※2010年4月1日『お釈迦様もみてる 自分応援団』発売告知SSです。
恒例の各種宣伝とネタバレの嵐です。
薔薇の館。
「令ちゃん、令ちゃん。『釈迦みて』の出番の事なんだけど……」
由乃は菜々の腕を引っ張りながら令ちゃんのところへ歩いていく。
「出番? ……そんなものないよ」
令ちゃんはそっけなく答えた。
「……え?」
言ってる意味がよくわからないんですけど。
「だって、『マリみて』ではずっと」
「『マリア様がみてる 私の巣』でさえ出番がなかった」
「ち、ちょっと待ってよ」
何だ、何だ、頭の中が整理できない。
それって、それってどういうことだ?
「『黄薔薇ファミリー』は一人も出演してないってことだよ」
「嘘」
「本当」
「祥子さまっ、令ちゃんが!」
駆け寄ってすがりつく。
「由乃ちゃん、落ち着いて」
「これが落ち着いてなんて」
いられますか、そう言おうとして、由乃ははたと気がついた。祥子さまは落ち着いているのだ。
まさか。──まさか!
「祥子さまは、知ってらしたんですか?」
「ええ」
あくまで冷静に、そして少し同情を含んだ表情で、祥子さまはうなずいた。
由乃は、後ずさりで祥子さまから離れた。『私の巣』で何が起きているのか、よくわからない。
「まさか、由乃さまは」
背後から菜々の声がした。
「山百合会のメンバーなら無条件に出番があるとでも思っていたのですか」
「……何ですって?」
「そんな『マリみて』の新刊で何で私たち『黄薔薇ファミリー』だけ出番がないのよ!」
──ぶつり!
江利子はリモコンで再生されていたDVDを止めた。
「お、お姉さま」
「くどい! 『「私の巣」は黄薔薇ファミリー全滅』とだけ表現すればいいものを『未来の白地図』のパロディにしてまで表現する必要はなくってよ!」
江利子はバシン、とテーブルを叩いた。
令はビクリ、と体を震わせ、由乃は視線を合わせないようにしている。
「いい? 次の『釈迦みて』ではようやく花寺学院の学園祭で三薔薇さまご降臨で『マリみて』サイトがワッショイワッショイ。久々の高校生時代のエピソードで私もワッショイワッショイって感じになるはずだから、『マリみて』新刊では『黄薔薇ファミリー』の存在感を見せつけてはずみでトントントントン行きたかったのにっ!!」
「由乃にしてみると、妹がいない世代とは絡みづらかったんですよ」
令が江利子に言うが、これがいけなかった。
「何言ってるのよ!? 祥子を見なさい! 志摩乃梨の生みの親と言われるくらい春は頑張り、夏の可南子ちゃん問題では格好良く駆け付け、秋から冬にかけての瞳子ちゃん問題では通りかかるはずのない一年生校舎をうろうろ……あの祥子がよ? あなたがその間にしていた事といえば部活に出て『令ちゃんのばか』呼ばわりされてただけじゃないのっ! 由乃ちゃんはほとんどからんでいない世代に対して『称号』の方ではなく『名前』の出演は頑張った方よ。名前だけだったけど」
令は小さくなった。
「江利子さま、落ち着いてください。『お釈迦様もみてる』の新刊情報が各地に上がっていたのでコピーしてきました」
菜々がそっと言う。
「また祐麒くんの誕生日に来たわね、『釈迦みて』新刊。まあいいわ。ミス花寺の女装問題はどんな感じなのかしら?」
江利子が楽しそうに促すが、菜々は一瞬言い淀んだ後に、淡々と機械的に言った。
「いえ、それがですね、新刊タイトルは『お釈迦様もみてる 自分応援団』で、あらすじはまんが王によると『体育祭』だと……」
「はあっ!? 学園祭じゃないのっ!? じゃあ、じゃあ……」
黄薔薇ファミリー、やっぱり出番なし確率90%を超えました。
「たぶん、全員が『ウェットorドライ』のラストで次は我らが三薔薇さまのお出ましだとはしゃいだのが天の邪鬼なところのある神(と書いて原作者と読め)の気に障ったのではないでしょうか?」
「す、推測でものを言うのはどうかしら? それに、花寺とも打ち合わせしていたのであれば、向こうに行った描写もあるかもしれないし……私は病弱すぎて出番なし確定だけど」
由乃がフォローを試みるが失敗する。
「何てこと……何てこと……全世界の黄薔薇スキーに至急、援軍の要請を!」
「がちゃがちゃSS掲示板にいる全黄薔薇スキーはただちに『プレミアムCD2』を購入して黄薔薇を支援せよ!」
「江利子さまっ! お小遣いが足りません!」
「月末の事など考えるなっ! お年玉の残りもつぎ込めっ!」
「ば、馬鹿なッ……足りない、だと!?」
「我らがフェティダに栄光あれっ! 特攻を開始するっ!」
「私たちの生きざまを見せてやるっ!」
「お姉さまっ! 死ぬ気ですかっ!!」
「ジーク・フェティダ! ジーク・フェティダ!」
「先行するっ!! 私の背中を守れるのは、あなたしかいないっ!!」
「お姉さまあぁ〜っ!!」
「あなたは生きて還りなさい! 最後の命令よっ!!」
「お姉さまとなら地獄の釜の底までお供いたしますっ!!」
「この、積み立てられし『五百円玉貯金』を使う日がこようとは……」
「ひるむなっ! そのためらいが命取りになるっ!!」
「生きて還ったら、熱いお茶を入れますね……」
「ええ、あなたこそ生きて還るのよ……」
「江利子さまっ! このままでは火の車ですっ!!」
「順次撃墜! 何やってるの、弾幕足りなくってよっ!!」
「ターゲット、ロックオン! うわあぁ〜!!」
「何をしているっ!! 死にたくなければ全弾発射!!」
「そうやってあなたはいつもいつも私たちを捨てゴマにするのですねっ!!」
「ここでこうして戦ってるのが私の存在理由。べ、別に令ちゃんとは関係ないんだからっ!!」
「私たちの背後にはファンがついているっ! 今はその守るべきものの事だけを考えるんだっ!!」
「この戦争が終わったら私、ファンの人に『令ちゃんは俺の嫁』って言われるんだ……」
「やってやるっ! 黄薔薇の未来を守るためにっ!!」
「第三艦橋大破っ!」
「もう、ゴールしてもいいよね?」
「逃げちゃ駄目だ! 逃げちゃ駄目だ!」
「隊列を崩すなあっ!! 買い続けろおぉっ!!」
「なに……こんなのかすり傷よ……ぐふあっ!」
「由乃っ! 今助ける!!」
「来ちゃ駄目っ! 必ず後から行くからっ、私に構わず先に行ってっ!!」
「こ、ここから先には絶対に行かせません!」
「大丈夫、私のお姉さまは正義の味方だもの。お姉さまは、絶対に負けないもの……」
「私が合図したら走りなさいっ! どんなことがあっても振り向いちゃ駄目よっ!」
「うわああぁぁ〜っ!!」
肩で息をする四人。
「ま、待って、これってやっぱり全滅してるんじゃない?」
「き、気づいてはいたけれど、楽しくなって……つい」
「と、途中で変な事言ってる人いなかった?」
「お、面白い事言うのに夢中になっててもう、覚えてない……」
全員が冷めてしまったお茶を飲む。
「菜々ちゃん、ところで有馬道場の門下生に『釈迦みて』メンバーはいないの? 『釈迦みて』って剣道やってる人、いるじゃない」
「さあ? 仮にいたとしても、姉が3人もいますからそちらとのフラグになるかもしれません」
「とにかく、この程度で負けていては駄目ね。もっと頑張らないと……」
「ああ、それで『自分応援団』につながるんですか……」
「……」
落ちなかった。すみません。