【3027】 冬休み  (パレスチナ自治区 2009-08-17 01:31:49)


ごきげんよう。【No:3025】の続きです。
タイトル、季節外れですね。

「………ううん……?」
わたし、寝ちゃったのか…
寝る前の記憶を引っ張り出してみる。
見たい本が高い所にあって…
ものさしで取ろうとして…
ものさしに文句言って…
もう一回背伸びして…
誰かに後ろから声をかけられて…
びっくりして…
バランス崩して椅子から落ちて…
誰かに助けてもらって…
抱きしめられたまま話をして…
………
………?
そこから記憶が無い。
抱きしめられているのが気持ち良くて、安心できて…
ああ。それで眠っちゃったんだ。
じゃあ、ここは図書室で…
女神様はどうしたんだろう?
なんか頭が柔らかい物の上に乗っている。
……?
「おはよう、祐沙ちゃん。よく眠れた?」
「ひゃい?!」
誰かが…って女神様の決まってるか…がわたしを覗きこんでくる。
覗きこんでくる?
じゃあ、わたしは………
「祐沙ちゃん、まだ寝ぼけているの?」
「い、いいえ!ごめんなさい!!おはようございます!!」
あわてて飛び起きた。

ゴツン!

「いったー!!」
「痛いわ!祐沙ちゃん!!」
うぅ…頭と頭がごっつんコしちゃった…
「ごめんなさいぃ…」
「ううん。私もいきなり貴女を覗きこんで驚かせてしまったもの」
「……はい」
「うふふふ。そんなに気にしないで」
「でも…」
「可愛い貴女をもう一つ見つけられたからいいわ」
「な、何言ってるんですか!」
「ふふ。ものさしに文句言ったり、精一杯背伸びしてるのに届かなかったり、いきなり眠りだしたり、寝言言ったり…眼福ね」
「…………!!」
「あら?ねえ祐沙ちゃん」
「……なんですか?」
「涎垂れてるわ」
「ええ?!はじめに教えてくださいよ!!」
わたしは慌てて口の右端をこする。
「ふふふ。違うわ。逆よ、逆」
「こ、こっちですか?!」
今度は左端をこする。
「とれましたか?」
「………え、ええ。と、とれたわ…ぷ…ぷぷ」
「あ、あの女神様?」
「…………ク……」
あれ?女神様ってば肩が震えてる?
もしかして…遊ばれた?
「もう!どうして騙すんですか?!」
「ふふふふ。ごめ…んなさい…だってこんなに簡単に…あは、ふふふ」
「うう〜〜。恥ずかしいよぅ…」
「は〜、は〜。ごめんなさい。本当に貴女って可愛いわ…」
なんて嬉しそうな顔をしているんだ、この人は…
「ねえ、祐沙ちゃん」
「はい?!」
「あら、ご機嫌斜め?ごめんなさい。ちょっと調子に乗ってしまったわ」
「別に…それで、女神様。なんですか?」
「私は蟹名静よ」
「……は!」
「ふふふ…」
「すみません!」
「いいのよ。女神様って呼ばれるの、なんだか良かったから」
「そ、そうですか…こ、今度からは静様って呼びますから!」
「そうね。みんなの前で『女神様』って呼ばれるのはやっぱり恥ずかしいもの」
「ううぅ…」

静様と初めてお話したこの時は、最初から最後までいじられてしまった。
ちょっと恥ずかしくて、ちょっとムカついたけど、静様は終始笑顔だったので、わたしも楽しかった。ような気がした。

12月24日。
今日は終業式だった。つまりは明日からは冬休み。
試験休みの後に一日だけ学校に行ってその後冬休みだからいまいちピンと来ない。
祐巳に家に帰ってこないか?と誘われたが、お母さんを一人にしたくなかったので断ってしまった。
断った瞬間すぐにシュン…となってしまったので、初詣は一緒に行くことにした。
凄い喜んでくれたので何とか事なきを得た。
はぁ…祐巳は喜怒哀楽が激しいな。たぶんきっとわたしもそうなんだろうな…

帰宅後、町に出てみた。
クリスマスに占領された街に誘われてしまったのだ。
キラキラ光るイルミネーション、サンタの格好をして客引きをしているケーキ屋の少女、クリスマスソングをガンガンに流しているCD屋。
全てがクリスマスに染まっていた。
いつもは憂鬱なお出かけも、今日ばかりは楽しそうな雰囲気にのまれて楽しかった。
「せっかくだから今日はクリスマスに染まってみようかな…」
夕飯の買い出しに来たスーパーでそんな事を呟く。
「う〜ん。ローストチキンでも作ろうかな。ピザもいいかも…」
「じゃあ、付け合わせはシーザーサラダがいいわ。ワインの付け合わせはチョリソーね」
「ひゃあ!」
いきなり思考に割り込まれ、抱きしめられた。
「誰ですか?!」
キッと後ろを振り向くと…
「ごきげんよう、祐沙ちゃん」
「し、静様…」
どうしてここにいるのかしら?

「あ、あの、静様?」
「どうしてここに?かしら?」
「はい」
「意外に近所なのよ、私と貴女って。本屋さんに行こうとしたら貴女を見かけてついて来たの」
「ついて来たって…すぐに声をかけてくださればよかったのに」
「だって貴女の驚く顔が見たかったんだもの」
そんな理由…きっとムキになったらまた遊ばれるから、もういいや。
「それで、静様。本屋さんはいいんですか?」
「ええ。今日は貴女と遊びたいわ」
「ええ?わたしとですか?」
「いいでしょ?ついでに冬休み中ずっと貴女と一緒にいたいわ」
「ええ?!」
「貴女って一人で暮らしているんでしょう?」
「ええ。実質的には一人ですね」
「実質的?」
「あ!こっちの話です!」
「…?とりあえず一人なのね?じゃあいいわよね?」
冬休み中この人と二人きりなの?危険なような気がするけど…
ごめんね祐巳。せっかく帰ってくるよう誘ってくれたのに…
なんだか静様に興味があるんだよね。それに一人だと滅入っちゃうし…
「いいですよ。でもご両親にしっかり確認してくださいね?」
「まあ。私はもう子供じゃないのに」
そう言うと静様は携帯電話を取り出し、母親と連絡し始めた。

「大丈夫でしたか?」
「ええ。可愛い女の子が一人さみしく年を越さなくちゃいけないのって言ったらすぐにOKしてくれたわ」
「その割には通話が長かったですね」
「ふふふ。貴女の事を詳しく教えてあげていたの」
「ええ?!変なこと教えてないですよね?」
「ええ。この間の事を話しただけよ?」
「この間って…もう!!」
「ふふふふ」
早速遊ばれているわ…はあ…

「それで、今日の夕飯はどうするの?」
「そうですね。やっぱりローストチキンにします」
「そうね。鶏肉が安いもの」
「あ!本当ですね。それなのにかなり良質です!!」
「ふふふ…」
「静様、どれくらい食べますか?」
「そうね…せっかくだから…」
それなりの量の鶏肉と他の食材を買いこんでスーパーを後にした。

「半分持ちますよ、静様」
「いいじゃない、彼氏に荷物を持ってもらうのは女の子の特権よ?」
「特権って、静様だって女の子じゃないですか」
「だって私と祐沙ちゃん、どっちが彼氏かって言ったら私でしょ?」
「言ってる意味がわかりません」
「ふふふ。いいじゃない」
「はあ…」
結局静様は荷物を譲ってくれなかった。

「ねえ、祐沙ちゃん。あの髪飾り、可愛いわね」
「え?どれですか?」
帰る途中で通りかかったアクセサリーショップではクリスマスセールと題して路上販売をしていた。
こんなに寒いのに…気合入ってるな。
「これよ」
「はあ…まあ、確かに」
平台の一番端にポツンと置いてあったやつだ。
銀色で二つの星を象った髪飾りだ。
「ほしい?」
「え?」
しっかり見てみると結構可愛い…
「ほしいですね」
「じゃあ買ってあげるわ」
「ええ?いいですよ」
「いいじゃない。クリスマスプレゼントってことで、受け取って?」
「……わかりました。ありがとうございます」
アクセサリーをプレゼントって本当に彼氏みたいな事をするな、静様は。
でも、人からものをプレゼントしてもらうのは久しぶりだったから素直に嬉しかった。

「どうぞ、上がってください」
「ええ、お邪魔するわね」
「今、お茶を入れてきますから待っていてくださいね。あ、あっちに洗面所があるのでうがいしてください」
「わかったわ。ありがとう」

「お茶って緑茶なのね」
「はい。紅茶って苦手なんですよ。匂いとか後味とか」
「そうなの」
「ええ」
「それにしても…ごめんね。殺風景ね」
「そうですね。あんまり飾るのって好きじゃないんですよ」
「貴女らしいわ」
「もう少し可愛げがあったらいいなって思うんですけどね…そろそろ夕飯用意しますね」
「ええ、お願いね」
「はい」
……?あれ?『お願いね』?手伝ってくれないのかしら?
まあ、お客さんだからいいか。

エプロンを付けて台所に立っていると妙に視線を感じる。
「あ、あの静様?そんなに見つめられると恥ずかしいんですけど?」
「ごめんね?貴女が可愛いからつい…」
「またそれですか」
「それと…」
「それと?」
「新婚夫婦ってこんな感じなのかなって」
「はいィ?!」
「可愛いエプロン着けた可愛いお嫁さんの後ろ姿を見て幸せを感じる私…まさに新婚ね」
「もう!静様!!」
「割と本気よ、私」
「そうですか…」
「ふふふ…顔を紅くした貴女って本当に可愛いわ」
「……うぅ…恥ずかしいので勘弁してください!!」
「はいはい、わかったわ。ちょっと調子に乗ってしまったわ」
「はあ…」

「おいしいわね。やっぱりお嫁に来てほしいわ」
「お口に合うようで何よりです」
「幸せね〜。両親がクリスマスで旅行に行ってくれてよかったわ」
「え?じゃあ…」
「お母さんは私が祐沙ちゃんの家にお泊まりするのだめって言えなかったのよ、最初から」
「くぅ…静様〜〜〜」
「ふふふ。睨まない、睨まない」

今は入浴中。静様と…
「静様…わたしは幼児体型だからいやだって言ったじゃないですか」
「そう?そんなに気にするほどじゃないと思うけど…貴女って小柄だからこれくらいでちょうどいいと思うわ。それにここのラインがとってもお気に入りだわ」
「ひゃう!なんで触るんですか?」
「いいじゃない、触るも何も、既に密着してるし」
「うう〜」
そう、わたしと静様は完全に密着している。静様が後ろからわたしを抱きしめているからだ。
静様の大きめの胸が背中に当たって…ドキドキする。
「この間の図書室と同じ格好よね。今日はお風呂の中だから寝ちゃだめよ?」
「それよりのぼせそうですよ…」
「ふふふふ。そうしたらじっくり介抱してあげるわ」
「さっきと言ってることが違いますよ〜」
「ふふふふ…」

寝ると時も一緒だ。
「あの、抱きしめられてるの恥ずかしいです」
「今さらじゃない」
「そうですけど…」
「今日は楽しかったわ」
「そうですね」
「良かった。最近の貴女は元気が無かったから」
「……そんなに気にしてくださっていたんですか…」
「ええ。一目惚れ、しちゃったから。貴女に」
「…そうですか」
「貴女のおかげでいろいろ吹っ切れたし、貴女とこうしていられるのは今までにないくらい幸せだから最高のクリスマスね」
「ふふっ。ありがとうございます」
「貴女は一人じゃないって教えてあげることもできたわ」
「そうですね…わたし、もっと素敵な女の子になりますから…静様」
「……?どういうこと?」
「わたしは今までわたしを愛してくれた人たちにたくさんの不義理を犯してきました。だから…」
「そう…話してくれてありがとう。じゃあ私そのお手伝いをさせてもらうわ」
「静様…」
「一人じゃ辛いわ…でもせめて二人なら…ね?」
「はい…」
静様の優しい温もりを感じながら聖夜は更けていった。

一週間ほど過ぎて年が明けた。今日は元旦。
「ねえ、祐沙ちゃん。初日の出を見に行きましょう。海まで」
「今からですか?遠くないですか?それに電車だって…」
「それに関しては大丈夫。今から一度私の家に行きましょう」
「は、はぁ…」

少し歩いて静様の家にやって来た。
「ちょっと待っていて」
「はい」
どうするつもりなのかな?
数分して静様が戻って来た。
少し大きめのバイクとともに…
「こ、これに乗るんですか?」
「ええ、大丈夫よ。免許だって持ってるし。運転はなかなかよ?」
「は、はぁ…」
静様には何度も驚かされているな…
「じゃあメット被って後ろに座って。私の腰に腕を回して、しっかりつかまって」
「はい」

少し大きいエンジン音を響かせて夜道を疾走する。
バイクを運転している静様はかっこよかった。
信号待ちの時に目があったとき、凄いドキドキしてしまった。
ここ一週間の静様とのギャップがあって…ずるいよ、静様…

ご来光を拝む。
「綺麗ね」
「はい!」
海に来たのは久しぶり。しかも初日の出は初めて。興奮してしまう。
「来てよかったわね」
「そうですね」
「ねえ。なんてお願いしたの?」
「それは…だめです。教えちゃうと叶わなくなっちゃいます」
「それもそうね」
「そうですよ」
今日はお餅を食べたり、箱根駅伝を見たり(途中見覚えのあるおさげが映っていた。気のせいか?)してのんびり過ごした。
祐巳から初詣は明日にしてほしい、という電話もあった。

1月2日。
「祐沙ちゃん、そろそろ出かけましょう」
「はい」
「で、どこの神社なの?」
「学校の近くに…」
「ああ、あそこね。行きましょうか」
「バイクでですか?」
「もちろん」

道は結構空いていた。
静様がスピード出しすぎないか心配だった。

「結構人がいるわね」
「そうですね。道、空いてましたもんね。それより祐巳は何処かな」
「適当に歩いてたら見つかるわ」
屋台を眺めながら歩いていたら祐巳を見つけた。
なぜか『白薔薇様』と一緒にいた。
まあ、こっちはこっちで静様を連れているし、祐巳にはその事言ってないし。
たこ焼きを食べさせあっている。
「祐巳さん、白薔薇様…あけましておめでとうございます」
「ひゃあう!!」「おっと!」
「あれー祐沙ちゃん。どうしてここに?それに…静まで…」
「祐巳さんと待ち合わせていたんです」
「私は祐沙ちゃんとデートです」
「もう!静様!!」
毎回毎回恥ずかしい事言うんだから!!
「えっと、祐沙ちゃん、静様あけましておめでとうございます。ねえ。祐沙ちゃんこの人…」
「静様?学校で知り合って…ごめんね?せっかく帰ってきてって言ってくれたのに」
「ううん、いいんだよ」
「祐沙ちゃんって本当に双子だったのね」
「静様、祐沙ちゃんからわたしのこと聞いてるんですね」
「ええ。クリスマスの時に教えてくれたの」
「そうだったんですか」
「大丈夫、変なことは言ってないから」
「よかった〜」
「ねえ、祐沙ちゃんさ〜。髪切ったんだね」
「え?そうですよ」
「だめじゃん。ツインの子は抱きしめた時にツインが顔に当たるから可愛いのに〜」
そう言って白薔薇様はわたしを抱きしめようと…
「聖様、祐沙ちゃんに抱きつかないでください」
「ええ〜なんで〜」
「祐沙ちゃんはわたしのお嫁さんです」
「お嫁さんって…」
「そうです。ここ一週間くらいお風呂だって「静様!!」
「すみません、聖様。祐沙ちゃんから止められちゃいました」
「静、祐沙ちゃんちに泊ってるの?」
「はい。家が近いんです。両親は旅行に行ってるので」
「いいな〜。ちょっとくらいお裾分けしてよ」
「嫌です。だいたい聖様には祐巳ちゃんや志摩子さんがいるではないですか。節操無しです」
「きついな〜」
新年早々相変わらずだなこの人…

学校が始まった。
さすがに静様は昨日家に帰ったけど…
クラスに着くとやたら視線を感じる。
なんだろう?
「あけましておめでとうございます。祐沙さん」
「あ、あけましておめでとう、恋歌さん」
「祐沙さん、瓦版の事なんですけど…」
「瓦版?」
「これなんですけど」
「どれどれ…」

〈発覚!!リリアンの歌姫と一年生の松原祐沙さんの熱愛!!〉

「な、何これ?!」
「これゴシップなんですか?」
「え?え?」
記事を見てみると…冬休み前の図書室での出来事と終業式の日、静様と一緒に買い物をしている時の事が写真付きで掲載されていた。
さすがにそれ以上の事は書かれていなかったが…瓦版に書かれていることは全部事実だ。
「祐沙さん?」
「あはは…あははは…」

静様、どうしましょう?!

「え?どうしましょうって?いいじゃない、全部事実だし。それにこれのおかげで私たち、公認カップルよ」

あとがき
長くなりすぎました。
そして静様の設定が…一応バイクは中型です。免許の年齢もOKです。
設定が無理やりなのは今に始まったことではないので…
祐沙ちゃんの幸せな気持ちが少しでも伝われば嬉しいです。
祐巳ちゃんと同じ遺伝子、きっと紅薔薇属性の祐沙ちゃんを静様にたくさんいじらせることができて満足だから…静様はたぶん白薔薇属性。
それにしても、祐沙ちゃんが静様に懐くの早すぎな気もしますが…いいです。
だって、早くしないと静様、イタリアに行っちゃいますからね。


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