオを身につけた自分が映っていました。
昨日の出来事が若干寝ぼけた頭を覚醒させていきます。
そして幸せな気持ちが心を支配していきます。
「お姉さま、早くお会いしたいですね…」
今の私は紛れもなく恋する乙女。
他の学校では見ることがない、いや、見ることが出来ない『姉妹制度』。
志摩子さんから聞いてはいましたがこんなに素晴らしいものだったとは…
昨日の朝、花音先生と瑠音先生が職員会議そっちのけ?で逢引していたのが今なら理解できます。
リリアン女学園畏るべし…

機嫌がよすぎるので朝ごはんは大成功。
目玉焼きはとろーりと半熟でした。
今朝はかつてないほど気合を入れて身支度をしました。
髪を結えているリボンの位置を何度も確認したり(内藤笙子様風な髪形です)、タイの結び目を気にしたり、スカートに皺がないか気にしたり、可愛く笑えるか少し練習したり…

さあいざ行かん!リリアンへ!
「行ってきます!」

今日は昨日より遅い時間に来ました。お姉さまからこの時間帯に来るようにと仰せつかったものですから。
いつもより(まだリリアン三日目ですが)美しく見える銀杏並木、おそらく昨日のおかげでしょう。たった一つの、ほんの束の間の出来事でこんなにも世界が変わるというのは正直驚きです。

『おはようございます、マリア様。今日も一日見守っていてください』
普通にお祈りを済ませ何気なく左を向くとそこにはお姉さまの姿が…
「お、お姉さま、おはようございます」
「ええ、ごきげんよう、雪美」
嬉しそうに微笑むお姉さま。なんて綺麗な人なんでしょう…
「よかったわ、会う事が出来て」
「そうですね、でもいらっしゃらなかったらいらっしゃらなかったで待っているつもりでした」
「ふふ、それでもし私が先に来ていて既に校舎に行ったあとだったらどうするつもりだったの?」
「考えるまでもありませんよ。だってこの時間にとおっしゃったのはお姉さまですし、それに信じていますから」
「そう、やっぱり貴女が妹になってくれてよかったわ」
「はい…」
なんだか周りの視線が気になります。ヒソヒソ声も聞こえてきますがへっちゃらです。
「ねえ雪美、少し目を瞑っていて」
「はい?わかりました」
服装には気を付けていたんですが…どこか変なのでしょうか…
そんな事を考えていたら周りの声が一層大きくなって…

ちゅっ

?!!
何か私のく、唇に!
「これで私たちは全校公認の姉妹よ。うふふ、雪美ってば顔を真っ赤にして可愛いんだから、もう一回しちゃおうかしら」
「…………」
嬉しそうなお姉さま。その顔を見ていると私まで幸せになってきますが、問題は今の行為です。
「お姉さま!ういまねにゅいを?!」
「貴女なんて言っているの?噛みすぎてて聞き取りづらいわ。もう一回言って」
そう言ってさらに微笑むお姉さま。
「ですから、今何を?!」
「何って、キスよ。姉妹なら常識よ?菜々様、黄薔薇様の事なんだけど、咲さんを妹にした時いきなりキスしたんだから、私たちだってそれに対抗しなきゃ」
「対抗って…」
「それにね、貴女って誰の蕾になるか、どの薔薇を冠するかってそんな噂が立ってるの。そんなの耳触りだからみんなの見ている前で貴女は私のものだって言っておきたかったの」
「はあぁ…」
全く、私のお姉さまは…
「わかってくれた?」
「はい」
「ふふ、いい子ね。じゃあ教室に行きましょうか」
こうして私とお姉さまの行為に目を丸くしたりしている少女たちを置いてそれぞれの教室に向かいました。

教室に着くと、みなさんは昨日より遠巻きで私の事を見ています。
そしてユセスさんと美影さんは私の事をニヤニヤしながら見ています。
まさか…お姉さまとの情事がこんなにも早く伝わっているなんて…
「ご、ごきげんよう。ユセスさん、美影さん」
「「ごきげんよう、雪美さん♪」」
お二人とも明らかに嬉しそうな、おもちゃを買ってもらった子供みたいな顔で私を見ています。
「どうでしたか、お姉さまの感触は?」
「余すところなく教えてよ。雪美さん顔が真っ赤だよ?お湯が沸かせそう♪」
「╱!!!」
恥ずかしすぎです…お姉さまのバカ!
「雪美さん、どうなさいました?一番の薔薇の蕾候補がそれを裏切って写真部のエースと結ばれたのですから釈明が必要ですよ?」
今日の美影さんはよくしゃべります。
「ほら、美影さんの言う通りだよ。今年一番最初に契を交わした姉妹なんだから否応なしに話題になるだろうし、今のうちに練習しておかなきゃ」
「お二人とも意地悪です!」
「はい」「そうだよ」
「そんな…」
「ふふふ…」「あはは!」
はあ、朝からどうしてこんな目に…ですが幸せだからいいです。

しかし…

私たちを遠巻きに見ていたクラスメイトのうちの一人が業を煮やしたのか…
「雪美さん!!さっきのあれの説明を要求します!!!」
「えええ!!」
一人が啖呵を切ったのを皮切りにクラスのほぼ全員から予鈴が鳴るまで質問攻めにされました。
『しばらくの間、こんな感じだと思うよ?新聞部も来るだろうし』ってユセスさんが言ってました。

「雪美、一緒にお昼を食べましょう」
昼休みになってお姉さまが迎えに来てくださいました。
「ええっと」
「いいじゃん、お姉さまと愛を育んできたら?」
「そうですね、いってらっしゃい」
「育むって…はい、いってきますね」
「ふふ、美影ちゃんとあなたも一緒にどう?」
「ボクたち?」
「雅様、そんな無粋なことはいけません。当分は飽きるほど雪美さんと新婚気分を味わわなければばちがあたります」
「そう、わかったわ。いつかご一緒しましょうね。それと今日の放課後部室に来てね」
「はい、わかりました」
好奇の目で私を見ているお二人を置いて教室を後にしました。

「ねえ、雪美。今日はお弁当なのね」
「はい、今日は気合いが入ってしまいました」
「自分で作ってるの?」
「はい、料理は趣味の一つですよ」
「そうなんだ〜、こんど教えてね」
「はい、もちろんです!」
こうして幸せな(今日何度目なんでしょうかね、この単語)お昼休みを過ごしました。

放課後です。先生から用事を押しつけられ少し遅れてしまいました。
美影さんには先に写真部へ行ってもらいました。
「早くしないとですね」
もう教室にはだれも残っていないと思ったのですが…

「ねえ、彩花。私たちついに高校生ね。楽しい想い出、いっぱい作ろうね」
「はい、くるみさん。いっぱいいっぱい作りましょう」
「あやか…」
「くるみさん…」
「「……んふぅ…ちゅっ…ちゅっ…はむ…」」

!!!!!!何やってるんですかこのお二人!キスしてますよ!!
ぅぅ…教室に入りづらい…
こうなったらこっそりと…

しかしこういう時っていうのは必ず失敗をやらかすんですよね〜

しゃがみながら後ろの戸から入って自分のロッカーへ。静かにしていればお互いに夢中の彼女たちは私に気づかない筈でした。
ロッカーを開けようと立ち上がったその時、バランスを崩して転んでしまいました。
「あう!いったー」
「「?!!誰よ(ですか)?」」
「…!あ、ご、ごきげんよう。彩花さん、くるみさん」
「「………」」
お二人とも私を睨んだまま無言です。怖いです。

「雪美さん、覗きなんて悪趣味ね?」
「いいえ、そんなつもりは…鞄を取りに来ただけですよぅ」
「……、だからって一言言ってくれてもいいでしょ?気まずいじゃない」
「気まずいってこんなところでキスしている方が」
「でも、雪美さんだって今朝上級生の方とマリア様の前でキスしていたじゃありませんか」
「そ、それは…」
言い返せません。しばしの沈黙の後、やっとくるみさんが口を開けます。
「ま、まあ、お互い様よね。内緒にしといて?」
「はい、口が裂けてもこの事は…」
「ありがと…」
また数分の間気まずく佇むばかりでした。

「はあ、すっかり遅くなりましたね」
やっと部室に到着です。
「失礼いたします」
「雪美、やっと来た。何していたの」
「すみません。今朝の事で捕まったり、先生に用事を押しつけられていたものですから」
「そう、まあいいわ。じゃあ雪美みなさんにご挨拶して。もう美影ちゃんは済ませたから」
「はい」
みなさんに向き合います。数人の子が私の方を見ます。
「はじめまして、私一年桃組の霧島雪美と申します。これからよろしくお願いしますね」
「あとこの子は私の妹でもあるから」
そういいながらお姉さまは私に微笑みます。たぶん私の顔は紅くなっているはずです。
「それじゃあ私たちも自己紹介するわね」
そう言って一人の先輩が口を開きます。
「私は副部長の十架琴美、2年生よ。よろしくね」
十架琴美様は吸い込まれてしまいそうな綺麗な黒髪を携えた、綺麗な先輩です。
「はい。部長さんは?」
「部長は3年生の方なんだけど、今日はいないからまた今度、いらっしゃったときに紹介するわ」
「はい」
「次はあたし。あたしは松永あきら、同じく2年生だよ。よろしく〜」
「はい、よろしくおねがいします」
小柄なあきら様は、活発そうで健康的な魅力に溢れています。
「えへへ〜、雪美ちゃん近くで見るとやっぱり可愛いね。みやちゃんが羨ましいな〜」
「え?」
「あきら、雪美が困ってるじゃない。他の一年生をあたってね」
「はいはい、ラブラブいいな〜」
性格も可愛い先輩のようです。
「雪美ちゃん、私も2年生の時宮ベージュよ。わからないことがあったら雅さんだけでなく私も頼ってくださいね」
最後の先輩は他のみなさんとは少し雰囲気が違いました。
「………?」
「どうしたの?」
「いいえ、すみません」
「ベージュちゃん、たぶん名前とかが珍しいから」
あきら様が援護を入れます。
「あ、ああ。私はハーフなの」
「そうなんですか…」
「三年生があと三人いるけど今日はみんな来ないから後日ね」
「はい」
「それで美影ちゃんと。後何人はいってくれるかな」
「いっぱい来るといいね〜」
「あんまり入りすぎても困るわ。部室せまいから」
「琴美ってばいつもそんなん事ばかり言って」
雑談が始ってから数分後、部室のドアが開きました。
「みんな、元気してる?」

「この方は…」
「美影さん、知っている人なんですか?」
「知っているも何も、この方は有馬菜々様、黄薔薇様ですよ」
「え?」
ひそひそ話している私たち二人に菜々様が近づく。
「ねえ、今年はもうこんな可愛い子たちが入ったの?」
「はい、美影ちゃんと雪美ちゃんです、菜々様」
「いいな〜、だってさうちらなんて人出不足もいいとこ。白薔薇家なんて小夜子だけだし。一人ちょうだい?」
「だめですよ、菜々様。私たちだっていくらでも一年生が欲しいんですから」
「ことみっち、さっきと言ってることが違うよ〜?」
「あ、あきらさん。揚げ足とらないでくださいよ…」
紅くなった琴美様は可愛かったです。
「まあ、うちの咲とか美華柚とか小夜子に催促するしかないわね。それで雪美ちゃんに美影ちゃん。私は雅とか新聞部の真理子とかと仲いいから時々遊びに来るから、その時はよろしくね?」
「「はい、菜々様」」
「うん、私は黄薔薇様より菜々って呼ばれた方がいいからこれからも菜々って呼んでね」

美人揃いの写真部に、黄薔薇様の菜々様、教室でも部活でも楽しい学園生活が送れそうです。

泣き言
長くなってしまいましたね。
今回書きたいことを全部書いたら長くなってしまいました。
でも満足です。
本家「出雲」と「雪美」のメインキャラの中で唯一の原作キャラ菜々様。
これからも度々出てもらいたいのでもっと菜々様の研究が必要ですね。
写真部の一年生は決まっている子はあと「黒条キセル」さんだけですし、新聞部に至っては「小佐井真理子」さんきりなのでたくさん登場人物を考えなくてはならないことに今気づきました。
どなたか助けてください…こんな子出してというのがありましたら是非(たぶん無いですよね…)。


一つ戻る   一つ進む