【3121】 山百合大戦  (パレスチナ自治区 2010-01-14 00:59:05)


ごきげんよう。
今回はただのバカ話です。
一部、とある版権作品の設定や人物名、オリキャラが出てきます。

「は〜…」
最近の山百合会はなんだか物憂げな雰囲気が漂っている。
だから目覚め一番、溜息の一つや二つ、出てきてしまうのは許してほしい。
たとえ、うら若き乙女の口からだったとしても。
「今日もいいお天気なんだけどな…」
ゆっくりとベッドから降りスリッパを履いてとぼとぼと部屋を出る。
この部屋にあるもう一つのベッドの主はすでに起きているみたい。
「祐沙ちゃんったら、起こしてくれてもいいのに…」
祐沙ちゃんとは、わたしの双子の妹です。

洗面所で顔を洗い台所へ。
祐麒はまだ寝ているみたい。
「おはよう、祐巳ちゃん。よく眠れた?」
「おはよう。…まあまあ。それよりどうして起こしてくれないの?」
祐沙ちゃんが、ソーセージを炒めているフライパンを片手に嬉しそうに笑いながら答える。
「だって、可愛い祐巳ちゃんの寝顔を見たら起こすなんてとんでもない!悪いけど私には無理だよ」
「むー。祐沙ちゃんってばいつも冗談ばっかり…」
「冗談じゃないってば」
「あらあら、今日も朝から仲がいいわね」
「お母さん!祐沙ちゃんったら「仲がいいのは当たり前だよ、お母さん。生まれた時から一緒なんですもの」
祐沙ちゃんに無理やり遮られた。
「祐沙ちゃん!」
「ふふふ…」
「はあ…」
祐沙ちゃんには敵わないな。

時間が過ぎて出かける時間です。
「ねえ、祐巳ちゃん。最近悩んでるみたいだけど、どうしたの?」
「…えっと。最近志摩子さんと由乃さんの様子がおかしいの」
「そう。どんな風に?」
「なんだか悩んでいるみたいで、時々わたしの方を見たり、目を合わそうとすると逸らされちゃうし…まあ、二人とも美少女だからそれはそれで絵になるんだけど」
「ふーん。それなら思い切って訊いてみたら?物憂げな祐巳ちゃんも素敵だけど、やっぱり笑っている祐巳ちゃんが一番素敵だから、ね?」
祐沙ちゃんはそう言いながらわたしの頬に軽く口付けをしてくれた。
そのおかげでちょっぴり元気が出た。
「ありがとう、祐沙ちゃん」
「うふふ、どういたしまして。それより出かけましょう?遅刻しちゃうから」
「うん!」

「「行ってきます!」」

ドアを出るとわたし達はそれぞれの学校へと足を向けて歩きだした。

昼休み。今日は薔薇の館に一番乗り。
誰もいないのに少し重たい空気が流れている。
「ごきげんよう、祐巳様」
「ごきげんよう、乃梨子ちゃん」
「今日も同じなのでしょうか…」
乃梨子ちゃんも最近の雰囲気にはげんなりしてしまっているみたい。
無理もないと思う。大好きなお姉さまがこの雰囲気の原因なのだから。
「大丈夫だよ。今日志摩子さんと由乃さんに訊いてみるから」
「そうですか。よかった…」
わたしの台詞に顔を明るくする乃梨子ちゃん。
この可愛い後輩のためにもわたしが頑張らなくては。

しばらくするとお姉さまと令様、由乃さん、志摩子さんといつものメンツが揃った。
やっぱり二人は今日も暗い顔をしている。
お姉さまと令様はまたかという感じで深いため息を吐く。
そのせいでさらに場に雰囲気が重くなっていく。
よし!ここだ!
「あのう…志摩子さんに由乃さん。最近元気がないけど、どうしたの?」
「…はい?」「…え?」
気の無い返事を返してくる二人。
「だから、二人とも最近元気がないでしょう?どうしたのかなって思って。よかったら相談にも乗るよ?」
わたしの言葉に顔を紅潮させて、明らかに二人は喜んでいる。
よかった、二人の役に立てそうで。少なくとも、二人が元気になるきっかけは作れた。
1、2分くらいすると、意を決したのか、志摩子さんがゆっくりと口を開いた。
「あのね、祐巳さん…」
「な〜に?」
「私と祐巳さんは親友よね?」
「もちろん!」
「でもね…私、それではもう嫌なの…」
志摩子さんのこの言葉に由乃さんも少し反応している。
「え?」
「祐巳さんの、その…」
「うん」
「い、一番になりたいの!!」
「ええ?!」「なんですって!!」
「どうして由乃さんまで過剰反応するの?」
「そんなの決まってるじゃない!!私も同じことで悩んでいたんだから!!」
「えええ?!」
も、もう、何が何やら…
「とにかく、どうやったら祐巳さんの一番になれるのかしら?」
「ちょっと志摩子さん!それは私だって訊きたいわ!!」
「えっと、あのね?」
「まあ、いいわ。由乃さんがそれを訊いたところで貴女に勝ち目はないわ」
「へ〜。それは宣戦布告?」
「そんな大それたものでは無いけれど、そう取ってくれても構わないわ」
「わかったわ。後でほえ面かくのはどっちかしらね?」
こ、怖い。それにわたしの意見は?まだ言ってないけど聞いてくれそうにないよ?
どうしたらいいんだろう。
そんな時、お姉さまが助け船を…
「ふふふ。志摩子も由乃ちゃんも戯言を…」
あれ?お姉さまもなんだか変だよ?
「戯言…ですか?」
「ひぃ…」
志摩子さんの凄味のある声色に乃梨子ちゃんは怯えている。ついでにわたしも。
「ええ、戯言よ。何を言い出すのかと思えば…いいこと?祐巳は私のものよ?祐巳は私の妹。祐巳だってそうよね?」
「えっと…」
返事に困るなぁ。
「あはは。祥子様こそ何をおっしゃいますやら」
お姉さまの眉毛がぴくりと動く。
「なんですって?」
「祥子様のようなハンバーガーを食べる時にナイフやフォークを探したり」
「ジーンズも一人で買えないようなお子様な方に」
「「そんなこと言われたくはないですわねー!」」
「うぅ…そ、それは、知らなかっただけだわ」
「ねえ由乃さん。17にもなってそれはあり得ないわよね?」
「ええ、全くだわ。それに祥子様はあくまで、お姉さま。やっぱり祐巳さんの一番になるのは親友である、この私でなければならないわ」
「違うわ!!私よ!!」
どういう訳か、お姉さまは戦意喪失のご様子。
どうしよう…そうだ!
「ねえ、二人とも。二人とも、わたしの一番だよ?だから争いごとなんて…」
「二人ともだなんて駄目よ、祐巳さん」
「そうだわ。どっちか決めてもらわなければならないわ」
「どうして〜!!」
っていうかさっきからこの二人、息ぴったりだよ?

「由乃さん、これは戦争よ。私の勝利で終わるでしょうけど」
「何、ご冗談。でも、望むところよ!!かかってらっしゃいな!!」

睨み合う二人の間をピシャーン!!って感じで稲妻が駆けて行ったような気がする。
どうなるんだろう。それとわたしの意見は?



〜山百合大戦 戦慄の白薔薇V.S猛進の黄薔薇“祐巳ちゃんを奪え!!”〜



家に帰り、早速今日の出来事を祐沙ちゃんに話す。
「っていうことがあったんだ…」
「………そう。なんだか意外と激しいのね、志摩子さんと由乃さん」
「うん…。びっくりしたよ。由乃さんはともかく志摩子さんがあんなに好戦的だったなんて」
「う〜ん、まあ、嫌われるよりはましだと思うけど」
「そうなんだけど、どうなるのかわからないよ」
「なるようにしかならないよ。とにかく、気を付けた方がいいかもね」
「うん…」
祐沙ちゃんが優しく抱きしめてくる。彼女の優しい温もりとわたしも使っているシャンプーの匂いは疲れたわたしを癒してくれた。

次の日のお昼。
今日は志摩子さんがお昼を用意して来てくれる。
薔薇の館で待っているように言われている。
「おまたせ、祐巳さん」
「志摩子さん」
「待っていてね。今、用意するから」
「うん」
昨日の事があっても、やっぱり嬉しい。
「えへへ」
「どうしたの?祐巳さん」
「嬉しいの、こういうの」
「そう、よかったわ」
志摩子さんも嬉しそうに笑ってくれて幸せだ。
その時、部屋の扉が慌ただしい開いた。
「祐巳さん!私も作ってきたから!!」
嵐の予感だ…

二人のお弁当を見比べてみる。
お重に入れられた志摩子さんのお弁当は素晴らしく整った盛り付けで高級な料亭の仕出し弁当のよう。
由乃さんの方は、ところどころ失敗しているみたいで、慌ただしい内容だ。でも、一生懸命さが伝わってくる可愛いお弁当だ。
ちょこんと顔をのぞかせているたこさんウインナーがかなり気になる。
作ってきた本人たちを見てみると、圧倒的な差を感じているのか由乃さんは苦虫を潰したような顔をしていて、志摩子さんは少し得意げだ。
「祐巳さん、どちらからお召し上がりになりますか?」
「えっとぉ」
たこさんが気になる!ごめんね志摩子さん。
「由乃さんの方の、たこさんが欲しいな」
「祐巳さん?!」
「祐巳さん…さあ、どうぞ」
二人の反応は対照的だ。
志摩子さんには申し訳ないが。
志摩子さんの方をちらっと見るとどういう訳か勝ち誇ったような顔をして、
「由乃さん。そのお弁当は令様が作ったのね?」
「な!そそそそんなわけ…」
由乃さんがかなり慌てた反応をする。
「だってそのお弁当箱、『支倉令』って書いてあるもの」
よく見なくても確かに『支倉令』と書かれている。
「は、はせくら〜〜〜〜〜!!!!」
怖すぎだよ、由乃さん!!
「それとも由乃さんはわざわざ令様にお弁当箱を借りたの?」
「くっ!しくじったわ…」
「ふふふ…それでよくもまあ、『私も作ってきた』だなんて大嘘が吐けるわね」
この雰囲気、前より嫌だよ。
「だって…何回やってもうまくいかなかったんだもん…それで…令ちゃんに…でも!その祐巳さんが食べたウインナーは私が作ったの!!本当よ!!」
必死に言い訳している由乃さんはなんだか可愛かった。
それに結局はだめだったけど、わたしの為に何度も挑戦してくれたのだから。
「ありがとう、由乃さん。凄く嬉しいよ」
「祐巳さん?」
「だって何度もがんばってくれたんでしょ?それだけでも嬉しいよ。後で令様にもお礼を言わなくちゃいけないけど」
「祐巳さん…次は、一人で作って見せるから」
「うん。さてと、次は志摩子さんの方の…唐揚げが食べたいな」
「……わかったわ。今取りますから」
少し間があったのが気になるけど。
志摩子さんは嬉しそうにわたしの口元に鳥の唐揚げを持ってくる。
「えっと、志摩子さん?」
「祐巳さん、あ〜ん」
恥ずかしいよ…ここが薔薇の館の中でよかった。
「あ〜ん………志摩子さん、凄く美味しいよ」
「そう、よかったわ。お口に合って」
「すっごくジューシーで程良い柔らかさで、もう最高だよ!!」
わたしはもう一つ唐揚げを口に入れる。
「ありがとう、祐巳さん。やっぱり食材は新鮮なものに限るわね」
「へ?」
「ねえ、志摩子さん。新鮮ってどういうことよ」
「そのままの意味よ。祐巳さんと…由乃さんの為に今朝、一番活きのいい子をさばいて来たのよ」
「ということは…」
「ふふふふ」
志摩子さんのその笑いは今までで一番怖かった。
まあ、何はともあれこの日の昼食は楽しかった。

ただ、二人の争いの戦火を一番近くで一週間も浴び続けるのはかなり辛い。

「ねえ!祐巳さん」
「祐巳さん」

お姉さま、令様、乃梨子ちゃん、助けてよ。
でも、既に静観すると決め込んでいるらしい彼女たちは助けてくれそうには無かった。
「うわ〜ん!助けて!祐沙ちゃん!!」
「祐巳さん、『祐沙ちゃん』って?」
「え?あ!」
「そうね、祐巳。初めて聞く名前だわ。どなたなの?」
「お姉さままで」
「祐巳ちゃん、教えてよ」
「令様まで…わかりましたよぅ。祐沙ちゃんはわたしの双子の妹です」
「祐巳さんの双子ってことは同じ顔なわけよね。会ったことないけど?」
「それは祐沙ちゃんはリリアンには通ってないから」
「それなら何処に在籍なさっているの?」
別に教えても問題無いよね。
「祐沙ちゃんは『桜立舎学苑』という学校に通ってるんです」
「『桜立舎学苑』?聞いたことある?祥子」
「確か、創立100年以上を誇る名門女子学園よ。今年の生徒会長は『天野まり』さんよ」
「さすが祥子。詳しいね」
「祐沙ちゃんはそこの音楽科に在籍していてピアノの特待生なんですよ」
「凄いわね」
「はい、自慢の妹です」
「「祐沙さんね…」」
「?うん」
そうだ。今の状況を祐沙ちゃんに相談してみよう。

「ふふふ。どこの学校にも似たような境遇の人っているのね」
「笑い事じゃないよ」
「いいじゃないモテモテで」
「人ごとみたいに…」
「だって人ごとだもん」
「もう、意地悪」
「ふふふ」
「でも、確かに凄い騒ぎだよな」
「祐麒君も知ってるんだ?」
「そりゃあ、隣の学校のことだよ?」
「それもそうね」
「まあ、前にも言ったけど、嫌われているわけではないのだし、ここまで来たら最後まで見届けなくちゃ」
「そうだけど…」
この前のように抱きしめてくれる。
「どうしても辛かったらわたしが守ってあげるけどね…」
「うん…」
「学校違うのにどうやって守るんだ?」
「それは…まあ、最悪リリアンに乗り込むわ」
「それはそれで凄いことになりそうだな。俺を巻き込むのだけは勘弁ね」
祐沙ちゃんはちょっと残念そう。
でもすぐに含み笑いをした。
「ところで。祐麒君は学校ではどうなの?祐巳ちゃんみたいにモテモテ?」
「気持ち悪い事言うなよ、男子校だぞ?」
「またまた〜。どうなの?本当のところ」
「訊かないでくれよ…」
「どうして?」
「いいだろう?祐沙、俺の姉ちゃんならわかっているんだろう?勘弁してくれ…毎日学校に行くのが怖い…」
そういうと祐麒は逃げるように部屋に戻って行った。
「みんなモテモテで羨ましいな」
全く祐沙ちゃんったら、人の気も知らないで!

今日は祐沙ちゃんと一緒に寝ることにした。
今も抱きしめてくれている。
「祐巳ちゃんも、あんまり悩まない方がいいと思うけど」
「だって、志摩子さんと由乃さん、凄い激しいんだよ?」
「それはそうなのかもしれないけど、わたしのクラスのかぐらさんって子はもっと凄いよ?」
「どんな風に?」
「すくね様に、まり様、ちほさんに琴美さん。更には一期生が二人もかぐらさんを獲得するために激しく火花を散らしているわ。かぐらさん、毎日へとへとよ?」
「うわぁ…」
「だから大丈夫だよ、祐巳ちゃん」
「うん…」
「わたしが守ってあげるから。いいえ、わたしに貴女を守らせて?」
「ありがとう、祐沙ちゃん。やっぱり祐沙ちゃんが一番だよ…」
「祐巳ちゃん…」
“ふふふ、そう。祐巳ちゃんの一番はこのわたし。銀杏女や暴走機関車なんかに祐巳ちゃんは渡さないから。せいぜいあがくといいわ。ふふふふ…”
「祐沙ちゃん?」
「ううん、なんでもないよ。おやすみ、祐巳ちゃん」
「おやすみ」
こうして今日は安心して眠れました。

しかし争いは始まったばかり!
栄冠(祐巳ちゃん)は誰の手に?!

あとがき
以前の私の駄文を読んでくださった方々には祐沙ちゃんはお久しぶりかもしれませんね。
前回の祐沙ちゃんの設定はあり得ないもので、今回は『福沢』としての登場です。
性格が全然違うのは『福沢家』で育ったためです。
一部の設定は残しました。
祐沙ちゃんの通っている『桜立舎学苑』。
知っている方はいるのでしょうか?
志摩子さんと由乃さんも、前回はラブラブでしたが、今回では敵同士に。
令ちゃんは相変わらず不憫です。
令ちゃんが自分の弁当箱を仕込んだのは由乃さんに対するささやかな報復です。
祐麒君は初めて喋りましたが、初めてなので違和感を感じても勘弁してください。
祐巳ちゃんの取り合いを書くことが出来て満足です。
あんまり争ってない気もしますが、これ以上は長すぎなので…
今のところ祐沙ちゃんが一歩リードしています。
どうなるかは神のみぞ…
ここまでお付き合いくださり、ありがとうございました。




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