もしも桂さんが勇者だったら
最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】
【ここまでのあらすじ】
桂は山村先生に勇者として見出され、蔦子、真美、ちさととともにリリアンを救う事になり、非常識な勇者らしい振る舞いに戸惑いながらも、学園長から勇者のしるしを貰い、初めてのバトルも経験した。
(各種パラメータは後ほど発表します)
所持金:350G
アイテム:焼きそばパン(HP30回復)×1、コーヒー牛乳(MP30回復)×1、黄色の鍵、白薔薇のシール(5枚)
桂は千保さんを抱え起こした。
「桂さん、ドロップ品はバトル直後の1回しかもらえないわよ」
真美が言う。
「そうじゃないでしょう? 私たちが怪我をさせた下級生を放ってはおけないわよ。どうせ行先は保健室なんだから、連れて行きましょう」
桂は千保さんに肩を貸した。
「勇者はそういうの、放っておいていいんだってば」
蔦子が言う。
「私たちは最上級生、リリアンの下級生を導くのは当然でしょう?」
「仕方ないなあ。そこまで言うなら付き合うわ」
ちさとが千保さんを運ぶのを手伝ってくれた。
保健室。
「ようこそ、勇者さま」
保科栄子先生が迎えてくれた。
「あら、パーティーの人数を増やしたの?」
栄子先生が千保さんを見ていう。
「いえ。江守千保さんはバトルで倒したのですが、桂さんがどうしても保健室に運ぶと言うので」
蔦子が説明する。
「まあ。桂さん、バトルのダメージは実生活の怪我やダメージとは違うのよ。だから、こういう事は気を使わないでいいの。次からは保健室に運ばないで倒しっぱなしで構わないわ」
そう言いながら、栄子先生は千保さんを帰してしまった。
「放っておいて死んだりしませんか? だって、HPが0になったら死ぬんですよね?」
「HPとその人の人間としての生命力は全然別物よ。だから、気にする事はないのに。桂さんは優しいのね」
栄子先生が微笑む。
自分はただ、当たり前のことをしただけなのに、優しいと言われて桂は何だか照れくさかった。
「それより、山村先生や香取先生に保科先生と会って話をするといいと言われてきたのですが」
真美が言った。
「ああ、あの二人がね。じゃあ、何でも聞いてちょうだい」
意味あり気に笑いながら栄子先生はそう言った。
「あの、なんで先生方はこんな事をやってるんですか?」
桂は聞いた。
「今は、語るべきことではないわ」
どこかで聞いたような言葉ではぐらかされた。
「あの、回復は何Gでしょうか?」
蔦子が聞く。
「保健室でのHP、MPの回復は無料よ。もちろん何度でも使えるわ」
「あ、当たり前じゃないですか。学校の施設なのに有料じゃ困りますよ」
桂が突っ込む。
「桂さん、HP、MPは実生活の怪我やダメージとは違うのだから、回復するには有料である事が圧倒的に多いの。だから、保健室はむしろ勇者の拠点になると思うわ」
「保健室が拠点って……」
桂は現在まで保健室を利用した回数を考えた。部活中に転んですりむいてもマネージャーに応急手当てをしてもらったりしているので、実際来た事などほとんどなかった。
「あ、でも並薔薇ポイントは回復しないから気をつけて。あれは一晩経たないと回復しないの」
「その、『並薔薇ポイント』ってなんですか?」
「勇者に宿る神秘の力をポイント化したものよ。今は3Pしかないけれど、いざという時に使うと大きな力になって助けてくれるわ」
魔法やらスキルやらが使える世界なんだから、当たり前でしょうって栄子先生は笑った。
「そ、そんな力が私たちに?」
「ええ。でも、敵の山百合会メンバーは『紅薔薇ポイント』『黄薔薇ポイント』『白薔薇ポイント』を使って対抗してくるから、結局は変わらないのだけど」
「って、山百合会メンバーが敵なんですかっ!?」
桂は叫んだ。
「あら、聞いていない? 山百合会メンバーを倒すための勇者なのよ」
あっさりと栄子先生は言うが、桂は青くなる。
「じゃあ、つまり、私たちは生徒会幹部を敵に回したって事ですよね。それって……」
「ああ、桂さんが想像しているような『テニス部を同好会に格下げ』とか『予算を回さない』なんて報復はないわ。そんな事をしたら生徒会長は罷免されるもの」
言いながら栄子先生は笑う。
「あの、どうして山百合会メンバーが敵なんですか?」
「それは、桂さんの活躍で明らかになったり、ならなかったりするわけよ」
にこやかに栄子先生に言われたが、桂は釈然としなかった。
「桂さん、それくらいにしてレベルアップしましょうよ」
蔦子が言うと、真美、ちさとも頷く。
「れ、レベルアップ?」
「各種パラメータを増加させて、アップしたレベルの分だけスキルをとるか、スキルを強化できるのよ」
「各種パラメータ? ああっ、全然わからないっ!!」
桂は頭を抱えた。
「まあ、実際にやって見せた方が早いか。じゃあ、私たちが先にレベルアップするから見てて」
そういうと蔦子、真美、ちさとはああでもない、こうでもないと10分以上思案して、レベルアップを済ませた。
名前:武嶋蔦子
レベル:3
クラス:メイジ
HP:17
MP:31
筋力:1
器用:1
敏捷:2
精神:6
知力:7
スキル:
ウィンドスラッシュ(消費MP3、SL1)単体の対象にSL+αの風属性のダメージを与える。
マジックサークル(消費MP4、SL1)自身の魔法効果をSL+α分増大する。
ブラスト(消費MP5、SL1)魔法の対象を単体から範囲(指定可能)に書き換える。SLは1より上昇させられない。
装備:なし
名前:山口真美
レベル:3
クラス:プリースト
HP:24
MP:24
筋力:2
器用:2
敏捷:2
精神:6
知力:5
スキル:
ヒール(消費MP2、SL1)単体の対象のHPを精神値+α回復する。
プロテクト(消費MP2、SL2)単体の対象のダメージをSL+α減らす。ダメージを受ける直前に使用。
装備:なし
名前:田沼ちさと
レベル:3
クラス:スレイヤー
HP:36
MP:12
筋力:7
器用:5
敏捷:3
精神:1
知力:1
スキル:
スマッシュ(消費MP4、SL2)単体の対象にSL+αの白兵攻撃のダメージを与える。
コンバットマスター(消費MP0、SL1)自身の白兵攻撃の命中率がSL分上がる。
装備:50cm定規
攻撃力:+2
「……とまあ、こんな具合ね」
「全然わからない単語だらけなんだけど。って、いうか、前回と比べ物にならないぐらい情報量が増えてるじゃないっ! ついていけないわっ!!」
桂は突っ込んだ。
「じゃあ、桂さんのパラメーターを見ながら説明していきましょう」
【名前:○○桂】
「これに説明はいらないわね」
「いやっ! 苗字が明らかにおかしくなってる! こんな苗字じゃなかったはず!」
桂は主張した。
「これ、やり直しきかないから、このまま行きましょう」
「そんな、ひどい」
桂は涙目になった。
【レベル:1(レベル3に上昇可能です)】
「これはキャラクターのレベルで、強くなれば数字が増えるのよ」
「まあ、それはなんとなくわかるわ」
「ちなみに、白薔薇さまはレベル97らしいわよ」
「納得……って、強すぎるわあっ! そんなの相手に戦ったらどうなるわけっ!?」
「まあ、今のままなら確実に死ぬでしょうね」
さらりと栄子先生が言った。
「……」
【クラス:シーフ】
「初期で選べるクラスは白兵攻撃が得意なスレイヤー、射撃攻撃が得意なガンマン、探索が得意なシーフ、回復と防御が得意なプリースト、魔法が得意なメイジの5つよ。役割だから、呼称とはちょっと違うイメージのスキルもあったりするわ」
「私、まだシーフよりもガンマンの方が良かったかも」
「他にもクラスがいっぱいあって、クラスチェンジも出来るわ。クラスチェンジをすると他のクラスのスキルを使えるというメリットがあるんだけど、スキルの最高レベルが8になってしまうの」
「スキルのレベル?」
「後で詳しく説明するから」
【HP:25】
「これは『どのくらい攻撃を受けても死なないか』というのを数値化したものよ」
「なんか、不穏当な数値ね」
【MP:15】
「これは『どのくらいスキルを使えるか』というのを数値化したものよ」
「これは前に聞いたような気がするわ」
「HPとMPの上昇値はクラスによって決まっているの。シーフならレベルが1つ上がるとHPが2P、MPが2P上昇するわ」
「つまり、死にづらくなるって事ですか?」
「でも、敵も強くなって、一度に与えられるダメージの量が増えるから」
「いたちごっこなインフレ状態じゃないですか」
「バトルものなんてそんなものよ」
「……」
【筋力:2】
「ここから始まる5つのパラメータは実生活のものとは違っているわ。だから、実際は真美さんと蔦子さんなら蔦子さんの方が筋力があるのに、真美さんの筋力値の方が高いでしょう?」
栄子先生が説明する。
「ああ、確かに」
なんとなく桂は納得してしまった。
「悪かったわね」
真美がふくれる。
「ちなみに筋力値をあげるといい武器が装備出来たりするわ」
「武器って?」
「それはおいおいわかるわ」
【器用:3】
「器用値はシーフならぜひ上げたいパラメータね。このパラメータで鍵開けやトラップ解除の成功率が変わるの」
嬉しそうに蔦子が言うが、桂は乗り気ではない。
「他にも、白兵攻撃、射撃攻撃の命中率は器用値に依存しているから、魔法攻撃を考えていない場合はこれを上昇させるのを忘れないでね」
【敏捷:3】
「敏捷値は『どれだけ早く敵を攻撃できるか』という能力と、『どれだけ敵の攻撃を受けても避けられるか』という能力を数値化したものよ」
「ああ、また、不穏当な数値が……」
【精神:1】
「精神値は『どれだけ魔法攻撃に耐えられるか』というのを数値化したものよ」
「なんか、普通の精神力とは違うのね」
「言ってみれば『令ちゃんのばか』に耐えるアレみたいな」
「アレが精神値……」
ちさとが微妙な顔をする。
「アレが……って、余計わかりづらいです」
【知力:1】
「知力値は『どれだけ狡猾に魔法を決められるか』を数値化したものよ」
「狡猾なんだ……」
狡猾な数値が高い蔦子は何故か視線をそらした。
【ボーナス:3】
「これは本来初期で筋力、器用、敏捷、精神、知力に割り振って個性を出すためのボーナスよ。レベルアップすると、1レベルあたりボーナスが2もらえるから、同じように割り振るの」
「ふーん、決まりとかあるの」
「それは本人の自由だけど、メイジが筋力値あげても魔法を狡猾に決められないじゃない」
「なるほど」
狡猾な数値を上げまくった蔦子は目を合わせてくれない。
【スキル:ポイズン(消費MP6、SL1)単体の対象に毒を与える。SLは1より上昇させられない。】
「SLっていうのはスキルレベルの事よ。レベルアップするとスキルを1つ増やすか、SLを1つ上昇させる事が出来るんだけど、たまに上昇させられないスキルもあるわけ。スキルの最大レベルは10だけど、クラスチェンジといってクラスを変えると最大レベルが8にまで制限されてしまうの。SLを上昇させる事で強化されるスキルは注意が必要ね」
「何だか面倒くさいのね」
【装備:なし】
「装備は武器が1つ、防具が1つ、その他が1つ装備出来るわ。あ、ただし、双剣のように『2つで1組』の装備品もあるから」
「武器って言われてもねえ……」
「装備品の重量の合計は筋力値を上回ってはいけないの。だから、筋力値は適度に上げないとね」
「はあ」
「装備品を買うのに必要なのがGよ。たとえばエクスカリバーが300000Gだから目安にして」
「全然わかりません、その目安」
もうちょっと身近な、たとえばイチゴ牛乳ぐらいを目安にしてほしい桂だった。
【攻撃力:0】
「攻撃力は『武器の攻撃力+スキルなどによる修正』が入ります」
「手ぶらは0なのよ」
【防御力:0】
「防御力は『防具の防御力+スキルなどによる修正』が入ります」
もう、桂は全然興味がない。
「ちなみに通常ダメージは『攻撃力+スキルなどによる修正』−『防御力+スキルなどによる修正』で求められます」
「こうやって改めて聞くと前回の攻撃力30って結構凄かったよね」
しみじみと真美が言う。
「この桂さんのパラメータなら固定値だけで即死よね」
「だから、安易に死ぬ死ぬって言わないで」
「じゃあ、大体わかったところでレベルアップしてみて」
栄子先生に言われて、桂はパラメータを上昇させてみた。
筋力:4
器用:4
敏捷:3
精神:3
知力:3
「……」
「……」
「桂さん、魔法を使う予定がなかったら、知力や精神は上げなくても良かったのに」
「もっと器用をあげるべきよ」
「こんな何をしたいのかイマイチわからないキャラクターにしなくたって」
「微妙ね」
栄子先生、蔦子、真美、ちさとに総攻撃を食らった。
「えっ、でも、好きにしていいって……」
「好き勝手と好きにしていいは違うわよ」
「役割ってものがあるのに」
「ま、桂さんに任せてしまったのだから、仕方がないわ」
極悪非道のような言い方をされて、散々である。
「あとはスキルね」
「ポイズンはSLをあげられないけど、どうすればいいの?」
「そういう時はレベル3の時点で習得可能なスキルを選べばいいのよ」
「それって、何があるの?」
【シーフのスキル】(レベル3までに習得出来るもの)
アンロック(消費MP0)鍵開けが出来る。その時+SLの修正を得られる。
補足:達人になるとロザリオをお断りしたツンドリルの心の鍵すら開いてしまう。
リムーブドトラップ(消費MP0)トラップ解除が出来る。その時+SLの修正を得られる。
補足:凸のバラエティギフトの賞味期限も難なく読み取れるようになる。
シックスセンス(消費MP0)エリア探知が出来る。その時+SLの修正を得られる。
補足:バレンタインの日に職員室のカーテンが挟まっている異変に気づくのは朝飯前。
ディテクト(消費MP0)自身の情報収集の時成功率が上がる。その時+SLの修正を得られる。
補足:試験前でもいばらの森にまつわる噂もコスモス文庫もフラゲできる。
スティール(消費MP3)単体の対象から何かを奪う。その時+SLの修正を得られる。
補足:ただし、このスキルでは他人のお姉さまを奪えない。
アヴォイドダンス(消費MP0)回避率がSL分上がる。
補足:持ってないと黄薔薇のつぼみ(当時)に縁側で日向ぼっこしてる老猫扱いされるらしい。
シャドウ(消費MP2)一定時間隠密状態になる。SL時間分延長できる。
補足:出番が悲しいほど減る。でも、きっとネタにはなる。
ポイズン(消費MP6)単体の対象に毒を与える。SLは1より上昇させられない(習得済み)
補足:「スターは素人の事なんかいちいち覚えてやしないわよ」的な。
「……なんか、微妙なスキルばっかりじゃない」
「桂さん、ここはやっぱりシャドウじゃない?」
ちさとが桂の肩を叩きながら言う。
「微妙なスキルを勧めないで! 一番『なし』でしょう!?」
桂はシャドウだけは取りたくないので、さっさと決める事にした。
「アヴォイドダンスをレベル2で」
「桂さん、ここはレベル1にしてアンロックかリムーブドトラップをとってよ」
蔦子が桂の手をとって勧める。
「嫌だって言ってるじゃない」
「せっかく知力あげたんだから、ディテクト取れば? あれはたしか知力パラメータに依存してるから」
真美が言う。
「ディテクトはいいわよ。桂さんはそういうの好きでしょう?」
ちさとがそれに乗っかる。
「な、何も私だけが特別ってわけじゃないじゃない」
「じゃあ、取らないの? 取ったら山百合会の情報も気になるあの人の情報も取り放題よ」
真美がウィンクしながら言う。
「……ディテクトとるわ」
桂は負けた。
名前:○○桂
レベル:3
クラス:シーフ
HP:29
MP:19
筋力:4
器用:4
敏捷:3
精神:3
知力:3
スキル:
ディテクト(消費MP0、SL1)自身の情報収集の時成功率が上がる。その時+SLの修正を得られる。
アヴォイドダンス(消費MP0、SL1)回避率がSL分上がる。
ポイズン(消費MP6、SL1)単体の対象に毒を与える。SLは1より上昇させられない。
「これでようやく体裁が整ったわね」
その時。
──キーンコーンカーンコーン……
「あ」
「下校時間ね」
「帰ろうか」
桂はほっとした。ようやく勇者ごっこが終わるのだと思うと本当にほっとした。
「えーと、次の写真部と新聞部と剣道部とテニス部の活動が重なってない日は明後日ね。じゃあ、この続きは明後日、放課後ね」
「ちょ、ちょっと。次の約束なんかしないでよ〜」
->とりあえずセーブして【No:3070】へ
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