【3093】 一言で言い続ければ  (朝生行幸 2009-11-19 20:52:34)


「ワッハッハー、なかなか楽しい合宿だったな」
「そうだな」
 呵呵大笑している敦賀学園麻雀部元部長蒲原智美に相槌を打ったのは、同部所属の加治木ゆみ。
 県予選決勝で争った清澄高校から、他の二校を含めた四校合同合宿のお誘いを受け、全工程を終えて、今は帰宅の真っ最中だ。
 人もまばらな電車の中、疲れているのか、新部長の津山睦月と一年部員の妹尾香織は、互いにもたれ合いながら寝息を立てていた。
「一年と二年には、良い体験になったな」
「三年にとっては、いい思い出になったと言うことだ」
 なんとなく感傷にふけっていると。
「そんなこと、言って欲しく無いっす!」
 二人に、と言うよりも、ゆみに噛み付く部員が一人。
 ゆみに対し、崇拝、いや恋愛に近い感情を持っている一年生の東横桃子。
 あまりの影の薄さから、『ステルスモモ』の異名を持つ部のルーキー。
 彼女は、その存在感の無さを利用した、牌をも巻き込む隠蔽能力を持っている。
 真剣な表情でゆみを見つめる桃子と、困惑の表情を浮かべるゆみに挟まれて、智美は「あっちゃー」ってな顔をしていた。
 寝ていた睦月と香織まで、二人に注視している有様。
「あー、えっとさぁ? それはともかく……」
 慌てて話を逸らす智美。
「そ、そういやモモってさぁ」
「何っすか?」
 ホツとした表情のゆみには気付かず、智美に視線を移す桃子。
「対戦相手にいろいろニックネームを付けてたなぁ」
「そうっすよ」
 二年生の睦月に対しても、『むっちゃん先輩』と呼んでいた桃子のことだ、他校の生徒なら、ある意味尚更だろう。
「確か、清澄の原村和は……」
「おっぱいさんっす」
「大将の宮永って娘には……」
「嶺上(りんしゃん)さんっすね」
「じゃぁ清澄の部長は?」
「悪待ちさんっす」
「片岡って娘は……」
「東場(とんば)さんっすね」
「それじゃ染谷さんは」
「メガネさんっす」
「それは普通だなぁ」

「じゃぁ、風越のキャプテンは?」
「片目さんっす」
「池田は?」
「ニャン娘さんっすよ」
「深堀さんは……」
「麻呂さんっす」
「文堂さんは」
「糸目さんっすね」
「じゃぁ、吉留さんは?」
「メガネさんっす」
「またかよ」

「龍門渕の透華さんは?」
「高飛車さんっす」
「井上って人は……」
「オレオレさんっすね」
「天江衣は?」
「海底(ハイテイ)さんっすよ」
「沢村さんは?」
「メガネさんっす」
「眼鏡はみんなメガネかっ!?」

 あまりにも安直なニックネーミングに、流石の智美も疲れた顔で苦笑い。
「おっと、一人忘れてたな。龍門渕のえっと、国広さんは?」
「お星さんっす」
『殺すなよ!?』
 車内に、ツッコミが一斉に響いた。


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