外で雨粒の音がする。
「今日傘もって来てますか?」
「忘れたわ。それより人間って、美しいと思わない?」
「まったくそのとおりですね」
「言葉を交わすことで伝えにくい気持ちを伝えるだけならず、愛情や友情を確かめあえるのよ?」
「で…これが友情を確かめられた私の結果って訳ですか?」
私は不満げな顔でゆっくりとアコーディオンを持ち上げながら声の主に返事をする。
「いいえ、愛を確かめたのよ」
「はいはい、じゃいけんの罰ゲームで言葉も何もないでしょう。それでお目にかないましたか?…よいしょ」
アコーディオンを音楽室の楽器保管部屋に置いてまた音楽室に戻る。
「百点よ!!!!」
「静さま邪魔ですどいてください」
戻った途端に目の前で腕を広げた人間に一瞥し避けてまだある楽器を手にする。
「ツンデレね?この後デレが来るのね!」
「静さま」
「あ、あらなにかしら?」
「邪魔だから帰ってくれませんか?」
「ぐふぅっ!」
まったくいつまでドアの前に立っているんだか…
「く、わ、分かってるわね祐巳さん。ツンからデレの落差が萌えだということを…。これでデレがきたらやばいわ」
大体の楽器は片付いたかな。
後は鍵を掛けて終わりか。
「静さま、大体片付いたので鍵かけたいんですけど」
「あーら、まだ片付いていないわよ!」
「え?」
周りを見回しても楽器は特に見えない。
「ふふふ、見落としてるわね。私の愛と言う名の楽器をアナタの体という名のケースで包み込んでいないじゃない!ゴフッ」
一瞬イラッとしたが気がついたら私の拳が静さまのお腹にめり込んでいた。
「ああ、どうやら愛と言う名の楽器は打楽器のようですね。もうちょっと演奏してから片付けますよ」
「ごめんなさいすみません、鍵かけてきます」
シュンとした顔で窓の鍵のチェックをしていく静かさまを横目でサボってないかチェックしながら私は荷物を片付けようとしたが、カバンがない…
「どうかしたの?」
そこに窓の鍵を見回り終わった静さまが話しかけてきた。
「えぇ、荷物を整理しようと思ったんですけど…って何ですかそれ」
「ん?なに?」
「いつの間にそんなゴツイ肩幅になったんですか。ていうかもう何入れてるんですか」
「ひ、酷いわ祐巳さん!私が背中にカバンを隠してるって言うの?!」
「…カバンとは言ってませんが」
「……酷い!」
「どっちがですか!いいから返してください!」
「だって返したら帰るつもりでしょ!」
「はい?そりゃ帰りますよ」
「…帰らせない」
「え?今なんて…」
さっきまでの張った声とは全く質の違う低いトーンの声が急にきて一瞬何て言われたが分からなかった。
「訳の分からないこといってないでさっさと帰りましょう」
私はそういってドアを開けようとするが鍵が閉まってるのか全く開かない。
「ふふふ、帰らせない。窓も閉まってるし逃がさないわよ」
「はぁ…」
私は深いため息をつく。
「な、なによ!私と一緒にいるのは嫌なの?!」
「いえ、嫌というかなんと言うか。馬鹿ですか?」
「馬鹿とはなによ!」
「いやだって、普通に教室の鍵は内側から開くようにボタン式ですよ?」
「…あ……」
「はぁ…」
近くにあるイス二つを適当にとり、腰を掛け、静さまにも一個薦める。
「どうぞ」
「うー、ありがと…」
「で、どうしてこんなことしてるんですか?」
「だって、せっかくの二人きりだし、ちょっとでも一緒に居たいじゃない」
膨れっ面の彼女は私を見ずにぽつぽつ話し始めた。
「…そうですか」
「それなのに祐巳さん、すぐ帰りたそうにするしすぐ楽器片付けるし…」
「まったく考えが足りませんでした」
「どうしてそんなに早く帰りたかったの?」
「それは…」
私が戸惑ってるといつの間にか目線をこっちに向けて興味深げに眺められていた。
「静さまが傘持ってきてないって言うし。雨午後ぐらいで止むって天気予報でいってたから…」
「ん?どういうこと?」
「鈍い人は…嫌いです」
しばらく静さまが考えた後凄くうれしそうな顔をして自分のカバンと私のカバンを手にとってドアの鍵を開けた。
「ほら、早く早く!」
「急に元気にならないでください」
「さーて、今から帰るわけだけど。私は傘持ってないわ。困ったどうしましょう?」
今までにないぐらい楽しげな顔でこっちを見てきてる。ため息混じりに案を3つ出してみる。
「その1、全力で雨を避けながら走る」
「却下!」
「その2、帰らない」
「…却下」
「その3、す、好きな人の傘に入れてもらう」
「採用よ」
私は傘を広げて静さまの横につく。
「じゃあ帰りましょうか…」
「ええ、でもゆっくりね」
「校門まで20分掛けて歩いてみせますよ」
-fin-