ごきげんよう。【No:3027】の続きです。
いよいよクライマックス?です。
「祐沙さん、これは事実なんですね?」
「まあ…そうね…」
「いつの間に…この写真、恋人同士のように腕を組んでらっしゃいますよ?」
「ここここ、こいびとって…」
「祐沙ちゃん明らかに動揺してるね」
「だだだだって…」
新学期早々に発行されたリリアン瓦版のせいで朝から尋問のようなことを恋歌・紀穂夫妻いにされている。
全く…自分たちはどうなのよ。紀穂さんが帰って(戻って)来てからというもの、恋歌さんは毎日のように彼女と腕を組んで登下校をしているくせに…
“じゃあ、あれはやっぱり…”
“ええ、そうに違いないわ…あの時の祐沙さん、凄く幸せそうでしたもの…”
“その後、ロサ・カニーナは祐沙さんの家に泊まったらしいですよ”
“うそ…”
マジで…?かなりの人に見られちゃってる?
腕を組んでって言ってきたのは静様だっていうのに…うかつだったわ…
「でもさ、祐沙ちゃん。せっかく静様と仲良くなったのに、もうすぐお別れなんて…」
「そうですわね…」
「へ?紀穂さん、今なんて?」
「だから、静様とお別れだって…」
「嘘でしょう…いつ?どうして…」
なんで?わたし、何も聞いてないよ…
「お聞きになってらっしゃらないのですか?」
「だから!何を?!」
わたしは立ち上がって恋歌さんの肩を思いっきり掴んでしまった。
「い、痛いです、祐沙さん。落ち着いて…」
「お願い…何を知ってるのか早く教えて…早く…」
「わ、わかりましたから…」
「静様は『リリアンの歌姫』と呼ばれるほど歌が上手な方です。それ故に、数年前からイタリアの方から声がかかっていたんです」
「そ、それで?」
「理由は存じませんが留学が先延ばしになっていたのです。ですが去年の暮に…」
「暮にってわたしが静様と…」
なんでですか、静様…もう留学を決めていたのなら…どうして…どうして!
いてもたってもいられなくなってわたしは教室を飛び出した。
「祐沙さん!暮と言っても!祐沙さん!」
「あ〜あ、たぶん聞こえてないよ」
「はぁ…言い方が悪かったですね…」
2年藤組の扉を開ける。
上級生のクラスだが、『ごきげんよう』あるいは『失礼します』も忘れて静様に近づく。
「静様!」
「え?!祐沙ちゃん?」
「静様、どうして何も教えてくださらないのですか?!静様にとってわたしなんてそんな程度なんですか?!冬休みの間はただの遊びだったんですか?!ひどいです!ひどいです!!」
「ちょっと祐沙ちゃん?!いきなりどうしたの?!」
「静様!留学なさるなんて大事なことをわたしに隠していたじゃないですか!こっそりいなくなるつもりだったんですか?!わたし、もう…も…う……ひ…と…に…な…」
「祐沙ちゃん!ああ、どうしよう…」
泣き出してしまったわたしを見て、2年藤組のみなさまは何事か、とざわつき始めた。
「はあ…祐沙ちゃん。場所を変えましょう…」
「………」
静様に連れられて古い温室にやって来た。
「祐沙ちゃん…」
「すみませんでした…でも…」
「ごめんね、隠していたつもりじゃないの。貴女に話すのを忘れていたの」
「そんなの答えになっていません…」
「そうね。ちゃんと話すから…」
静様が留学をすると正式に学校側に伝えたのはわたしと出会った日。正確には再会した日。
その後図書室で委員の業務に取りかかった。
そんな時にわたしと再会した。
「だから嬉しくて舞い上がってしまって…その後貴女と冬休みを一緒に過ごして…」
「それで…忘れちゃったんですか」
「そう。あまりにも楽しくて幸せで…」
「よかった…遊ばれたのかなって不安になっちゃいました」
「そんなことあるはずないわ。私を信じて?」
「……わたしも冬休み…今までで一番…だったから…そ…れが……いつわ…りだ…たら…どう………よ…て…」
「ごめんね、祐沙ちゃん」
そう言って静様はわたしを抱きしめてくれた。
そのままわたしは泣きじゃくってしまった。
「はあ…私ったら…大事な貴女を泣かせてしまうなんて…」
「わたしも…すみません…」
「両親も学校側も好意的に協力してくれていたから私としてもみんなの期待に応えたかったのよ」
「そうですね。それは大事です。わたしも応援します」
「ありがとう、祐沙ちゃん。だからね、貴女に出会わなければそのまま留学していたと思うわ」
「それじゃあわたしなんかと…」
「それは言っちゃだめよ。私にとって貴女は何より大事なの。貴女の涙を見て強く思ったわ」
それを聞いて胸が熱くなった。でも…
「静様……でも、わたしが原因で留学を止めるなんてダメです。そんなことしたらわたしは静様と出会ったことを後悔しなければなりません…」
「留学はやめないわ。それは安心して」
「………はい」
安心はしたがさみしい気持ちの方が強かった。
どのみちお別れは確定。
「でもね、貴女ともっと学園生活を続けたいのよ」
「そんなの無理ですよ…」
「だから、だからね、私、生徒会選挙に立候補、しようと思ってるの」
「は?」
「それで受かったら、留学は来年に延ばすわ」
「えーーー!」
なんだかかなり不純な理由での立候補な気がするが、嬉しかった。
一緒に選挙の準備をしたりして楽しかった。
そして何より幸せだった。
大好きな静様の横顔をたくさん眺めることができたから…
この頃、なぜ『白薔薇の蕾』は立候補しないのか、が話題になっていた。
このまま彼女が立候補しなければ静様が当選する確率はかなり高くなるが。
静様が用事があるとかで久しぶりに校内をブラブラしてみた。
なんだろうな。前よりも景色が綺麗に見える。
静様のおかげかな?
“どうして?祐沙ちゃんのため?”
“それもあるけど、どこかに所属しているのは私にとって枷なの。お姉さまを…”
……?わたし?聞き覚えのあるこの声は祐巳?もう一人は?
割り込むようで悪いが訊いてみることにした。
「ねえ、わたしがどうしたの?」
「あ、祐沙ちゃん…」
「ごめん、聞こえちゃって」
「そんなに大声だったかしら。はしたないわ」
この人が『白薔薇の蕾』か。綺麗な子だな。
「それで?」
「志摩子さんがね、あ、この子が志摩子さんね」
「うん」
「まだ、立候補していなくて。それで…」
「祐巳さんに理由を訊かれていたんです」
「そう…それで立候補しないのはわたしのためだとか」
「ええ…最近の幸せそうな貴女を見ていると水を差したくなくて」
「……ありがとう。でもそれで貴女が意志を曲げてしまうなんてだめよ」
「そ、そうよね」
「あとお姉さまがどうとか」
「ええ、こんな私だからお姉さまは私を妹にしてくれて、山百合会に引き込んでくれたと思うのだけど…どこかに所属しているのは私にとって枷だから…」
「……なによ枷って」
「それは言えないわ。言ってしまうとこの学園を辞めなくてはいけなくなるから」
「何それ」
「それは…」
「言いたくないならいいわ。……ねえロザリオっていうの、見せてよ」
「ロザリオ?」
「なんで祐沙ちゃん」
「見たことなくて」
「静様からもらわなかったの?」
「貴女は私の恋人だから妹にはしないって言われたから」
「うわぁ、アツアツだね」
「それはどうも」
「羨ましいわね」
そう言いながら志摩子さんはロザリオを取り出しわたしに貸してくれた。
「ふうん、これがロザリオ。綺麗ね」
「そうね。これは私とお姉さまが繋がっている証よ」
「そう…じゃあさ、これ、引き千切ってもいい?」
「祐沙ちゃん?!何言ってるの?!!」
「そうだわ!いいわけないわ!!」
「だってさあ、あんた白薔薇様の思いを何も理解していないじゃない」
「……ええ?」
「せっかく白薔薇様があんたのために、あんたが成長できるように考えて行動してくれたのに。わたし、あんたがどんな人間なのか知らないけどさ、今の印象だと綺麗だけどただのバカだよね」
「祐沙ちゃん!!そんなことないよ!!!」
「だから、今のままだとって言ってるじゃん。枷も何なのか知らないけど。そうだ、枷って何?わたしが理解できるような内容ならこれ、返してあげる」
「……それは」
「引き千切ってもいいわけ?わたしだって好きでこんな事やってんじゃないんだけど」
「……私はクリスチャンなの。でも、お寺の娘で…」
「……?それが枷?」
「……ええ。だって罪深いものそんなの」
「意味わかんない。わたしそんなくだらないこと考えてる奴に同情されてるわけ?」
「そんな言い方…」
「ふざけんじゃないわよ、あんた。自分の生まれを枷だって言ってるのよ?それこそ罪深いじゃない!
世界中を見てみなさいよ!戦場に生まれてしまってる子だっているのよ?!生まれた瞬間にお母さんと死別してしまってる子だっているの!生きたくても生きることが出来ない子だっているし、その点あんたはどう?!そんなに綺麗な人間に生んでもらえて、今まで何一つ不自由なく育ててもらえて、こんなに立派な学校に通わせてもらえてこんなに恵まれてるのに!!」
「私は寺の娘なのにクリスチャンなの!」
「だから!それがどうしたのよ?!じゃあどうしてリリアンに通っているの?!親に認められてここにいるんでしょ?!あんたそれを枷だって言ったら白薔薇様だけじゃない、ご両親の思いまで無駄にしているじゃない!!それが一番罪深いわ!!いい加減目を醒ましなさいよ!!」
「……そうね」
「これ返すから」
ロザリオを志摩子さんにしっかりと手渡す。
「…え?」
「それ見てしっかり考えなさいよ。あんたの周りの人の想いとか。あんたを大事に思ってくれている人たちをせいぜい裏切らないことね」
「わかったわ…」
「祐沙ちゃん」
「何?」
「ありがとうね?でも、やり方が過激だね」
「そうかしら?生徒の模範になるべき人物が情けない面してるから、これくらいでいいと思うけど?」
「そうかもね。でも祐沙ちゃん。このまま志摩子さんが立候補しなかったら…」
「あんな人に同情されたくなかっただけよ。たとえ静様が留学することになってもわたしの想いが消えない限り、静様だって同じ。そう信じてるから。大丈夫よ」
「いい人と出会えたんだね」
「そうね。最高の出会いが出来たわ」
あとがき
三番煎じです。ごめんなさい。
カニーナV.S志摩子、どうしても無理でした。
後半のシーンは原作では薔薇の館が舞台なんですよね。書いている途中で気付きました。
でも、二次創作ですしご都合主義ということで見逃してください。
タイトルは前半に掛っています。