【3089】 静かなる胎動  (ケテル 2009-11-11 22:56:31)


宇宙戦艦○○○とのクロスです。
 ばればれですけどね。
 原作を見て思った疑問点を、ちょっと少し動かしてみました。 後々破綻しないか心配ですが……。

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S-7 火星 アキダリア平原 観測訓練基地

「祐巳さん由乃さん、地球防衛軍本部から連絡があったわ。 冥王星宙域の戦闘から帰ってくる戦艦”あまぎ”に便乗して地球に帰還せよとのことよ」
「やった〜、やっと帰還できるのね〜」
「な〜んとか訓練終了ってことね……。 で、いつ来るの艦隊は」
「5日前に戦闘は終了しているそうよ。 火星近郊に来るのは、3時間後ですって」
「3時間後?! そんな急に。 なんだってこう連絡が遅いのよ!」
「まあまあ由乃さん。 いよいよ地球に行けるね笙子ちゃん」
「はい、ようやく…」

 笙子と呼ばれた少女は感慨深げだ。

 異星の女王からのメッセンジャーとして来た笙子は、太陽系近郊オールトー雲外縁でワープという超光速航法からぬけたところで敵からの攻撃を受け、エンジン出力系のコントロールを失ってしまった、オーバーパワーのまま太陽系内に突入、火星に墜落してしまったのだ。

 収容後、まず志摩子が呼気の成分分析をして地球のそれと同じである事を確認、遺伝子を含めて出来るだけの調査を終えた頃に笙子は目を覚ました。
 目を覚ました時、いきなり日本語を話した笙子に祐巳達は面食らった、航海中に学習したのだそうだ。 ”笙子”と言う名は、本名に近しい名を無作為に選んだのだとか、本名も異星からのメッセージも今の時点では教えられないといわれた。 当然防衛軍本部に報告は入れてあるが、無理に聞き出すようにとも言われていないので、三人はもっぱら笙子とのコミュニケーションに重きを置いて接していた。 笙子は基地内の手伝いも積極的にしてくれたし、宇宙船の探査にも協力してもらえたので予想以上の成果が得られた。

 三時間後と聞いた祐巳は、腕を組み右頬に人差し指を当てて何事か考える。

「さあ〜ちゃっちゃと準備しましょ。 祐巳さん、何考えてるの?」
「…うん…………ねえ、志摩子さん。 迎えに来るって言う戦艦に連絡取れるよね?」
「”あまぎ”に? ええ、出来るけど…?」
「…あれ、持って還らない手はないと思うんだけど」





S-8 アマギ 艦橋

「火星アキダリア基地より入電。 艦長と直接話したいそうです」
「? ……わかったわ、つないで」

『火星アキダリア観測訓練基地、訓練生の福沢祐巳です。 お久しぶりです蓉子さま』

「ああ、祐巳ちゃんだったの。 由乃ちゃんも志摩子も、無事訓練を終えたのね」

『ありがとうございます。 笙子ちゃん、こっちへ来て』

 祐巳はカメラの撮影範囲に笙子を招き入れる。

『防衛軍本部から連絡は行っていると思いますが、彼女が異星からのメッセンジャー笙子ちゃんです』

「連絡は受けているわ。 本当に地球人と同じなのね…」

『こちらの基地で調べた限りでは。 それで…実は持ち帰りたい物があるんですが、大きいので連絡艇では持ち帰れないんです。 で、出来れば火星地表まで降りてこられないでしょうか?』

「”あまぎ”を火星表面に? ダメよ、戦艦は小回りは利かないのだから。 それは祐巳ちゃんだって分かっているでしょう?」

『はい、わかっています。 でも、あれを持ち帰らないのは勿体無いと思います』

「勿体無い?」

『はい。 笙子ちゃんの乗って来た宇宙船です』


  *  *  *  *  *  *  *  * 


「……確かに勿体無いわね。 さて、どうしようかしら……」

 進路変更の指示を出した後、蓉子は考える。 機首は折れていると聞いているが、それでも50mは有ろうかという代物、”あまぎ”の全長の 1/5 より少し大きい。 艦内に収容するスペースはもちろん無い。 分解するのは時間がかかり敵から攻撃を受ける可能性は高くなる。
 ふとあることを思いついた。

「…第二砲塔周りの気密をチェックして」





S-9 アキダリア基地上空 マンゴスティン

「”あまぎ”9時の方向距離 5000mに接近」
「了解。 しっかし、どうやって収容するんだろ? 祐巳さんもえらいこと考えるわ」
「あ、由乃さん。 ”あまぎ”から入電よ」

『こちら”あまぎ”一旦安全距離を置くように。 ガイドビーコンをキャッチしたら侵入を開始せよ』

「了解」

 高度は3500m、火星大気圏に侵入してきた”あまぎ”は目の前にいる。
 極地観測連絡機マンゴスティンの主操縦士席に由乃、副操縦士席に祐巳、レーダー観測員席に志摩子が、予備席に笙子が着いて”あまぎ”の舟艇格納庫に入るために発進していた。

「距離3000」
「離れるのね、何するんだろ?」

 由乃が操縦桿を少し倒して機体を軽くバンクさせ”あまぎ”から距離を取り、何をするのかと観察する。

「10時方向、距離5500」

 降下しながらアキダリア基地上空を通過した”あまぎ”の艦底部前側の第二砲塔の周りが光ったかと思うと、煙を吹きながら砲塔の残骸と基底部が丸ごと脱落していく。

「え〜〜〜〜?!」
「ちょ、ちょっと!」
「何かトラブルかしら?!」

 しかし、”あまぎ”は何事も無かったように降下を続行する。 こちらの慌てぶりをよそに、侵入開始の合図であるビーコン波をキャッチした。

「……え? あ…ビーコンキャッチ。 侵入開始…でいいのよね……後方噴流警戒、アプローチGo!」

 後方噴流に巻き込まれないよう注意しながら由乃は”あまぎ”の右舷側からマンゴスティンを侵入させる。 舟艇格納庫の入り口はすでに開いていて、スロープになっているハッチの縁は識別用にフラッシングライトが赤く光っていて、導くようなフラッシングパターンをしている。

「ガイドレーザーキャッチ、ファイナルアプローチ!」

 気圧は低いものの”あまぎ”の艦体による乱流と後方噴流の影響で侵入は難しいはずだが、機体をぶれさせる事も無く由乃は難なくマンゴスティンを着艦させた。





S-9 あまぎ 艦橋

「アキダリア観測訓練基地より地球への帰還のため、訓練生 福沢祐巳、島津由乃、藤堂志摩子、そして…惑星イスカンダルからのメッセンジャーの笙子…さん、地球防衛軍日本艦隊旗艦”あまぎ”への乗艦を申請します」
「乗艦を許可します。 祐巳ちゃん、由乃ちゃん、志摩子、直接会うのは久しぶりね。 笙子さん。 本艦を代表して乗艦を歓迎します。 ……日本語は分かるのよね?」
「はい。 お気遣いありがとうございます」
「地球についてからゆっくりお話したいわね。 ただ、いまは忙しいから…祐巳ちゃん達、来た早々で悪いのだけど手伝ってくれるかしら? あなた達が言って来た事だし」

 祐巳は由乃と志摩子に目配せする、二人ともうなずいた。

「了解しました」
「あの、わたしもお手伝いします」
「笙子さん、あなたはいわばお客様よ、お客様に作業の手伝いをさせるわけにはいかないわ」
「でも、あの船の構造を熟知しているのは私です。 私が手を貸した方が早く作業を終われるはずです」

 腕を組みあごを指先でなでながら少し考える蓉子。 しかし、結論はすぐ出る。

「そうね、そのほうが作業もはかどりそうだわ。 来て、こちらで考えた作業手順を説明するわ」

 蓉子は三次元表示のモニターに四人を誘う。 即席で作られたらしい3Dモデリング化された”あまぎ”と”宇宙船”を表示させ手順を説明し始めた。





S−10 火星表面 → あまぎ 艦橋

 ”あまぎ”の着陸誘導はすでに終わっている。
 下部の垂直センサーウィングをたたんで、宇宙船を押しつぶさないように降下した”あまぎ”のパージした第二砲塔の穴を宇宙船で塞ぐ、もちろん直径がちょうど会うわけではないが、グラグラ動くような事は無い。
 艦首のアンカーの鎖を宇宙船の下を通してから第一砲塔の所に掛け、また宇宙船の下を通す。 襷掛けをするように鎖を通した後で、単結晶繊維で編まれた超高張力ワイヤーでさらに縛り付けた。 見てくれは悪いが、笙子の協力もあってしっかりと固定できた。 脱出カプセルと機首部分も格納庫に納めて、作業は10時間ほどかかって終了した。

 問題は、全長の1/5より少し大きく、重量もそれ相応にある宇宙船を抱え込んでしまって、はたして離昇できるかどうかだが……。



  *  *  *  *  *  *  *  * 



「…やっぱ戦艦だわね、火星の重力が弱いと言っても出力にまだ余裕あるわ」

 発進の様子を操舵手席近くに予備席を用意してもらって見学していた由乃が、艦橋の後ろの方の予備席にちゃっかり着いている祐巳達のところまでやってきた。

「もうすぐダイモスの軌道を抜けるわ……ただ変なの、他の船見当たらないよ」
「…見当たらなの? 私、レーダー見せてもっらってくるわ」

 志摩子がレーダ手席に行く、レーダー手席まで行かなくてもここからでも全天レーダーは見られる、それでも志摩子は詳しく確認したかった。 志摩子が座っていた席に今度は由乃が着く。 蓉子は艦長席に居るものの惑星重力圏内の為躁艦指示が多く聞ける雰囲気ではない。

「先に地球に戻ったんじゃないの? 敵はこの辺にも頻繁に来るようになっちゃったし」
「そうなのかな……だといいんだけれど……」

 不安そうな顔でリクライニングさせたシートに身を預ける由乃、近傍に味方が居ないという孤独感からか不安になる。 

「大丈夫よ、大丈夫。 聖さまがいたのよ、聖さまが指揮してる駆逐艦がいたんだから……」

「火星重力圏離脱、地球帰還コースに乗ります」

 火星を左手に見ながら”あまぎ”は地球を目指す。

 何かを聞いてきたのか、珍しく暗い顔をした志摩子が黙って首を振った。



  *  *  *  *  *  *  *  * 



S-11 地球静止衛星軌道上 あまぎ 艦橋

 分厚い積層ガラスの向こうの星空に地球が浮かんでいた。 

「遊星爆弾接近、艦直上5kmを通過します…」

 ”あまぎ”の上5kmを遊星爆弾が二発、吸い込まれるように地球に落ちていき無慈悲な光を放ち消えていく。

『だめだわ、もう防ぎきれない。 私達にはあの遊星爆弾を防ぐ力はない…あれが…私達の地球の姿だとは』

 初めて宇宙に出た時、宝石のような青い地球を見たことのある蓉子にとって、今の地球への帰還は打ちひしがれる様な感覚に襲われる。

 遊星爆弾の無差別攻撃により目の前に浮かぶ地球の海は蒸発し、赤く焼け爛れていた、放射能の汚染により地上に健康な土地は無く、人類は地下都市を建設して必死に抵抗しているが、放射能の汚染は地下都市おも徐々に蝕みはじめていた。

『見ていなさい、私は命ある限り戦うわ』

 積層ガラスに顔を押し付けるように、祐巳と由乃は拳を握り締め歯を食いしばっている、志摩子も涙が流れるのをこらえて傍らにいる笙子を励ますように肩を抱いていた、笙子は、予想以上の地球の惨状に大きく目を見開いて、流れ落ちる涙を拭うのを忘れてシートに崩れ落ちていた。

『けして絶望しない、たとえ最後の1人になろうとも、けして絶望はしないわ』

「まもなく大気圏に突入します」



  *  *  *  *  *  *  *  * 


「高度 3000m、自動懸垂装置異常なし。 南関東地下都市侵入ビーコンキャッチ」

 ガイドビーコンに沿って”あまぎ”は高度を落としていく、地表は荒れ果て死んだようだ、その地表の一部が”あまぎ”を導き入れるように大きく入り口を開く。 偽装されスロープ状に開いた侵入口から300mの所に艦船用一次エアーロックがある、ここで船台に固定されてから放射能洗浄と空気の入れ替えが行われ、さらに奥の格納庫へ台に乗ったまま移動する。

「笙子ちゃん、私達はここでお別れ。 元気でね」
「体に気をつけて。 あと、こんなんなってるだけど…地球に来てくれてありがとう」
「私達なりにがんばるわ、笙子ちゃんも……元気でね」

 祐巳達の次の任務はまだわからない、ただ異星からのメッセンジャーである笙子とはここでお別れである。

 「祐巳さん、由乃さん、志摩子さん。 本当に良くしていただいてありがとうございました。 ………お、お元気で…」

 笙子は深々と頭を下げと、艦長席の蓉子の所へと歩いて行った。





S−12 連絡エレベーター

「放射能汚染地下1000mまで進行しているわ……上層の都市は放棄するしかないのね」
「はぁ〜。 ジリ貧……よね…あとどのくらいもつんだろ」
「由乃さん……、笙子ちゃんも来てくれたし、それに私達が回収してきた物で挽回すれば」
「……希望…持てるのかな……。 ごめん、ちょっと弱気になったわ、だって……」

 そう言いながら由乃は志摩子を見る。 視線に気づいた志摩子は少し困ったような顔をする。

「ありがとう。 でも、なぜかしら…お姉さまは生きていらっしゃるような気がするの」
「え?」
「不思議ね、そう感じるの…」

 そういうと志摩子は目を閉じる。 祐巳と由乃はなんと声をかければいいのか分からなかった。

 地下1500mの地点で三人はエレベーターを降りる、宇宙から帰還した場合精密検査を受けてから帰宅が許される。 久しぶりの帰還ではあるが三人の足取りは重かった。



  *  *  *  *  *  *  *  * 


「は〜〜い、それじゃあ胸開いてみましょうか〜由乃ちゃん」

 聴診器を耳につけて軍医の鳥居江利子は、ニヤニヤ〜っと中年親父のような笑顔を由乃に向ける。

「ちょ〜っとは胸大きくなったかしらねぇ〜」
「顔も手付きも雰囲気も思いっきりいやらしいんですけど。 そんなに急に大きくなるわけないじゃあないですか! そんな話は置いといて! もう帰っていいんでしょうか?!」
「もお〜、つれないわねぇ〜。 ちょっと待ってね……あ、祐巳ちゃんも志摩子も問題ないわよ…」

 江利子と由乃のやり取りをクスクス笑いながら見ていた祐巳と志摩子のカルテをなおざりにチェックしてから、由乃の検査データを呼び出す、ワザとらしく検査データ”ふむふむ”と言いながら確認する。

「ふ〜ん、いいんじゃない? 特に問題ないようだし……あら?」
「?! …な…何かありましたか?」

 医者に検査データを見ながら『あら?』なんて言われたら、さすがに由乃でも不安になる。

「大きくなってるじゃない5mmも」
「江利子さま!!」

 顔を赤らめて胸を両手で隠す由乃。

「令は宇宙船整備ドックで”あまぎ”のエンジンチェックでまだ戻れないし。 菜々ちゃんは機種転換航法操縦シミュレーター訓練ですって、2週間前後になるんじゃあないかしら…」

 虚をつかれた様に江利子を見る。

「ここの所ちょっと寂しいのよ、わたしも……あら?」

 軟質素材のキャタピラ音をさせてロボットがやってきた。 薬のカプセルに手足をつけたような形、目鼻は無いが代わりに頭部の所々になんのためのものか良く分からないメータがたくさん付いている。 頭部になぜか猫耳を模したレーダーのような物が付いている。

『エリコセンセイ ココニイルノガ フクザワユミ サン シマヅヨシノ サン トウドウシマコ サン デスカ?』

「ええ、そうよ」
「あ、あの〜、江利子さま……このロボットは…なんですか?」
「あ〜、万能ロボットって触れ込みのゴロンタよ」

『オハツニオメニカカリマス ワタシハ バンノウロボットノ ゴロンタデス ヨロシクオネガイシマス  シカシミナサン ナカナカノビショウジョブリデ ワタシモシゴトノシガイガアリマス』

「あの〜、これも……」
「さて、こんな機能までついてたとはね。 ゴロンタ、三人に何か用なの?」
「ろくでもない事だったらメーカーで初期化してもらってください」
「そんな、面白みが無いじゃない」

『オサンカタ ボウエイグンホンブカラ メッセージヲアズカッテイマス ”ミョウゴニチ 0900ジヨリ シミュレーターニヨル キシュテンカンクンレンヲ メイズル” ナニカ オオキナセンカンヘノ キシュテンカンノヨウデスヨ』

「大きな戦艦?!」
「戦艦…私達が乗るのかしら……」
「きっとそうよ、よ〜〜し気合入れるわよ〜!」
「あ、江利子さま、これで失礼します。 ごきげんよう」
「はい、ごきげんよう」

 診察室から出て行く三人の様子を微笑んでみていた江利子だったが、呼び出した一つの検査データを見て難しい顔をした。 





S−13 地球防衛軍指令本部

「しかし、いきなり”あまぎ”の火星大気圏内突入を聞かされたときには、正直君がどうかしてしまったのかと思ったよ。 でも、予想以上のものを持ち帰ってくれたものだね。 大変な収穫だよ」

 人差し指をこめかみに当てて柏木指令長官は笑顔を蓉子に向ける。 一応人気はあるらしいが蓉子はあまり好きになれない、臨機応変さと判断力は評価しているのだが…。

「それで彼女が……」
「ええ、惑星イスカンダルからの使者、笙子ちゃんよ。 それから、これが……」
「祐巳ちゃん達が回収してきた通信カプセルだね。 笙子さん、ようこそ地球へ」

 優は椅子から立ち上がって、笙子に右手を出して握手しようとする。 笙子は一度蓉子の方をうかがう、それから優と握手をする。

「惑星イスカンダル女王栞さまからのメッセンジャーとして参りました、笙子ともうします。 女王栞さまは、今現在の地球の状況を憂慮なさり、救いの手を差し伸べるために、お言葉を納めた通信カプセルを私に託されました。 詳しい内容は通信カプセルを解析ください、地球の規格に合わせておりますので、私が申し上げますパスワードを入力すれば、すぐに聞くことができるはずです」
「…分かりました、…では、中央コンピューター室に行こう。 君にも聞いてもらおうかな蓉子さん」





S−14 中央コンピューター室

『私はイスカンダルの女王栞……大マゼラン星雲の太陽系サレザー第8番惑星イスカンダルの栞。 地球のみなさん、私の名代笙子が無事地球にたどり着き、このメッセージがあなた方の手に渡ったら、迷わずイスカンダルへ来るのです。 地球の生物が放射能の汚染により滅びてしまうまでに、あと1年と数ヶ月、疑っている時間は無いはずです。 もし人類に生きる勇気と決意があるのなら、万難をはいしてイスカンダルへ来るのです。 私の元には放射能除去装置 ”コスモクリーナーD”があります。 残念ながら、もう私の力ではこの装置を地球に送り届ける事は出来ません。 銀河系を隔てること15万7千光年。 ……私は、貴方方がイスカンダルへ来る事を信じています。 私はイスカンダルの栞……』

 大スクリーンに地球からイスカンダルまでの航路が映し出されている、それをバックに聞こえてくる柔らかな、しかし、ある種の決意がこめられている女王栞からのメッセージが終わると同時に、何かの模式図が表示される。

「これは……なんだろう?」
「……おそらく…エンジンの設計図だと思うけれど」
「波動エンジンです」
「…波動…エンジン…?」
「今までの地球の技術水準を超えて、イスカンダルまでの往復31万4千光年の旅を可能にする超光速エンジンです。 私が乗って来た船にも搭載されています」

 優は目を閉じて腕組みをしていたが、一つ息をはくと蓉子に目を向ける。

「本当に大収穫だ。 あの宇宙船の分析調査、設計図の調査に至急取り掛かろう。 協力してもらえるかな?」
「はい、私に出来ることであれば」
「柏木だ、大至急。 ”A140-F5-SB-Y”は大幅に設計を変更する。 作業は一時中断だ」

 優は手早く指示を出してから立ち上がる。

「あれを……ヤマトを使うの?」
「だからこそだよ。 我々にはもうヤマトしか残されていないんだ」





S−15 地下都市、M駅周辺

「はぁぁ〜」

 防衛軍の病院を出て久しぶりに自宅に戻った祐巳だったが、気分があまり優れない。 姉である祥子に急に仕事が入り、防衛軍の技術研究所から帰れないと言うし、妹の瞳子はシミュレーターに縛り付けられているとかでとても会えない。

「気持ちは分かるけどさ、呼び出しといて溜息はないんじゃない。 私だって似たような物だし。 それより祐巳さん、マニュアル読んどか無くて大丈夫なの? 鉄砲屋が戦ってる最中にマニュアル首っ引きなんて冗談じゃないわよ、そんなんだったらエアロックから叩き出すわよ」

 由乃はそう言いながら、持参した航法マニュアルがインプットされている携帯タブレットPCをペシペシ叩く。

「そうだね……、あ〜〜〜でもやる気が起きない〜〜〜〜〜」
「あのさぁ、それ本来私の役じゃない、祐巳さんが先にそんなんなっちゃったから、しかたなく私が……」

 由乃が祐巳のおでこをPCのタブレットペンで突こうとした時、空襲警報が鳴り響いた。





                〜 * 〜 * 〜 * 〜 第二話 完 〜 * 〜



 ――― ――― ――― ――― ――― ――― ――― ―――

 もっとやりようはあると思いますが、どうしても柏木に最初に ”ヤマト”と言わせたくなかった。

 アニメ版、コミック版、ともにイスカンダルからの宇宙船を回収したと言う描写が無いんですよね。 裏で回収に行ってるのかもしれませんが、あのままにして置くのは勿体無いです。 そして最大の謎”サーシャはなんで周囲の分析をすることなく不用意に脱出カプセルのハッチを開けて外へ出てしまったのか?” なぞです。


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