お昼休みの薔薇の館。
紅薔薇さま福沢祐巳、黄薔薇さま島津由乃、白薔薇さま藤堂志摩子が揃い踏み、更には、紅薔薇のつぼみ松平瞳子と白薔薇のつぼみ二条乃梨子が控えている。
といっても、皆で昼食と摂ろうとしているのだから、当たり前の光景ではあるが。
ただ、黄薔薇のつぼみ有馬菜々だけが、同席してなかった。
並んで座り、イチャイチャしながら弁当を広げている紅薔薇姉妹、白薔薇姉妹に対し、面白くない思いで一杯なのが黄薔薇さま。
一人だけで箸を突付きながら、ムスッとした表情を浮かべている。
結局、食べ終わってお茶を飲んでいる時も、二組のイチャイチャは収まらなかった。
「あーもう、そんなに好きあっているのなら、窓から叫んで皆にアピールすれば良いのよ!!」
よっぽど鬱屈していたのか、由乃がワケの分からんことを言い出した。
思わず、顔を見合わせる紅白姉妹。
(フフン、私の気持ちも少しは汲みなさい)
と、ちょっと「してやったり」と思ったのも束の間。
「そうね、それも良いわね」
「ちょっと、志……お姉さま!?」
志摩子は、動揺する妹を尻目に、中庭に面する窓を全開にすると。
「私は〜」
躊躇いも無く、叫び出した。
「乃梨子が好き〜!!」
昼休みのため、中庭で食事していたり、廊下で談笑している生徒達が、志摩子の叫びを聞いて絶句、そして次の瞬間、黄色い悲鳴が響き渡った。
「さ、次は祐巳さんの番ね」
にこやかに勧める志摩子に、祐巳も唖然。
しかし、内心ちょっと恥ずかしい思いの乃梨子も、瞳子に同じ思いをして貰いたいがために祐巳を促し、瞳子も祐巳に叫んで貰いたいのか、ちょっと口を尖らせて、上目遣いで祐巳を見詰めていた。
「わ、分かったわよ。私の気持ちだって、志摩子さんには負けないんだから」
腹を括った祐巳は、開け放された窓に歩み寄った。
紅薔薇さまの姿を見たギャラリーは、期待に満ちた目で彼女を見た。
「私は〜」
恥ずかしさに、次の言葉が続かなくなりそうになったが、妹のためにも、自分の思いを証明するためにも、
「瞳子が好き〜!!!」
渾身の叫びを放った。
先ほどよりも、倍近く増えているギャラリーが、再び黄色い悲鳴を上げた。
「さぁて……」
頬が赤い祐巳の音頭に合わせて、志摩子が、乃梨子が、瞳子が、一斉に由乃を見た。
「な、なによ……」
「次は当然、由乃さんの番だよね?」
「そうね」
「そうですね」
「そうですわ」
「どうしてそうなるのよっ!?」
思わず由乃はうろたえた。
しかし、微笑む四人の無言のプレッシャーは凄まじく、これには流石の由乃も逆らえない。
そもそも事の発端は、自分自身の軽挙な発言。
覚悟を決めて振り向いた由乃は、例の窓に歩み寄った。
『キャー♪』
更に増えたギャラリーが、由乃の姿にどよめいた。
中庭のみならず、校舎各階の窓も鈴生りだ。
なにせ、白薔薇さま、紅薔薇さまと続いたのだから、次は黄薔薇さまが出て来るだろうと判断するのは簡単なことだ。
一瞬怯んだ黄薔薇さま。
だが、ここで逃げを打っては、薔薇さまの名が廃る。
すぅ、と一回深呼吸。
そして、
「私は、菜々が好き〜〜〜!!!」
由乃の叫びに、三度ギャラリーの悲鳴が轟く。
その時。
「私も〜」
ギャラリーの歓声を遥かに上回る声量で、割り込む声があった。
「由乃さまが好き〜〜〜〜!!!!」
由乃の真正面の窓には、妹の菜々が立っていて。
そして、満面の笑みを浮かべて、彼女に手を振っていた。
『うぉー!!!!』
まるで、甲子園球場の阪神ファンの様な歓声が、リリアンを包んだ。
これ以降、窓を隔てて声を掛け合う姉妹の姿が、増えたとか増えなかったとか。