ごきげんよう。
今回は『ディズニー映画版 不思議の国のアリス』とのクロスオーバーです。
ずいぶん前の映画なので観た事のある方は思い出しながら読んでいただけると2割増しくらい楽しんでいただけるかもしれません。
なお、表現しにくいシーンは割愛します。
祐巳ちゃんの設定は以前書いた、【No:3051】のちょっとエッチな祐巳ちゃんで、なんだかんだで祥子様の妹になっています。時間軸は一応、黄薔薇革命の後です。
ミュージカルっぽくしたいと思います。『♪』の後は歌だと思ってください。
「蓉子様〜」
「もう。祐巳ちゃんは甘えん坊さんね」
「えへへ〜」
微笑みながら蓉子様の豊かなお胸に顔をうずめる祐巳ちゃん。
胸一杯に蓉子様の優しい香りを吸い込み、幸せな休み時間を過ごしています。
最近の祐巳ちゃんのお気に入りはお姉さまのお姉さまである蓉子様。
抜群の容姿に、優しく穏やかな表情。そして柔らかい香り。豊かな母性愛は祐巳ちゃんを虜にしてしまいました。
嬉しそうに祐巳ちゃんの頭を撫でている蓉子様は蓉子様で、目いっぱい甘えてくる愛嬌のある可愛らしいタヌキ顔の祐巳ちゃんが可愛くて仕方がありません。
念願の『孫』。かねてから『孫』が出来たらたくさん甘えさせてあげたかった蓉子様は夢がかなって極上の幸せをかみしめていました。
今は昼休み。よく晴れていてこの季節にしては暖かくお弁当を食べるのに適しています。
お弁当も食べ終わり、二人の少女はさらなる温もりを求めて寄り添い合っています。
「はあ…これではまた祥子に怒られてしまうわね…」
「でもでも!」
「ふふふ…いいのよ。一緒に怒られましょうね?」
「はい、蓉子様」
嬉しそうに微笑む蓉子様に祐巳ちゃんも満面の笑みを浮かべます。
祥子様に怒られることすら、今の二人にとっては幸せの一部なのです。
祐巳ちゃんとの情事のおかげで、『蓉子様は優しい方だ』という風文がリリアンを駆け巡り、蓉子様のもう一つの夢である『薔薇の館を一般の生徒でいっぱいにする』も少しずつではあるけれど、叶いつつあります。
しばらくするとどなたかが近寄ってきました。
「蓉子さん、ちょっとよろしいかしら?」
「和泉さん、どうかしたの?」
「先生がお呼びなのよ。だから邪魔して悪いのだけど…」
「わかったわ。だから祐巳ちゃん。ちょっと席を外すわね?」
「はい、わかりました」
そう言って蓉子様はクラスメイトの方と校舎に戻っていきました。
蓉子様はお気に入りの膝掛けをおいていったようです。
「蓉子様の膝掛けだ。ふふふ…いい匂い…」
膝掛けの匂いを嗅いで嬉しそうな祐巳ちゃん。ちょっと変態っぽいです。
そのうち少しウトウトしてきました。
この季節にしては珍しい、暖かな日差しと、大好きな蓉子様の匂いにかこまれてお昼寝するのもいいかもしれません。
「急がなければいけないわ、急がなければいけないわ」
あれ?志摩子さんだ。どうしたのでしょう。品行方正な彼女にしては珍しくかなり焦っているようです。
首から下げている大きな時計もなんだか不自然です。
「志摩子さ〜ん、どうしたの〜?」
「あら祐巳さん。ごめんなさいね。急いでいるからまた後でね」
「ええ?しま…あ〜あ。行っちゃったよ…」
でもどうしてそんなに急いでいるんだろう?そんな事を思った祐巳ちゃんは志摩子さんを追いかけてみることにしました。
志摩子さんは建物の扉を開いてその中に入っていきました。
「あんな建物、在ったかな?」
ずっとリリアンに通っていて初めて見る建物です。
入って大丈夫かな?でも志摩子さんも入って行ったし、大丈夫だろう。そう考えた祐巳ちゃんは建物の扉を開いて中に入りました。
「うわ…真っ暗だ…」
建物の中は真っ暗で、何も見えません。
「スイッチはどこだ?」
明かりを付けようとスイッチを探してさまよっていると…
「ぎゃーーーーーーーーーー!!!!!」
床が無く、祐巳ちゃんは落ちて行ってしまいました。
「死ぬ死ぬ死ぬ!!!」
凄い速さで落下していく祐巳ちゃん。
ところが途中で落下速度が落ちました。
「ふぅ…助かったのかな…怖かった…」
この空間にはいろんなものが漂っています。
ティーカップ、机、椅子、本。
無重力なのかな?ところでどこまで続いているんだろう?
祐巳ちゃんの疑問はもっともです。底が見えません。ブラジルまで続いているかもしれません。
もしそうだったら…
「蓉子様と水着を持って来てここに来ればいつでも海水浴が出来るよね。蓉子様の水着姿、見たいな〜」
このある意味危機的な状況の中でも祐巳ちゃんは祐巳ちゃんでした…
どの位落下し続けたのでしょう。1時間か2時間か…下手をすればもう放課後かもしれません。
あ。志摩子さんはどうしたのだろう?だって志摩子さんは自分よりも先にここに入った筈だから、彼女も授業は受けていない筈だ。
そう思うと安心できました。
でも山百合会幹部が二人もおさぼりなんて…祥子様からの雷を受けるのは確定です。
「ハア…やだな〜」
それよりももしかしたら急にいなくなってしまった自分を探している蓉子様は…
それを思うと申し訳なくなって…早く戻ろう。そして蓉子様に安心してもらうんだ。
そう決心した祐巳ちゃん。
だけど問題はどう戻るかです。今だに落下し続けています。
早く底に着けばいいのに…
そう思った瞬間…
ごちん!
「いった〜…」
地面に頭をぶつけてしまいました。
でも…やっと底に着きました。これで戻ることが出来る。
道を探していると…
「急がなければいけないわ〜。時間が無いわ、どうしましょう」
「志摩子さんだ!!」
相変わらず大きな時計を首から下げた志摩子さんがいました。
志摩子さんと一緒に戻ろう。そうすれば言い訳する時に少しは説得力があるでしょう。
しかし、肝心の志摩子さんはどんどん先へと進んでしまっています。
「志摩子さん!待って〜!」
祐巳ちゃんは大きな声で叫ぶと志摩子さんを追いかけ始めました。
志摩子さんがたくさんの扉を開けているのが見えます。
追いついた…
しかし志摩子さんは律儀にも全ての扉を閉めていきました。
めんどくさいな…そのまま開けておいてくれればいいのに…
扉を開けるとすぐに扉が出てきます。
何とも面倒くさい。
やっと次の部屋に出ました。
かなり広い部屋です。
そして向こう側を見るともう一つ扉があって…
志摩子さんがそれを通り抜けたのが見えました。
わたしも!と駆け出してあと一歩というところで誰かがその扉を閉めてしまいました。
「ええ?!なんで!志摩子さん行っちゃうよ!!」
扉を閉めたのは…
「ごめんね祐巳さん」
「蔦子さん?どうしてここに?」
蔦子さんでした。
「江利子様に頼まれてここの番人をしているの」
「通してよ。早く帰らないと蓉子様心配しちゃうの」
「ごめんね、それはできないわ」
「なんで?志摩子さんは通してあげてたじゃん」
「志摩子さんは許可が下りてるからね」
「むぅ〜…お願いだよ〜」
「ごめんね」
「わかったよ…」
そう呟いて祐巳ちゃんは俯いてしまいました。
「そう。よかった」
「それならさ…」
「?どうしたの、祐巳さん?」
祐巳ちゃんは俯いているので表情がわかりません。ただ何かを企んでいる雰囲気はあります。
それを読み取った蔦子さんは嫌な予感を感じました。
「それなら…通してくれるまで蔦子さんのお胸、揉んじゃうもん!」
「やっぱり!」
「いただきま〜す」
「そ、そんなことしても…きゃあ!」
むにゅ、むにゅ、むにゅ…
ちょっといやらしい手つきで蔦子さんのお胸を揉み続ける祐巳ちゃん。
「ほらほら蔦子さん。通してくれないとやめてあげないよ?」
「くっ…べ、別にいいわよ…祐巳さんに胸揉まれたって平気だもの…とにかく、ここは通してあげないから…」
「え〜。蔦子さんの意地悪。でもそれでもいいかも」
さらにいやらしい手つきで蔦子さんのお胸を揉み続ける祐巳ちゃん。
蔦子さんの顔は真っ赤になっています。
「はあ…飽きちゃった」
「ほ、本当…?」
ほっとした蔦子さん。しかも自分の仕事を全う出来て満足気です。しかし…
「服の上からは飽きたから、直接モミモミさせてね?」
「なんですって?!」
急転直下。
「さ、さすがにそれは…」
「知らないよ?通してもらうまでって言ったじゃん」
「そうだけど…わかったわよ…直接はいくらなんでも…」
「通してくれるの?やった〜」
蔦子さんは鍵の束を取り出すと、扉の鍵を開けました。
「さあどうぞ」
「ちょっと残念な気もするけど…ありがとう」
「ごきげんよう、祐巳さん」
「ごきげんよう、蔦子さん」
扉をくぐりしばらく歩いていると真美さんに会いました。
「ごきげんよう、真美さん」
「ごきげんよう、祐巳さん。こんなところでどうしたの?」
「それがね、志摩子さんを追ってここまで来たんだけど…志摩子さんがどこへ行ったか知らない?」
「志摩子さん?志摩子さんならあっちの道を行ったわ」
真美さんが指さす方には森があり、そこに一本の道がありました。
「真美さん、ありがとう」
「どういたしまして。ねえ祐巳さん。私も一つ質問いい?」
「いいけど」
「志摩子さんを追って、ってことは蔦子さんの扉を通って来たのよね?」
「うん」
「通してもらえない筈だけど…」
「えっとね、お胸を揉み続けたら通してくれたよ」
「なんですって?!」
「真美さん、どうしたの?」
「い、いいえ。なんでも…それより早くいかないの?」
「ああ、そうだった。それじゃあね」
「ええ…」
“蔦子さんの胸を揉んだですって…悔しい…”
どす黒いオーラを放つ真美さんを置いて祐巳ちゃんは森の道に入りました。
しばらく歩いていると広い場所に出ました。
そこには二人の少女が立っていました。
ただ突っ立っているだけで何かをする、という気配は微塵も感じられません。
少し不気味に思いながらも、二人に近付いてみることにしました。
二人には名札が付いていました。
「……どりるのとうこ、と、のっぽのかなこ…」
ぷ…変な名前…『どりる』と『のっぽ』だって。
確かにとうこちゃんはドリルを付けているし、かなこちゃんはかなり背が高い。
この二人は人形なのかな?良く出来ているな。
ふと感触を確かめたくなった祐巳ちゃんはまずとうこちゃんのお胸から触ってみました。
ふにふに…
まあまあといったところでしょうか。つつましい感触がしました。
「ふふ、これはこれでいいなあ。次は…」
かなこちゃんのも触ってみました。
!!!
これは!予想をはるかに凌駕した嬉し恥ずかしの感触がかえってきました。
それのおかげで祐巳ちゃんのテンションは大幅アップしました。
「………」
とうこちゃんの方を見て、もう一度とうこちゃんのお胸を触ってみました。
「……はぁ…」
テンションが下がってしまいました。
「溜息を吐くなんてどういうことですか?!」
「わぁ!人形がしゃべった!!」
「瞳子は人形ではありませんわ!!それでどうして溜息なんかを?!」
「ごめんね…かなこちゃんのお胸の後に触ったら…」
「失礼ですわ!!瞳子のお胸はこれから成長するんです!!」
「成長したら触らせて?」
「え?…い、嫌ですわ!!」
「え〜。それよりさ、志摩子さん知らない?」
「志摩子様ですか?知りませんわ」
「じゃあ、二人はどうしてここにいるの?」
「江利子様に頼まれてここにいるのですわ」
あの人、何がしたいんだろう…
「まあいいや。この道、一本道みたいだから。それじゃあね」
「待ってください。祐巳様は瞳子をキズものにしたのですから、責任とって瞳子をお嫁さんにしてくださいまし」
「ええ!!どうして!!」
「どうしても、こうしてもです」
「そんな…」
その理屈が通ったら蔦子さんもお嫁さんにしなくちゃいけないよ…それもいいかもしれないけどさ…
「待ちなさいよ、このドリル!祐巳様のお嫁さんは私よ!」
先ほどから一言も発していなかったかなこちゃんがついに口を開きました。
「なんですって?!このうすらノッポ!!」
「うすら?!!ムカつくわね」
「瞳子だってドリルなんかじゃありませんわ!!」
「フン!!祐巳様は私のお胸を触った時、嬉しそうに微笑んでくれたわ!!お胸好きの祐巳様には私の方がふさわしいわ!!」
「なんですって?!祐巳様は瞳子のお胸から触ったのですよ?!だから瞳子の方が優先です!!!」
だからそれなら蔦子さんの方が先だって…それにわたしって小学校の頃からみんなのお胸を触ってきたから、お嫁さんだらけになっちゃうよ…
それでもいいけどね…
「このドリル!!」
「うるさいですわ!!この通天閣!!」
二人は口喧嘩を続けています。
飽きちゃった…
口喧嘩に夢中の二人を置いて先を急ぐことにしました。
道なりに進んでいくと可愛らしい家が立っていました。
そうだ、志摩子さんがどっちに行ったかくらいは知っているかも、そう考えた祐巳ちゃんは可愛い家に寄ることにしました。
家の扉は開いていました。
不躾だけどこの際仕方がありません。
「ごめんください」
「はい〜。今忙しいです〜」
この声は…
バタバタとこちらにやって来たのは志摩子さんでした。
「志摩子さん!!」
「あら、祐巳さん。お願いがあるのだけど、『乃梨子メモリー』を探してくれる?あれが無いと困るの。見つけても中身は見ないでね」
「わかったよ。わかったけど…」
「祐巳さん、早く、早く」
「う、うん」
どこを探せばいいのか分からないので、とりあえず2階にある志摩子さんの部屋から探すことにしました。
志摩子さんの部屋に入ると、猫耳の女の子がいました。
「こんにちは祐巳様」
「こんにちは。えっとマシロちゃんだっけ?」
「はい、マシロです」
「ねえ、マシロちゃん。『乃梨子メモリー』知らない?」
それを聞くや否や、マシロちゃんは一目散に逃げ出しました。
「え、ええ?マシロちゃん?!」
「ごめんなさい〜。それに触ると志摩子様にエッチなお仕置きされちゃいます!!だから知らないです!!」
志摩子さん、何やってるの…
それに、『乃梨子メモリー』ってどんな内容なんだろう…気になるよね…でも中は見ちゃいけないんだよね。残念…
志摩子さんの部屋で探していたら、『マシロメモリー』を見つけました。
それを恐る恐る開けてみると…
「うわぁ!!」
思わず声をあげてそれを投げてしまいました。
中身はここでは言えないような内容でした。つまり『乃梨子メモリー』も似たような内容なんでしょう。
そんなもの何に使うのかな…
気を取り直して探していると、鏡台に可愛らしい箱に入ったクッキーがありました。
クッキーの表面には『EAT ME』と書かれています。
「いいよね。食べちゃお」
おいしそうなクッキーなので祐巳ちゃんは食べてしまいました。
すると…
「うわわわーーーー!!!」
祐巳ちゃんはみるみる大きくなってしまいました。
「何が起こったのかしら?!困ったわ!!誰か助けて!!」
志摩子さんが助けを求めて叫んでいます。叫ぶ志摩子さんは初めて見ました。
すると、真美さんとなぜか梯子を持った桂さんが現れました。
「ああ、真美さんいい所に…私の家に大きな化け物がいるの!助けて」
「化けもの?どれどれ」
「ねえ、志摩子さん。私もいるんだけど…」
可哀そうな桂さん。志摩子さんに無視されています。
巨大化した祐巳ちゃんを見て、真美さんはとんでもないことを言い出しました。
「何かを燃やして煙で化けものを追い出しましょう」
「それで…?」
志摩子さんは不安げです。
「煙でひるんでる奴を桂さんに煙突から引きずり出してもらいましょう」
「わ、私?」
「でも…そんな大役、桂さんに任せても大丈夫?正直無理だと思うわ…」
「そうよね、志摩子さん」
「何言ってるのよ、桂さん。ここで活躍しておけば知名度も上がって人気者になれて、幸せになれるわ。それとも桂さんは今のまま、不幸のままでいいの?」
「別に私、不幸じゃないわよ…でも人気者かぁ…よし!がんばるわ!!」
「そのいきよ!!」
こうして怪物(祐巳ちゃん)を追い出す作戦が始まりました。
“祐巳さん…私の蔦子さんをキズものにした恨み、はらさせてもらうからね!!!”
怪物が祐巳ちゃんだということに真美さんは気付いているようです。
♪いぶして〜やれ〜 もや〜して〜やれ〜
真美さんは変な歌とともに燃えそうなものを家の玄関の前に集めていきます。
「桂さんは煙突に登って準備して。志摩子さん、マッチは?」
「ここにあるけど…本当に大丈夫かしら…家の中には祐巳さんがいるし、『乃梨子メモリー』だって探さなくちゃ…」
そんな志摩子さんの隣ではマシロちゃんが震えています。
「志摩子様、おうち燃えちゃうの?」
「大丈夫だとは思うわ…心配だけど」
「ねえ!!」
梯子を上っていた桂さんが上から声をかけてきます。
「どうしたの?!」
「この化け物、でかすぎるわよ?怖すぎだわ!!」
「大丈夫よ!!早く準備して!!」
「はいはい…」
そう言って桂さんは煙突の中に入っていきました。
「そろそろ火もついていい感じだわ」
「大丈夫かしら…」
煙が家の中に充満していきます。
「うわ!煙いよ!!真美さんやめてよ!!」
祐巳ちゃんはそう叫ぶも、真美さんには聞こえていない様子です。
鼻がムズムズしてきました。
「くしゃみが出そう…」
ふあ…ふあ…はっくしょん!!
祐巳ちゃんは大きなくしゃみをしてしまいました。
すると…
「きゃーーーーーーーーーー!!!!」
煙突の中にいた桂さんは空高く飛んで行ってしまいました。
「ねえ真美さん。桂さん、飛んで行ってしまったわ。大丈夫かしら」
「さあ、大丈夫なんじゃない?それより、怪物のくしゃみでこれが飛んで来たわ」
「それは…『乃梨子メモリー』!!ありがとう!!そろそろ行かなくちゃ」
「じゃあ、怪物は私に任せてね?」
「わかったわ。ありがとう。お留守番よろしくね、マシロ」
「はい、志摩子様」
志摩子さんは行ってしまいました。
「ああ、志摩子さん!!早く戻らなきゃ…」
ふと外を見るとニンジンがありました。
それを食べてみると…
元の大きさに戻りました。
「これでよし。勝手口から出よう。玄関には真美さんがいるし…」
勝手口から外に出て志摩子さんが去っていった方へ。
しばらくすると3つの分れ道がありました。
「どっちだろう…」
祐巳ちゃんは途方に暮れてしまいました。
♪こ〜のお〜れは〜 まかふしぎ〜 まりょくを〜もった〜ねこさ〜
♪そこら〜の〜やつらとは〜 え〜らさ〜が〜 ちがう〜 よ!
変な歌が聞こえてきました。
「誰だろう。この声、聞き覚えがあるんだけどな…」
「私よ!祐巳さん」
由乃さんでした。紫と青のしましまのセンスの悪い服を着ています。
由乃さんは最近手術して元気になったせいか、儚さが無くなって抜群の背徳感が薄れてしまって…ハア…それにしても…
「由乃さん…センス悪いよ…」
「し、仕方ないでしょ!!凸にこれ着て祐巳さんを惑わせろって言われたんだから!!」
惑わせろって…
「いくらなんでもそんな趣味無いよ」
「そういう意味の惑わせる、じゃないわ!!」
「そうなの…それで、どっちに行けばいいの?」
「さあ、どっちでしょうね?」
由乃さんはニヤニヤしながらチラチラと一番左の道を見ています。
「一番左だね?ありがとう」
「なななな、そそ、そんなわけないでしょう?」
「だってさっきからずっとそっち見てるし。由乃さんその役だめだね」
「ううう、うるさい!!」
「それじゃあ由乃さん、ありがとう」
「フン!!」
一番左の道を進んでいくとまた歌が聞こえてきました。
♪きょう〜は〜 なんでもないひ〜 やっほ〜 やっほ〜
♪きょう〜は〜 なんでもないひ〜 やっほ〜 やっほ〜
♪きみとぼくとが うまれなかった〜ひ〜
♪きょう〜は〜 なんでもないひ〜 きょう〜は〜 なんでもないひ〜 ばんざ〜い!
そこに立ち寄ってみると女の子が一人、仏像に手を合わせていました。
「うわ…『生まれなかった日』どころじゃないよ…」
「あ、祐巳様」
女の子はこちらに気付いたようです。
でも、さっきのとうこちゃんたちといい、この子といい、どうして私を知っているの?初対面の筈なんだけど…
「今日はなんでもない日なんですよ、祐巳様」
「は?」
「だから今日はなんでもない日なんですよ」
「どういうこと?生まれなかった日って、誕生日以外は364日全部、なんでもない日になっちゃうよ?」
「祐巳様、いい所に気付きましたね。そうなんです。364日なんでもない日!つまり毎日がハッピーなんですよ!!」
「そ、そうなんだ…」
「さあ、祐巳様もなんでもない日、祝いましょう!!」
意味が分からないよ…確かに今日はわたしの誕生日じゃないけどさ…
「祐巳様は、誕生日じゃないですよね?」
「うん」
「それなら、このケーキのろうそくの火を消してください!」
「わかった。ふー」
ろうそくの灯が消えると…
♪なんで〜も〜ないひ〜 おめ〜で〜と〜
ろうそくから何かが飛び出し
「キラキラ光るコウモリさん
がちゃん
おかっぱの子がティーポットのふたを閉めるとろうそくから出てきたやつが消えてしまいました。
何となく桂さんに似ていたような…
「すみません、いつもの子がお休みだったようです。何せ364日なんでもない日ですから」
「うん、そ、そうだね…」
なんだか疲れたよ…早く先を急ごう…
「それじゃあ、ありがとうね。先を急がなくちゃ」
「そうですか。それでは祐巳様、来年の4月にまた会いましょう」
「え?わかった」
おかっぱの子と別れて道を進んでいくとまた道が分れていました。
今度は二つに分かれていたのですが…
「かしらかしら、忙しいかしら〜」
「てんやわんやかしら〜」
二人の女の子がせっせと看板を立てていました。
「ねえ、志摩子さんはどっちに行ったか知らない?」
「かしらかしら、知らないかしら〜」
「見てないかしら〜」
「そ、そうなんだ…」
これまたやりづらい子たちだ…
仕方なく右の道に行くことにしました。
しばらくすると川が流れていました。
のどが渇いているので潤すことにしたのですが…
「きゃあ!誰!!」
「美冬様、どうしましょう。恥ずかしいです…」
「ご、ごめんなさい」
祐巳ちゃんはただ謝ることしかできませんでした。
「いきなり覗くなんて失礼じゃない!!最低の痴女のすることだわ!!ねえちさとちゃん!!」
「そうですそうです!!全くです!!」
「行きましょう!ゆっくり体が洗えないわ!!」
「わかりました!!祐巳さん!!誰がいるのか次からはちゃんと確認しなさいよね!!!」
「わ、わかりました…気をつけます…」
「「フン!!」」
一方的に捲し立ててきた美冬様とちさとさんはプリプリ怒りながら船に乗ってどこかへ行ってしまいました。
それにしても二人とも結構いい体していたな…
大きな岩があったので休むことにしました。
すると箒を持った江利子様が道を消しながらこちらに歩いてきます。
「え、江利子様!!どうしてここに?!それより何で道を消しているんですか?!」
「あら、祐巳ちゃん。どうしてこんな事をしているかって?面白そうだと思ったからよ」
「それで、面白いんですか?」
「全然つまらないわ…こんなことなら令にやらせてるやつ、私がやればよかった…ふう…」
そう言うと江利子様は再び箒で道を消しながら居なくなってしまいました。
それより、道が無くなってしまいました!どうしましょう?!
さすがの祐巳ちゃんも今回ばかりは泣きそうです。
「どうしよう…」
♪こ〜のお〜れは〜
この歌とともにまた由乃さんが現れました。
「お困りのようね、祐巳さん」
「由乃さん、よかった…」
「まだ助けてあげるとは言ってないわよ?」
「そんなぁ…」
「まあ今回は素直に助けてあげるわ」
「本当?」
「道が無くて困っているんでしょう?」
「うん」
「それなら作ればいいのよ!」
そういうと由乃さんは木の枝を倒しました。
するとぽっかりと穴があいて道が出来ました。
「ありがとう、由乃さん」
「うんうん」
木の穴をくぐると大きな庭園に出ました。
たくさんの薔薇の木が植えてあります。
この時点で次に誰が出てくるか想像できました。
少し歩いてみるとまた歌が聞こえてきました。
♪あかいば〜らを〜 きいろく〜ぬろ〜およ〜
その歌が聞こえてくる場所へ行くと、令様が赤い薔薇を黄色く塗っていました。
「令様、何してるんですか?」
♪ご〜きげ〜んよ〜 ゆ〜み〜ちゃん〜 おねえさま〜に いわれ〜やあてるんだよ〜
「なんで歌いながら答えてるんですか?それも江利子様に言われてのことですか?」
♪ごめ〜い〜とう〜 そう〜なん〜だよ〜
………やりづらい。今までで一番やりづらい。しかも令様、泣きそうだよ?可哀そうな人だな…
しばしの沈黙が流れました。あまりにも辛すぎる『ミスターリリアン』の姿に言葉が出てきません。
その時、ファンファーレが流れてきました。
「祥子様のおなりです〜」
志摩子さんだ!こんなところにいたんだ。
それにやっぱりここは祥子様の場所なんだ。
「聖様!あそこで私の薔薇を汚している令を捕まえて!」
「はいはい、わかったよ」
逃げようとする令様を聖様が取り押さえている。
一緒にいたわたしまで捕まってしまった。
そして、祥子様が裁判官の裁判が始まりました。
なお志摩子さんが読み上げた罪状によると、令様の罪は薔薇を黄色く塗ったこと。
「お姉さまに言われて仕方がなかったんだよ!信じてよ!!」
「関係無いわ!!令は有罪!!よって『あれ』の刑に処するわ!!」
「『あれ』?!そんな!!お願いだよ祥子!!それだけは勘弁して!!」
「だめよ!死刑じゃないだけありがたく思いなさい!!それじゃあ、聖様、『あれ』の準備をして実行してください」
「私がやっていいの?やった〜」
「よしの〜!!私は無実だ〜〜〜〜!!!」
哀れな令様…ご愁傷様…
「それで、貴女!」
「は、はい!!」
いきなり話しかけられて祐巳ちゃんは飛び上ってしまいました。
「貴女も有罪よ!!」
「どうしてですか?!!」
「決まっているじゃない!!私のお姉さまを誑かして!!貴女も『あれ』の刑に処するわ!!志摩子!!」
「はい、祥子様」
えええ!!ここまで頑張って志摩子さんを追いかけたのに、今度はわたしが追われる立場?!
『あれ』が何かは分からないけど、きっとやばいことに違いない。
逃げなきゃ!!
「「「「待ちなさい!!!」」」」
必死に逃げる祐巳ちゃん。
「祐巳様〜!瞳子をお嫁にもらってくださいまし〜!!」
「私もです!!」
うわ!この子たちまで追ってくるよ!!
「蔦子さんの敵!!」
真美さんまで!!
「もっと出番を頂戴!!」
そんなことわたしに言ってもしょうがないでしょ!!
「よくも私たちの裸を見てくれたわね!!」
「そうよ!そうよ!!許さないんだから!!!」
ごめんなさい!!忘れますから!!
「今日はなんでもない日です。一緒に祝いましょう、祐巳様!」
来年の4月にまた会うんじゃないの?!てゆうか空気読んで!!
祐巳!これは夢!これは夢なの!!起きたら蓉子様がいるの!!
早く!
早く起きて、祐巳!!
起きるのよ!!!
「……ちゃん、祐巳ちゃん」
「……おきるの。おきるのゆみ…」
「寝ぼけてるわ。祐巳ちゃん!」
「……は?!」
「やっと起きたわね」
「あれ?やっぱり夢?」
「そうみたいね、ずいぶんうなされていたけど大丈夫?」
「はい…なんだか変な夢でした。みんなに追いかけまわされて…」
「祐巳ちゃんは最近がんばってるから疲れちゃったのかもね。明日はお休みだから私の家に泊まりに来て?一緒に疲れをとりましょう?」
「え?いいんですか?!嬉しいです!!」
「ふふ、よかった。じゃあそろそろ教室に戻りましょうか。昼休みも終わる時間だから」
「はい、蓉子様」
教室に戻ったら志摩子さんが意味あり気なウインクをしてきました。
正夢になったりしないよね?
あとがき
映画のシナリオを丸々一本使ったわけではないんですけど、予想以上に長くなってしまいました。
短編で書くには無理があったかもしれません。
映画版のアリスは『不思議の国』と『鏡の国』が混じってるんですよね。
瞳子ちゃんと可南子ちゃんにやってもらった双子の蝋人形のシーンは『鏡の国』のエピソードですから。
初めて蓉子様と江利子様に出ていただきました。
毎回令ちゃん、不憫です…ごめんなさい…
ここまで読んでくださった方々ありがとうございました。