【3084】 ザ・ラスト・ローズ  (ケテル 2009-10-28 23:27:50)


 ○○○○○○○とのクロスオーバーパイロット版です。

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S-1 冥王星軌道、地球防衛軍日本艦隊旗艦 あまぎ 艦橋


「レーダーに反応、目標接近。 三時の方向距離100,000km。 速度27宇宙ノット。 超弩級宇宙戦艦6、巡洋艦8、護衛艦多数、高速接近中」

 レーダー士官が冥王星方面から接近しつつある敵艦隊の存在を報告する。
 レーダーの反応から敵艦隊は、味方艦隊右側から渦を巻くように左側に向かって急速に展開していく。

 地球防衛軍日本艦隊 旗艦 戦艦  225号 あまぎ
           宇宙突撃駆逐艦17号 ゆきかぜ  
              同   21号 あさぎり
              同   31号 はなづき
              同   41号 ふゆづき

 わずかに五隻。 このわずか五隻の日本艦隊が、圧倒的に不利な状況で敵艦隊に対して戦いを挑もうとしていた。

 地球最後の宇宙軌道艦隊として。


 時に2199年。 地球人類は太陽系外より現れた敵からの攻撃に曝されていた。
 敵からの突きつけられた要求は、地球人類の”奴隷か滅亡か”の二択。
 人類は必死に抵抗するものの、その戦力差は大きかった。
 遊星爆弾の攻撃、それによってもたらせる放射能を避ける為、地下都市を築いた人類であったが急速に軌道上の戦力を失っていった。
 当初は男性が中心となっていた軌道上の戦闘も、いまや女性が中心にならざるを得なくなっていた。
 

 水野蓉子大佐は、戦艦”あまぎ”の艦橋中央より少し後ろにしつらえられている艦長席から、分厚い積層ガラス越しに星の大海見据える。

「敵艦隊、十一時の方向へ、距離25,000km」
「総員戦闘配備。 右30度変進、単縦陣をとれ、砲雷撃戦用意!」

 戦闘配備のブザーが鳴り響き、配置に付いていた乗組員に戦闘態勢が通報される。

「総員戦闘配備! 総員戦闘配備! 砲雷撃戦用意! 砲雷撃戦用意!」
「右30度変進 ヨーソロー!」

 暗い宇宙空間をバックに揺らめいている敵艦の拡大モニター映像に目を移した蓉子の号令のもと、日本艦隊は単縦陣で右に回頭していく。

「敵艦より入電! 『地球艦隊に告ぐ、直ちに降伏せよ』―――。 返信はどうしますか?」

 敵艦隊からの通信は自動翻訳機に掛けられてから通信士官が報告することになる。 通信士官の顔を見ずに蓉子は返答をする。

「”バカめ”と言ってやって」
「……は?」

 聞き返す通信士官を一瞥して蓉子は再度告げる。

「”バカめ”よ」
「は! こちら地球防衛軍日本艦隊旗艦”あまぎ”。 ”バカめ” どうぞ」

 安定していた通信機のパワーゲージランプが、一呼吸置いたように沈黙したかと思った次の瞬間、相手の激怒が伝わって来ているようにゲージが振り切れる。

「目標は、先頭巡洋艦!」
「目標、敵巡洋艦! 一番、二番、三番砲塔左舷回頭!」

 ”あまぎ”は砲塔を左舷側に指向、敵艦を狙いをつける。

「右+4、修正誤差22!」

 敵艦から放たれた赤味がかった高エネルギー弾が、”あまぎ”の一番砲塔上をかすめていく。

「一番砲塔誤差02! 二番砲塔誤差06!」

 砲雷士官が各砲塔の誤差を修正していく。
 蓉子は自分の前の砲雷データをモニターで確認する、修正誤差がなかなか安定しない。

「三番砲塔誤差04!」
「落ち着いて狙って、初弾必中を!」

 射撃管制装置。 一番砲塔自動追尾セット完了、二番砲塔セット完了、三番砲塔セット完了。
 四番艦橋砲塔固定。
 オールグリーンを確認、蓉子は腹の底から声を出し下令する。

「撃て!!」

 三連装三基の砲塔から淡い緑色のエネルギー弾が弾き出される。

 狙い違わず敵先頭巡洋艦の横腹に吸い込まれていくが装甲を貫くことは出来ず、エネルギー弾は空しく宙に拡散していく。
 巡洋艦の後方に控えていた戦艦二隻から放たれた高エネルギー弾が、”あまぎ”の二番砲塔の前のブロックと三番砲塔直下を貫き、艦体が大きく揺らぐ。

「艦首B-36、37ブロック閉鎖! 艦尾損傷、シアンガス発生!」
「三番砲塔エネルギー弁破損! 使用不能!」

 けたたましい非常警報が艦内に鳴り響き、赤い非常灯に変わった艦橋内に被害状況の報告が飛ぶ。

「遠距離射撃レーダー動力ストップ! 索敵能力10%以下に低下! 第二ラインに切り替えます!」

 宇宙空間での戦闘は目視で行う事はほぼ不可能である。 地球−月軌道よりはるかに遠距離を秒速10Km以上で戦闘起動する敵艦を捕らえ攻撃しなければならない。
 ”あまぎ”がレーダーを予備回路に切り替え復旧させたと同時に、艦底部の二番砲塔にエネルギー弾が命中する。

「二番砲塔被弾! 使用不能、隔壁閉鎖! 一番砲塔エネルギー伝道チューブに異常加熱!」
「味方41号艦”ふゆづき”被弾! 躁艦不能!」

 全長80mの突撃駆逐艦は、砲雷激戦の中盤以降に敵艦隊に肉薄して近距離からミサイル攻撃をするための艦で砲戦向きの艦ではない。 被弾した”ふゆづき”は、単縦陣をとっている艦隊から煙を吹きながら下方へ脱落していき爆発を起こした。

 敵からの砲線が激しくなる、艦隊は思いのほか接近してきている。 しかし艦橋と一体になっている四番砲塔以外に”あまぎ”には対抗手段は無い。 艦尾付近にさらに命中弾を受け、速度が低下する。 駆逐艦21号”あさぎり”と31号”はなづき”が敵艦隊と”あまぎ”の間に割り込んでくる。

『…奴らには……この船では勝てない………』

 蓉子はコンソールの上でこぶしを強く握りしめ歯噛みする。 彼我の戦力差はどうすることも出来ない。 地球を守るすべは……。

 いろいろな警報が入り乱れる中、防空レーダーに新たな反応があった。

「正体不明の飛行物体発見! 高速で近傍空域を通過します!」

 レーダーを確認した蓉子は、重ねて表示されるデータを読み取る。

『…惑星間航行速度をはるかに越えているわね。 あのままだと十数分で内惑星軌道まで到達してしまうわ』

「地球防衛本部に連絡、調査されたしと」

 敵艦隊と”あまぎ”の間に割り込んだ31号”はなづき”に直撃弾……。





S-2 地球防衛軍日本司令部

「”あまぎ”から通報のあった飛行物体を確認しました。 このまま予想進路を飛行すると火星極冠付近に着地すると思われます」
「着地……わずかに減速はしているようだけれど、このままだと墜落するんじゃないかな? 観測員は…いたかな?」

 集中管制室の大型パネルに映し出された正体不明の飛行物体の予想軌道を見上げながら、司令官の柏木優准将は火星の現在の配置員を思い出そうとした。

「訓練生がいます」
「訓練生? ああ、リリアン宇宙戦士訓練学校のだったかな…」
「はい、福沢祐巳、島津由乃、藤堂志摩子の三名です」
「使えるのかな?」
「例の計画のための訓練としておもむいています。 最終訓練はクリアーしていますので使えるかと…」
「よし、彼女らに頼んでみようか」





S-3 火星 アキダリア平原 観測訓練基地

『地球司令部よりアキダリア観測訓練基地へ。 火星極冠付近に墜落すると思われる未確認飛行物体の調査をせよ』
「了解。 志摩子さんどう?」  「私、観測機の準備しておくわ…―」
「ダイモスの遠距離レーダーに反応が有……あっ! もう…―」

 基地全体が大きく揺さぶられ三人は床に投げ出される。

「あぃたたたた…由乃さん志摩子さん〜大丈夫〜」
「私はなんとか…え〜と、墜落地点は…」
「は、鼻うった……」
「はい、由乃さんこれ持って。 ちょっと見せてねぇ〜」

 ヘルメットを2つ持って来た祐巳は一つを由乃に渡して、由乃がうったという鼻を見る。

「鼻血は出てないようだし擦り傷も無いけど、でも後で腫れるかな?」
「うぅぅキャラ的にどうよこの扱い……」
「ほら立てる? マンゴスティンの準備にかかろう、二人でやれば早いよ。 志摩子さん、墜落地点をつめてから無線を入れて」
「わかったわ、二人とも気をつけて」

 レーダー観測員生の志摩子は、ダイモスとフォボスに設置されたレーダーの観測データと、火星表面に設置されている地震計のデータを付き合わせて、正確な落下地点を計測する。
 その間に祐巳と由乃の二人で発進準備を整える。
 九八式-極地観測連絡機、現アキダリア基地にいる三人内での通称は”マンゴスティン”。

「どうする祐巳さんメインに就く?」
「う〜ん、由乃さんメインお願い」
「了解〜」

 主操縦士席に由乃が副操縦士席に祐巳が就いて発進する。
 四人乗りのコックピット、祐巳の後ろのレーダー通信士席に本来なら志摩子が就くのだが、地球指令本部との連絡、計測のために今回は基地に残る。

「取りあえず北かな?」
「司令部から来た予想軌道だとそうね。 ジェネレーターの調子良くないからエンジン出力気を使うな〜」
「まだ交換部品来てなかったの?」
「忘れられてるか、バカにされてるのか…あるいは、こっちに回せないほど物資が不足しているのか…」
「だましだまし飛ぶしかないか…」
「すぐにオーバーヒートするほどじゃあないから、まだいいんだけどね」

『アキダリア基地よりマンゴスティン。 方位右75度変進、エリアは226。 ライオットクレーターの少し東側ね。 飛行物体の大きさは推定65m。 地表に激突する少し前に何かが射出されたようだけれど詳細は不明、それほど遠くには落ちていないと思うわ』

「了解、方位右75度変進、エリアは226、ライオットクレーターの東側。 ずいぶんずれたわね」

『火星大気圏に突入してから急激に速度が落ちたの。 おそらく人為的にだと思うわ。 もともとの航行速度が速過ぎて、速度を殺しきれなくて激突してしまったんじゃあないかしら』

 火星の大気は希薄で、大気圧は地球の0.75%程しかない。 急激に速度が落ちたり飛行経路が変わったという事は、人為的な操作が介在した事を意味する。

「確か冥王星近くで戦闘中だったわよね、どっちかの船が落ちてきたんじゃないの?」

 由乃は操縦桿を操作して、志摩子の指示したエリアに向けて機首をめぐらせる。

『距離が遠すぎると思うわ、それに”あまぎ”からの第一報は未確認飛行物体と言ってきたようだから、戦闘による制御不能艦じゃあないと思うわ』

「ねえ祐巳さん、あの煙そうじゃない?!」

 ライオットクレータを飛び越える少し前に、前方に細く煙が立ち上っているのが見える。

「たぶんそうよね、活火山は無いもんねあの辺。 こちらマンゴスティン、墜落地点と思われるところに煙がたなびいているのを確認」
「方位修正、+3.5」

『了解。 二人とも気をつけてね』


  *  *  *  *  *  *  *  * 


 由乃はマンゴスティンをV/STOLモードに切り替えて、墜落機が造った浅いクレーターの上空でゆっくりと旋回させる。

「う〜〜ん、地球のとも敵のとも違うタイプね。 でも…頑丈そうね」
「機首が折れてる以外ほぼ原形とどめてるもんね」

 ショートソードのような機首に円盤投げの円盤の様な機体、機体の後ろ側には四基のパラボロミックタイプの噴射口が見て取れる。 由乃の視界の隅に何かが引っかかった。

「…あれ?」
「ん? 何かあった?」
「え〜〜と〜〜…、ほらあれ!」

 VTOLにしたマンゴスティンの機首を廻らせる。 墜落機の機首の先にそれほど大きくない細長いラグビーボールの様な物体が地面に突き刺さっているように見える。

「何かが射出された見たいだ、って言ってたよね志摩子さん、あれかな?」
「うん……。 ね、祐巳さん。 この下のが有人機だったとしたら…あれってひょっとしたら……」
「……脱出カプセル? 行って見よう由乃さん!」
「了解! 3kmくらいかしら」

 由乃は、脱出カプセルと思われる物体の方へ、マンゴスティンを滑らせるように動かす。

 近づいて観察してみると、細い着陸脚のようなものが数本、制動にバーニアを使ったと思われる焦げた黒い地面が見て取れる。

「周回のあと着陸させるわよ」
「お願い。 マンゴスティンよりアキダリア基地、脱出カプセルと思われる物体を確認、探索を開始します」

『了解 』

 物体の周りを観察しながらゆっくり二周してから、15mほど離れた場所に着地する。

「エネルギーカートリッジチェック」
「グリーン、セーフティー解除。 キャノピー開けるわよ」
「了解」

 装備のサブマシンガンのセーフティーを解除して、慎重に脱出カプセルと思われる物体に近づく。
 地表に出ている部分は高さ5m、直径2m、祐巳と由乃は左右に分かれて物体の表面から観察する。

「あ、由乃さん。 こっち、窓があるわ」
「どれ? こっち側には無かったわ」

 祐巳が全周の 1/3 回った所で丸い小窓を見つけた。 由乃がそれを聞いて近づいてくる。

「乗員がいる、気絶してるみたいだけれど」

 祐巳は小窓からそっと中をのぞいて見る。 ぱっと見操作方法が分からない操縦機器と思われる機械の前に、おそらく気を失っているように背もたれにもたれかかっている宇宙服を着ている人が見える。

「ほんと?」

 祐巳はのぞいていた小窓を由乃に譲る。

「……女性? ねえ、ハッチ開けて大丈夫だと思う?」
「どこかにあったハッチ?」
「祐巳さん、小窓に集中しすぎ。 ここの辺りはハッチでしょ、で、ここが……たぶん開閉レバー」
「ははは……ダ〜メだなぁ〜」
「ホ〜〜ント、治らないわよね〜。 まあ、そう簡単には治らないか。 外部開閉装置はそんなに複雑には造っていないはずだけど…」

 由乃が開閉レバーのカバーと思われるパネルを押したり左右に動かそうとする、上に動かした時、中からレバーが飛び出す。

「…………」
「………」

 ”開ける”と目で合図する由乃。 一つうなずいてハッチの開閉範囲外の影でサブマシンガンを構える。 由乃は探るようにレバーを左右に捻る、少し考えてから捻らずにレバーを引く。

下側に蝶番があったらしい、ハッチはゆっくりと大きく開く。 祐巳は慎重に中を探る、中の宇宙服を着ている女性はピクリとも動かない。 ゆっくりと祐巳は中に侵入するとヘルメットの中をのぞき込む。

「……呼吸はしてるみたい…」

 肩に手を掛けていいものかと一瞬躊躇したが、思い切って肩に手を触れる。 お腹の辺りで組んでいた宇宙服の女性の右手が解れ、握られていた何かが手から滑り落ち出入り口のほうに転がる。 祐巳は身構えるが、由乃はあっさりとそれを手にする。

「何かしらこれ?」
「よ、由乃さん。 爆弾だったらどうする気?!」
「あ〜、それもそうね。 でも、爆弾を後生大事に抱えてるとも思えないけど。 なんだろ、通信カプセルかしら?」

 航法科に人は緊張感が無いから――……とは言わなかった。 さっきのハッチの件もある。
 15cm程の円筒形で材質は樹脂のような物で、真ん中の1/3が透明な物質で出来ている。 

「ここ、地球規格のデバイスみたいだわ」
「……一旦基地に戻った方がいいよね。 この人も収容して…」
「そうね」
「地球規格の薬品を投与しても大丈夫かしらね?」





S-4 冥王星軌道、地球防衛軍日本艦隊旗艦 あまぎ 艦橋

「31号”はなづき”爆沈!」

 敵艦からの赤い高エネルギー弾が直撃した31号”はなづき”大爆発を起こした。

 攻撃の手は緩められない。
 敵弾は速度の落ちた”あまぎ”の艦底部舟艇格納庫、艦首、そして四番砲塔上の艦橋にも破孔を穿つ。 強烈な圧力と熱、眩い光が目の前に広がったかと思うと、次の瞬間には破孔から宇宙空間に向けて急激に空気が吸い出される。 蓉子は手探りでコンソール上の緊急補修バルーン放出ボタンを押す、直径1m程の黄緑色のバルーンが数個放出され破孔に向かって吸い寄せられる、外に出ていってしまう物もあるが、縁に当たった物は破裂して内容物が一瞬にして硬化、さらにそこにバルーンが当たって硬化、これをくり返し破孔を埋めていく。

「艦首圧力隔壁閉鎖!」

 敵艦が一隻”あまぎ”に接近してくる。





S-5 地球防衛軍日本艦隊17号 ゆきかぜ

「距離40km、速度差+2。 操舵手、振り切られるんじゃないわよ」

 ”あまぎ”に接近してきた敵艦は、17号”ゆきかぜ”に後ろを捕られていた。 ”ゆきかぜ”はエンジン出力全開で敵艦を追い回す。

「ターゲット軌道に乗りました。 ロックオン!」
「艦首ミサイル三線、発射!!」

 高速高機動ミサイルが艦首発射管から放たれ、ロックオンされた敵艦を追尾する。 敵艦の機動性能は高い、ミサイルを振り切ろうと変進を繰り返したり撃ち落とそうと試みたりするが徒労に終わった。
 ミサイルは三弾とも命中し、敵艦は爆沈する。

「こちら駆逐艦17号、護衛艦一隻を撃沈! くりかえす、こちら駆逐艦17号艦長佐藤聖!」

 聖は、撃沈報告をしながら左舷前方に見えてきた破孔から煙を吹いている”あまぎ”と、二箇所から火災が発生しているらしい僚艦の21号”あさぎり”に目を向ける。

「蓉子の船も酷くやられてるわね。 あれじゃあ反撃できないわけだわ…」





S-6 地球防衛軍日本艦隊旗艦 あまぎ 艦橋

 警報が鳴り響く、エネルギー回路の故障か薄暗くなった艦橋で蓉子は艦長席から立ち上がった、右の肩に激痛が走る、艦橋に敵弾が当たった時に負傷していたらしい。

「あ、艦長! 蓉子さま、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫よ」

「21号”あさぎり”爆沈!」

「…われわれの艦隊の残存数は?」
「本艦のほか駆逐艦が一隻です」
「誰の船?」
「護衛隊長の佐藤聖さまです」

 報告を聞いた蓉子は、しばし目を閉じて決断をする。

「……もはやこれまでね……。 撤退しましょう…」
「艦長、蓉子さま。 逃げるんですか?!」
「このままでは自滅するだけよ、撤退するわ。 進路、反転180度」

 戦艦”あまぎ”は進路を変えるべく艦首をめぐらせる。

「佐藤中佐、撤退するわ、こちらに続いて」

『私は、嫌よ。 ここで撤退したら死んでいった他の艦の仲間に顔向けできないわ』

「佐藤中佐、ここで今全滅してしまったら、明日の地球を守るために戦う者がいなくなってしまうわ。 明日のために今日の屈辱に耐えるのよ」

『水野大佐。 私は戦って戦って戦い抜いて、一つでも多く敵を屠る方を選ぶわ』

「佐藤中佐……聞き分けて…」

 その間にも”あまぎ”は蓉子の指示どうりに変進している。

「進路変更、ヨーソロー。 180度回頭完了」
「艦長! ”ゆきかぜ”がついてきません!」
「なんですって?」

『…ごめん……私はどしても逃げる気にならないの、見逃して…………じゃあ元気で。 蓉子、地球の事を、よろしく……』

「佐藤中佐………せ、ぃ……聖! 死なないでね…」



 ”ゆきかぜ”はメインエンジンを点火、両舷全速、敵艦隊内に突入する。
 艦隊は単縦陣で”ゆきかぜ”を迎え撃つ。 周りを周回するようにしながら攻撃してくる。 近距離のため大型の砲は使えない。
 躁艦で敵の攻撃をかわしつつ艦首ミサイルを発射、一発が命中し体勢を崩した敵艦は戦列を離脱する。 自軍の砲撃に当たって被害を受ける艦もある。

 しかし多勢に無勢、敵の砲撃は”ゆきかぜ”を確実に捕らえていく。
 ”ゆきかぜ”は爆炎を身にまといながらも戦闘空域を翔ける。 聖の言葉どおり、一つでも多くの敵を屠ろうとする様に。
 そして、ついに破孔から煙を噴き上げながらコントロールを失った”ゆきかぜ”は、内惑星方面へ自由落下するように戦闘空域から落ちていく。


 ズームした”ゆきかぜ”の艦橋内で、敬礼をしている人物の影が見えた。


「…聖……!」

 ズーム映像でも捕らえきれなくなる。


 星霜の彼方に生まれた白い光が消えた。





                〜 * 〜 * 〜 * 〜 第一話 完 〜 * 〜




 何とのクロスオーバーか分かった方、一部だけ書くのは……まあ、良しとしましょう。
 まだメインの船までもたどり着いていません。
 大風呂敷は私の十八番です。


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