【3085】 ミルクホールに忌まわしき黄金の箱  (bqex 2009-11-03 00:55:34)


もしも桂さんが勇者だったら
 最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】

【ここまでのあらすじ】
 桂は勇者として、蔦子、真美、ちさととともにリリアンを救うため山百合会と戦う事になった。
 四人は典、水奏の協力を得て可南子を倒して経験値を稼ぐ。同じころ笙子、日出実はつぼみたちの襲撃を受けケモ耳姿にされた。




 次の活動日、桂たちはミルクホールでレベルアップ作業とアイテム補充を行っていた。
 桂さんは勇者だから、「勇者専用スキル」もとれるわよ。なんて言われて桂は『勇者専用スキル』を見ていたのだが。

「これは何よっ!」

 と叫んだ。


俺(or私or僕)の屍を越えていけ(消費MP0)
 このスキルの使用者のHPが0になった時に自動発動する。以降攻撃するこのスキルの使用者のパーティーの攻撃力が倍になる。連載中1回使用可能。SLは1より上昇させられない。
補足:某一族で頑張るゲームとは関係ない。

俺(or私or僕)の全てをくれてやる(消費MP所持しているMP全て)
 SL×20のダメージをその場にいるキャラクター(選択可能)に与える事が出来る。ただし、このスキルの使用者のHPは0になる。連載中1回使用可能。SLは1より上昇させられない。
補足:持ってけ泥棒という意味ではない。

俺(or私or僕)ごと殺れ(消費MP0)
 このスキルの使用者のパーティーメンバーの攻撃を防御力無視、回避不能の攻撃として扱える。ただし、このスキルの使用者のHPは0になる。連載中1回使用可能。SLは1より上昇させられない。
補足:これぞ自己犠牲の極み。

ま、まさかお前が(消費MP0)
 現在敵と判明しているキャラクターを一人だけパーティーに加える事が出来る。ただし、そのキャラクターは任意の所でスキル習得者を手酷く裏切る。『手酷く』の加減はその時によって変わる。連載中1回使用可能。SLは1より上昇させられない。
補足:とにかくベタな展開を作る。

(一部抜粋)


「なんで酷い目に遭うスキルばっかりなのよーっ!」

 桂はテーブルに突っ伏した。

「桂さん、勇者だからって勇者スキルを取らなくてはいけないってことじゃないから」

 蔦子がフォローする。

「当たり前よ! こんなものとりたくないわ」

 さて、ああでもない、こうでもないと四人のバランスも考えた末にレベルアップは完成した。

《現在の状況》

名前:○○桂
レベル:12/クラス:シーフ
HP:47/MP:37/筋力:7/器用:11/敏捷:11/精神:3/知力:3/並薔薇:3
スキル:ディテクト(SL1)情報収集成功率UP/ポイズン(SL1)毒を与える/シックスセンス(SL1)エリア探知可

LEVEL UP!
アヴォイドダンス(SL4)回避率UP

NEW!
アンロック(消費MP0,SL1)
 鍵開けが出来る。その時+SLの修正を得られる。
補足:達人になるとロザリオをお断りしたツンドリルの心の鍵すら開いてしまう。

リムーブドトラップ(消費MP0,SL1)
 トラップ解除が出来る。その時+SLの修正を得られる。
補足:凸のバラエティギフトの賞味期限も難なく読み取れるようになる。

スティール(消費MP3,SL1)
 単体の対象から何かを奪う。その時+SLの修正を得られる。
補足:ただし、このスキルでは他人のお姉さまを奪えない。

お蔵入りパン事件(消費MP12,SL1)
 直前に宣言されたMPを消費するスキルを1つだけ取り消す事が出来る。1日1回限定。SLは1より上昇させられない。
補足:食べちゃったからねぇ。もう記事にはできないねぇ。(リリアンエディション)

チョコレートコート(消費MP10,SL1)単体スキルの対象があなたの場合は任意の対象と、別の対象だった場合はあなたと代わる事が出来る。ただし、相手が望まない場合は精神値を基準に対決し、勝利した場合にのみ適応される。1日1回限定。SLは1より上昇させられない。
補足:あの子じゃなくてこの子がよかったのに……。(リリアンエディション)

装備:
トマホーク(攻撃力+5,射撃攻撃,白兵攻撃両方可能)
バックラー(物理防御力+2)


名前:武嶋蔦子
レベル:12/クラス:メイジ
HP:26/MP:58/筋力:3/器用:1/敏捷:4/精神:11/知力:16/並薔薇:3
スキル:ウィンドスラッシュ(SL1)風属性攻撃魔法/ブラスト(SL1)魔法を範囲効果に変える/ファイアウェポン(SL1)火属性武器強化

LEVEL UP!
マジックサークル(SL6)魔法効果を増大

NEW!
ブライトアロー(消費MP3,SL1)
 単体の対象にSL倍の光属性のダメージを与える魔法。
補足:競走馬ではない。

フライト(消費MP5,SL1)
 単体の対象を飛行状態にする。SLは1より上昇させられない。
補足:浮きまくりになるスキルというわけではない。

四つ葉のクローバー(消費MP10,SL1)
 習得していない「薔薇さま専用スキル」を使える。ただし、使用する「薔薇さま専用スキル」のMPを消費し、SLはこのスキルのSLを適応する事。
補足:紅薔薇のつぼみ(当時)はたまたま手に取った三つ葉(並薔薇)を四つ葉(山百合会メンバー)に変える魔力を持っていた。(リリアンエディション)

装備:使い捨てカメラ(光属性魔法+1)


名前:山口真美
レベル:12/クラス:プリースト
HP:42/MP:42/筋力:5/器用:5/敏捷:5/精神:15/知力:5/並薔薇:3
スキル:キュア(SL1)状態異常解除

LEVEL UP!
ヒール(SL2)HP回復
プロテクト(SL8)ダメージを減らす

NEW!
号外(消費MP12,SL1)
 全員の行動が終了した直後、パーティーの1名を即座に行動させられる。1日1回限定。SLは1より上昇させられない。
補足:三月の水曜日をもっと増やす事が出来ないなら号外を出せばいいんです。(リリアンエディション)

装備:
アイアンクロー(白兵攻撃力+3)
ラウンドシールド(物理防御力+8)


名前:田沼ちさと
レベル:12/クラス:スレイヤー
HP:63/MP:21/筋力:12/器用:11/敏捷:8/精神:3/知力:1/並薔薇:3
スキル:

LEVEL UP!
コンバットマスター(SL4)命中率UP
スマッシュ(SL6)白兵攻撃スキル

NEW!
バーサーカー(消費MP5,SL1)
 白兵攻撃の対象を単体から範囲(指定可能)にする。SLは1より上昇させられない。
補足:みんなを巻き込むイケイケGOGO(笑)

ライバルがいいの(消費MP9,SL1)
 使用時に相手を指名する。指名した相手へのダメージは倍になり、それ以外へのダメージは半減する。SLは1より上昇させられない。
補足:好きじゃないとライバルにはならないのよ。(リリアンエディション)

装備:
グレートソード(白兵攻撃力+10)
バックラー(物理防御力+2)

所持金:705G
アイテム:焼きそばパン(HP30回復)×4、コーヒー牛乳(MP30回復)×4、マスタード・タラモ・サラダ・サンド(蘇生薬)×2、黄色の鍵、白薔薇のシール(1枚)

※リリアンエディションのスキルの注意点
リリアンエディションのスキルを得た場合、黄薔薇スキルに対して−(リリアンエディションスキル習得レベルの合計)の修正がなされる。
なお、リリアンエディションのスキルの習得可能レベル合計は10である。



「ごきげんよう。みんな、頑張ってるわね」

「山村先生」

 にこにこしながら山村先生が現れた。

「さて、ここで勇者パーティー限定特典、『並薔薇チャンス』の時間です! 勇者パーティーのみが使える神秘の力『並薔薇』ですが、レベルが10上がるごとに1P増えます。しかし、ある事にチャレンジするともっと増えるかもしれないビックチャンスが今到来!」

「……」

 嫌な予感しかしない四人。

「チャレンジの内容はなんですか?」

 ちさとが尋ねる。

「この、『忌まわしき黄金の箱』から指令を引いて、それをクリアできたら並薔薇ポイントが通常より多く増えるのよ。失敗しても1ポイントはもらえるから安心してね」

 山村先生がとりだしたのは黄金でもなんでもないただの抽選箱だった。

「中の人のネタはやめてくださいっ!」

「中の人? 何の事?」

 きょとんとして山村先生は聞き返す。

(くっ、確信犯だ)

(絶対にダンゴムシネタは入ってる)

(誰よ、こんなキー入れた人は)

(罠だな、絶対。でも、並薔薇ポイントは欲しい)

「さて、チャレンジする?」

「……わかりました、せっかくですから私はやります!」

 真美が名乗り出た。

「じゃあ、ここから一枚引いて」

「あの、ARIAネタは入ってないですよね?」

「それは私にもわかりません」

 山村先生は微笑む。

「ARIAネタが来てほしい的なプレッシャーをひしひしと一部の読者から感じるんですが」

「気のせいよ。ささ、ひいて引いて」

「はあ」


 真美への指令
「姉妹がいたら姉妹への愛の言葉を大勢の前で叫ぶ。姉妹がいなかったら引き直し。達成ボーナス2」(投稿者:ラッキーナンバー7さん)


「うわ、勇者とかARIAとか関係ない! ……って、投稿者って誰ですか?」

 桂が思わずそう言った。

「指令は広く皆さんから募集してるから、どこかで聞いた事がある人も投稿してるかもしれないね」

 山村先生が解説する。

「さて、山口さん、どうするの? ARIAネタじゃないとやらないの?」

「……」

 桂、蔦子、ちさと、山村先生は部活で生徒が大勢いるグラウンドに来ていた。
 追っかけ真美がコアラ耳しっぽ姿の日出実ちゃんを連れてくる。

「あの、お姉さま。取材なら他の部員に任せてありますので、今日はちょっと……」

 日出実ちゃんは今の姿を大勢の人にさらしたくないので抵抗するが、真美は無視して手を取って歩く。
 グラウンドに到着し、真美は振り向いて叫んだ。

「好きだーっ! 日出実の事が好きだーっ!」

 真っ赤になってやっとそういうと、真美は固まった。

「何それ〜!? それが愛の言葉? もっといろいろとあるじゃん!」

 桂は思いっきり突っ込んでいた。
 蔦子はシャッターを切っていた。
 ちさとはあーあー、と言うように溜息をついた。

「……お姉さま」

 日出実ちゃんは頬を赤らめ真美を見つめる。

「あ、あのっ、これは勇者パーティー限定特典のチャレンジで……」

 真美は真っ赤になってもじもじしながら説明する。後半はほとんど消え入りそうだったが、日出実ちゃんは理解したようだった。

「わかってます。お姉さまは妹を作るのも、デートをするのも、何か外部からの『いいわけ』がないと出来ない方だとよく心得ていますから」

「い、いいわけって!!」

「じゃあ、頑張ってくださいね、お姉さま」

 日出実ちゃんは走り去った。

「はい。山口さん指令クリアで達成ボーナス2、通常増加分1で、3ポイント分並薔薇ポイントが増加しまーす」

 嬉しそうに言う山村先生とは対照的に真美はがっくりと膝をついた。

(お、恐ろしい。なんて恐ろしいチャレンジなんだ)

 桂は自分と妹の瑞絵で今の光景を置き換えてみた。それは恐ろしくこっ恥ずかしい光景だった。

「続いて武嶋さん、チャレンジしますか?」

 にっこりとほほ笑みながら山村先生が蔦子に迫る。

「わ、私ですかあ? 私はスールなんていませんけど」

 蔦子は目を合わせずに言った。

「チャレンジの内容は各自がその都度引いて決めるのよ」

 微笑みながら山村先生は『忌まわしき黄金の箱』を蔦子の前に出した。

「軽いものが来ますように……」


 蔦子への指令
「一番初めに出会った後輩に5秒抱きつく。達成ボーナス2」(投稿者:アメリカ人彫像さん)


「後輩? 下級生とどう違うんですか?」

 蔦子が質問する。

「『下級生』は学年が下であれば下級生だけど、『後輩』はある程度接点がないと後輩とは言わないんじゃない? 武嶋さんの場合だったら写真部の子じゃない」

「ゲッ! ある意味もっときついじゃないですか!」

 蔦子の表情が引きつる。

「ささ、『後輩』を探さないと。あら、ちょうどいいところに」

「ぐふあっ!!」

 通りかかったのは笙子ちゃんだった。蔦子を見つけてにっこりとほほ笑む。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 このまま笙子ちゃんをやり過ごせばチャレンジ失敗となる。

「ええい、ままよ!」

「え!?」

 蔦子は襲いかかるように笙子ちゃんに抱きついた。

「いーち、にー、さーん、しー、ごっ!」

 パッと離れようとした瞬間、笙子ちゃんが蔦子の手を掴んで蔦子は離れられなくなった。

「あの、もういいから」

「もういい、ってなんですか。蔦子さまは遊びで私を抱いたんですか?」

 笙子ちゃんは悲しそうな怒ったような目で蔦子を見た。

「ええええっ!? ちょ、ちょっと、なにを──」

「酷いっ! 私の事を弄んだんですねえっ!!」

 笙子ちゃんが泣きだした。

「私を力づくで抱いて、ひとしきり楽しまれた後、もういいって……そんな捨て方酷いっ!」

「『百合注意』って書いてないのに誤解されるような言い方しないで〜っ! ハグしただけっ!! あ、いや、笙子ちゃん。これには理由が──」

 桂は見てしまった。笙子ちゃんが泣くふりをしてにやりと笑う瞬間を。これは間違いなく演技。笙子ちゃん、恐ろしい子。

「つ、蔦子さまの……ばかーっ!!」

 しかし、うろたえる蔦子は気付かない。


【しばらくお待ちください】


「と、いうわけで、武嶋さん指令クリアで並薔薇ポイント3ゲットーっ!」

 山村先生が嬉しそうに言う。
 蔦子は二度と立ち直れなさそうだ。

「では、次はどちらが?」

 ちさとと桂は引きつった表情でお互いを見た。

「わ、私から!」

 ちさとは後になればなるほどロクな指令がないとみて、『忌まわしき黄金の箱』に手を突っ込んだ。


 ちさとへの指令
「マリア像前でハレ晴れな感じのユカイな曲を笑顔で踊れ。達成ボーナス3」(投稿者:味噌汁はストローがいいさん)


「これ、グループじゃないですか。どうやって踊れと?」

「真ん中の人でいいんじゃないの?」

「う〜」

 ちさとは頭を抱えた。

「知らない曲?」

 桂が聞く。

「ううん……実は、踊れるのよ」

 引きつった表情でちさとは答えた。

「……は?」

「部活やってると『黒歴史』の一つや二つ、出来るのよ」

 時に先輩に強要され、時に進んで下級生たちを和ませるため、黒歴史は築かれる。

「わかる!」

 四人は思わず手を取り合った。

「わかり合ったところで──」

「まさか、一緒に踊れって言わないよね?」

「私への指令じゃないし」

「踊れるんでしょう? 頑張ってね」

 ちさとに向かって三人はさらっと言った。

「……」

 マリア像前。
 放課後の事だから、帰る生徒が手を合わせていたり、時にロザリオの授受が行われていたりするこの場所に、似つかわしいかどうかはそれぞれの感性にまかせたいハレ晴れな感じのユカイな曲が流れるラジカセを脇に置いたショートカットの少女が満面の笑みを浮かべながら見事な振り付けで踊っている。

「何かしら、あれ?」

「ダンス部のパフォーマンスかしら?」

「あの人、剣道部じゃなかった?」

 白い目で見られ、ちさとは笑顔とは裏腹に帰りたかった。
 やっと曲が終わり、フィニッシュする。

「おめでとう! 見事踊りきった田沼さんには並薔薇ポイントが合計4も入りまーす!」

 にこやかに山村先生が言う。

「こ、ここまでやって並薔薇ポイントが入らなかったら怒るわよっ!」

 ちさとはべそをかきながら独り言のように悪態をついた。

「さて、では最後は桂さんね」

 微笑みながら山村先生は桂の前に『忌まわしき黄金の箱』を出す。

「本当に忌まわしいですね。あの、これ、パスってわけにはいきませんか?」

「ぁあー、なんですって!?」

 先にクリアした三人から一斉に睨まれた。

「桂さん、バトルにおいて並薔薇がいかに重要かわかってるわよね?」

 三人にすごまれ、桂は渋々指令を引いた。


 桂への指令
「高城典さんを倒せ。ただし、パーティーメンバーの力を借りても構わない。達成ボーナス3」(投稿者:狸ダンサーさん)


「な、なんか私だけ路線が違いすぎるじゃないですか! 大体、名指しっておかしくないですか? これって、罰ゲーム通り越してイジメじゃないですかっ!」

 桂は突っ込んだ。

「倒さなければ並薔薇ポイントは1しか増えないわね」

 冷ややかに山村先生が言う。

「……うう、クラブハウス攻略には並薔薇ポイントが必要なのに、その並薔薇ポイントがクラブハウスに行かないともらえないだなんて」

 桂はがっくりとうなだれる。

「あら、クラブハウスに行かなくても歩いているところを不意打ちにするっていう手もあるわよ」

 しれっと真美が言う。

「ひ、ひどい! 典さんには前回協力してもらった恩義だって……」

「でも、典さんは私たちのレベルが上がったら自分と戦ってレベルを上げるように言っていたからある程度は覚悟してるんじゃない?」

 ちさとが言う。

「……そ、そういえばそんな事言ってたかも」

「じゃあ、決まりね」

「えええっ!」

 一行はクラブハウス前で目標の人物を待ち構えた。

「蔦子さん、真美さん、ちさとさん、それに桂さん、ごきげんよう」

 背後から声がして振り向くと、水奏さん、逸絵さん、道世さん、里枝さんが立っていた。

「あ、あの」

「皆さんに恨みはないけれど、勇者さまと対戦してほしいと希望がありまして」

 にっこりと水奏さんが笑った。

「そんな! この前は協力してくれたじゃない!」

「私たちは中立の立場なの。それに、経験値、欲しいんじゃない?」

 逸絵さんが言う。

「そりゃあ、欲しいけど……」

「じゃあ、決まりね」

 四人は身構える。

「ま、待って!」

 桂は山村先生に向かって言った。

「あの、失敗しても並薔薇って1はもらえるんでしたよね?」

「ん? ええ。でも、典さんとバトルをして勝つのが条件よ?」

「あの、前払いで1ポイントだけ、先にもらえませんか?」

 山村先生は考えてから言った。

「いいわ。1ポイント増やしても」

 桂たちも身構えた。

「私が一番手ね」

 逸絵さんが宣言する。

「『ウァレンティーヌスの悪戯』をちさとさんに! 精神値で対決して、勝てばちさとさんの足元にないはずのトラップがあった事に出来るスキルよ!」

「そのまま抵抗してみて……抵抗成功!」

 逸絵さんのスキルは失敗に終わる。
 次は桂の番である。

「水奏さんを『ポイズン』で毒化します!」

 水奏はこれを避けられない!

「待機して、蔦子さんの『ファイアウェポン』を待ちます」

 続くちさとは待機を宣言。水奏さんの番になった。

「『剣道交流試合の日』を道世さんに! これで道世さんの攻撃が回避不能に!」

 イリュージョニストのスキルは直接攻撃をするものは少ないが、何らかの攻撃と組むと非常に強力である。

「そして、その回避不能攻撃はモンクの防御力無視攻撃『羅刹』、それを『バーサーカー』を使用して勇者パーティー全員に!」

 道世さんが全体攻撃を宣言した。

「どうする? 『お蔵入りパン事件』を使う?」

「それは水奏さんの持ってる『レイニーブルー』に! ここは頑張る!」

 蔦子が指示を出す。
 ダメージはふるわず12P!
 ダメージ増大スキル『レイニーブルー』は使われなかった。

「『プロテクト』を蔦子さんに!」

 真美はHPの少ない蔦子のダメージをダメージ軽減スキルの『プロテクト』で消す。

「よし!」

「水属性攻撃魔法『ウォーターブレイド』! 『ブラスト』で勇者パーティー全員に!」

 里枝さんが宣言する。

「これは頑張って全員回避を目標に!」

「無茶な〜!」

 ちさとが回避に成功する。
 これもダメージが伸びず、水奏さんは『レイニーブルー』を温存。
 真美が魔法防御力の最も低い桂に『プロテクト』を飛ばし、無傷に抑え、真美がダメージ5、蔦子がダメージ9となる。

「私は……やっぱり待機!」

 真美も待機を宣言し、蔦子の番になる。

「『ファイアウェポン』で攻撃属性を火に! 攻撃力は魔力増大スキル『マジックサークル』も使うので合計7SL分。それを範囲拡大スキル『ブラスト』で桂さん、真美さん、ちさとさんに!」

 この『ファイアウェポン』がクリティカルし、攻撃力があっという間に+42Pも増えた。そしてちさとの攻撃である。

「攻撃スキル『スマッシュ』を全体攻撃スキル『バーサーカー』で敵パーティー全体に!」

「しまった、『ファイアウェポン』が意外と強かったわ。……いや、これも駄目……ごめん! 『プロテクト』を自分自身にかけて、次のターンで何とかしたい!」

 逸絵さんが回避に成功するものの、残りの三人がちさとの攻撃を食らう。
 水奏さんは悩んだ末に自分自身に『プロテクト』をかけた。この攻撃で里枝さんが戦闘不能になる。
 道世さんはHPが半分になった。

「私は……道世さんに並薔薇を2P使って攻撃!」

 真美の渾身の一撃のはずだったが、道世さんはクリティカルに回避した。

「しくしく」

 水奏は毒の効果でHPを減らす。

「次は私か……私の攻撃力じゃあ真美さんの『プロテクト』が抜けないから、待機」

 逸絵さんが待機する。

「次は私。普通に攻撃してみよう」

 桂は水奏さんを狙って攻撃した。
 これが命中するが『プロテクト』に阻まれ5Pのダメージに留まる。

「『スマッシュ』+『バーサーカー』で」

 ちさとの攻撃は不幸にも水奏さん、逸絵さんがクリティカルで回避。道世さんへのダメージは当然『プロテクト』ではじかれた。

「……『四つ葉のクローバー』で、『紅薔薇さま、人生最良の日』を道世さんに使用!」

 水奏さんが宣言する。

「……どんなスキルだっけ?」

「うわ〜、そんなスキルあったっけ?」

 真美、蔦子が真剣にスキルの内容を思い出そうとしている。

「『四つ葉のクローバー』で使ってくるのは『薔薇さま専用スキル』だから相当強いはず……でも、あんまり使わないスキルだから……」

 ちさとも思い出せないでいる。桂はそんなスキル知らない。
 そして、道世さんの番になる。

「『羅刹』+『バーサーカー』で!」

「タイミングの違うスキルを使える『不在者チャンス』でその攻撃の命中に知力値で判定する『ウィズダム』を道世さんに!」

 攻撃値は普通、命中は器用値に依存している。しかし、道世さんのスキルには知力値に依存するものはなく、知力値を上げる理由が思い当たらない。たぶん、初期設定の1から上げていないと思われる。
 なのに、どうして。と考えた時、『紅薔薇さま、人生最良の日』の謎が少し見えた。

「回避成功!」

「成功!」

「私も!」

 次々と回避に成功するちさと、真美、蔦子。

「ああああっ! 思い出した!! 『紅薔薇さま、人生最良の日』ってあれだ! 回避しちゃいけなかったんだあっ!!」

 回避した直後、蔦子が叫んだ。

「ええっ!?」

「『紅薔薇さま、人生最良の日』は攻撃に失敗したり、回避されたりするとともう一回、攻撃した人数倍のダメージの追加攻撃が来るスキルで、しかも、追加攻撃には別のパラメータが使えるのよっ!」

「な、なんですって!?」

「桂さん! まだ回避してないんだから、回避行動を放棄して、そのまま食らって!」

「えええええええっ!!」

「大丈夫、『プロテクト』はあくまで『命中後のダメージを軽減する』スキルだから。ちょっとは抜けるかもしれないけど、死にはしないはず!」

「もっと早く思い出してよ! そういうの。『お蔵入りパン事件』で消せたのに! ……とにかく、回避しないで食らえばいいのね? こうなったら食らうわよ!」

 桂はちょっと自棄になって叫んだ。
 いち早く反応したのは水奏だった。

「ならば、『レイニーブルー』でダメージを増幅させる!」

 水奏の『レイニーブルー』と同時に真美が『プロテクト』を放った。

「そこで『チョコレートコート』発動! 精神値で対決し、私が勝てば『プロテクト』は私にかけられる!」

 割って入ったのは逸絵さんだった。

「『お蔵入り……』、いや、典さんとの対決がこの後あるからそれは使わない! 抵抗には並薔薇ポイントを──」

「桂さん、3P使ってもいいからここは成功させて!」

 ここで抵抗に失敗した場合、成功した場合で今後の戦略が大きく変わってくる。
 そこを認識していた蔦子は桂に指示を出した。

「じゃあ、3P使って抵抗します!」

 執念で桂が上回り、桂に『プロテクト』がかけられる。

「ダメージは……13P!!」

「ここで私! 攻撃力が高いので普通に水奏さんを狙います!」

 しかし、命中率は変わってないのでかわされる。
 次は蔦子である。

「『ブライトアロー』+『マジックサークル』+『ブラスト』」

 50以上のダメージが予想された。
 水奏さん、逸絵さん、道世さんと誰も避ける事が出来ない!

「水奏さんを『かばう』!」

 逸絵さんが動いた。

「OK! 道世さんに『プロテクト』!」

 水奏さんの渾身の『プロテクト』が放たれる。
 道世さんはダメージなしだったものの、逸絵さんがここで落ちる。
 そして、水奏さんには毒のダメージが入る。


《現在の状況》

桂のHP/MP:22/31
蔦子のHP/MP:17/31
真美のHP/MP:25/36
ちさとのHP/MP:51/3
水奏のHP:28
道世のHP:16


「水奏さんを攻撃でいいのかしら? ここで防がれても次のちさとさんが範囲攻撃をすれば──」

「待って、私はMPが足りないから、範囲攻撃は無理」

 少ないMPがスキルの連発でなくなってしまったちさとだった。

「水奏さんのスキルで強そうなので残ってるのは……『ドッペルかいだん』か……でも、水奏さんって、組んだら強いタイプっぽいけど、さっきから直接攻撃がないからあんまり強い攻撃は持ってないんじゃないかな? でも、スキル枠からいってもう一つくらい何かありそうだしなあ」

 蔦子が考える。

「でも、最悪の場合でも、こっちは温存してるスキルもあるから……」

「桂さん、行ってみよう!」

「うん、じゃあ、水奏さんを攻撃!」

 桂は水奏を攻撃する。

「ここで『リベンジ』で回数限定で使いきってしまったスキルを再び使えるようにする! 対象は『四つ葉のクローバー』! そして、『四つ葉のクローバー』で使うスキルは『ハートの鍵穴』!! それを『ブラスト』で勇者パーティー全体に!」

 水奏さんは倒れた、がスキルの効果は続いている。
 『ハートの鍵穴』は使用者のHPが0になっても継続するスキルで、受けたダメージ値と同じダメージ値を反射する魔法で、魔法ゆえに魔法を拡大できる『ブラスト』の対象にもなる。
 桂の与えたダメージ値は58P。
 これが全体ダメージとして返ってくる。

「くっ、これはリアクションスキルだから、『プロテクト』は使えない……」

「仕方がない! 『お蔵入りパン事件』で『ハートの鍵穴』を取り消す!」

 桂は渋々切り札を使った。

「残ったのは道世さんか……普通に攻撃!」

 ちさとの攻撃が外れてしまう。
 ここで道世さんの攻撃である。

「……う〜ん、『羅刹』+『バーサーカー』!」

 ちさと、蔦子が回避に失敗する。

「『プロテクト』を蔦子さんに!」

 ちさとは38Pのダメージ!

「普通に攻撃します!」

 真美の攻撃が命中し、バトルは終わりを告げた。
 お約束のドロップ品をゲットし、アイテム鑑定をする。


《アイテム鑑定の結果》
ホラー漫画の生原稿(売れば3500G)U図先生級の神原稿ではないが、素人ゆえの崩れた感じが恐怖をそそる。
リレーのバトン(売れば2800G)血と汗と涙がにじまないプラスチック製(あれ?)
大貧民トランプ(売れば2800G)飛行機の上だって平気だい。
ミータンのぬいぐるみ(売れば3800G)ペルシャと日本猫のミックスがキュートな猫のぬいぐるみ。


「さて、典さんと一戦交える前に回復しておかないと……」

「誰と一戦交えるって?」

「そりゃあ──」

 声の主の方を見て四人は固まった。
 典さんが演劇部の部員たちに囲まれて出てきたのだ。

(た、タイミング良すぎじゃない?)



 同じころ、薔薇の館。

「『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』このスキルはあり得ない運命をあり得るものにするスキルで、ぶっちゃけ『しこむ』事が出来る」

「どうなさったんですか、紅薔薇さま。いきなりスキルなんか使って」

「山村先生が相手だとしても、このスキルを使えば『偶然にしては出来すぎた展開』を演出する事が出来る」

「で、何をどう仕組んだんですか?」

「瞳子に聞かれたら叱られそうだから、内緒」

 紅薔薇さまは微笑んだ。


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