【3048】 未来  (パレスチナ自治区 2009-08-31 01:16:47)


ごきげんよう。【No:3043】の後日談です。別名続きです。
せっかくくっついた由乃さんと志摩子さんをただイチャつかせたいだけです。
はじめに、令ちゃん、ごめんなさい。
祐巳視点です。

祐沙ちゃんと静様がお別れをしてから少し経って2年生になりました。
毎日長電話をしているらしく、電話料金がかさんでしょうがないよ、と祐沙ちゃんが嬉しそうに教えてくれました。
特に事件もなく、平和な日々が続いています。
事件らしい事件といえば、少し遡るけど、やっぱり由乃さんと志摩子さんが恋人同士になったことだと思います。
新聞部の取材が凄かったのを憶えています。
由乃さんたら取材の時に志摩子さんにキスしちゃうし、それを見た令様が『黄薔薇革命』再来、みたいにショックを受けていたし…
早く令様、立ち直らないかな…
ちなみに由乃さんは剣道部に入りました。
まだまだおぼつかないところばかりらしいけど、体を鍛えて強くなって志摩子さんを守っていきたいっていうのが入部した動機だって言ってました。
それを聞いた志摩子さんの嬉しそうな顔といったら…こっちまで幸せになりそうでした。

放課後、今日も山百合会の仕事で薔薇の館に来ました。
きっと由乃さんたちがすでに来ていてイチャついてるんだろうな…
こっそり、こっそり…
ビスケット扉に耳を当てて中の様子を窺います。
「う〜ん…何も聞こえないな…居ないのかな…」
まだ誰も居ないのか、物音がしません。
「ばれてないよね」
はたから見れば今のわたしは凄く怪しいと思います。

「祐巳。何しているの?」
「中の様子を窺っています」
「そんなことしてどうするのよ?」
「それは…ってお姉さま?!」
驚いた!だって物音がしなかったよ?
「何驚いているのよ。変な子ね」
「うぅ…すみません…」
「で?中には誰かいる?」
「居ないみたいです。てっきり由乃さんたちがいるかと思ったんですけど…」
「最近あの二人、凄いものね。その二人ならミルクホールに寄ってから来るってさっき話をしたわ」
「そうなんですか」
「だから早く中へ入りましょう」
「はい、お姉さま」

「うわぁ!」「令?!」
「うぅん…?」
中に入ると令様がいました。
正直怖かったです…
「どうしたのよ?」
「ああ…ちょっと考え事をね…」
「もしかして由乃ちゃんの事?」
「まあね…正確には由乃と志摩子がいつから…ハア…」
見ていられないよ…

「「ごきげんよう」」「ごきげんよう、お姉さま方」
しばらくすると由乃さんたちが乃梨子ちゃんを伴ってやって来た。
「「ごきげんよう」」
「……ごきげんよう」
一人元気の無い返事をする令様。
そんな令様を見て…
「令ちゃん…いつになったら立ち直るのよ…」
「だって…由乃は私のカードを…」
「ハア…まだその事を根に持ってるの?いいかげんにしてよ。私たち、いつまでも依存しあったままだといつまで経っても成長できないわよ?」
「そうなんだけど…いきなりすぎるよ」
「令様…『黄薔薇革命』で何を学んだんですか?」
志摩子さん…地雷だよ、それ…
「志摩子には何も言われたくないよ…由乃と付き合ってるんだからさ…」
「ねえ、令。私も由乃ちゃんたちと同じ意見よ。乗り越えなさいよ。まだチャンスがあるかもしれないわよ?」
「祥子だって…最近祐巳ちゃんとラブラブじゃない…」
「私に八つ当たりしないでほしいわね」
「あの…令様って本当に『ミスター・リリアン』だったんですか?」
「乃梨子ちゃんまで?!」
「あ…いや…すみません…」
「乃梨子、空気読まなきゃだめよ?」
「はい…しま…じゃない…お姉さま」
それを貴女が言いますか?志摩子さん。

乃梨子ちゃんは入学して2週間ほどで志摩子さんの妹になりました。
こういうのはインスピレーションよって言っていたけど、由乃さんの影響がもう出始めてるな…
「由乃さん、お茶入れるけど何がいい?」
「そうね…今日はオレンジペコで」
「わかったわ」
嬉しそうに流しに向かう志摩子さん。今日は志摩子さんがお茶を入れる日。毎日交代で入れています。

「はい、由乃さん」
これまた嬉しそうに入れてきたお茶を由乃さんに渡している。そんな志摩子さんに由乃さんは…
「ありがと、し・ま・こ」
「きゃあ!」
お礼を言うと同時に志摩子さんのおしりを触った…
「あ〜もう!可愛い声ね、志摩子ったら」
「もう!由乃ちゃん?!みんなの前ではだめだって言ってるじゃない!!」
ん?『由乃ちゃん』?
「ねえ、志摩子」
「はい?」
「由乃ちゃんのこと、ちゃん付けで呼んでいるの?」
「え?あ!そ、それは…」
「ねえ志摩子。もうふだんからちゃん付けでいいじゃない」
「で、でも…公私混同は…」
「そんなの誰も気にしないわよ。それに今さら『さん付け』なんて他人行儀で嫌だわ」
「そ、そう?」
「そうなの」
「わかったわ。私もね、ちょっとさん付けって嫌だったの」
「ふふふ…」
嬉しそうに微笑みあう二人。この二人のせいで何回沸騰しそうになったことか…

「うぅ〜よしの…」
「なあに?令ちゃん?」
「なんでもない…」
「もう。情けない声を出さないの」
もうどっちが姉なのか分からない…
「令は家でもこうなの?」
「家では…もっとうるさいですよ」
「よしの?!ひどいよ!!」
「ひどいのはどっちよ。志摩子を呼ぶとだいたい乱入してくるんだから…」
「え?最近志摩子家に呼んでないじゃん…」
「あんまり令ちゃんが私たちの語らいを邪魔するから、最近お泊りする時は志摩子の家に行ってるの」
「ええ?!」
「志摩子の家っていいわよ。自然がいっぱいあって静かで…ご両親もいい人たちだし」
「由乃ちゃんのご両親だって気さくな方たちじゃない」
「そう?」
「ええ」
また妙な雰囲気になっている…
「ねえ、もしかしてもう…」
「当たり前じゃない。バレンタインデートの時に志摩子の家に行って『お嬢様を私に下さい』って言って来たわよ」
「由乃さん、やることが早過ぎだね」
「もちろんよ。志摩子みたいないい女、誰が男共なんかにやるもんですか」
「そ、それで志摩子の両親はなんて?」
「すっごい驚いていたけど、庭に出て土下座したら真剣なんだって受け取ってもらえてOKしてもらえたわ。チャンスは一度きりが条件だけどね」
さすが由乃さん。武士道の精神を持つ女…
「あの時の由乃ちゃん、勢い付け過ぎて小石がおでこに刺さって血が出ちゃっていたわね」
「そうだったかしら?必死だったから憶えていないわ」
「由乃ちゃんたら」
「志摩子は幸せ者ね。こんなに真剣に思ってくれる人がいるなんて」
「はい。私は世界一の幸せ者です」
「お姉さまは由乃様のご両親には?」
「もちろんご挨拶に伺ったわ。大丈夫だったわ」
「そりゃあ志摩子みたいな女の子が来たら断れないよ」
「そう?」
「うん…」
「じゃあ…プライベートではイチャイチャしまくりなんだ」
「そうなるわね」
「よしの〜」
令様、最近ボキャブラリーが低下しているな…
「はあ…うるさすぎるホトトギスっていうのも考えものよね…」
「ホトトギスって?」
「『鳴かぬなら 殺してしまえ ホトトギス』って言うじゃない?」
信長?!由乃さんってちょっと信長っぽいと思うけど…
「そうね」
「令ちゃんの場合、鳴きすぎなのよ」
「ひどいよ由乃!!」
「『五月蠅いぞ 舌を落とすぞ ホトトギス』ってどう?」
「由乃ちゃん…」
「舌を落とすぞってどういう意味なの?!ねえ!!」
「少しは静かになるでしょ?」
「由乃さん、容赦ないね…」
「そんなことないわ。限度ってものがあるから」
「かっこいいわ、由乃ちゃん」
「そう?」

由乃さんの一言でさらに令様が落ち込んでしまいました…

「ね、ねえ祐巳。祐沙ちゃんは最近どうなの」
「祐沙ちゃんですか?」
「祐沙、まだ一人暮らししてるのよね?」
「うん。その方が何かと都合がいいからって」
祐沙ちゃんは相変わらず一人暮らしです。
お友達を呼んだりするときとか便利だもんね。
「わたしもお泊りに行ったりしてるんですよ」
「そうなの」
「紀穂ちゃんとか恋歌ちゃんとかとパジャマパーティーしたりしますよ」
「それは楽しそうね」
祐沙ちゃんは最近、わたしたち福沢家と少しずつ交流するようになりました。
2週に一回くらいうちに来るようになりました。
静様と出会ってからの祐沙ちゃんは以前よりも表情豊かになって、やっぱりわたしと双子なんだなって思います。
紀穂ちゃんたちともお友達になることが出来て嬉しい事がいっぱいです。
「今度私も一緒に行きたいわね」
「そうですか?!きっと祐沙ちゃんも喜んでくれますよ!」
「そう。楽しみね」
「はい!」
「ふ〜ん…。嬉しそうだね祥子…」
「どうしたの令?」
「祐巳ちゃんに祐沙ちゃん。姉妹ドンブリにしたいんでしょ?!不潔だァ!」
「人聞きの悪いこと言わないで頂戴!!だいたい祐沙ちゃんには静さんがいるでしょう?!そんなことしたらどうなるか分からないもの」
ついに令様、やさぐれてきちゃったよ…無理もないかな…
「令ちゃん?いいかげんにしようね?」
「はい…ごめんなさい…」

「志摩子。夏休みになったら太秦に行きましょう?」
「京都に?」
「由乃様、仏像でも見に行くんですか?それはいいですよ」
「ごめん、太秦といったら映画村でしょ」
「あ、そうですね」
「もちろんそういうのも楽しむつもりよ」
「楽しそうね、行きましょう」
「今度計画立てようね」
「ええ」
夏休みか…
「ねえ…静さんは帰ってくるの?」
「そうみたいですよ。祐沙ちゃんがイタリアへっていう話もあったんですけど、修学旅行がイタリアなので」
「そうなの」
「はい。それで静様は夏休み中祐沙ちゃんの所にいるつもりらしいです」
「それじゃあラブラブしほうだいね」
「そうだね。そのために一人暮らししているようなものだし」
「私も一夏中志摩子の家に泊まろうかしら」
「いいわよ。来てほしいわ」
「じゃあお言葉に甘えて、そうしようかな」
「そうしてもいいけれど、仕事がある日に寝坊しないでね」
「わかってます」
由乃さんたちいいな…
「乃梨子ちゃんはどんな夏休み?」
「そうですね。実家に帰ったり…」
乃梨子ちゃんが次の一言を言おうとした時…

「ごきげんよう」
縦ロールの子が入って来た。
「あ、瞳子」
「乃梨子さん。あ、は無いです」
「ごめん…」
「瞳子ちゃん久しぶりだね」
「はい、祐巳様」
最初、瞳子ちゃんとはお姉さまをめぐってぎすぎすしていたけど、お姉さまの仲介やわたしたちの話し合いの末、仲良くなることが出来ました。
やっぱり可愛い子とは仲良くしたいよね。
「今日はどうしたの?」
「乃梨子さんのお仕事を手伝って早く一緒に帰りたいと思いまして」
「瞳子…」
楽しそうに話す瞳子ちゃん。そんな彼女を恥ずかしそうに見つめる乃梨子ちゃん。
「さあ、何をお手伝いすればよろしいの?」
「瞳子待ってよ…」
妙に乃梨子ちゃんに迫っている瞳子ちゃん。
なにかあるのかな…
「早く帰って今日は瞳子のお家でお泊りの約束ですわ」
「瞳子!みんなにばれちゃう!」
「構いませんわ。全く乃梨子さんときたら、いつまでも隠そうとして…そんなだと堂々と乃梨子さんと手を繋ぐことすらできないではありませんか」
「え?」
「もしかして…」
「乃梨子は瞳子ちゃんとお付き合いをしているの?」
「あぅぅぅ…そう…です…」
「乃梨子ちゃんさあ…最初リリアンなんて頭痛いとか言ってなかった?」
「由乃様…そう…でしたね。ですけど…出会ってしまったものはしょうがないといいますか…瞳子…可愛いんですもん…しょうがないじゃないですか…」
「乃梨子ちゃん…染まったね…」
「そうですよ…いいじゃないですか…今幸せなんですから…」
「乃梨子さん…瞳子も嬉しいですわ。休暇に入ったら乃梨子さんの実家に行ってご挨拶しなければいけませんね」
「瞳子ちゃん?松平はカナダに行くんじゃ?」
「瞳子は残ることにいたしましたの。乃梨子さんの事をお話したらそうしなさいって」
こっちのカップルも速いな…
そう言えば令様がやけに静かだな…
「はあ…もう由乃に振り回されるのはもうごめんだよ…」
うわぁ…心からの叫びっぽい…
「なんか言った?令ちゃん。全く…私の令ちゃんはもっとかっこいい筈なんだけどな…」
「ごめんよしの…なんにも言ってないよ…何にも…」

……
な、何はともあれもうすぐ夏休み。
高校生活2回目の夏休み。
今まで以上に楽しくなりそうだな。

あとがき
宗教裁判、ロザリオの滴をすっ飛ばしていきなり黄薔薇注意報です。
令ちゃん不憫すぎです。すみません。
へたれを克服できた時、きっと幸せをつかむことでしょう。
この後レイニーブルーはありません。



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