【3104】 ショッキングでしたリトルホラーズ  (bqex 2009-12-05 23:27:38)


※今回は『リトルホラーズ』を始め『マリア様がみてる』の原作のネタバレが多々存在します。
※今回は花ではない方の百合的な描写がありますが、百合を主題としたものではありません。
 しかし、百合的な描写に嫌悪感を覚える方はご注意ください。

もしも桂さんが勇者だったら
 最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】

【ここまでのあらすじ】
 桂は勇者として、蔦子、真美、ちさととともにリリアンを救うため山百合会と戦う事になった。
 勇者パーティーでしか使えない神秘の力『並薔薇ポイント』を増量させる山村先生の『並薔薇チャンス』に挑戦し、典を倒した桂。しかし、同じころ薔薇の館では笙子、日出実、瑞絵が薔薇さまに指令を受けていた。



 桂、蔦子、真美、ちさとは保健室に集合した。

「結局前回、演劇部の全員を倒しちゃったからドロップ品が結構おいしかったよね」

「換金したら……元々の所持金を含めて62005G!!」

「これはおいしい。プレミアアイテムが買える」

「プレミアアイテム?」

 桂が聞く。

「特殊効果のついたアイテムを総称して『プレミアアイテム』って呼んでるだけで、普通に売買されているものが多いわね。たまに本当にレアな非売品もあるけど」

「ええと……」

 桂が具体例を尋ねる。

「例えば、前回獲得した『ファイアベスト』とか、攻撃するだけで毒化できる『呪いのナイフ』とか」

「あの、私、『ポイズン』持ってるのだけど」

 『ポイズン』とはMP6を消費して毒化するスキルで、ダメージは与えられない。

「……」

「……」

「と、ともかくレベルアップしましょうか」

「そろそろクラスチェンジもしたいわね」

「クラスチェンジ?」

 また桂が聞く。

「クラスを変える事よ。初期で選べるクラスが5つある事は前に触れたわね」

 スレイヤー……白兵攻撃が得意
 ガンマン……射撃攻撃が得意
 シーフ……探索が得意
 プリースト……回復と防御が得意
 メイジ……魔法が得意

 の5種類である。

「ええ」

「これを変えることを『クラスチェンジ』というのよ。変えられるクラスはこの5つの他にもあるのよ」

「どんな?」

「まず、『イリュージョニスト』。これは補助系のスキルのスペシャリストね。水奏さんが使ってた『レイニーブルー』は人気のあるスキルね」

「あれは強力よね」

 イリュージョニストのスキルに苦しめられた事を思い出して桂は頷く。

「欠点は『イリュージョニスト』のスキルはMPを大量に消費する事。また、直接ダメージを与えられるスキルは『クロスオーバー』ぐらいなので直接攻撃をする局面では組み合わせるクラスによってはする事がなくなる場合があるわ。でも、補助担当ならぜひ経由したいクラスよね」

 桂は頷く。

「次に『サモナー』。典さんは瞳子ちゃんみたいな従者を召喚してたけど、実際はそれ以外も召喚できるわ。欠点はスキル枠を消費しないと満足に戦えないから『クラスチェンジ』直後はかなり苦労するはずよ」

「そうなんだ。なかなか大変なのね」

「『モンク』も対戦した事があったわよね。あれは武器に頼らない白兵攻撃スキルだけじゃなくて、HP上昇スキルやMP上昇スキルがあるからそれだけ取って通過する人が多いわね。肝心の白兵攻撃はイリュージョニストに匹敵するMP大量消費スキルばかりで、気をつけてスキルを取らないとすぐにMP切れを起こすわ」

「あと、モンクのスキル名は何故か仏の名前が多いわね」

 その補足情報を聞いて某仏像マニアがよぎったが、今は関係なさそうなので桂は受け流した。

「それから『アルケミスト』。このクラスはアイテムに作用するスキルが揃っているわ。アイテムをその場で作って使う事も出来るスキルもあるの。でも、最大の特徴はスキルを使う際に払うコストをMPではなく、Gで代用可能だという事ね。つまり、MPがなくなったら所持金を払ってもスキルが使えるのよ」

「お金持ちがなりそうなクラスね」

 某財閥令嬢がよぎったが、これも受け流す。

「あとは『カマドウマ』かな」

「待って。それ、おかしくない?」

 桂は突っ込んだ。

「前にクラスっていうのは『役割』を表すっていってたけど、『カマドウマ』の役割って何?」

「……忌み嫌われる?」

 考えた末に真美が呟いた。

「意味わかんないし。そもそもそんなクラス選択してる人いるわけ?」

 桂であれば絶対に選択しないクラスである。

「一応リリアンエディションルールが導入される前からあるクラスなのよ」

 蔦子がフォローするように言う。

「百歩譲って『カマドウマ』があるとして、『カマドウマ』の代表スキルって、どんなのよ?」

「え〜と……『うざっ!』はこのスキル習得者が戦闘フィールドに存在していると、他の戦闘に参加している者の達成値がSL分低下する。『きもっ!』はスキル習得者以外の精神値を下げられる。それから……」

「もういい。それって味方も弱体化する一人勝ちクラスじゃない」

 スキル表を読み上げるちさとを桂はさえぎった。

「それはないね。『退治される』は現在のHP×SLのダメージを範囲(指名可能)に与える。ただし、スキル使用者は戦闘不能になる。っていうのもあるし」

「そんなのいらない」

 桂は断固拒否する。

「まあ、『カマドウマ』を取るかどうかは置いておいて、桂さんはこの先どういう路線でいくつもり?」

 蔦子が聞く。

「路線?」

「戦闘に積極的に参加する方向でいくのか、補助術を使うのか、シーフを極めるのもいいし。隠密状態になるスキルと隠密行動からの攻撃スキルをとって『ステルス桂の独壇場』をここにっていうのは?」

「いい加減にしなさい」

 桂は突っ込んだ。

「そう? でも、戦闘中に隠密状態になると攻撃当たらないから、取った方がいいんじゃない? 狙われる確率高いし」

「……考えさせて」

 こうして四人はレベルアップを済ませた。


《現在の状況》

名前:○○桂
レベル:17/クラス:シーフ
HP:57/MP:47/筋力:9/器用:15/敏捷:14/精神:4/知力:3/並薔薇:7
スキル:ディテクト(SL1)情報収集成功率UP/ポイズン(消費MP6,SL1)毒を与える/シックスセンス(SL1)エリア探知可/アンロック(SL1)鍵開け/リムーブドトラップ(SL1)トラップ解除/スティール(消費MP3,SL1)何かを奪う/お蔵入りパン事件(消費MP12,SL1,リリアン)スキル取り消す。1日1回限定。/チョコレートコート(消費MP10,SL1,リリアン)スキルの対象時入れ替わり。1日1回限定。
LEVEL UP!
アヴォイドダンス(SL8)回避率UP
NEW!
マスターハンド(消費MP5,SL1)MPを消費するシーフのスキルの効果に+器用値の修正を得られる。SLは1より上昇させられない。
補足:ほくほくのパンの絵が「上手」ではなく「美味しそう」に仕上がる。
装備:
ラビットハチェット(攻撃力+7,射撃攻撃・白兵攻撃両方可能。プレミア)命中率に装備者の敏捷値をプラス。
バックラー(物理防御力+2)

名前:武嶋蔦子
レベル:17/クラス:メイジ→モンク
HP:33/MP:91/筋力:5/器用:1/敏捷:7/精神:12/知力:20/並薔薇:6
スキル:
(メイジ)
ウィンドスラッシュ(消費MP3,SL1)風属性攻撃魔法/ブラスト(消費MP5,SL1)魔法を範囲効果に変える/ファイアウェポン(消費MP6,SL1)火属性武器強化魔法効果を増大/ブライトアロー(消費MP3,SL1)光属性攻撃魔法/フライト(消費MP5,SL1)/四つ葉のクローバー(消費MP10,SL1,リリアン)薔薇さま専用スキル使用可。
LEVEL UP!
マジックサークル(消費MP4,SL8)
NEW!
ウィズダム(消費MP6,SL1)何らかの判定を代わりに知力で行う。SLは1より上昇させられない。
補足:頭の中で瞬時にいろいろな計算をしながら動いているんじゃないだろうか、と思うような足さばき。が、可能になる。
(モンク)
NEW!
文殊(消費MP0,SL2)MPをSL×10プラスする。(計算済み)
補足:最悪の体調でも大学合格……いえ、知力値は上がりませんて(笑)
装備:
使い捨てカメラ(光属性魔法+1)
ファイアベスト(防御力+4,防御属性火)

名前:山口真美
レベル:17/クラス:プリースト
HP:52/MP:52/筋力:6/器用:8/敏捷:8/精神:18/知力:5/並薔薇:6
スキル:キュア(SL1)状態異常解除/プロテクト(消費MP2,SL8)ダメージを減らす/号外(消費MP12,SL1,リリアン)行動終了後、即座に行動させられる。1日1回限定。
LEVEL UP!
ヒール(消費MP2,SL6)HP回復
NEW!
レイズ(消費MP10,SL1)単体の対象がHP0、戦闘不能になった場合、復活させる事が出来る。SLは1より上昇させられない。
補足:土砂降りの中撃沈しても、復活する。
装備:
アイアンクロー(白兵攻撃力+3)
ラウンドシールド(物理防御力+8)

名前:田沼ちさと
レベル:17/クラス:スレイヤー
HP:78/MP:26/筋力:16/器用:13/敏捷:10/精神:5/知力:1/並薔薇:7
スキル:バーサーカー(消費MP5,SL1)白兵攻撃の対象を範囲に変える/ライバルがいいの(消費MP9,SL1,リリアン)指名者へのダメージ倍
LEVEL UP!
コンバットマスター(SL8)命中率UP
スマッシュ(消費MP4,SL7)白兵攻撃スキル
装備:
マジックソード(白兵攻撃力+5,プレミア)指定のスキルのコストを-2する。ただし、最低MP1Pは消費する。(指定スキル:スマッシュ)
バックラー(物理防御力+2)

所持金:32115G
アイテム:焼きそばパン(HP30回復)×10/コーヒー牛乳(MP30回復)×10/マスタード・タラモ・サラダ・サンド(蘇生薬)×5/転移の護符(ダンジョン脱出アイテム。使い捨て)/黄色の鍵/白薔薇のシール(1枚)


「結局クラスチェンジしたのは蔦子さんだけね」

「ちさとさんの攻撃力が半減してしまったわね」

「うん。MPコストを下げて乱発する作戦にでてみたの」

 果たして、吉と出るか、凶と出るか。

「さて、今日はいよいよクラブハウスを攻略ね」

「うまくいけばレベル20を突破できるはず」

「ちょっと待った。突破したらあの罰ゲームみたいのをもう一回やるのよね?」

 桂は【No:3085】の並薔薇チャンスの事を思い出す。

「もう、仕方がないでしょう? 勇者税だと思って諦めようよ」

「……なんで、悪い事してないのに罰ゲームしなくちゃいけないのかしらね?」

「さあ?」

 全員が渋い顔になる。

「まあ、何はともあれクラブハウスにいきましょう。クラブハウス」

 四人はクラブハウスに移動した。

「では、『トラップ探知』」

 トラップは順調に発見・解除され桂たちは中に入って探索を始める。
 クラブハウスにはすべての部活動の部室があるわけではない。また、通常は教室などを使っている文化部の事務所や荷物置き場のように使われている事もある。(『涼風さつさつ』『大きな扉小さな鍵』参照)
 それに、今日が活動日ではない部もあった。


 囲碁部。
 部員が襲いかかってきた。

「『サモン・キマイラ』!」

「火属性の敵なら任せて!」

 蔦子の風属性攻撃スキル『ウィンドスラッシュ』がクリティカルに決まり勝利。

《ゲットしたアイテム》
パンダの着ぐるみ(売れば3200G)碁石同様白黒だから?


 文芸部。
 部員が襲いかかってきた。

「『毘沙門』で範囲攻撃!」

「全員回避! よし、反撃!」

 途中敵のMP切れをついて畳みかけて勝利。

《ゲットしたアイテム》
阿弥陀様もみてるのSS同人誌(売れば2900G)ただし、買い手がつくかどうかは別。


 漫画研究部。
 部員が襲いかかってきた。

「テストの点に施しを。卒業生のためには薔薇の花を。部活のために竹刀を持ち、悪漢共にはいろいろ制裁を。しかして我ら薔薇さまの列に加わらん。マリア様の名に誓い、すべての不義に鉄槌を!」

 と叫ぶ由乃さんの幻影を。

「クリティカルで回避!」

 したちさとが部員を倒して勝利した。

《ゲットしたアイテム》
資料用漫画(売れば1500G)×3 B○○K○FF(伏字じゃないな)でも売れる。


 演劇部。
 誰もいない。

「『シックスセンス』で部屋の様子を……こ、これは」

《見つけたアイテム》
松平瞳子写真集(限定版)(売れば3800G)武嶋蔦子撮影、福沢祐巳監修、本人のサイン入り。

「これ、あの人のだよね」

「下手にとったら取り返しに来て厄介になことにならない?」

「『だめぽ』ってまた落ち込まれても嫌だし」

「……返そう」

《今回の収穫》
成果なし!


 写真部。

「やっとここまで来た」

「『トラップ探知』……何もないようね。おじゃましまーす」

 四人が部室に入る。

「誰もいないわね」

「活動日じゃないしね」

 蔦子が補足する。

「一応『シックスセンス』……ん?」

《見つけたアイテム》
安いデジカメ(売れば5000G)光属性魔法の効果に+3の修正を与える。

「これは蔦子さんが装備すべきアイテムね」

「あ〜、デジカメはちょっと……私は一眼レフ派で……」

「……って、データのあるカメラとないカメラは別でしょう? 勇者としての活動時間中は装備しなさいよ!」

「……ちっ!」

 渋々蔦子は安いデジカメを装備した。
 その時、部室に入ってくるものがいた。

「ごきげんよう」

 入ってきたのは乃梨子ちゃんだった。

「の、乃梨子ちゃん!?」

「あ、あの、まだ私たちレベル17だけど」

「ふふ。今回の私は引率で、皆さんと戦うのはこのメンバーです。カモン!」

 乃梨子ちゃんの言葉に合わせて笙子ちゃん、日出実ちゃん、それに瑞絵が現れた。
 笙子ちゃんは犬耳、犬シッポ、日出実ちゃんはコアラ耳、コアラシッポ姿だったが、瑞絵は何もつけてはいなかった。

「日出実!」

「瑞絵!」

 真美と同時に桂も妹の名を叫んだ。

「笙子ちゃんまで……」

 蔦子が呟く。

「何故、あなたがここに?」

 桂は尋ねた。

「お姉さまはひどいです。『卒業前小景』を読んでください」

 瑞絵は『マリア様がみてる 卒業前小景』を取りだした。

「そ、それがなんだというの?」

「『お姉さまのラケット』のエピソードの中でお姉さまのお姉さまは、お姉さまの妹をさして『瑞枝』って言ってます! でも、私は『瑞絵』ですっ! お姉さま、はっきりさせてください! 『瑞枝』って、誰なんですかっ!? お姉さまにはもう一人妹がいるんですかっ!!」

 瑞絵は叫んだ。

「何バカなことを言ってるのよ! 私の妹はあなた一人よ!」

 桂は言った。

「じゃあ、お姉さまは私の事を二度も『瑞枝』と呼ぶのをそのままにしたんですかっ!」

「待ちなさい! 私なんか支倉令さまに五回も『由乃』って呼ばれたのよっ! 似ても似つかないのにいっ!! 『瑞絵』と『瑞枝』ならまだマシな方じゃない!」

 ちさとが割って入った。

「ちさとさん、話をややこしくしないでっ!!」

 桂はちさとを制する。

「誰が何と言おうともあなたは私の妹なのよ」

「お姉さま……」

 桂は瑞絵の手を取る。

「瑞絵。姉妹の絆は生半可なものじゃないの。私は過去、『黄薔薇革命ブーム』の時にお姉さまにロザリオを返してしまった事があるのだけど、その時、お姉さまと離れてからもお姉さまの事で頭がいっぱいだったわ。そして、お姉さまはそんな馬鹿な妹の私が頭を下げて『もう一度妹にしてください』って言った時に笑ってこう言って許してくれたの」

「……」

「『馬鹿ね。ロザリオがなきゃ妹じゃないだなんて思うわけ? 妹にしたい子にお姉さまから頂いたロザリオあげたらお姉さまとの縁が切れるなんてことないでしょう? あなたはずっと私の妹よ。この先このロザリオをあなたの未来の妹にあげたって、卒業したってずっとずっとあなたは私の妹よ』って。私も、ずっとずっと瑞絵は私の妹だと思ってる」

 瑞絵はうるっとした目で桂を見つめて手を握り返す。

「お姉さ──」

「そこの二人、恥ずかしい台詞、禁止っ!」

 瑞絵の言葉を遮って真美が言った。

「えええっ!? なんでここでその台詞を言うかなっ!」

 桂が反論する。

「当たり前よ。これはギャグSSだもの。なに、いい話に落ちつけようとしてるわけよ?」

「うう、ひどい……」

 桂、瑞絵とともに涙目である。

「お姉さま、ひどすぎます」

 日出実ちゃんが真美に向かって言う。

「日出実。妹のその格好を何とかしたくて頑張っている姉の私に歯向かおうなんてあなたこそひどいんじゃない? 私たちが山百合会に勝ってもあなた、ずっとそのままの格好させるわよ」

 真美の言葉にうつむいて考えていた日出実ちゃんだったが、意を決したように顔を上げて言った。

「お姉さま。私はお姉さまに歯向かいたくて敵に回ったわけではありません。これはお姉さまの名誉を守るためです」

「何を言っているの?」

 真美が聞き返す。

「そのあたりについては私が解説しましょう」

 乃梨子ちゃんが言った。

「『妹オーディション』で姉妹になったお二人は大した進展もなくバレンタインイベントの日を迎えます。そして、『クリスクロス』で日出実さんからチョコクッキーを受け取った真美さまは、『あなたを探しに』で新聞部の取材と称して日出実さんとデートにこぎつけるのです」

「それは表現にいささか難があるけれど、原作の通りじゃない」

 真美は冷静に言葉を返す。

「その事は『薔薇の花かんむり』での私のバレンタインレポートにもあったでしょう?」

 ちさとも「今さら何?」というように言う。

「ところが、それが真美さまの百合の目覚めだったのです」

 乃梨子ちゃんは言い切った。

「……何を言っているわけ?」

 困惑して真美が聞く。

「証拠は原作にあります。『卒業前小景』52pの真美さまの台詞、『あ、ちなみに日出実が歯医者に行ったのは本当です』。『リトルホラーズ』42pの真美さまの台詞、『そんなところで、時間切れ。実はこれから歯医者なの』……まだわかりませんか?」

「ぜんぜんわかりません」

 乃梨子ちゃんの説明をきっぱり真美は否定する。

「つまり、ここからこういう事が言えます。真美さまは日出実さんにキ×をした。それも虫歯が感染するぐらいのディープなやつを!」

「ばっ……馬鹿なことを言うもんじゃないわよ、乃梨子ちゃん! その理論は『ロザリオの滴』のびしょ濡れになった志摩子さんと乃梨子ちゃんは原作の記述後どうなったのかを補完する十八禁SS並に馬鹿げてるじゃないの!」

 真美は声を荒げた。

「それは妄想ですからどうだっていいんです。でも、真美さまのは原作にある記述ですからね。困るんですよ。『マリア様がみてる』において○スは先代白薔薇さまにのみ許されている行為なのに、そういう事されると」

 ふう、と乃梨子ちゃんはため息をつく。

「それこそ妄想じゃないっ!! 日出実! なんであなたもこんな馬鹿げた意見に付き合ってるわけっ!? 心当たりがないってどうして反論しないのよっ!!」

「……お姉さま、正直におっしゃってください。あの、私がバレンタインの後ぐらいだったと思うのですが、部室で疲れてうたた寝をした事がありましたよね。その時、お姉さまは部室にいらっしゃいましたが、あの時本当に私に何もしなかったんですか?」

 日出実ちゃんはじっと真美を見る。

「何をくだらない! あの時期は忙しくて卒業されたお姉さままでこき使うデスマーチ状態だったから、そんな事する暇なんてないわよ!」

 日出実ちゃんは凄く真美を見てこう言った。

「可愛く無防備な私の寝顔を見ても何も感じないって、私はそんなに魅力がないんですかっ!?」

「日出実ちゃんは真美さんに襲って欲しいんだか、襲って欲しくないんだか……」

 やれやれ、というようにちさとが、日出実ちゃん、と割って入った。

「なんですか?」

「あなたは一つ思い違いをしているわ。『あなたを探しに』で不在者チャンスに当選したのは一年桃組の井川亜実さんだったわね」

「ええ」

「『妹オーディション』であなたの一年生の時のクラスが判明しているけど、それはどのクラスだったっけ?」

「桃組です」

 日出実ちゃんは何を聞かれているのだろう、という顔で答えた。

「おかしいと思わない? 『あなたを探しに』で不在者チャンスで当選した子とあなたが同じクラスなのに、真美さんはあなたに亜実さんに当選したことを知らせるよう命じる事もなく、また、志摩子さんに引き合わせる事も命じていない。同じクラスならば目立つ、目立たないの心配なんてないのに……」

「あ……」

 その場にいた全員が「そういえばそうだよね」という顔になった。

「つまり! 真美さんにとって日出実ちゃんは普段は忘れているぐらいどうでもいい存在で、大した存在ではないって事よ」

 コントであればガーンという効果音とともに岩が降ってくるぐらいの衝撃に、日出実ちゃんはよろめいた。

「わ、私はそれっぽっちの存在だったなんて……」

「ごごごご誤解よっ!! ちさとさんも一体どっちの味方なのよっ!!」

 真美は吠えるようにちさとに向かっていた。

「敵を倒すための策略じゃない。なんで真美さんまで狼狽してるわけ?」

 ちさとはさらりと言う。
 姉妹というものを持たないと姉妹という関係の持つ微妙ないろいろがわからないのだろうか。
 とにかく大変な事になってしまった。

「もういいです! こうなったらお姉さまを倒して下克上でお姉さまに謝ってもらいます!!」

 日出実ちゃんは完全に自棄になっていた。

「戦闘ですか。では、笙子さんと瑞絵さんもよろしく」

 乃梨子ちゃんが促す。

「……白薔薇のつぼみ。ごめんなさい、私、やっぱりお姉さまとは戦えません」

 瑞絵は拒否した。

「いざお姉さまの顔を見たら戦えなくなったとでも? まあ、そんな時はこうするまでです。スキル『白き花びら』発動! これであなたは私の言う事を聞くしかなくなる。瑞絵さん、お姉さまである桂さまと戦ってください」

「……わかりました……」

「瑞絵!?」

 瑞絵は乃梨子ちゃんに操られてしまったようだった。
 こくりと頷くと、日出実ちゃんに従うように武器を構えた。

「笙子ちゃんも、戦う気?」

 蔦子が笙子に聞く。

「……心当たりがないとでも?」

 笙子ちゃんは犬耳、犬シッポを揺らしながらそう答えた。

「蔦子さん! こうなったら『ラス・テル マ・スキル マギステル』なんとかでやっつけてよ!」

 真美はパニックに陥った。

「無理! 『麻帆良学園』エディションは今回対象外」

 あるのか。

「それに、そのネタをやると白薔薇さまに心の中まで筒抜けになるじゃない」

 中の人ネタである。

「犬耳犬シッポって、そのためのフラグじゃなかったのかいっ!」

 真美が突っ込む。

「これはとあるお方の趣味です。あ、瑞絵さんにも差し上げないと」

 乃梨子ちゃんはそう言うと、瑞絵に虎耳、虎シッポをつけた。

「可愛いですよ。瑞絵さん。さあ、お姉さまに全力で攻撃してください」

「待って。私の方が俊敏値が高いから先よ」

 笙子ちゃんが言う。

「『ウァレンティーヌスの悪戯』発動! 対象は真美さま!」

「それって精神値を基準に『抵抗』に成功するとトラップにかかっていた事になるスキルでしょう? 私の精神値は高いわよ」

 真美は笑う。

「使用タイミングの異なるスキルを使うスキル『不在者チャンス』で『ウィズダム』をお姉さまに! これでお姉さまは知力で『ウァレンティーヌスの悪戯』に抵抗してもらいます!!」

 日出実ちゃんのスキルに真美さんの顔色が変わる。

「ひ、日出実っ!」

 真美、抵抗に失敗する。

「発動トラップは……『ウサギ小屋』!」

「何じゃそりゃ!?」

「いや、ある日突然【No:3085】下コメに現れたのですが、食らうと『ウサギ小屋の中に入って「ラ〜ラ〜ル〜・・・どうせ私は地味キャラだし・・・」と言ってたそがれる』らしいです。データ的には『3ターンくらい行動不能にする』らしいです」

 日出実は忠実に読み上げる。

「それ、技って書いてあるし! 紅薔薇さま専用じゃないのっ!?」

「でも、これはトラップじゃありませんか? それに、発動してしまいましたし」

 と、いうわけでトラップとして採用してみました。

「トラップなら、『チョコレートコート』で私が代わりに──」

「待って、桂さん。『チョコレートコート』はスキルの対象になった時に入れ替われるスキルであって、トラップの対象時には入れ替われないわ」

「つ、つまり」

「真美さんは食らいっぱなしって事」

「うーん、こうなったら……無抵抗で食らった直後にアイテムの『パンダの着ぐるみ』を使用すれば行動不能状態を解除出来るはず──」

「それについては、こちらを!」






 土曜日の放課後、私の前に現れた瞳子は採用されたという『ウサギ小屋』のデータを持っていた。

「これ、何」

「行動不能スキルです」

「……用意してくれてたんだ。ちょっと待ってて」

 言い置いて私は、校舎一階にある事務室前へと急いだ。

「あ、うp主さん? 行動不能スキルどうなってた? ああ、そうだよね。ううん、そうじゃなくて。ケテルさんが用意してくれたから。うん、うん。ありがとう」

 連載が続いていくということは、行動不能スキルもいずれは登場するわけで、登場するということは、ある程度データ化されているということに外ならない。もちろん、見せ場である紅薔薇戦に使おうと思って『空の段ボール箱』(行動不能スキル)、『Chercher 〜シャルシェ〜』(行動不能解除スキル)、『パンダの着ぐるみ』(行動不能解除アイテム)と用意していた。そのスキルとアイテムは別の効果で使うからケテルさんのをとりあえずトラップとして採用して誤魔化しちゃいなさい、とのお達し。
 電話を切って振り返ると、亡霊のように瞳子が立っていた。

「うわっ」

「……うp主さんも準備されていたんですね」

 まるで「恨めしや」みたいに「行動不能スキル」とつぶやく。どうやら、事情はすっかり呑み込んでしまったようだ。

「大丈夫、大丈夫。このSS、なんでもありだから。とにかく、これはトラップとして採用しよう。せっかく考えてくれたのが無駄になっちゃう」

 行動不能スキルが被ってしまったのはうp主がなかなか投稿しないからネタ切れを心配しての優しさが生んだ事故である。気が合いすぎたと、言い換えてもいい。

 『マーガレットにリボン』……にこんなシーンはない!






「というわけで、『パンダの着ぐるみ』の現在のデータでは行動不能状態は解除できません」

「えええっ!!」

「トラップが発動した今となっては『ウァレンティーヌスの悪戯』を『お蔵入りパン事件』で取り消すのも不可能です」

「しまったっ!!」

「更に、今回は長くなっちゃったのでここで中断します」

「少年誌の連載みたいなことするなあっ!!」



 バトル中ですが、中断します。
 なお、次回起動時に中断箇所よりリロードしない場合は、セーブしていないデータは失われます。
 よろしいですか?
->仕方がないなあ【No:3114】
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【お知らせ】

 『忌まわしき黄金の箱』に入れたい罰ゲーム……もとい、試練や『スキル』『トラップ』『アイテム』などがあったら遠慮なく書き込んでください。
 ただし、うp主の気まぐれにより希望にそぐわない使われ方をする場合もあるかもしれませんので、予めご了承ください。


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