【3026】 犬になります志摩子  (bqex 2009-08-15 23:47:27)


※書いてる方もおかしいと思います(でも、うpする)Σ(・Д・)コラッ



 小寓寺を受け継ぐ藤堂家には秘密があった。

「……では、お前はシスターになりたいと。家は継ぎたくないというのだな?」

「はい。ですから、勘当してください」

 頭を下げる小学生の少女、藤堂家の娘、志摩子。向かい合うのは現藤堂家の家長である志摩子の父であった。

「駄目だ。お前は何もわかっておらん」

 そして、父との話し合いの結果、リリアン女学園に入学する事になった。
 父は最後に言った。

「よいか志摩子。家の事は誰にも言ってはならぬ。言えば、勘当どころではないからな」

 志摩子は頷いた。



 時が流れ、志摩子はリリアン女学園高等部に進学していた。
 この春、桜の木の下で、志摩子は印象的な出会いを体験した。
 その人の名は佐藤聖。白薔薇さまという生徒会長だった。
 それから、紆余曲折を経て、志摩子は聖の妹になった。

 そんなある日の事だった。
 その日、薔薇の館に用はなく、志摩子はまっすぐ家に帰ろうと校門を出た。

「志摩子」

 呼ばれて見ると志摩子の兄、賢文がいた。

「あの、何か?」

 兄は強引に志摩子を車に乗せると、車にはすでに父が乗っていた。

「これを」

 父は一枚の写真を差し出してきた。

「これは……!」

 かなり粗い画質だったが、写っているのは白薔薇さまで、手足を縛られ、目隠しをされていた。

「この人を返してほしければここへ来いという手紙が『犬』の本部に届いた」

 地図の入った手紙の写しを見せられる。

「『犬』の……」

 『犬』。
 それは小寓寺を受け継ぐ藤堂家の秘密であった。
 藤堂家が僧侶というのは世を忍ぶ仮の姿で、その実態は『犬』と呼ばれる忍者集団を率いる頭領の家柄だった。
 某悪魔系バンドかと突っ込まれても、本当に世を忍んでいるのだから、仕方がない。

「でも、私は家を継ぐ気はありません」

 志摩子は変わらぬ決意を述べた。

「お前にその気はなくとも、藤堂家にいる以上、外部の人間からはそんな区別はつかない」

 父は冷ややかに言う。

「だから、あの時、勘当してくださいとお願いしたんです」

「お前は『抜け忍』の厳しさをわかってはいない。お前には准至の話もしただろう」

 准至。その名を聞いて志摩子の表情が硬くなる。准至は志摩子の実の父で、賢文の兄にあたる。志摩子の実の母への愛を取り、『抜け忍』として生きようとしたが、かなわなかったという。

「それに、こうなってしまってはお前のとるべき道は二つ。一つはこれは忍びの世界の事だと割り切り、この写真の少女を見捨てる」

「見捨てる……」

 ガン、と鈍器で殴られたような衝撃を志摩子は受ける。

「もう一つは、忍びの世界に留まり『犬』を使いこの少女を救う。そうすれば少女は助かるだろう」

「……」

 しかし、それは二度とは戻れない道を行くという事に他ならない。
 志摩子は迷った。
 それは百合根とギンナンどっちが好きかと聞かれるぐらい答えづらかった。いや、この場合もっと重いが。

「待て、親父」

 兄が割って入る。

「なんだ。お前は関係ない」

「いや、もう一つ選択肢がある。『犬』を動かさず、志摩子が『個人の力』でその人を救いに行くというものだ」

 父はため息をついた。
 もう、志摩子の答えは決まっていたからだ。

「私は、自分の力だけでお姉さまを助けにいきます」

 そう言うと、志摩子は車を降りた。
 なんというハットリくん、またはナルトな展開だが、助けに行くと決めちゃったのだから仕方がない。



 数時間後、志摩子は地図の指していた屋敷の見える場所に立っていた。
 背負っているバックパックからノートパソコンを取り出す。

 忍者というと映画や漫画の派手な忍術を想像されそうだが、それはあくまで創作上の話。
 伝統芸能を継承しているわけではないので「ニンニン」「ドロン」などという忍者は現代では通用しない。
 忍者の仕事は、姿を隠して敵地に忍び込み内情を探るスパイ活動、破壊工作、謀略、離間工作などで、武芸もある程度は必要だが、現代社会に適応した忍者ともなると、コンピュータとネットワークに関する技術は必須となる。他に精密機械や薬品などの知識があったり、一芸に秀でているスペシャリストだったりするとよりよいらしい。
 現代でも通用する忍者集団『犬』を率いる藤堂家の人間として、志摩子も幼少期よりコンピュータとネットワークの知識を叩きこまれていた。6歳で某公共機関のデータベースに証拠も残さずアクセスしてみせて父に褒められた思い出もある。

 取り出したノートパソコンを開いてキーボードを叩く。
 地図の屋敷は結構な広さの屋敷であった。
 ここに来るまでに確認しておいた事から導き出した理想的な侵入経路を得るためにしかけたプラスティック爆弾の遠隔操作と、停電操作を行う。出来れば屋敷のセキュリティシステムの乗っ取りもしたいが、そこまでは厳しいというのはわかっていた。

 ドオォン!

 計算通りの爆発と停電で混乱している隙に屋敷に侵入した。
 停電は一瞬で回復し、自家発電システムがある事を知るが、想定内である。
 結構な広さがある屋敷、という事は、よほど大人数がいなければ簡単に人には出合わないという事になる。
 赤外線の見える特殊なグラスをつけているため、トラップも回避し、余裕で中を進んでいく。いわゆるメガネ志摩子状態だが、ストーリーには関係ない。
 とある部屋にあった屋敷のパソコンに事前に作っておいたUSBメモリーをつける。入れてある自動起動プログラムで屋敷内部のコンピュータを制圧する。
 あっさり制圧できたのは、おそらくセキュリティに関連するものではないようだ。たぶん、セキュリティのコンピュータは別のネットワークを使っているか、つなげずにいるかなのだろう。
 一応制圧したパソコンでその事を調べるが成果はない。
 一通り部屋を調べ、諦めて地道に歩き回ってホットルームを探る。2階にはそれらしい場所はなかった。
 ならば、地下であろうか、と振り向くと人が立っていた。

「ごきげんよう。侵入者さん」

 唇の両端をあげるようにして、でも怒っているような目で睨んでくるのは縦ロールの少女だった。こういうシーンで盾ロール呼ばわりしてはいけない。シリアスな雰囲気の時盾ロール誤植は気付くと引いてしまうからだ。

「この写真の方を返していただけないかしら?」

 冷静に志摩子は粗い画質の写真を見せて言う。

「そんなものは餌ですよ」

 少女は冷笑して言う。

「何故?」

「こうするからです」

 少女はナイフを片手に切りかかってきた。
 志摩子はかわす。

「あ、危ないわ」

「当たり前でしょう? あなたを殺す気でかかってるんですから」

 少女は皮肉っぽく言う。

「あの、何かを間違えているのではなくって? 私を殺してどうなるの?」

「どうもこうも。あなたは『犬』の人なのでしょう?」

 いささか拍子抜けしたように少女が聞く。

「私は家を継ぐ気はありません」

 きっぱりと志摩子は言う。

「継ぐ気がない。なら、何故ここに来たんです?」

「個人として、大切な人を助けに来ただけです」

「ふん、個人としてね。じゃあ、個人として大切な人を助けるために、死んでもらいましょうか。どうせ『抜け忍』になったら殺されるのでしょう? 同じ事じゃないですか」

 少女は邪悪な笑みを浮かべる。

「もし、私があなたに殺されたら、本当にこの方を助けてくれるんですか?」

 志摩子は聞いた。

「……だから、そんなものは餌だと言っているでしょう?」

 少女はナイフを振りかざす。
 志摩子は特殊警棒で応戦する。
 ナイフの刃を受け流し、手首からひねって少女を投げ、逆にナイフを取り上げて少女につきつける。

「この写真の人を返してください。そうすれば大人しく帰ります」

 志摩子は少女の目を見ながら言う。

「……仮にそうすれば、今は助かっても、あの人はまた狙われるでしょう。それでもいいんですか?」

「……」

 少女の問いかけに、志摩子は答える事が出来ない。

「個人として、あなたはあの人を守れるとでもいうんですかっ? そんな甘い事が通用する世界だとでもいうのですかっ!?」

「わ、私は……私は『犬』になります! 『犬』になって、お姉さまを守ります!!」

 志摩子は大声で宣言していた。

「……家を継がないという、決意はいいんですか?」

「私にはこの方が必要なんです。だから、もう、いいんです」

「それは、本当だな?」

 聞きなれた声がして、振り向くとそこには父、兄が立っていた。
 あっけにとられている間に、少女が脱出する。

「瞳子ちゃん、お世話になりましたな」

 父が少女にそう挨拶する。

「いいえ。頭領のお願いとあれば、この松平瞳子、これぐらいは何でもありません。よかったですわ。これで『犬』も安泰ですもの」

 瞳子ははしゃいでいる。

「……あの、これは一体?」

 志摩子は事態が飲み込めず聞く。

「いや、実は主君からリリアン女学園に通う孫を守りたいので『犬』よりメンバーを派遣してほしいと頼まれてな。ちょうど該当するのがお前しかいなかったもので、在学中だけでも手伝ってほしいと思ってちょっと一芝居打ったのだ」

 頭を叩きながら父は言う。

「あの、では……」

「瞳子ちゃんは『犬』のメンバーなのだが、主君のたっての希望でその孫を守るために松平家に養子に入った。まあ、これからお前をサポートしてくれる」

 よろしくお願いします、と瞳子が頭を下げる。

「いえ、ですから……」

「一度『犬』になると決めたのだから、もう、取り消しは許さんぞ」

「そうではなくて、ですね」

「何だ?」

 父が聞く。

「あの、お姉さまは、どちらに?」

 そもそも、志摩子は囚われのお姉さまを救出に来たのだった。

「ああ、あの写真は合成だ。佐藤さんは家に帰ってその後遊びに行ったらしい」

「じゃあ、私は騙されたんですか?」

「だから、一芝居打ったと言っている」

 父は悪びれもせず言う。
 なんというチェリーブロッサムな展開。読者は「またかよ」とうんざりしているというのに志摩子は全く気づいてなかった。

「志摩子。俺はお前がキャッチセールスとか振り込め詐欺に遭わないか心配になってきた。わかるか? お前は騙されて『犬』になっちゃったんだぞ?」

 兄がご丁寧に現実を突き付けてくる。

「まあ、頭領も若さまも。私がサポートいたしますから」

 瞳子ちゃんが更にダメ押しする。

 忍者というと映画や漫画の派手な忍術を想像されそうだが、それはあくまで創作上の話。
 伝統芸能を継承しているわけではないので「ニンニン」「ドロン」などという忍者は現代では通用しない。
 忍者の仕事は(以下略)
 現代でも通用する忍者集団『犬』を率いる藤堂家の人間として、志摩子も幼少期より毒劇物と危険物の知識を叩きこまれていた。8歳で蔵を爆破させてみせて父に褒められた思い出もある。

 志摩子は無言でダイナマイトを取り出すとためらう事無く爆破した。

 翌日、複雑な表情で志摩子に「ごきげんよう」と挨拶された聖が志摩子を心配してくれたのだが、それは別の話。


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