No.296 No.301 No.311 と平行?
理屈も常識もなかった。
ただ本能のままに行動していた。
――殺らなければ殺られる―― そう。己の存在意義をかけて。
「はぁ、はぁ」
薄いネグリジェなど既に破れて剥がされてしまって双方下着姿だった。
取っ組み合いの喧嘩で髪も乱れ、息は上がり、うっすらと汗をかいて上気した肌が艶かしい。
「エレガントでなくてよ」
「同じ言葉をかえしますわ」
肩で息をしながら言葉をかわした。
根っからのお嬢様な祥子は稽古事で訓練されていたとはいえ基礎体力はそれほど無い。
能力的に互角なため、持久戦になってしまいあっという間に体力切れになったのだ。
しかし、互いに同じ人間と確認できた瞬間に勃発したこの争い。自分が疲れれば相手も同じだけ疲れてるはずなのだ。
だからあきらめない。
「このっ!」
「くっ!」
掴みかかって二人ともベッドに倒れ込んだ。
「どこ掴んでるの!」
「そちらこそブラの紐を引っ張るのはおよしになって!」
そんな時、祥子付きのメイドが部屋のドアを開けた。
「お嬢さ……ま!?」
お嬢様のベッドの惨状に目を見開いてしばし固まるメイド。
下着姿で抱き合う二人。
うっすらと汗をかき、上気した艶かしい肌。
折りしも互いの胸に手をかけて見ようによっては揉みしだいているようにも見えたわけで。
「し、失礼しましたっ!」
メイドは顔を真っ赤にして慌ててドアを閉めた。
「ちょっと!?」
「誤解だわ!」
というか、自分たちの状態を改めて観察して顔を赤らめる祥子たちであった。
「喧嘩しちゃだめよ?」
誤解を解きに行くにも下着姿じゃまずいと、二人とも着替えて部屋を出てきたのだが、出てきていきなり母清子に遭遇した。どうやらメイドが呼んだらしい。
「お母様、お母様はこれを見てなんとも思わないのですか?」
「これとは失礼な。お母様、この方、私を騙ってますのよ」
「だから、喧嘩はダメ。二人とも祥子なのでしょう?」
「「二人ともって…」」
「賑やかになって嬉しいわ」
言うことはそれだけか。
この状況でのほほんとしてる母に毒気を抜かれてしまった祥子(達)であった。
そうはいっても、己の存在意義をかけた戦いの割りには互いに引っかき、髪引っ張りなし、武器使用なしを守ってたあたり祥子も人のことは言えないお嬢様気質なのだ。
後に経緯を聞いた由乃がそれを問うた時、祥子はこうと答えたとか。
「だって痛いじゃない」