桂さんの勇者の話を描いていたのですが、ほんと、すみませんm(_ _)m
いつも通り、ネタバレと宣伝の嵐です。
薔薇の館。
「お姉さまっ!」
瞳子がビスケットの扉を乱暴に開いた。
「はいっ!?」
祐巳が慌てて振り返る。
「どうしたのよ、瞳子ちゃん」
由乃がびっくりして聞く。
「『マリア様がみてる』の新刊が出るんです!」
「おおおっ!!」
その場にいた全員が声を上げる。
「ごきげんよう。そこで一緒になって」
ビスケットの扉を開けて志摩子と菜々が入ってくる。
「あら、みんなどうしたの? 今日は勇者の桂さんが典さんと対戦するんじゃなかったの?」
「『マリア様がみてる』の新刊の告知が『まんが王倶楽部』に上がってたんです」
瞳子が答える。
「まあ……」
志摩子は嬉しそうに微笑んだ。
「桂さんの話の続きを書いてる場合じゃないわよ。新刊よ、新刊。桂さんはあと、あと」
桂さん、涙目である。
全員席が席について、お茶がいきわたる。
「それでは、今回は新刊についての話題です。まず、瞳子から」
祐巳に振られ、瞳子が話し始める。
「『まんが王倶楽部』によると、新刊は2009年12月25日、一部地域で異なりますが、1月の新刊ラインナップに入る模様です。タイトルは『マリア様がみてる マリア様がみてる 私の巣』」
「待って、『マリア様がみてる マリア様がみてる 私の巣』って、マリア様がみてるが2回入ってるけど、それでいいの?」
志摩子が確認する。
「私もおや? とは思うんですが、とりあえず、コピーしてきたとおりです」
「この件は、後に修正されるかもしれませんが、とりあえず、『私の巣』でいいんじゃないでしょうか?」
乃梨子の言葉に皆、頷く。
「『私の巣』は『リトル ホラーズ』に入らなかった短編で、同じように未収録の短編は『昨日の敵』があります。また短編集で来るのか、それとも、短編を焼き直して『チェリーブロッサム』パターンで来るのか、展開が読めませんね」
瞳子が考えるように言う。
「でも、そろそろマリア祭だよ。もしかして」
「もしかして」
「メンバーが増える?」
口に出して言う事で全員がドキリとする。
「お、落ち着きましょう」
立った、と思ったら、座って志摩子が言う。
「落ち着いてないのは志摩子さんでしょう」
祐巳が震える手で紅茶の入ったカップを持って言う。
神妙な表情になる瞳子と乃梨子。
「何を慌ててるのよ、今さら。『リトル ホラーズ』以降、続いたって事はこうなる事もあるってことでしょう?」
由乃がたしなめる。
「私にとっては同学年の人物が……」
ときめきながら菜々が呟く。
「どんな新キャラが出てくるんでしょうね?」
「うーん」
全員が考え込む。
「今までの傾向をおさらいしてみましょう。何かヒントがあるかもしれません」
乃梨子の言葉に全員が頷く。
「では、まずは……次に動きがありそうな白薔薇ファミリーから」
「ええっ!?」
由乃の言葉に志摩子が飛びあがらんばかりに反応する。
「どうしたの、志摩子さん」
「な、何でもないわ。続けて」
「白薔薇のパターンはなんといっても『桜の木の下で初見殺し発動』よね。『片手だけつないで』の聖志摩、『チェリーブロッサム』の志摩乃梨など見事にこのパターン。また、ミッシングリング扱いの久保栞さんもお聖堂で初見殺しを発動させているから、白薔薇にとっては『初見殺し』が鍵になる。これ、テストにでるからね」
はあい、と返事をする菜々とは対照的にがっくりと志摩子が落ち込む。
「『初見殺し』って、人をなんだと思ってるわけ?」
「でも、それって志摩子さんだけのパターンかもしれないよ? 乃梨子ちゃんが『初見殺し』使ったの見た事ある?」
祐巳が制する。
「『ロザリオの滴』での無愛想で反抗的な新入生っていうちょっとマイナス気味の第一印象を思い出してよ。乃梨子ちゃんは『初見殺し』を会得してないよ」
「そうね。『チェリーブロッサム』での第一印象は『新入生代表として挨拶してたけど、誰?』だものね。でも、地味で微妙な感じだからこそ、いざって時の援護射撃がクリティカルヒットするのよ。『大きな扉 小さな鍵』は神だったけど、普段はただの白薔薇さま萌えの仏像マニアだし」
祐巳と瞳子が言う。
「随分と言ってくれるじゃないの」
乃梨子がムッとして言い返す。
「白薔薇には『私はみんなとは違うと思いこむ子』、という共通点があるんです。静さまも栞さまもそれがなかったから白薔薇じゃないんです。また、『白き花びら』で聖さまも『仏教寺院も嫌いではなかった(中略)宗教がらみの建築物が好きなのかも知れない』とおっしゃってるので宗教関係も見逃せない共通点です」
「……それは、『銀杏の中の桜』から書かれたから、後付け的に作られた感じがしないでもないけど」
でも、納得というように祐巳が頷く。
「でも、そう言われてみればそういう気もしてきました」
菜々が頷く。
「じゃあ、乃梨子の妹は『宗教に関係があってみんなとはちょっと違うと思っている子』?」
瞳子が言う。
「やっぱり仏教関係かな?」
祐巳が呟く。
「仏教系の学校に通ってたとか?」
「桜は関係あるかな?」
「で、みんなとは違う感じ?」
「……お地蔵さん?」
「それはこのSSの作者が過去に書いた話でしょう?」
嫌な沈黙があたりを支配した。
暇な人は【No:2927】を読んでください。
「気を取り直して、紅薔薇のおさらいにいきましょう」
「って、言ってもうちは共通点が少なくて」
祐巳が笑う。
「いやいや。パターン化はしているわ。蓉子さま、祥子さま、祐巳さん、瞳子ちゃんと並べると『タヌ・キネンシス』系と『ロサ・キツネンシス』系が交互に来てるのよ」
それまで沈黙していた志摩子が言う。
「なんですか、それ?」
瞳子が怪訝そうに聞く。
「『タヌ・キネンシス』はお茶目な庶民派、『ロサ・キツネンシス』系はツンデレお嬢さまよ」
「でも、蓉子さまのお姉さまはツンデレ系ではなかったような気がするわ」
由乃が言う。
「うーん、逆指名、もしくは、それらしく見えるというのはどうですか?」
菜々が言う。
「逆指名?」
今度は由乃が聞く。
「『クリスクロス』で瞳子さまが『私を、祐巳さまの妹にしていただけませんか』って祐巳さまに、『無印』で祐巳さまが温室の中で『私にロザリオをください』って祥子さまに、『Answer』で祥子さまが『私、習い事をすべて辞めて参りました』って蓉子さまに言うじゃないですか」
「それを言うなら、乃梨子ちゃんの『そのロザリオ、私の首にかけるの』はどうなのよ? それよりも一回断られて逆転がパターン化してるとは思わない?」
「思いません! させません!」
大きな声で祐巳が由乃の仮説を打ち消す。
「あの、紅薔薇にははっきりとした共通点がありますけど」
瞳子が言う。
「何?」
他の全員が聞き返す。
「『優お兄さまの赤い車に乗る』、です。『パラソルをさして』で蓉子さままで乗ってます」
「直前の『レイニーブルー』と合わせるとあの時点で紅薔薇全員が柏木さんの酷い運転を経験済みなんだよね」
引きつった表情で祐巳が言う。
「最近だいぶマシになってきましたけどね」
ふう、と瞳子が息をつく。
「じゃあ、瞳子の妹もあの真っ赤な車に乗るんだ」
「可能性はありますね」
「ああ、駄目だ」
由乃が頭を抱える。
「どうしたの?」
「脳内で、豆腐屋さんの車に乗った聖さまが赤い車の横を通って行ったわ」
「由乃さん、『頭文字D』の見すぎだよ」
また、微妙な空気が流れてしまった。
「黄薔薇は──」
「中等部」
「サムライ」
ほぼ同時に志摩子と祐巳が答える。
「何も言ってないじゃないの」
「『黄色い糸』で令さまは『中等部に秘密のある下級生』だったし、由乃さんは中等部の時点ですでに令さまの妹になるって内定していたし、菜々ちゃんは本当に中等部に通っている間に妹にされちゃうし。一年生でのブゥトンがどれだけ苦労する事か」
志摩子が遠い目をして言う。
「サムライっていうのは?」
「江利子さまは『傘張り浪人の妻』で令さまと菜々ちゃんは『剣士』。由乃さんは『なんちゃって侍』」
祐巳が自信たっぷりに言うと由乃以外の全員が頷く。
「なんか、すごく引っかかるんですけど」
「まあ、お姉さま。黄薔薇は動きがありませんから。今年度の空気薔薇にならないよう一生懸命トラブルを起こしまくりましょう。そうだ、もう一回『黄薔薇革命』なんていかがですか?」
「こらあっ!!」
【しばらくお待ちください】
あざだらけになった黄薔薇姉妹、ようやく片付け終わった感のある部屋の、かつての調度品にして現在の粗大ゴミが何かを語っている。
「もう、今日の所はこの辺でいいわね。短編の『私の巣』が入るって事で、後は情報をゲットしたらすすめましょう」
やつれた志摩子が言う。
「その前に、気になる事があるのですが」
オデコにバンテージを貼った乃梨子が言う。
「何? 乃梨子ちゃん」
コントのように目の周りを青くした祐巳が聞く。
「写真部の内縁の姉妹です。あの二人がそろそろ動くんじゃないでしょうか?」
「まあ、笙子さんもいろいろ思うところがあるかもしれませんわね」
縦ロールの片方が無残に伸びきった瞳子が言う。
「男前がフワフワと姉妹になる。『片手だけつないで』の時は祥子さまがしゃしゃり出る格好になって慌てた聖さまが志摩子さんを連れ出して押し倒してたけど」
鼻に詰め物をした由乃が詰め物を取って鼻血が止まったかどうか確認しながら言う。
「本編で押し倒されてはいないわ。押し倒されたのは皆さんの妄想の中だから」
ひきつって志摩子が答える。
「っと、失礼。とにかく、あの二人にも妹のいない上級生がしゃしゃり出るくらいの事がないとくっついたりしないでしょうね」
紅茶を口に含み、いたた、と由乃はつぶやく。
「それについては、秘策を思いつきました」
と、天井から声がする。
「とうっ!」
天井から笙子が降ってきて、べちゃっと着地に失敗する。
「うわっ!」
「落ちたよ、この子」
「ドジっ子忍者かっ!」
そう言いながら、全員で笙子を介抱し、手当てしてやる。
落ち着いてから笙子が言った。
「すみません、盗撮スポットがここしか思いつかなかったもので。あ、先程の『山百合会†無双』は怖くてシャッターを押せなかったので安心してください」
菜々が素早く笙子のデジカメを取り上げて、メモリーを確認して返す。
「まろうことなく(まごうことなくと言いたい)蔦子さまオンリーですね。ところで、しさく(秘策と言いたい)ってなんですか?」
口元のバンテージが引きつってうまくしゃべれない菜々が聞く。
「私が『バカ野郎』が口癖の妹を作ればいいんです! そうすれば、蔦子さまは自動的に長女になるんです!」
「……それは、中の人ネタで『みなみけ』という三姉妹の長女が蔦子さんの中の人で、次女が笙子ちゃんの中の人で、三女が『バカ野郎』が口癖って奴でしょう」
「『ばか』は『令ちゃんのばか』だけで十分よ」
「そんな事じゃあ、いつまでも姉妹になれないよ」
「痛い子」を見る目で山百合会メンバーは笙子を見る。
「ええっ、ダメですか!? 名案だと思ったのに……」
笙子は落ち込んだ。
「そんなことするんだったら『男前を落としたふわふわ』がここにいるんだから、『初見殺し』を伝授してもらいなさいよ。2回も成功してるのよ」
由乃が志摩子の肩を抱くようにして笙子の前に差し出す。
「ちょ、ちょっと。由乃さん」
「マリみては言った事ややられた事がそっくり返ってくるパターンが多いのよ。『佐藤聖さまの妹だわね。同じ迷路にはまっちゃって』って言ってた人がその通りの軌跡をたどってるんだから、落とした本人に弟子入りしちゃいなさい」
「弟子なんかとったって、教える事なんてないわよ」
「わかりました、私も白薔薇さまを見習って頑張ります!」
力強く笙子は言った。
「な、何を見習うって言うの? あっ、笙子ちゃん!?」
笙子はスキップして去って行った。
──ゴロゴロゴロゴロ、どさっ!
「あれ、階段から落ちたよね」
「落ちましたね」
「落ちたわね」
微妙な空気のままその日は解散となった。
そして翌日。事件が起きた。
「ごきげんよう、笙子ちゃん」
シャッターを切りながら蔦子が笙子に挨拶する。
「ああ、蔦子さまが大ピンチ」
「は? 私、ピンチになってないけど?」
「こんな時は秘密の呪文『ロサ・ロサ・カメ・カメ・ロサカメラ〜』魔法少女笙子にへんし〜ん!」
蔦子はきっちり10秒かたまった。
そして、言った。
「笙子ちゃん、とりあえず、保健室に行こうか」
「あ、あ、あ、あれえ? おかしい! おかしい!」
「いや、おかしいのは笙子ちゃんでしょう?」
蔦子が手を取って歩く。
翌日のリリアンかわら版の号外に「武嶋蔦子嬢、後輩に魔法少女のコスプレ強要疑惑」の記事が載り、ひと悶着が起こるのだが、それは別の話。