【3012】 私が最終回を読むまで永遠なれトホホネタ  (ケテル 2009-08-03 21:30:38)


瞳子のリリアン摩訶不思議報告


 皆様ごきげんよう、瞳子です。 
 
 さて、いまだにHPの再開に着手していない馬鹿……もとい…。
 書きかけのシリーズが4〜5本あったのにほっぽり出したままのアホ……いえいえ…。

 それどころか!


『未来の白地図』からこっちの新刊は買ってすらいないオオタワケ者! ←ここ重要ですわよ!


 まあ、その『アホ・馬鹿・オオタワケ』のケテルが、皆さんがすでに忘れ去っているだろうに、HDDの底から発掘した書きかけの遺物に、頼まれてもいないのに加筆してUPするという……ハァ〜、こやつ何も考えてないですわね。

 あんまり期待すると、それこそ馬鹿を見るかもしれませんわよ。



 ところで、『六条梨々』と『杉浦仁美』って誰のことか覚えていらっしゃいますか?




 1、薔薇の館


「うぅぅぅぅ〜〜〜んんん………ぬぬぬぬ……むむむ……っんがぁぁ〜〜〜……」
「………便秘? 瞳子」
「いえ、そちらは快調なのですが……って何を言わせますの?!」

 放課後の薔薇の館。 お姉さま方は三人そろって職員室へ行ってらして当分帰って来ない。 菜々ちゃんは、本日部活日のため欠席なのですわ。

「うなってるから。 快調なんだ……うらやましい(←小声)」
「え? やばいんですの?」
「…ごにょ…ごにょ………」

 乃梨子さんに耳打ちされたその日数は、私には想像もできない日にちでした。

「ええっ?! ちょ…大丈夫なんですの?」
「薬飲まなきゃかな〜……。 で? 何うなってたのよ? テストじゃないよね、この前のはわりと良かったもんね、私には負けたけど」
「まあ、乃梨子さんは学年トップをキープしていらっしゃるし、あくまで目標ですけれど……。 そうではなくて、雑誌の編集部から新作を書いてくれないかと依頼を受けたのですわ」

 『仁美の摩訶不思議報告』を載せていただいた雑誌『ほんとうにあった不思議な話』編集部から”なんかネタ無いっすか〜? あったらよろしくお願いしたいんですが”っと軽い調子で言われたのですけれど、最近山百合会の仕事が忙しくて乃梨子さんも梨々になっていられない状態でした。 それは私も同じなのですが。

「……また安受けあいして…なるほどね、書くネタがなくてPCの前でうなってたんだ」
「そうですわ。 あ〜、でもこれノートPCではありませんわ、電子メモ帳ポメラですわ。 乃梨子さん、最近”梨々”として活動されてないからネタに困ってしまいますわ。 何かネタはありませんか? なんでしたら、その優秀な頭脳を駆使してでっち上げてもらってもかまいませんけれど」
「いやだめでしょそれじゃあ。 私は別に六条梨々なんかどうでもいいんだけどね」
「そんな事言わずに、何かありませんの?」
「面白いかどうかわかんないけど、使ってないネタあるじゃない」
「ありましたか?」
「ほら、2ヶ月くらい前……」








 2、ミルクホール


「…っで、これの鑑定をしてもらいたいんだけど……どうしたの二人とも頭抱えちゃって」
「……いえ…あ〜…これって、どういうこと日出実さん?」
「そうですわ……、てっきり心霊写真らしきものを何枚か見るだけかと思ってましたのに……それに……」
「…うん…ごめん……。 でも察してほしいわ…」
「そう暗くならないで、日出実ちゃんもがんばった方だと思うわよ。 ま、私の方が二、三枚上手だったってだけよ」

 一枚ではなく、二、三枚上と悪びれもせずにそう言いながらトレードマークのメガネがキラリ、カメラのレンズをさらにキラリと輝かせるのは、美しい時をそのままに…”リリアンの専属カメラマン”の異名を持ち、”改造手術を受けて加速装置が付いている”だとか”密かにドコデ○ドアを装備している”との都市伝説までお持ちの武嶋蔦子さま。 日出実さんでなくても撒けないでしょうね。

「……乃梨子さん、覚悟を決めるしかありませんわよ、蔦子さまのことです、こちらのこともご存知でいらっしゃると思いますわ」
「それはわかってる、わかってるけど……」
「なに? 私にいまさら『わぁ〜、乃梨子ちゃんが六条梨々だったんだ〜』って、驚いてほしいの?」
「蔦子さま、棒読みでいまさら言っていただかなくてもいいです。 私が言いたいのはですね……この量のことなんですよ……」

 真実さまや三奈子さまが、いまだにご存じないのが不思議なのですけれど、その辺の事はどうなっているのでしょうかね?
 とりあえず蔦子さまは、ご自身の信用確保のためとはいえ秘密厳守は徹底して守っていただけますから口止め云々する事は無いでしょう。
 乃梨子さんが頭を抱えている元凶、それは…目の前に”ドデッ”っと積まれている引越しに使うような大きなダンボール箱5つ。 ……フィルム代や現像代、写真部のあの予算内で賄えているのでしょうか? ちょっといけない商売でもなさっていらっしゃるのでしょうか?
 こんなに運ばされて、笙子さんお疲れ様ですわ。
 でも…軽々と持ち上げてらっしゃいましたわね、紙もこれだけまとまるとかなりの重さになるでしょうに。 台車を使って来たとはいえ、ダンボールを降ろす時さして力を入れている様子はありませんでしたが…意外と力持ちなんでしょうか?

「まあ、言わなくてもわかると思うけど、これは私が撮った没写真の数々よ、一部笙子ちゃんが撮った物も入ってるけど。 私は基本的に撮ったものは、その子にあげちゃってるけど、中には出来が気に入らなくて渡さずに廃棄しちゃう物もある、これがそれってわけ。 でも、中には…」

 出来は悪くなくても、そこに意図しないものが写ってしまっている物もある…そういうことですわね。 DPEの現場では、ユーザーに渡せない写真もかなりあると聞いた事があります。 もっとも、取り越し苦労の場合も多々あるのでしょうが。

「だいたい分かりましたけど、この数というのは……時間掛かりますよ?」
「あら? 六条梨々の写真鑑定は早いって言うから持って来たんだけど?」

 確かに乃梨子さんの鑑定は早いですわ、一枚5秒ほどで鑑定を終えてしまわれます。 しかし、この量は‥‥。

「鑑定と抽出は別問題ですから……」
「と、とりあえず、こうしていても何にもならないし。 乃梨子さんやってくれないかな?」

 げんなりしている乃梨子さんに日出実さんは両手を合わせます。 そう言えば、そろそろリリアン瓦版の締め切りですわね。 今回は心霊写真特集でもされるのでしょうか? プライバシーの問題をどうクリアーする気なんでしょう、見ものですわ。

「確かに頭抱えたまんまじゃはじまらないか……。 瞳子、手伝って…」
「分かりましたわ」

 こうして、乃梨子…もとい、六条梨々と没写真軍団との一見地味〜〜な戦いがはじまったのですわ。
 

 〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 


「……どの箱にも…入ってるわね……見ていくしかないか…」

 そう言うと乃梨子さんは最初の箱を開けて、いっぱいに詰まっている写真を1分程見つめてから、おもむろに堆積している写真の中に手を入れ1枚、2枚とピックアップしていきます。

「あいたたた……」

 それはそうですわ。 どっかの拳法の達人は熱く熱した砂に突きを入れて手を鍛えたなんて言う話を聞きますが、箱いっぱいに詰め込まれた写真の中に手を突き込めば、極一般人な乃梨子さんが手を傷めないはずがありません。

 結局少量ずつ箱から取り出して、その中から該当写真をピックアップしていくと言う地味な作業を繰り返すことになるのですが………時間掛かりますのでそのシーンは割愛いたしますわ、一悶着あったのですけれど………。


 〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜*〜 


 1つ目の箱からは14枚、2つめの箱からは8枚、3つめの箱からは9枚、4つ目の箱からは11枚、5つ目の箱からは5枚の写真を拾い上げました。
 さて、日出実さんのご要望は『使えそうなの』とのことでしたが、聞くまでも無くリリアン瓦版になのでしょうね。
 拾い上げた47枚の写真をざっくりと選り分ける乃梨子さん。

「こっちの36枚が、所謂オーブってヤツ、この6枚が霊が通りすがりにたまたま写りこんだだけの特になんてことの無い心霊写真」
「なんてこと無いって……」
「そんなに怖がることも無いわ、因縁も無いし。 放って置いても実害は無いわ」
「ですが…こっちのオーブ? 私には埃に光が当たってそう見えるだけに思えてならないですわ」
「そう言う物の方が多いわよ。 実際‥‥え〜〜っと……あ〜これこれ、これなんかは典型的な埃に光が当たったの。 で〜……こっちはよくある目の錯覚、4っつの点が目、鼻、口のような位置関係にあると人はそこに顔があると思ってしまうの。 そして……これ、心霊関係じゃあないんだけど…蔦子さま」
「んん〜……あ〜現像液のムラかな、たぶん」

 なにやら霞のように見えるものが、朗らかに笑っている女生徒の肩に掛かっているのです、乃梨子さんに言われなければ”エクトプラズム”? に見えますわ。 デジカメ全盛の世の中で、フィルムカメラに何か拘りでも持たれているらしい蔦子さま。




 さて5枚の詳細ですわ。


 その写真には…由乃さまが写っていらっしゃいます。 どこかへ向かっていらっしゃる様子ですわね、眉間にしわを寄せて”ガスッガスッ”という足音まで聞こえてきそうなのはさすが蔦子さまの仕事ですわね。 そしてその肩のところに……人の…女性の手のようですわね。

「由乃さまに憑いている女性の霊体が、由乃さまに『ちょっと待って冷静になりなさい』って……言ってるんだけど。 まあ、見て分かるとおり聞こえてないのよね〜」

 ”苦労が絶えないみたいねお姉さん…” 私にはそう聞こえたのですがはたして…。


 祐巳さま由乃さまが薔薇さまになられて、菜々ちゃんが由乃さまの妹になった頃、この時乃梨子さんが言った”お姉さん”の意味が分かるのですが、それはまた別のお話ですわ(ホント自分の話しをリンクさせるのが好きですわね。 しかも微妙に違ってますわ)




 残り4枚ですわ。


 3年生の方でしょうか? 落ち着いた面持ちで夕日を浴びながら並木道を歩いていらっしゃいます。 素人目にはなかなか素敵なポートレートで、これといって変には見えないですが?

「これ…腰に近い所…」

 あ、何か…なんと言うんでしょう、フワフワとした物が彼女の腰の付近にあるのが見えますわね。 オーブに見えますけれど違うのでしょうか? でも、乃梨子さん何か言いにくくそうですわね。

「いいのかな……浮世離れしてるリリアンに通ってても…現代の女子高生ってこと……なのかしらね……」
「ずいぶん持って回った言い方ね、なんなの?」
「これ……水子です」

 ”ヒキッ”一瞬空気が固まりましたわ。 そ、それは…思いっきりプライベートな事ですけれど…私もそうですが、みなさん免疫が無い話題だけに反応に困りますわね……。 

「確か…この人花寺の男子と付き合ってたわね……」

 つ、蔦子さま……恐るべし………ですわ…。 そう言えば由乃さまは祐巳さまの弟さんとお付き合いしていらっしゃったはず、大丈夫でしょうか? (そういうことにしておいて下さいまし)

「これ…放って置いてもいいんでしょうか? 水子の祟りって恐ろしいって何かで読んだ記憶がありますけど」
「すべての水子が祟るわけじゃないわ、この場合…」

 笙子さんが神妙な顔をして乃梨子さんに問いかけます。 机の上に一旦おいた件の写真をもう一度手にとって詳しく視ていますわ。

「……この子は……あ、今は上がってるわね。 うまく供養もされているみたいだし。 水子にも性格が有ってね、とっとと現世に見切りをつけて次の機会に備えて上がるのもいれば、いつまでも母にしがみついている子もいるわ」

 霊にも性格が有るらしいことは、私も今までの経験で何とはなしに気づいていたのですが、水子にもそのようなものがあったのですね。

「……手術して間もない頃じゃあないかな、これ」

 まだまだ知らないことだらけですわ。




 あと3枚ですわね。


 合唱部で独唱をされている方を撮った写真ですわね。 仮にAさまとしておきましょう。 蟹名静さまほど名が通っていらっしゃらないですけれど、実力はあるお方ですわ。 写真中央で曲名は分かりませんが凛として一際輝いて見える…のですけれど、どこに霊が写っているのでしょう? あ、あらら? 

「こいつ、性質が悪いわ」

 乃梨子さんが鋭い目つきで写真の一点を睨みつけてからピシッとそこを指し示してくれました。

「あっ」
「ひっ」
「ぅぁ〜」
「あらら、これは……ホント性質が悪そうですわ」

 最初が蔦子さま、笙子さん日出実さん私の順ですわ。 独唱をされているAさんのすぐ後ろに良く見るとぼんやりと人が立っています。 ”ニタ〜”っと底意地の悪さが分かるような顔をしていまして、前へと伸ばした手が……。

「首…首絞めてませんか?」

 笙子さんが言うように、その霊は伸ばした手を独唱をしているAさんの首に絡めています。
 後で聞いた話ですが、蔦子さまと日出実さんは顔はなんとなく分かったそうですけれど、手は分からなかったそうですわ。

「こいつは人の不幸を面白がってる、人を貶めようと画策して、最終的に自殺させる。 ……人の話し聞かないのよね〜このてのヤツは」
「なんとか…ならないのですか?」
「なんとかって……どうしろと?」
「つまり笙子さんは、この霊を…除霊? できないのかと言いたいんでしょ?」

 笙子さんの言葉を日出実さんが翻訳します。 まあ、分からないではありませんけれど。

「この人、確か今月に入ってから部屋に引きこもっちゃったそうだけど、関係有るのかしらね?」

 この手の心霊関連は信じていなさそうに見える蔦子さまですけれど、乃梨子さん(六条梨々)の事はある程度評価していただいているのでしょうか?

「もし関係あるなら良くない方へ向かっているんじゃない? 何とかなるなら…」
「言いたい事は分かります、でも……こういう嫌なヤツでも上げてやるのが原則なんです。 よっぽどのことでもない限りは…」
「よっぽどのことではないんですか? なんか、もう何人も犠牲者が出ていて、この写真の方も……」

 やれる…んですけどね……ただ…ん〜〜ん。

「乃梨子さん……梨々さん。 あれをやるしかないのでは?」
「何をやれって言うのかしら? 仁美さん?」
「……前に私を助けてくれた時の……念波の巡航ミサイル…トマホーク?」

 以前手がけた依頼の時のことですわ。
 ただの動物霊が依頼人の友達に悪さをしているのかと思っていたものが、性質の悪い霊体と結託していて、なんか新興宗教のご本尊に収まっていて、私にまで手を出そうとしたのですわ。 そのすべてが分かった時に、乃梨子さんはそのご本尊を粉砕してしまったことがあります。
 後から聞いた話ですと、なんでもトマホーク巡航ミサイル見たいな物を発射して着弾した時に核爆発のイメージを送ったとか。

 相手はどうなったのでしょう?

 私もおじい様に告げ口しましたのでタダですんでいないと思いますわ。 どうなったか考えたくはありませんけれど。

「もっと簡単な方法もあるわ」

 掻い摘んで以前の依頼の事とどうしたのかをお話している間に、いろいろ視ていた乃梨子さんが写真を覗き込むようにしながらいいました。

「この人の住んでる町に……神社…浅間神社があるはず……そこに行ってお参りできればOK。 お参りできればね。 当然妨害されるけど」
「今、乃梨子さんがぶっ飛ばした方が早いじゃあありませんか」
「めんど……いや違った…」
「めんど…?」
「ホントは強制排除はしないほうがいいのよ。 さっきも言ったけど、こんな霊(の)でも原則は上げてやらないとダメだから。 やるとなると……、一旦私か瞳子が引き取って、まあ、主に瞳子側に行っちゃうんだけど。 説得と浄霊って流れかしらね〜」

 『この手のヤツは面倒で時間掛かるんだけどね〜』。 っと溜息をつく乃梨子さん。 『その間面白い反応をする瞳子が見れるんだけど〜』とは余計なお世話ですわ。 そんな事やる気はありませんけれど。

「ま、そのミサイルと核? ってのも見てみたい気もするけど。 私ってそっち関係の体験も無いのよね〜、当然見えない。 残〜念」

 蔦子さまは少し肩をすくめて見せましたが、笙子さんはちょっと複雑な顔をしています。 笙子さんって実は視える人なんでしょうか? 勝手な設定ですわね。 核兵器を見たいという蔦子さま、いいんでしょうかそれで?

「お姉さまと同じクラスだったわね…結果話してみようかしら…」


 後日談として。 真実さまと祐巳さまと由乃さまと志摩子さまの4人がかりでAさまを神社に連れ出して無事御参りを果たしたとか、かなり苦労をされたのだそうですが……。




 残り2枚ですわ。


 あら、笙子さんですわね。 どうやら冬の渡り廊下。 最近の写真ですわねカメラの方へ振り向いた所でしょうか? 少し驚いた顔をしていらっしゃいますわ。 ピントもばっちり合っているのはさすがと思いますけれど……。 はて、何でしょう? 全体に漂う違和感のようなものは?

「これって…あの時のですか?」
「うん、ま〜ね、3ショット撮った内の1枚ね。 なんとなく渡すべきじゃないなって思ってたのだけど。 それがこういうところで出てくるとわね。 それで? これって笙子ちゃんにどんな影響があるの?」

 少し身を乗り出した蔦子さま、妹は持たないと公言していらっしゃいましたけれど気分はお姉さまでしょうか? 笙子さんは頬が少し赤くなっていますけれど、その方面の事は他の方に補完していただいた方がよいでしょうね。

「被写体は悪くないんですよ」
「極上だと思いますわ」
「うん、まあそうだけど。 普通の心霊写真だと、写っている人に関わりあるのが殆んどなんだけど、これの場合は写している人。 写真を撮っている蔦子さまの方に関わりがあるのよ」
「わ、わたし?!」

 あら? 珍しく少し動揺していらっしゃいますわ蔦子さま。

「この写真よく見てください。 この霊は笙子さんとカメラの間にいてしかもカメラの方に、蔦子さまの方に向かってきている所なんですよ」

 乃梨子さんの解説を聞いてよく見てみますと、なるほど、うす〜〜くですけれど目を見開いて何かを叫んでいるような人の影が見受けられますわね。

「関わりと言っても、たまたま通りかかったら、たまたま波長が合ったので近付いて来ているところを、たまたまシャッターを切っちゃったんですね」
「……たまたまって、そんなんありなの?」
「ありますよ、わりと…。 ま、ほっといても離れますけど、気分良くないですよね。 守護霊でもない霊が、四六時中へばり付いてるの」
「何とかなるわよね?」
「何とかできますよ、私じゃなくて蔦子さまでも何とか出来ますよ」

 なんか二人で笑顔で腹の探り合いをしている感じがして結構怖いですわ。

「その気があるなら写経をしてください。 般若心経を2回。 それを出来るだけきれいな川畔でこの写真と一緒に焼いて、その灰と塩を混ぜて川に流してください。 流したら降り帰らずに離れれば終わりです」
「…そう……ふ〜〜ん…」




 さて、最後の1枚ですわ。


「あら、私ですわね」
「前から言ってるけど、瞳子は呼びやすいからね」
「いいのか悪いのか……。 でも蔦子さま。 これ、どうやって撮ったんですの」
「ふふふ、企業秘密」
「今回のは、瞳子関係ないけどね」

 校内を移動中の私と、敦子さんと美幸さんが写っています。 白ポンチョを着て……。

「ちょっと珍しいものが写ってるのよね〜。 ここら辺」

 そう言いながら乃梨子さんは、美幸さんの右側後ろにある植え込みの少し上辺りを、指先で円を描いて見せる。

「………横顔…ですの?」
「なんか、黒いフードみたいなの被って見えるんですけど」
「………分かる?」
「……え〜、ちょっと分かんないです」

 蔦子さまと日出実さんは頭の上にクエスチョンマークが見えますわね。 笙子さん、力持ちで視える人? キャラ付けの方向性間違えていませんか?

「珍しいわよこれ、普通写るものじゃないしね。 ま、これの場合は通り過ぎただけのようだけど」
「何ですのこれ?」
「死神」

 ………………………
 …………………
 ……………
 ………
 ……
 …

「私も見たの2度目だわ」
「い、いえ…あの、なんとおっしゃいました乃梨子さん」
「ん? 死神? 珍しすぎるよね、こんなもの撮っちゃうとは、さすが蔦子さま」
「3名ほど固まってしまっていますけれど。 死神ですのこれ?!」
「そう。 次の仕事先に行こうとしている所かしらねぇ〜、仕事熱心だわ彼らは。 まあ、そんなに怖がらないで」
「怖いですわよ! って、本当にいるんですのね死神って」
「人間の天寿を書き付けた帳面通りに抜けた魂を案内するだけなんだけど」

 3人が固まったままなのを放って置いて『魂が迷わないように案内する重要な神なんだけど、やっぱり死は穢れって取られるから誤解されやすいのかな?』っと……なんか解説してますわ。 その死神、なにもリリアンの中を通って行く事も無いでしょうに。

「まあ、珍しい者が写ってるってだけで、何か障りがあるわけじゃないんだけどね。 ……あの〜、そろそろ帰って来ませんか3人とも……まずかった? これ出したの」

 写真をヒラヒラさせて微妙な表情になった3人を、不思議な者を見るような目で見る乃梨子さん。 あなたが不思議な人だと思うのですが、言わない方がいいのでしょうね、やっぱり。






「で、これもらってもいいですか?」
「ん? まあ〜いいかな、これ確か新聞部の依頼で撮った写真ね。 表情はいいんだけど、この時の依頼とは違ったからボツにしたのよね〜。 まあ3人には焼き増ししてあげてるけどね」

 真ん中にお姉さま右に由乃さま左に志摩子さま、この構図はリリアン瓦版に載った写真と同じ。 ただ屋外で撮ったらしい写真の中では、急にふいた風に何かあったのか表情がやわらかくなっていい感じの写真になっています。 ………私も、欲しいですわ。

「ま、これにも写っているんですけどね」
「え?」
「これを撮った少し後に雪降りましたよね?」
「ん? ああ、降ったわね。 この後ヘアーセットやり直して2枚撮って、そっちを新聞部に渡したのよね。 よく分かるわね?」
「…まあ」








 3、薔薇の館

「…そう言えば、あの時もらった写真に写っているものって何なんですの?」
「関東だとレアだと思う。 ……あ〜、でも温暖化で東北以北じゃないと見られないかな」
「その口ぶりですと、悪いものではなさそうですわね」
「冬限定だけどね」
「冬限定? 何なんですの?」
「雪ン子。 ふふふ、雪の精よ。 空からフワフワ降りて来ててね、あの写真の中だけで5匹いるのよ。 ん? お姉さま達、戻ってきたみたいね」
「あ、そうですわね。 片付けませんと…」

 階段を何事か相談しながら昇って来るお姉さま方、『…喫茶マウンテンに行ってみたいんだけどね…』『…噂は聞いてるけど、挑戦しに行ってみる? 名古屋だっけ…』『よく分からないのだけど、すごそうな話ね…』 何の話をしているのでしょう? 危険な単語もあったようですが。 依頼の原稿を続けるわけにも行かなくなります。 電子メモ帳をしまって、お迎えの準備をしませんと。

「ただいま〜。 あ、瞳子〜。 お汁粉食べたいな〜わたし」
「そのような物はありませんわ。 帰りに買ってこればよろしかったのに」
「え〜〜、だってほら。 指をこう”パチン”って鳴らすと、執事とかメイドとかがサッと現れて最高のお汁粉を持ってきてくれるとか」
「…それは指を”パチン”っと鳴らせるようになってから言って下さいませ。 ホントに、執事やメイドを何だと思ってらっしゃるのですか」

 『あれ〜っ?』と言いながら指を鳴らそうと腕をブンブン振ってます…………かわいい(ハート)

「それはそうとして、さっき話してたんだけど……」

 挑戦とか勝負とかの話しだといきいきしますわね由乃さまは。
 話しの内容は、名古屋の『喫茶マウンテン』と言うお店があり、そこには甘党をうならせるようなメニューがあるんだとか。 危険な香りを感じ取った乃梨子さんは反対したのですが、的確ではない反対は却下され、喫茶マウンテンへ登山? することになったのですが……喫茶店へ行くのに登山? まあ、これは別のお話と言うことで。

 ただ、人間の創造力とは、時として霊より恐ろしい物を生み出すのだと実感できる体験だったと…………。




                   〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 了 〜〜〜


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