【3136】 右に祥子、左に蓉子  (bqex 2010-02-23 09:47:20)


もしも桂さんが勇者だったら

 最初から【No:3054】
->セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】【No:3104】【No:3114】【No:3116】【No:3118】(黄)【No:3119】(白)【No:3120】(紅)【No:3124】

【これまでのあらすじをいつものナレーターがお休みなので特別に水野蓉子さまにやってもらう】(ナレーター、いたんだ……)
 桂さん、蔦子さん、真美さん、ちさとさんは勇者としてリリアンを救うため山百合会と戦うが、敗北してしまったため、現在2年前の世界を逆行中。
 2年前のリリアンで最強の水野蓉子をSRCの用意した『禁断の書のコピー』を使い帰順させた。……って、お姉さまなのっ!? あれ、用意したのっ! お、横暴ですわ。お姉さまの意地悪っ!
 え? 『禁断の書』の内容は何かですって? もし、あなたがそのことに触れるのであれば【がちゃがちゃSS掲示板に相応しくない内容のためカット】するわよっ!!



 一年桃組の前の廊下で桂と蔦子は声をひそめて話しあっていた。
 現在授業と授業の合間である。

「……志摩子さんは現在白薔薇のつぼみだけど、祐巳さんはまだ祥子さまのロザリオを受け取っていないから、山百合会メンバーじゃない。つまり、勝っても負けても影響はないって事よ」

 蔦子が言いだす。

「でも、勝負を挑んでこっちに引き入れようだなんて……」

 気まずそうに桂が呟く。

「大丈夫。授業中、こっそり『エネミー識別』したら、祐巳さんはレベル5、一般的な一年生だったから大丈夫。志摩子さんはレベル60になってるけど、個別撃破を狙って『不意打ち』するのは負けた時にやった事と同じだから、志摩子さんはここでは狙わない」

「だからってさ、なんで友達を襲わなきゃいけないわけ? せめて説得しようよ」

 桂は抵抗した。

「説得? 厳しいかもしれない」

「どうして?」

「温室で日付を確認したでしょう? 学園祭は次の日曜。祐巳さんはこの時期山百合会の劇に出るため薔薇の館に入り浸りの日々。そんな人に『山百合会と戦って』なんて説得きくと思う?」

「そ、それは無理かも……」

「この後の展開を考えたら、この時期祐巳さんはかなり祥子さまに気持ちが傾いているはず。ここは悪いけど、力づくでいきましょう」

「でもさ、今日は何故か志摩子さんがぴったりくっついてて、誘い出す隙がないじゃない」

 ちらりと教室に目をやると、祐巳さんと志摩子さんが何か話していた。

「気付かれてるのかな……そうだとしたら、マズイ。昼休みに強引に二人で祐巳さんを連れ出して倒すか」

「うう、拉致の上暴行だなんて。どんどん悪い人になっていく」

 桂はどんよりとした。

「まあ、正義という大義名分の下行われるから、大丈夫」

「その大義名分すらなかったらやらないわよっ!」

 次の授業を担当する先生が歩いてきたので、桂たちは教室に戻った。
 授業終了、昼休み開始と同時に桂と蔦子はダッシュした。

「祐巳さんっ!!」

 二人はほぼ同時に祐巳さんに声をかける、というより叫んだ。

「ふえぇ、何事!?」

 祐巳さんは目を白黒させている。

「ちょっと私たちに付き合ってもらえない?」

「なに、ちょっとでいいの、ちょっとで」

「あ、あの……」

「いいから。すぐに済むわ」

 祐巳さんの手をとろうとした時に、脇から出てきた手が、早く祐巳さんを捕まえた。
 手の持ち主、志摩子さんは静かに微笑んだ。

「申し訳ないけれど、祐巳さんには薔薇の館に来てもらう事になっているの」

 桂と蔦子にとっては志摩子さんの微笑みが恐怖だった。
 全て知っていて、その上で邪魔をしているとしか思えないタイミングだった。

「いや、でも、ちょっと」

「何かしら? 授業中にこちらを『見ていた』事と関係あるのかしら?」

 蔦子のエネミー識別がばれていた!?
 これ以上抵抗すれば力づくの展開になり、真美、ちさとが駆け付けるのと前後して仲間が来るだろう。

「いや、いい」

 引き際を察して桂と蔦子は折れた。

(志摩子さん……恐ろしい子!)


 お弁当を食べながら桂と蔦子は話しあう。

「さて、他の心当たりだけど……」

「う〜ん、フェが勇者が別にいるみたいなことを言っていたじゃない?」

「ああ、『美冬さん』って言ってたね」

「うん。彼女が気になるんだよね」

「じゃあ、その人は私が探す。桂さんはお姉さまを仲間に引き入れたら?」

 蔦子が言う。

「う〜ん」

 桂は姉を巻き込みたくはなかった。
 しかし、この状況を打破するために仲間が必要な事も理解していた。

「じゃあ、私はその人探してくるから、桂さん、頑張ってね」

 蔦子は席を立つととっとと教室を出た。

「お姉さま……か」

 桂も席を立った。



 同じころ、ちさとは図書館にいた。

(瞳子ちゃんは『紅いカード』を持っていた。と、いうことは……)

 禁帯出本の江戸の物価なんかが書かれている本を手に取った。

(あの時、ここに令さまの『黄色いカード』があったんだよね)

 ドキドキしながらページをめくる。

「あ」

 そこには『黄色いカード』が本当に挟まっていた。
 ちさとは『黄色いカード』を手に入れた!

「どうかなさったの?」

「な、なんでもないです」

 後ろから声がして、ちさとは慌てて『黄色いカード』をポケットに隠しながら振り向いた。

「そう? その本は禁帯出本だから、ここで読んでね」

 図書委員の人だろうか、黒く長い髪の生徒だった。

「はい」

 どこかで見たことがある、と思ってじっと見つめる。

「あの、何か?」

 声を聞いて不意に思い出す。

「ロサ・カ……!」

「は?」

 ちさとは慌てて口を塞ぐ。
 「ロサ・カニーナ」は選挙の時についたニックネームで、この時期はそう呼ばれていなかったという事を思い出したのだ。
 そして、同時に頭の中にいろいろなことが、まるでアブナいサイトで気軽にボタン押しちゃった時にウィンドウがパカパカ開きまくるかのごとく、次々と出てきた。

「あの、蟹名静さま、ですよね?」

 ちさとは頭の中に開きまくったたくさんの『静さま情報ウィンド』を整理しながら話しかけた。

「よくご存じね」

「もちろん。リリアンの歌姫、合唱部の静さまは薔薇さまと同じくらいの有名人ですもの」

「そうかしら?」

 よくある反応なのだろう。静さまは表情を変えずに答える。

「あのっ、その静さまを見込んでお願いがあるのですが」

「あらあら、何かしら?」

「静さまは、勇者をご存じありませんか?」

「……ここでお喋りはやめましょう。こちらへ」

 そっと静さまは合図して、カウンターの裏の方に二人は移動した。

「あなた、勇者といったわね? 勇者って、リリアンを救うあの勇者で間違いない?」

 静さまは聞く。

「はい。私は『負けた世界』の勇者桂さんとともに行動しているんですが、今日の放課後に山百合会メンバーを倒して古い温室にいかないと元の世界に戻れなくなるんです」

「それはお気の毒ね。でも、私はこちらの世界の勇者さんにも答えたのだけど、山百合会に盾突く気はないわ」

 静さまは冷静に答える。

「では、質問を変えます。静さまは、『佐藤聖さま』をどう思われてるんですか?」

「え?」

 急に静さまの表情が固まる。

「私は知っています。静さまの秘められた思いを」

 実はかなり後になってから噂で聞いた話なので裏付けはなかったが、ちさとはなりふり構わず話を持っていった。
 これは賭けだった。

「私、支倉令さまが好きです。大好きです。そして、今日の放課後、私のすべてをぶつけるつもりです」

「すべてを、ぶつける……」

「静さまの心の中には熱いものがおありなのでしょう? それをしまい込んだまま、イタリアに行くおつもりですか?」

「……よく知っているわね。まだ、留学の事は誰にも言ってないのに」

「静さまの実力があれば遠からずそうなるのはわかります。話を戻しましょう。たしかにこのままそっと秘めたままにしておくのも一つの方法です。でも、今の聖さまを作っている要素の一つに『蟹名静』はひとかけらもない。それでいいんですか?」

「別に私は──」

「今の令さまを作った要素は島津由乃さんと山百合会の仲間、剣道部の仲間で私はひとかけらもない。でも、私はひとかけらでもいいから令さまを作る要素になりたかった。そして、それに相応しい人間になろうと努力しました。もし、令さまが私の事を理解して、そして何か与えることが出来たなら、私はそのひとかけらになれるんです」

 令さまの卒業式の日、ちさとはそのひとかけらになれた気がした。

「静さまは聖さまにどれだけ理解していただいたのですか? どれだけのものを与えたと言えるのですか?」

「……言いたいことを言ってくれるわね」

「生意気なことを言っているってわかっています。でも、もし、私の始めの質問に答えて下さるのでしたら、放課後、私たちと一緒に戦ってください。薔薇の館の前で待っています」

 ちさとはぺこりと頭を下げて図書館を出た。

「本当に、生意気な……」

 静はフッと笑った。



 同じころ、真美はクラブハウスにいた。

「ああああ! 明日発行の学園祭直前特集号どうしようっ!!」

 目の前には机に突っ伏すこの時代の新聞部部長兼リリアンかわら版編集長兼真美のお姉さまの築山三奈子さまがいた。

「ど、どうなさったんですか?」

「バックアップしてたはずなのに、最終稿データが飛んじゃってたのよ〜っ!! うわああ!」

 リリアンかわら版に人生を捧げる女三奈子さまはマジ泣きしていた。

「落ち着いてください。今、サルベージします」

 真美はパソコンの前に座ると、過去に何度かやったようにデータの復元を試みた。

「そうだ、ここを押したとき──」

「あっ、そこを触ったら!!」

 三奈子の人差し指がボタンを押してしまった(とパソコンが判定した)ためデータはnのフィールドに消えた。

「……もうっ! 本当にデータが昇天したじゃないですかっ! 仕方ない……直前データを読みだしてなんとかしますっ! どいてください、お姉さまっ!!」

 三奈子さまをどかせて直前のデータ記事を読みだして直していく。
 一年の時の学園祭直前号。真美はそれをはっきりと覚えていた。
 メインの記事の学園祭特集は来たる学園祭を盛り上げる内容で、読んでいるだけで楽しくなってくる、三奈子さまの文章の中でもベスト3に入る名文だった。
 何度も何度もそれを読み返してそらんじることが出来るぐらいになって、いつか自分もこんな記事を書けたら、と思った。
 データには残っていないあの記事を真美は忠実に再現して、昼休み中にデータを完成させた。

「これで放課後に頑張れば明日の発行に間に合うわ。ありがとう、真美」

「まったく、気をつけてくださいよ」

 予鈴が鳴ったので教室に戻る。
 しかし、真美は本当は三奈子さまに山百合会と戦うので力を貸してほしいと頼みにいったはずだった。
 それが、リリアンかわら版史上最大のピンチに遭遇するとは。

(放課後、どうしよう……)

 自分が印刷作業を手伝えばリリアンかわら版は無事に発行できる。
 しかし。
 山百合会とのバトルに負ければ元の時代には帰れない。

(お姉さま……)

 三奈子さまの卒業からしばらくたったというのに、三奈子さまと一緒にリリアンかわら版を作り上げる楽しさがたまらない。
 真美は、午後の授業が全く頭に入らなかった。



 掃除の時間が終わり、桂、蔦子、ちさとはミルクホールで状態異常回復薬である『乳酸菌飲料』を10個ほど買い求めた。

「真美さん、来ないね」

「どうしよう。そろそろスカウトしてきた助っ人が薔薇の館に来ちゃうよ」

「仕方がない。薔薇の館に向かおう」

 三人は薔薇の館の前に移動した。

「ごきげんよう、美冬さま、友子さま」

 蔦子がすでに待っていた助っ人に挨拶する。
 こちらの世界の勇者、鵜沢美冬さまはシーフで、プリーストの久保栞さまと活動していたが、栞さまの転校で一人になってしまい、やっと協力を取り付けたスレイヤーの友子さまと活動していたという。

「ちょっと待ったっ!」

 そう言ったのはここまで忍耐強く連載に付き合ってくれた読者さんの一人だった。

「ど、読者が乱入って……」

「本当に、何でもありだね、このSS」

「登場してしまったものは仕方がない。ここは絡んでみましょう」

「あの、何でしょうか?」

 代表して桂が尋ねた。

「友子って、オリキャラですか?」

 読者さんはそう聞いた。

「何言ってるのよっ! 私はオリキャラじゃないっ!」

 友子さまは叫んだ。

「あ〜、読者さん。友子さまは原作では『ウァレンティーヌスの贈り物(後篇)』収録エピソードの『紅いカード』で美冬さまと一緒に日直だったのだけど、チョコレートを渡しに行った隙に出番がきてしまい、名前だけの出演に留まったという不遇な方だったのだけど、第一期アニメ化の折に、美冬さまの幼稚舎時代の友人及び、高等部でのクラスメイトとしてちょっとだけ台詞があったという方よ」

 蔦子が作者に代わって補足する。

「でも、これだけは言っておかなくてはならないのだけど、アニメ出演時に人気声優が担当だったのよ。『プレミアムブック』にもちゃんと書いてあるわ」

 真美もそれに加わる。

「『プレミアムブック』を持っていないという蓉祥派からブーイングが起きそうな人のために解説すると、その人気声優が担当したキャラは、シスタープリンセスの可憐、魔法少女リリカルなのはのアルフ、ローゼンメイデンの翠星石、魔法先生ネギまの綾瀬夕映、涼宮ハルヒの憂鬱の朝倉涼子、戦国BASARAのかすが……他にもいっぱい活躍されているけど、バトルが出来なくなっちゃうから詳しくは自分で調べてね」

「ちなみに、友子さまは以降出番はありませんでした」

 ちさとが余計なことを付け加える。

「あんた、鬼だっ!」

 友子さま、絶叫する。

「な、なんという声優の無駄遣い! でも、そうだったんですか。わかりました。では、引き続きSSを読みます」

 読者さんは戻っていった。

「応援ありがとう! これからもよろしくね」

 全員で手を振ってお見送りした。

「こういうエピソードを聞くと、CDの『フレームオブマインド』に出られた私は恵まれているのねっ! 私、自信が持てたわっ!」

 桂は何だかよくわからないが自信が出てきたようだった。

「そうだ、その意気だよ! 桂ちゃん!」

 桂の後ろから声がした。
 振り向くと、熱いオーラをたぎらせた三年生らしい生徒と、桂のお姉さまが現れた。

「お姉さまっ! 波留先輩っ! 来てくれたんですねっ!」

「当たり前よ。私はあなたのお姉さまなんだから──」

「みなさんごきげんようっ! 今日の私のテーマは本気!  本気になれば自分が変わる! 本気になれば全てが変わる! さあ皆さん! 本気になって!  頑張っていきましょう!!」

「はいっ!」

(な、何この人?)

(桂さんの憧れの人)

(熱すぎる……)

 その時、薔薇の館の扉が開いた。

「桂さん?」

 波留先輩の高温(騒音?)に気付いた祐巳さんが出てきた。

「祐巳さん……」

「おや、勇者さまのおでましかな? なら、始めようか」

 ぞろぞろと山百合会幹部が登場した。

(江利子さまと聖さまの制服姿、何もかもが懐かしい)

(久々に本物の令さまだあ。ヤバい、鼻血が……)

(志摩子さんが初々しい。一枚撮りたい……)

 最後に登場した蓉子さまはズンズンと桂たちの方に向かって歩いてきて、くるりと振り向いた。

「バトルの前にいっておくけれど、私はあなた達の敵よ」

 蓉子さまの宣言に祥子さまはびっくりした顔で蓉子さまの顔を見た。祐巳さんはオロオロと蓉子さまと祥子さまの顔を交互に見つめ、令さまと由乃さん、志摩子さんもきょとんとしている。

「またまた、紅薔薇さまったら冗談を」

 黄薔薇さまこと江利子さまが笑う。

「本気なの?」

 うっすらと笑みを浮かべて白薔薇さまこと聖さまが尋ねる。

「本気よ」

 蓉子さまは言った。

「紅薔薇さま、あなたがそっちへ行ったら、私が突っ込みをしなくてはならないのよ? 私は出来ればボケたいの。わかる?」

 江利子さまが渋い顔をして言う。

「紅薔薇さま、余興ならあとにしよう。さあ、こちらへ」

 聖さまが手を差し伸べる。

「わかってないようだからもう一度だけ言うわ。この紅薔薇さまこと水野蓉子は勇者桂さんとその仲間の一員として、あなた達を全員叩きのめす! 私を敵に回すのが嫌ならただちに降伏なさい。それが出来ないというのであれば……まあ、これ以上私に言わせるようなダメな子じゃないでしょう?」

 明らかに挑発するように蓉子さまは言った。

「そこまで言うなら……いいわ。返り討ちにするまで」

「仕方がないわね、紅薔薇さま。でも、降伏はしないから」

 江利子さまと聖さまは覚悟を決めた顔になった。
 その妹たちは動揺しているようだったが、黄薔薇さま、白薔薇さまを擁して敗北するはずがないと思ったのか、誰も降伏などしなかった。

「そっちはそれで全員? 紅薔薇さまがそっちに回ったところで敗れるような山百合会じゃないよ」

「はじめましょうか」

「お待ちください。勇者さま、助太刀します」

 登場したのは静さまだった。

「静さま!」

「生意気な一年生に私の本気を見せてあげようと思ってね」

 意味あり気にちさとを見て静さまは言った。

「これで全員かな? では、バトルを始めましょうか」



 同時刻。
 クラブハウスで校正も終わり、いよいよリリアンかわら版の本刷りが始まった。
 真美は今頃薔薇の館で戦っているであろう桂たちを思っていた。

(ごめん、桂さん。やっぱり、リリアンかわら版を捨てるわけにはいかない)

 プリンターは順調に稼働している。
 時計を見る。

(今なら間に合うかもしれない。でも……)

「真美」

 呼ばれて顔を上げると、三奈子さまの顔が目の前にあった。

「な、何でしょう。お姉さま」

「何かあったの?」

「何も……」

 ふう、と三奈子さまがため息をつく。

「真美、私を誰だと思っているの?」

「築山三奈子さまです!」

「それから?」

「新聞部の部長です! リリアンかわら版の編集長です! それから、私のお姉さまですっ!」

「よろしい」

 三奈子さまは他の部員には作業を続けるよう指示する。

「掃除の時間に聞いた話だけど、今日の放課後、勇者パーティーが薔薇さま方と戦うそうね」

「はい。今頃戦っていると思います」

「聞くところによると、薔薇さま方に『負けた世界の勇者』がこちらに来てこちらの世界の勇者とタッグを組んで戦うそうね」

「詳しいですね、お姉さま」

「ある人に聞いたから」

「蔦子さん、に?」

 真美は尋ねたが、三奈子さまは「ふふふ」と笑ってはぐらかした。

「でも、私は彼女に聞く前から今日の真美はちょっと違うと気付いていたわよ」

「どうしてですか?」

「昼休みに『復元』してくれた記事、あの記事を私はあの時最後まで書いていなかった。なのに、あなたは『復元』として最後まで書ききった。確かにあれは私が書きたかったことだけど、どうしてなのだろうって」

「……」

「もし、あなたが『負けた世界の勇者』の仲間としてここにやってきたのであれば、すべて説明がつくのよ」

「あ、あのっ」

 真美が口を開く前に三奈子は真美の両方のほっぺたをつねった。

「な、なにふるんでふかっ!?」

「失礼な子よね。私はあなたの書く記事だけが気に入って妹にしたんじゃないのよ」

 そういうと三奈子さまは手を離した。

「来なさい」

 三奈子さまは真美の手をとると走り出した。
 意外と運動神経がよく、足も速い三奈子さまにおいて行かれないよう、真美は必死に手を握り返した。



 薔薇の館前。

「紅薔薇スキル『温室に呼び出し』!」

 同時に蓉子さまと祥子さまが宣言した。
 『温室に呼び出し』は戦闘前に戦闘時と同じ行動がとれるようになる特殊スキルで、しかも行動済みにならないというズルイ、いやもとい、お得なスキルである。

「同じスキルを宣言した場合、敏捷値が高い方が優先する。先手は貰ったわよ。祥子」

「由乃ちゃん!」

 祥子さまが由乃さんに指示を出す。

「『黄薔薇☆絵日記』で紅薔薇さまの『温室に呼び出し』を取り消します!」

 山百合会はダメージを与えないスキルを取り消せるスキルで蓉子さまに先手を取らせまいとする。

「『お蔵入りパン事件』で『黄薔薇☆絵日記』を打ち消します!」

 美冬さまがそれをスキル打ち消しスキルでなかったことにして蓉子さまの先手を生かす。

「では、その『お蔵入りパン事件』を私の『黄薔薇☆絵日記』で取り消す」

 令さまが宣言する。蓉子さまの先手がなくなる。

「令さまの『黄薔薇☆絵日記』は私の『お蔵入りパン事件』でなかったことに!」

 桂が宣言して、蓉子さまの先手が生きる。

「では、私の『黄薔薇☆絵日記』であなたの『お蔵入りパン事件』をキャンセルするわ」

 江利子さまが宣言する。蓉子さまの先手がなくなる。
 もう、スキルを打ち消すスキルを持つものはいないはずだった。

「その『黄薔薇☆絵日記』は私の『お蔵入りパン事件』で打ち消す!」

「な、なんですって!?」

 スキルを使ったのは三奈子さまだった。

「ごめん、遅くなっちゃって」

 真美が息を切らせて謝る。

「真美さん! 三奈子さまもっ!」

 じろり、と蓉子さまが真美を見る。

「蓉子さま、ご安心ください。蓉子さまの名誉はつつがなく保持されています。それより、何かするのでは?」

「そ、そうだったわ」

 蓉子さまは宣言する。

「『温室に呼び出し』の効果で『カマドウマの領域』展開スキル『いたっ!』発動! これによりバトルフィールドはこちらが支配することになるわ」

 蓉子さまの勝ち誇った表情とは対照的に江利子さまは拳を握りしめた。

「黄薔薇スキル『黄薔薇真剣勝負』で攻撃力上昇! 逃がさないわよ」

 江利子さまが戦闘前に使える特殊スキルを発動する。
 相手の全滅以外は敗北という背水の陣スキルである。

「白薔薇スキル『銀杏の中の桜』! 全員を『魅了』状態にしてあげるよ!」

 やはり聖さまが戦闘前に使用する特殊スキルを使ってくる。
 白薔薇が咲き乱れ、さわやかに微笑む聖さまの姿に静さまはうっとりしていたが、判定は成功させて、スキルが使えなくなる『魅了』状態は回避していた。

「『ファーストブレイク』!」

 蓉子さまと祥子さまだけではなく、静さま、由乃さんまでもが同時に宣言した。
 『ファーストブレイク』は割り込みスキルで、ターンの最初に割り込める。
 同時にスキルを習得しているものが宣言した場合は、やっぱり敏捷値順に行動していくことになる。

「……取り下げます」

 祥子さまは作戦を変更してMPを温存することにしたらしい。
 まずは蓉子さまである。

「『カマドウマの領域』内にいる味方が私の習得している『カマドウマ』のスキルを1回だけ使えるようになるスキル『レディ、GO!』使用!」

「おおお! これであのスキルが自在に使えるんですねっ!」

「フン、ちょっと先手をとったくらいでいい気になるのは早いのではありませんか?」

 祥子さまは負け惜しみを言う。

「次は私。『黄薔薇注意報』で早速全体攻撃……の、前に。全パラメータ上昇スキル『病弱美少女』のペナルティで、判定を……」

 由乃さんは何やら判定を始めた。すかさず蓉子さまが宣言した。

「タイミングの違うスキルを使用できる『不在者チャンス』で『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』を使用! その判定を『ファンブル(自動失敗)』にする」

「ぐふあっ! 『黄薔薇真剣勝負』が発動した後なのに、『ファンブル』になったら、『退場』するから、私は負けになっちゃう!」

 由乃さんは頭を抱えた。

「まだよ。『黄薔薇☆絵日記』を限定スキルを復活させるスキル『リベンジ』で復活させて──」

 祥子さまが指示を出すが、黄薔薇ファミリーは。

「とってません、それ」

「スキル枠が足りなくて……」

「黄薔薇に『後戻り』とか『省みる』という言葉はなくってよ!」

(あー、黄薔薇一家なんかに一瞬でもそんな期待を抱いた私が愚かだった……)

 非情にも由乃さんは仕込みスキル『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』の効果で『ファンブル』となり、特殊効果『持病の発作』状態になる。

「うう、マジで発作が……」

 由乃さんはその場にうずくまった。

「あらあら。あんまり無理しちゃ駄目よ。『乳酸菌飲料』取ってるぅ?」

 蓉子さまは余裕で眺めている。

「状態回復薬『乳酸菌飲料』が効かない特殊効果と知ってて……紅薔薇さまって黄薔薇さま並のサディスト」

 由乃さんは意識を失った。

「由乃ぉ〜っ!」

 令さまが由乃さまをお姫様だっこした。

「令のスキル『由乃の騎士』の効果で、令も『退場』するから、黄薔薇ファミリーは黄薔薇さまだけ。ごっそり取った姉妹スキル無駄になるんじゃないの〜?」

「ちっ」

 江利子さまは舌打ちした。
 由乃さんと令さまは全く役に立たず、退場、敗北した。

「あ〜、久々の本物だったのに」

 ちさとがため息をついて現実に復帰する。
 次は静さまの番である。

「『サモン・ピグマリオン』で召喚獣を召喚! 追加スキル『静かなる夜のまぼろし』で召喚獣を同時に八体召喚!」

 佐藤聖さま病の静さまの召喚獣はやっぱり佐藤聖さまの姿をしていた。その隣に、ちょっと雑な作りの佐藤聖さまが現れた。更にその隣に(あと六回繰り返してください。略)。

「召喚獣は共有しているスキルがあるので、通常の行動している者がいない今なら『ファーストブレイク』で割り込み可能! 八体全部を割り込ませる! 一体目はパーティー全体の敏捷値が上がる『今すぐお茶を』を使用! 二体目は飛行状態になる『フライト』を魔術の対象を範囲に変更する『ブラスト』で拡大し……『フライト』効果を希望される方、います?」

「お願いできるかしら」

 蓉子さまが言った。

「では、『フライト』の効果を私と八体の召喚獣と紅薔薇さまに!」

 静さま、召喚獣、蓉子さまの背中に羽が生え、ふわりと飛んだ。

「三体目は飛行時に攻撃対象を範囲に変更できる強力攻撃スキル『バイオレンスブリザード』を『マジックサークル』で更に強力に! ……クリティカルね!」

 山百合会メンバーは必死に回避する。

「祥子さまっ! 避けられません!」

 レベル5しかない祐巳さんはクリティカル以外では回避できない。

「安心なさい! 私もファンブルよっ!」

 安心できません。
 回避に成功したのは白薔薇姉妹だけだった。

「ダメージ追加スキル『レイニーブルー』!」

 蔦子が宣言する。

「『羊の中の狼』でダメージを消します!」

 志摩子さんが宣言する。

「あらあら。でも、あと四回同じ事が出来るのよ。四体目の『バイオレンスブリザード』+『マジックサークル』!」

「祥子さま! ファンブルしてしまいましたっ!」

 祐巳さん、よりによってファンブル(自動失敗)である。

「私はあなたをかばえる『カバーリング』なんてスキル持ってないのよ! このロザリオを受け取ったら『姉は包んで守るもの』という姉妹スキルでかばってあげるから、とっとと私の妹になりなさいっ!」

 実は、祥子さまも回避失敗。今回は黄・白の薔薇さまのみ回避できたのだった。

「それとこれとは話が別ですよっ!」

「命中したので、『一体目の召喚獣』の『レイニーブルー』!」

「やむを得ない、『羊の中の狼』!」

 聖さまが宣言する。

「五体目も同じ構成! 『レイニーブルー』は二体目のを!」

「回避判定前にダメージをなかったことにする『白ポンチョ』発動!」

 聖さまがスキルを使う。

「六体目! 『レイニーブルー』は三体目!」

「『白ポンチョ』発動!」

 志摩子さんがスキルを使う。

「七体目! 『レイニーブルー』は四体目!」

「『リベンジ』で『羊の中の狼』をもう一度発動!」

「八体目! 『レイニーブルー』は五体目!」

「『リベンジ』で『羊の中の狼』!」

 白薔薇姉妹は静さまの攻撃を防ぎきった。
 しかし、ダメージを打ち消すスキルはすべて使い切り、切り札のスキル復活スキルも使いきった。
 ここで三奈子さまの番になる。

「紅薔薇さま、SL回連続攻撃スキル『来たっ!』の力お借りします! 祥子さんを攻撃!」

「なんですって!?」

 祥子さまは回避に失敗した。

「祥子にダメージ減少スキル『プロテクト』!」

 聖さまがスキルで止めてダメージなしとする。

「2回目も祥子さん!」

「『プロテクト』!」

 次は志摩子さんが止めた。

「合計8回可能? ならば、当たるまで祥子さんを狙う!」

「き〜っ!!」

「『カバーリング』!」

 聖さまがスキルで祥子さまをかばう。防御力でダメージを止める。

「『ご贈答用ハム』でダメージを増加!」

「『カバーリング』!」

 志摩子さんがかばう。防御力でギリギリダメージを抑える。

「五回目! 並薔薇ポイント5P追加!」

「行動を放棄して、かばうか……いや、築山三奈子が攻撃可能なのはあと、三回。しかし……祥子をつぶされたらまずいな……」

 聖さまが迷う。

「では、まだ行動していない私が祥子さまを『かばいます』!」

「何っ!?」

 祐巳さんが三奈子さまの攻撃を受け、戦闘不能になった。

「六回目! クリティカル!」

「祥子、いい加減に回避に成功して!」

「……ファンブル……」

「七体目の召喚獣の『レイニーブルー』!」

 チャンスと見て静さまが召喚獣にスキルを使わせる。

「ここで薔薇さま専用スキルを使えるスキル『四つ葉のクローバー』で『ハートの鍵穴』使用してはね返す! 更に、『ハートの鍵穴』は魔術なので『ブラスト』で拡大!」

 すかさず蓉子さまが動いた。

「祥子、『ブラスト』は余計だったわね。ダメージを一手に引き受けるスキル『両手に水道管』使用! そして、そのダメージを『ハートの鍵穴』ではね返し、『ブラスト』で拡大! これでダメージは一人当たり693Pになるわ!」

 蓉子さまは涼しい表情で言う。

「どうして先程から同じような手を使うんですのっ、お姉さま!」

 祥子さまがキレる。

「私があなたに教えたその通りの戦い方しかしてないからでしょう、祥子。さあ、諦めてジャンクにでもなってしまいなさい」

 蓉子さまは取り合わない。

「『両手に水道管』使用! 『ドラグーン』のスキル『ステゴザウルス』で知力値を0にしてダメージを打ち消す!」

 割って入ったのは江利子さまだった。

「『ドラグーン』?」

「隠しクラスよ。成長が難しいし、条件が細かいしで滅多に取る人がいないのだけど……しまった。江利子さまを甘く見ていた」

 蔦子が難しい顔をする。

「あと二回、築山三奈子の攻撃を残しているというのに、このスキルを使う羽目になるとは」

 江利子さまも難しい表情をしている。

「七回目は……江利子さまを狙います!」

「『不在者チャンス』で何でも知力判定にしてしまうスキル『ウィズダム』使用!」

 蔦子が宣言する。

「そんなものは読んでいるわよ! 回避率上昇スキル『ピプシロホドン』をとっているから避けられる!」

「ここで勇者スキル『私ごと殺れ』使用! この攻撃は防御、回避不可能攻撃として扱われる! 更に、『私の屍を越えていけ』効果で次からの攻撃は攻撃力が倍になる!」

 スキルを使ったのは美冬さまだった。そのまま美冬さまはスキルの効果で戦闘不能になる。
 江利子さまから余裕の表情が消えた。

「八体目の召喚獣の『レイニーブルー』!」

 静さまの召喚獣がスキルを使う。
 江利子さまにダメージが通った。

「大丈夫よ。まだたったの17Pダメージなんだし」

「八回目は祥子さま!」

「攻撃用にとっておいた天賦の証『紅薔薇ポイント』8P使用!」

 祥子さまは回避した。

「な、長かった……」

「熱血! 波留のタアアアアアン!」

 ラケットを構えて波留先輩が進み出る。

「うあ、この人か……」

「防御力無視の『ピンポイントショット』! 並薔薇ポイントは全部使用! この一球は絶対無二の一球なりっ!!」

「波留先輩、誰を狙うか言わないと……」

「白薔薇のつぼみだあああああああああああっ!!」

 波留先輩の攻撃はクリティカルした!

「じ、慈愛の証『白薔薇ポイント』10P使用! クリティカル狙いで……ああ、失敗!」

 志摩子さんは勢いに押されて失敗してしまう。

「ダメージ増加スキル『ダイレクトヒット』使用うううう!」

「『姉は包んで──』」

 聖さまが志摩子さんをかばおうとする。

「お待ちくださいっ! スキルだけで防ぎきってみせます! 『プロテクト』!」

「逃げない? ……堂々としすぎだね。怖がんないんだね」

「『リベンジ』で『レイニーブルー』を復活させる! 『レイニーブルー』!」

 蔦子が援護する。

「『白薔薇ポイント』……残りすべて使用!」

「志摩子、無茶するなっ!」

「そして、『妹は支え』でお姉さまに残りMPをすべて献上! 私の役目は終わりましたっ!」

「志摩子ーっ!!」

 志摩子さんはHP3で生き残った。

「って、中途半端に生き残って、MP0って……」

「あ、あ、あら!?」

「派手な演出だけで、全然強力な技じゃなかったし」

「……」

 志摩子さんはうつむいた。

「気にしない。くよくよしない。大丈夫、どうにかなるって。Don't worry! Be happy!」

 波留先輩が慰める。

「……波留先輩、どっちの味方なんですか?」

 桂のお姉さまが見かねて突っ込む。

「世間はさぁ、冷たいよなぁ。 みんな、思い感じてくれないんだよ。 どんなにがんばってもさ、何で分かってくれないんだって思うときがあるのよね。 熱く気持ちを伝えようと思ったってさ、あんた熱すぎるって言われるんだ。でも大丈夫、分かってくれる人はいる! そう! 私について来い!!」

「波留先輩っ、カッコイイ!」

「桂さん……」

 次はその桂である。

「蓉子さま、『決まるまで仮置き』って、どんなスキルなんですか?」

「『決まるまで仮置き』とは『カマドウマの領域』にいる者に任意の行動をさせられるスキルよ。ただし、対象が従うかどうかは『対決』が必要になるし、回数制限のあるスキルを使わせる事は出来ないわ」

「では、祥子さまに『決まるまで仮置き』使用! 祥子さまには『妹は支え』で蓉子さまに所持MPを全部献上していただきます! 更に、この判定には神秘の力『並薔薇ポイント』を全部使います!」

 桂はクリティカルを出した。

「べ、『紅薔薇ポイント』20P使用!」

 祥子さまはクリティカルしなかった。

「MP0!」

「あなたは側にいて、MPがたまに心細くなった時にMPを頂戴。ってところかしら?」

 蓉子さまは笑う。
 友子さまの番になった。

「『ライバルがいいの』で聖さまへの攻撃力を倍に! そして、狙うのは志摩子さん! 攻撃は防御力無視の『羅刹』で! 更に、蓉子さまのお力をお借りして『仮面のアクトレス』で、私がッ、ファンブルするまで攻撃をやめないッ!!」

「残りHP3を狙うとは……しかも聖さまへの攻撃力を倍にってところで『かばうな』と言ってるようなものよね」

 友子さまの攻撃はファンブルだった。

「と、友子さま……」

「ああああっ、もうっ! もうっ!!」

 友子さま、唯一かもしれない見せ場を失いorzの姿勢で涙する。
 波留先輩が優しく友子さまの肩に手を置いていった。

「諦めんなよ!! どうしてそこでやめるんだ、そこで!! もう少し頑張ってみなよ! ダメダメダメダメ諦めたら。 周りのこと思って、応援してる人たちのこと思ってみて。あともうちょっとのところなんだから。ずっとやってみて! 必ず目標を達成できる! だからこそNever Give Up!!」

「ああ、波留先輩のお言葉を聞くたびに勇気づけられ力が湧いてくる!」

 桂は感動する。が。

「システム的にやり直しできないんですよおお!!」

 友子さま、号泣。

「波留、うるさい。これ以上喋るならあなたを先に攻撃するわよ」

 蓉子さまに睨まれて、波留先輩はさすがに黙った。

「残っているのは私と、桂さんのお姉さま、真美さん、蔦子さんか……待機します」

 ちさとは待機を宣言。

「待機」

 桂さんのお姉さまも待機して、蔦子の番になった。

「攻撃力上昇スキル『ファイアウェポン』を『マジックサークル』で強化して、『ブラスト』で全員に拡大」

「志摩子さんを攻撃! ……あらら、クリティカル!」

 真美が適当に放った攻撃があたった。志摩子さんは回避できない。

「防御力と『プロテクト』で持ちこたえられるよ」

 ふふん、と聖さまが鼻で笑う。

「『涼風さつさつ』発動! 『カマドウマの領域』内のクリティカルで与えるダメージを更に強化する!」

 蓉子さまが宣言する。

「お姉さま、後はお願いいたします」

 志摩子さん、戦闘不能になる。

「よ、ようやく反撃出来るけど……うう、私と江利子とMP0の祥子だけ……」

「跪いて命乞いするなら、降参を受け入れるわよ」

 蓉子さまの高笑いに祥子さまは思わずハンカチをズタボロに引き裂いた。

(蓉子さま、ノリノリだね)

(あんなノートさえなければカッコイイのに)

(こうなった原因を考えると泣けてくる) 

(ノート取り返したいっていう必死さが伝わってきてちっともカッコ良くない)

「ええい、こうなったら最後まであがく! 攻撃力上昇スキル『ティラノサウルス』で筋力値を犠牲にして攻撃力をあげ、『黄薔薇注意報』に強さの証『黄薔薇ポイント』を全部乗せて、混乱効果を追加する『黄薔薇パニック』も使う!」

 江利子さまの一撃!
 クリティカル!

「さあ、どうする?」

「『四つ葉のクローバー』で『両手に水道管』を使用してダメージを集約! 攻撃に対して攻撃する『カウンターショット』で江利子さまに反撃! もちろん並薔薇ポイント全部使用!」

 桂さんのお姉さまの反撃はクリティカルした!

「『黄薔薇交錯』でリアクションスキルにリアクション!」

 江利子さまの宣言の直後、蓉子さまが宣言した。

「紅薔薇さま専用スキル『勝手にしりとり終了』はリアクションスキルを打ち消す事が可能! これで『黄薔薇交錯』を打ち消す!」

「そんなスキルあったのっ!? アニメにも使われたメジャーネタ以外は禁止にしてよっ!」

 江利子さま、無念の戦闘不能。

「白薔薇スキル『親切なサンタさん』でこちら側全員のMP全回復! って、もう私と祥子だけじゃん」

 聖さま、涙目。

「今、一番強いダメージを与えられるのは……『マジックサークル』で強化した『ヒステリックサンダー』を飛行状態ではないので『ブラスト』で拡大して、『紅薔薇ポイント』をすべて乗せる……クリティカルしないってどういう事よっ! 責任者! 出てきなさいっ!」

 祥子さまは逆ギレしながら、それでも桂たちを一撃で葬り去れるぐらいの強さのスキルを使ってきた。

「『プロテクト』を『守りの指輪』の効果で全体に使用! 更に、蓉子さまのお力をお借りしてリアクションスキルを強化する『乃梨突っ込み』で防ぎきる!」

 真美の活躍で全員が祥子のダメージを受けなかった。

「さて、待機していたので反撃しますか。『嫌っ!』で聖さまと祥子さまの防御属性を『水』に変更!」

 ちさとがそう言うと、桂さまのお姉さまが心得たというように出てきた。

「『マシンガンショット』で全体射撃攻撃! 『並薔薇ポイント』全部使用!」

 クリティカルした。

「『ビスケットの扉前』で回避。祥子を『カバーリング』してそのダメージは『あんた、その前に謝れよッ』でダメージをはじき返す!」

 聖さまの手には『乃梨ちゃんパペット』のヘアスタイルを真ん中分けにしただけっぽい『蓉ちゃんパペット』が握られていて、四人は「ああ、この人は間違いなく志摩子さんのお姉さまだ」と思った。
 しかし。

「クリティカルしない、だと!?」

 聖さま、属性の関係で大ダメージとなりついに戦闘不能。

「ここで『号外』! 蓉子さま、とどめをお願いします!」

「こら、そこの七三! 物騒なことを言うのはおよしなさいっ!」

 祥子さま、ブチギレる。

「あらあら、当たるなんてみっともないわね。さあ、引導を渡してあげる。確実に命中するよう『紅薔薇ポイント』を全部つぎ込み、『ヒステリックサンダー』を『マジックサークル』で強化。『カマドウマの領域』は失われてしまうけど、『や〜め〜て〜!!』でダメージを追加! 領域の支配者『カマドウマ』の真骨頂をその身に感じて果てなさい!!」

「念のため、六体目の召喚獣の『レイニーブルー』も」

 静さまがクスリと笑った。

「ぁぁあああ」

 祥子さまは避けることなどできなかった。

 勇者パーティー、山百合会に勝利である!

「おっと、時間がないっ! 早く古い温室に向かわないと!」

 桂、蔦子、真美、ちさとは全力でダッシュした!

「待ちなさいっ! 今度こそノートのコピーを──」

 必死の形相で蓉子さまが追いかけてきた。

「紅薔薇さま、ノートのコピーってなんですか?」

 三奈子さまも追ってくる。

「コピーはお返しします!」

 桂が『禁断の書のコピー』をばらまくと、蓉子さまは慌ててそれを追い、三奈子さまがコピーを拾おうとした時に蹴りを入れていた。
 桂たち四人は無事に古い温室に飛び込んだ。

「……あれ?」


->セーブして、ごめん、まだ【No:3140】に続くんだよね
 早く終わらせようよ


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