「入学おめでとう、菜々」
「ありがとうございます」
「早速だけど、私の妹になってくれる?」「…よろこんで」
よっし。見たか、凸め。
「だけど、菜々。少し待ってもらいたいの。高校生なら約束を守んなきゃいけないからね」
「だめだったよ、由乃」
「何がよ」
「お姉さま、どこにいるのか、誰も知らないって」
どういうことよ、令ちゃん。ちゃんと聞いたの?」
「お家のかたにも、ご友人にもきいたんだよ」
「娘の居場所もわからないなんて、どんな家よ」「ごめん」
「令ちゃんのことなんて何もいってないでしょ」
まったく、いらんときに現れるかと思えばこういうときだけ…。
待てよ。わざとか。逃げたのか、鳥居江利子。
だとしたら、周りには当然口止めしてるだろう。どうしたもんか。
「ごきげんよう、由乃さま。どうでした?」
「うん。もうちょっと」
どうするか。もともと口からでまかせだし、無視して済ませるか?しかし、江利子さまのことだ、後から現れて楽しみにしてたとか何とかいいやがるに違いない。
「由乃さま?」
とにかく、何を考えてるのか。あの
「…バカお凸」
「…今の、わたしのことですか」
「え、何?」
「ちょっと、うるさくしすぎたんですね。おとなしく待ってることにします」
ちょっと、何のこと。わたし何ていったっけ?
「ごきげんよう」
え、ちょっと。待って。おーい。
しまった、怒らせてしまった。でもあの娘があんなに怒るなんて、お凸気にしてたのか。やっぱり女の子だね。
いかん、そうじゃなくて。一刻も早く江利子さまを見つけて儀式をしなければならないってことだ。
江利子さまの居場所を知ってそうなのは、1家族、2山之辺さん、3一昨年の薔薇さま方、くらいしか思いつかない。こういうときこそあの娘が頼りになるのに。
わたしが聞けるのは3番だけか。祐巳さんに頭を下げて蓉子さまに問い合わせてもらおう。そう考え受話器をとったとき、もう1人聞ける相手がいることを思い出した。
「もしもし、由乃ちゃん?」山之辺さんの娘、寺子ちゃんだ。
「ちょっと、聞きたいんだけど」
「由乃ちゃん、わたし小学生になったんだよ」おっと
「ごめん。でも年上をちゃんづけする娘におめでとうを言いたくないよね」
「あははは」
「まあ、入学おめでとう。しっかりがんばるように」「もう、何よそれ」
「それで、お凸がどこいるか探してるんだけど」
「また何かやられたの?しっかりしてよ」「うるさいな」
「きっとパパといると思うよ。パパが『しりょうのせいり』したいっていったら二人で出かけてったんだ」
「で、どこへ」「わかんない」
「むう、そうか。ありがと、寺子」
「菜々、話があるんだけど」「はい、由乃さま」
意を決して話しかけると、さばさばしたもんである。切り替えが早いというか。
「そういうわけで、江利子さまがその山之辺さんと一緒にいるらしいことまでは分かったのよ」
「そのかたは、花寺学院の先生をされてるんでしたね」「うん」
「でしたら、連絡先を学校には伝えてあるのではないでしょうか。その学校にコネでもあれば、あるいは」
「そうか。大丈夫、コネなら申し分ないのがあるわよ。…もしもし、祐巳さん?」
「あ、由乃さん。蓉子さまはね」
「ああ、もういいのよ、それは」
「そんなあ」「由乃さま、一応聞いて差し上げては」
「祐巳さん、なんていってたの?蓉子さまは」
「わからないって」
「…………ありがとう。じゃ、次のお願いしてもいいかしら」
「…うん」
「実は、あので…、いや江利子さまが花寺の教師といるらしいの。だから祐麒くんに…」
「いらっしゃい、由乃ちゃん、菜々ちゃん」
「…なぜここにいるんですか」
「あら、自分の家にいちゃいけないのかしら」
「令ちゃ…お姉さまには居留守を使われたようですけど」
「ダーリンが研究の邪魔されたくないっていうんだもの、仕方なかったのよ」
うそつけ…。
「そんなに必死に約束を守ろうとしてくれたの、ごめんなさいね」
だ、誰が…。
「で、楽しめたかしら、菜々ちゃんは」
「はい、とっても」
…。