【3047】 タヌキのごとく!振り向いたら知らない世界  (ケテル 2009-08-29 01:32:02)


『改めて両親に紹介しようと思ってね』

 そんなに改まらなくてもいいと思ったけど、まあ、取り合えず正式にって事なの? なんか、頬辺りが緩む。 でも、いまどき珍しいようにも思うけど。

『まあ、会いたがってるのは確かだしね。 大丈夫だよ』

 うん、そうだよね。 実際何度かお会いしているわけだし、うまく立ち回って印象は悪くないはず。

『さあ、着いたよ』

 ・・・・・・? なんだろ? 以前来た時と若干雰囲気が違う気がする・・・・・・家の周りが・・・・・・? 

あれ? なんかずいぶん寂しいような気がする。

『どうしたの由乃さん? ほら入って』

 祐麒くんが、玄関を開けて待っていてくれる。 私は、なぜか周りに民家の見あたらない福沢邸に招き入れられた。

 以前訪問した時と同じ玄関。 ただ、土間からすぐ階段になっている。 改装でもしたのかしら?

『大丈夫だから』

 そう言いながら、祐麒くんは土足のまま登り始めた。 いいの?

『うん、大丈夫。 気にしないで』

 じゃあ、靴を履いたまま失礼します・・・・・・。
 しばらく登ると、階段は石段に変わった。 それも、古びて放置されかけている神社やお寺の苔蒸した石段だ。 って、どう考えても二階は登ってると思うんだけど・・・・・・、どこまで続いてんのよ。

『あ、由乃さん、いらっしゃい』

 あ、祐巳さん・・・・・・、どこから出てきたのよ、周りに隠し扉なんかは無さそうだけど。

『そっか〜、うんうん由乃さんなら大丈夫だね、がんばってね』

 ・・・・・・なにが大丈夫で、なにをがんばるんだか・・・・・・あ〜いい、いい。 改まって言わなくていいわ・・・、それより祐巳さん。 顔色悪くない? 目の下にくまが有るみたいだけど。

『へっ? ・・・・・・・・・・・・あっ!』

 どこからともなく鏡を取り出した祐巳さん、目の下のくまを確認するやクルリと後ろを向き。 ポケットからなにやら取り出す。 ”キシュッ!”っと瓶入り飲料を開けるような音。 ゴキュゴキュッと喉を鳴らし何かを飲んでいる。 でもね祐巳さん、腰に手を当てて飲むのはどうかと思うわよ。 ちらっと見えた瓶からすると『ファイト〜〜〜!! いっぱ〜〜つ』ってヤツのようだ。 瓶にフタをしてポケットに納めてから、ペチッペチッと頬をたたき、こちらに向き直る祐巳さん。

『ほら、大丈夫だよ』

 なにが大丈夫なんだか、いまいちよく分からない。

『由乃さん、由乃さん。 その包みはなに? おいしそうな匂いがするんだけど』

 これ? 手ぶらで来るのもなんだったから、令ちゃんに作らせた太巻き寿司よ。
 油揚げはダメだって言ったのに、あのヤロ〜にこやかな顔して、いなり寿司作り出しやがったから木刀で折檻して。 そしたら今度は、油揚げを刻んで巻き寿司の具に入れようとしやがったから、関兼定の日本刀で肩をポンポンって叩いて”ニッコリ”笑ったらようやく揚げを使うの諦めたって言う、ちょっとしたドラマがあった巻き寿司なのよ。

『わ〜〜い、令さまの太巻きは甘めだからおいしいんだよねぇ〜。 今夜はごちそうだ〜〜〜』

 そう言うと私の手元からサッとお重をさらって”ピョ〜ンピョ〜〜ン”っと石段を跳ね登って上へと消えていった。 
 なに? あれ? 私は祐巳さんの跳ねていった方を指さす。

『大丈夫だよ』

 いや、もう、ほんと、なにが大丈夫なんだろ、さっきから。

 石段はまだ続く。 何段あるんだろ? とっくに福沢邸の屋根は突き抜けてるはずだけど。

『やあ、よくきたね。 さあ、どうぞどうぞ』

 ようやく登り終えた私を迎えてくれたのは、祐麒くん祐巳さんのお父さまとお母さま。 いや、顔は知ってるんですけどね。

 しかし…その場所というのが・・・・・・。

 ソファーとテーブル、キャビネットが置いてあるその奥には、廃屋チックなお寺・・・・・・。 右手には緑青が浮かんだ釣鐘が下がっている鐘突き堂。 本堂の左手奥に幽霊でも出てくればピッタリの古井戸が見える。

『さあ、遠慮なく座って。 もう顔見知りではあるけれど一つ祐麒のことをよろしくね。 それで祐麒、例のことはもう話したのか?』
『いや、まだ話してないよ。 みんな揃っての方がいいかなって思って』

 は? なんのこと? 福沢家にはなにやら秘密めいたことがあるらしい。

 朽ちかけた本堂の中から、祐巳さんがニコニコしながらお茶とお菓子を運んで来る。 そして、その後ろにはなぜだか・・・・・・。

 菜々? 何でここにいるのよ?

『私も、祐巳さまや祐麒さんのお仲間だからです。 今日は、由乃さまがお仲間になられるというので、馳せ参じたしだいです』

 え? な、なんなの? なんなのよ?! 仲間って、え? 私の知らないところでなにが起きているの?!

『由乃さん、俺たちは・・・・・・・・・・・・狸なんだ』

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・・・・・・・
 ・・・・・・・・
 ・・・・・
 ・・・
 ・・・・・・はい〜? ゆうきさん・・・。 狸とおっしゃいましたですか?!!

『多摩丘陵の開発から逃れて、人間の中で生活することを選んだ末裔……』
『末裔はちょっとな〜、お父さんだって少し戦ったんだぞ』

 ぇぇぇ・・・・・・、そりゃ〜、祐巳さんは小狸とか言われているけど・・・・・・。

『祐巳が小狸なんだったら、よく似ているって言われてる俺だって小狸でしょ』

 あぁぁぁ・・・でも、そんな風には見えないわよ祐麒くんは。

『まあ、祐巳の方が化けるの下手かな? でも、髪のこの辺なんか狸っぽいなって思わない?』

 そう言いながら、外側に跳ねている髪を”ちょいちょい”っとなでる。 あ〜ぁ、それってそう言う意味なのか。 え〜〜と、じゃあ、菜々は?

『私はごらんの通りタレ目ですから』

 タレ目の人はみんな狸なのか?! 全国のタレ目の人にあやまんなさい!

『化けるのにエネルギーいるのよ、さっきみたいに疲れてきちゃうとくまが出ちゃったり。 まず顔にでるのよねぇ〜、っで、栄養ドリンクを飲んで補給するの』

 さっきのはそう言うことなのね。 えらいお手軽な気もするけど。

『さて、そう言うことで。 由乃さんには人間から狸に変化してもらわなきゃならないんだけど』
『由乃さま、怖いのは最初だけです』
『狸生活は楽しいわよ〜』
『由乃ちゃんなら大丈夫よ』

『『『『『 そいやっさぁ〜〜♪ 』』』』』

 掛け声とともに五人は見事な宙返りをした。 ”ボ〜〜〜ン”っと煙が上がる。 ゲェッホッ・・・・・・。 結構むせるわねこの煙。 煙が晴れるとそこには、どっかのアニメのようにデフォルメされた、ちゃんちゃんこを着た狸が5匹立っていた。
 祐麒くんが立っていた所にいた狸が”ずいっ”と前に出ると、何かを差し出した。 なんかマニアックな人達が好きだと噂に聞いたことのある物のように見える・・・・・・ネコミミカチューシャ?

『さあ、由乃さん、このタヌキミミカチューシャをつけると、由乃さんも化けタヌキになれるよ』
『祐麒と付き合うのなら、やはり狸になってもらわなくてはね』
『私とスールになるのなら、やっぱり狸である必要があります』
『冬に便利よ、天然の毛皮を着ているんですもの』
『由乃さんは、タヌキフェティダになるのね、タヌキネンシスとお揃いだ〜。 あれ? ちょっと語呂が悪い? タヌフェティダの方がいい?』

 なに言ってんだか祐巳狸は・・・・・・あ〜〜の〜・・・・・・ち、ちょっと、そんな、デフォルメタヌキに迫られるのって、なにげに怖いんですけど。
 タヌキミミカチューシャが、今まさに、私の頭に乗っかろうとする。

『お姉さま、大丈夫です』

 いやぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

      ・・・・・・・・・・・・・・

     ・・・・・・・・・

    ・・・・・

   ・・・

  ・・

 ・

ぁぁ〜〜〜〜・・・・・・ぁぁ・・・あ・・・?


 え? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・夢・・・・・・?

 どうやらDVDを見てる途中で寝てしまったらしい。
 液晶テレビにキャプチャー画面と陽気な祭り囃子風のBGMが流れてる。
 そしてコタツの上には「平成狸合戦ポ○ポ○」何でこれ借りてきたんだっけ?

 「鬼平犯科帳:復活の鬼平、赤く染まる陣羽織」
 「暴れん坊将軍:激闘!吉宗vs踊るマハラジャ 血飛沫のマツケンサンバ、60分一本勝負」

 この二本のどっちにしようと悩んだあげく。

 「平成狸合戦○ン○コ」

 ・・・・・・いや、まあ〜これも面白いんだけど、デートの帰りに何でこれ?
 まあ、デート帰りに、くだんのDVDどっちか借りようとするのもどうかと、今思えばするけど。

 だからあんな夢見たのかしら?

 なんなの? あの人が狸って、しかも菜々まで・・・・・・まあ、祐巳は・・・・・・や、やっぱり狸顔よね。
 ってか、婚約指輪渡してくれた相手を狸呼ばわりする気は、私にはない。
 DVDのパッケージの手前に無造作に置いてある・・・・・・寝入ってしまうまで、頬をゆるめてその存在を実感しつつニマニマしてたんだろう、我ながら他人様に見せたくは無いわね。
 小さくて上品なビロードの指輪ケース。
 そんなに重いわけではないが、私と祐麒にしてみれば、それこそ人生動かすほどの重みが十分ある。
 あ、ひょっとして、夢の中でさんざん 『 大丈夫 』 を連発してたのは、私の不安の現れだったりするのかしら?

 ぅぅ・・・・・・・・・・だめだ、なんか不安になってきた。

 私は指輪ケースに手を伸ばす。 そうでもしないと不安に押しつぶされそうになる。

 不安で不安定だよぉ〜。

 ”ポ〜〜ン”

 指先が触れようとした時、いきなり指輪ケースが横に真っ二つに割れて煙が立つ。 そしてその中から、ダイヤモンド製の狸が現れた・・・・・・・・・・・・。

 いやぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

      ・・・・・・・・・・・・・・

     ・・・・・・・・・

    ・・・・・

   ・・・

  ・・

 ・

ぁぁ〜〜〜〜・・・・・・ぁぁ・・・あ・・・?


 え? ・・・・・・・・・・・・・・・・・・夢・・・・・・?

 どうやらDVDを見てる途中で寝てしまったらしい。
 液晶テレビにキャプチャー画面と陽気な祭り囃子風のBGMが流れてる。
 そしてコタツの上には「平成狸合戦ポ○ポ○」何でこれ借りてきたんだっけ?

 「必殺仕事人! 主水赤いきつねか緑のたぬきで迷う」
 「天地人 壮絶、八王子城の虐殺」

 この二本のどっちにしようと悩んだあげく。

 「平成狸合戦○ン○コ」


 面白いのよこれも、途中で寝ちゃったけど・・・・・・寝る・・・・・・・・・。

 私はきょろきょろと周りを見回す。

「あ、ぃたたたっ・・・・・・」

 二度あることは三度ある。 おもいっきり頬をつねっちゃったわよ。

 でも、何なのかしらね、最初の夢の中で見た夢は・・・・・・なんか、ずいぶん器用なまねしたような気がするけれど、夢の中で夢って。
 祐麒くん、祐巳さん、菜々が狸で、やたら登場人物が『 大丈夫 』と言ってた。
 その『 大丈夫 』は、二度目の夢、祐麒くんから婚約指輪を貰ったことに対する自分自身の不安、ってことなのかしら?

 コンヤク・・・、ユウキクン ト・・・・・・ イヤダワ〜 ・・・ ワタシッテバ、ソンナコトヲ、モウ カンガエテイタノネ・・・。

 まあ、夢は夢よね。
 貰った指輪が狸に化けるって・・・・・・日曜夕方に放送している某国民的アニメのエンディングで、白い猫がするみたいに腰をフリフリ動かしてたわよ、ダイヤモンド製の狸が光輝きながら。

 今、コタツの上にあるのはDVDのパッケージと、テレビを見ながらいじっていたロザリオ。 

令ちゃんから貰い受け、今度は私が菜々に渡す・・・・・・予定・・・。

「・・・・・・・・・・・・」

 ちょっとの期待、ちょっとの不安。 ロザリオを指先でいじりながらいろいろなことが頭の中に渦巻く。

『 …… おねえさま、大丈夫です …… 』

「・・・・・・・・・大丈夫・・・だよね・・・」

 ロザリオを制服の胸ポケットに納めて、DVDプレーヤーの電源を切った。







 〜 お・ま・け( 当初はこうしようと考えていました )〜

 電気を消して床に就くと、頭の中でさっきの夢のことがグルグルしはじめた。
 夢なのよ…なんで…なんで……なんで、ちょっとでも大きく……。 胸に夢を見られなかった私、なんか腹が立って来た。

 ダメだ眠れん。 こういう時は発散するに限る。 理不尽だとは分かっている、百も承知だ。

 私は、床から起き上がると窓を開け放ち、屋根伝いに発散場所へ向かう。
 多少暗いが慣れたもの、カラカラッと令ちゃんの部屋の窓を開ける、鍵を掛けていないとは無用心な。
 朝練を欠かさない令ちゃんは寝るのも早い。
 ベットランプが点きっ放し。 また少女小説でも読みながら寝てしまったんだろう。

「令ちゃん! ちょっと起きてよ!」

 反応なし。

「令ちゃんってば! もう! 狸寝入りしてんじゃないわよ!」

 ガバッと、力ずくで妙にフリルの多い羽根布団を引っぺがす。

・・・・ いやぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!



・・・・・・> デフォルメタヌキが寝ていた。




       〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 〜 了 〜 〜 〜 〜


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