【3135】 学園最強の行き過ぎたスペシャルサービス  (朝生行幸 2010-02-21 23:08:33)


「明けましておめでとー!!」

「ハピーニューイヤーですのー!!」


 東京都西部に位置する学園都市、学舎の園にある名門お嬢さま学校『私立常盤台中学校』の学生寮にて。
 電撃使い(エレクトロマスター)の異名を持ち、超電磁砲(レールガン)と綽名される、学園都市二百三十万人の頂点に立つ七人のレベル5の第三位、最強無敵の電撃姫こと御坂美琴。
 そして、そんな彼女を慕ってやまない風紀委員(ジャッジメント)、捕らえた相手の身も心も踏み躙り、再起不能にする空間移動能力者(テレポーター)、最凶最悪のガチ百合姫こと白井黒子。
 二人は、住人の半数は帰省した、今は静かな寮の自室にて、『黒豆サイダー』と『冷た〜いおしるこ』で乾杯しながら、初めての新年を迎えたところだった。
 本来ならば、とっくの昔に消灯時間になっているハズなのだが、流石に年末年始ぐらいは、寮監の『鉄の秩序』にもゆとりは設けられていた模様で、日付が変わる時間帯であるにも関わらず、特に咎められることもないまま、のんびりゆったりと新春を迎えたというワケだ。
 数人分の茶碗や取り皿、お箸が転がり、空になったお菓子の袋が散らかっている炬燵に入り、テレビで『イク年狂う年』という、名前だけ聞けばなんだか如何わしいタイトルの番組──もちろん真っ当な国営放送だ──を視聴しつつ、新年の挨拶を交し合う。
 美琴たちは、つい先ほどまでは、二人の友人と鍋を突っつきながら談笑していた。
 柵川中学一年の初春飾利──第177支部所属のジャッジメントで、優れた情報処理能力を発揮し、同僚の黒子を主にサポート──と、彼女のクラスメイト佐天涙子──飾利限定のセクハラを日課とする、ややミーハーな元気少女──と共に。
 飾利と涙子は既に帰宅しており、今は美琴と黒子の二人きり。
 ちょっと前までの喧騒はとうに収まり、テレビには、除夜の鐘を叩く坊主の姿が映っているばかり。


「お・ね・え・さ・ま〜♪」
 黒子は、何故か美琴を『お姉様』と呼ぶ。
 そして、この様な猫なで声を出す時は、何かを企んでいると相場は決まっている。
 美琴は、胡散臭げな目で相手を見た。
「お年玉を〜」
「あげないわよ」
 一刀両断に切り捨てる。
「違いますのっ! 黒子がお姉様に、お年玉を差し上げますの!」
「へ? いや、あの……」
 予想を裏切る黒子の言葉に、思わずうろたえる美琴。
 いくら何でも、後輩の、しかも中学生に貰うような代物ではない。
「と言いましても、何も下世話にお金を差し上げるわけではありませんわ。ま、お年玉という名のプレゼントとでも申しましょうか」
「……はぁ、なんだそうか」
 安堵の溜息を吐く美琴を尻目に、黒子は炬燵の中から包みを取り出した。
「どうぞお姉様。開けて下さいまし」
「え? あ、うん、ありがと。でも私、何も用意してないわよ」
「そんなの結構ですのよ。これはあくまで黒子の、お姉様に対する感謝の気持ちなのですわ」
 なんだか裏があるような気がしないでもないが、リボンを解いて、包装を剥がし、中身を取り出すと。
「こ、これは……!?」
 驚愕に目を見開く美琴。
 なんとそこには、虎縞模様のビキニと、同柄のブーツ、そして、小さな角が付いたカチューシャが。
 すなわち、イニシエの某電撃鬼娘が纏っていた衣装が今ここに。
「伝説のコスチューム『虎縞ビキニの鬼娘』。今でも、一部では熱狂的な人気を誇っているそうですわ。当時、食事どきに家族と一緒にこれを見た青少年達は、軒並み居た堪れない気分になったとかならなかったとかという、曰く付きの代物」
 美琴にはそっち方面の知識はほとんど無いため、当の鬼娘とやらを何かで見た記憶はあっても、実際のところはチンプンカンプンだ。
 しかし、似合う似合わないは別にしても、彼女の嗜好に合った衣装であることは間違いない様で、美琴の目は衣装に釘付け。
「幸いにも今年は寅年。きっと虎縞の衣装はお姉様にお似合いですわ。どうぞお召しになって下さいな」
「う、うん……」
 普段のサッパリカラッとしてはいるものの多少意地っ張りな性格とは裏腹に、実は可愛い物大好きの美琴、黒子に薦められるがままに、衣装を身に纏う。
「ど、どうかな……?」
「ステキですわっ!?」
 振り向いて問いかけた美琴の言葉に、両目をハートにして間髪を入れず答える黒子。
「さ、お姉様。その格好で、『ダーリン、浮気はダメだっちゃ』っておっしゃって下さいませ!」


(うわぁ〜。御坂さん、あの衣装着ちゃいましたよ?)
(おぉ!? ホントだ、着てるよ? 絶対に断ると思ってたのに)
 クローゼットの中には、何故か帰ったはずの飾利と涙子がいた。
 帰ったフリをして、美琴が手洗いに行った隙を突いて、ここにこっそり潜んでいたのだ。
 もちろんこれは、黒子の企み。
 流石の黒子といえども、真正面からでは美琴のあられもない(?)姿を、直接撮影することは出来ないので、飾利たちに依頼したという次第。
 飾利は、スネークカメラ(黙って借りて来た支部の備品)で扉の隙間から様子を窺い、涙子は、室内に設置したカモフラージュカメラ(これも備品)をコントロールして、美琴の姿をモニタに表示させようと四苦八苦。
 狭いクローゼット内ゆえ、不安定な体勢にならざるを得ず、しかもカメラを操作しなければならないので、思うように動けず悪戦苦闘。
(意外、と言っては失礼ですけど、結構似合ってますよねぇ)
(う〜ん、もうちょっと胸にボリュームがあればねぇ?)
 相手に聞こえないのを良いことに、好き勝手言う二人。
(どう? そっちは撮れてる?)
(こっちはバッチリですよ。佐天さんはどうですか?)
(位置が悪いのか、上手いこと画面に収まってくれないのよね。もう少し、そっち動ける?)
(無理ですよぅ。こっちも不安定なんですからぁ)
(で、でも、肘がってあ! また変な方に動いた)
(痛いですよ佐天さん)
(あ、ゴメン初春。あーもう、このコントローラーも使い難いったら)
(押さないで下さい〜。撮影出来ないですよ〜)
(もうちょっと、こう脚が……ね)
(あ、ダメですぅ。そこは……)
(どっこいせい!)
 涙子が無理やり体勢を換えた途端。
(って、うわぁ!?)
(って、あらぁ!?)

 ガチャリ。

 バランスを崩し、飾利と涙子の体重がかかったクローゼットの扉が、音を立てて開き。

『あ』

『あ』

 美琴と黒子、飾利と涙子、同時にマヌケな声をあげた。
「……そう、そういうことだったのね」
 飾利たちを見た美琴は、恥ずかしさのためか怒りによるものか、真っ赤になった顔を黒子に向ける。
 彼女らが手にしているカメラとコントローラーは、どちらも第177支部で見たことがある。
 全てを理解した美琴、青褪めて首をフルフル振っている飾利と涙子はそのままに、
「ダーリン?」
 引き攣った顔の黒子の肩に手を置いて、ニッコリと微笑むと。
「浮気は〜……」
 本気の光が灯る美琴の瞳を見た黒子、命の危険を感じ取った本能が彼女に逃走を促したが、しっかり掴まれた手は離れず。

「ダメだっちゃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!」

「あばばばばばばばばばばばばばば!!!!!!」

 凄まじい電撃が、室内を蹂躙した。

 余波を食らって、ピクピクと痙攣している飾利と涙子。
 黒子は、歓喜と恐怖が入り混じった複雑な表情のまま、気を失っていた。


 自室のみならず、隣室をも巻き込んで大破した寮の一部。
 修繕が終わるまでは、美琴と黒子は、罰として寮の庭でテント生活を命じられた。
「どうしてこんなことになっちゃうのよ……」
 腕を組んで、アンタのせいだと言わんばかりに、美琴は黒子を睨み付けた。
「まったく、理不尽な仕打ちですの。あ、でも、お姉様と二人きりのテント生活なのですから、黒子にはむしろ喜ばしいことですわ」
「ちっとは懲りろ、このヘンタイ!」
「あふん♪」
 美琴の蹴りが、黒子のお尻に炸裂した。

 ちなみに、アフロと化した黒子の髪は、二ヶ月は元に戻らなかったという……。


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