打ち上げ旅行【No:3082】【No:3083】【No:3088】【No:3108】【No:3129】【これ】【No:3165】(完結)
祥子が祐巳と瞳子を見送る前、令が声をかけていた。
「祥子、岩盤浴は行った?」
岩盤浴、とは温めた石の上に横たわって汗を出すというものである。
「いいえ。まさか、汗をかいたのに、また汗をかきに行くの?」
祥子は不可解というように眉をひそめる。
卓球で思ったより汗をかいたので、もう一度お風呂に行かなくてはとは思っていた。
「それが気持ちいいんだって。空いてるならこの後行こうよ」
令が手をとる。
普段の令ならば「祥子はどうする?」ぐらいは聞いてくるであろうに、今回は強引だった。
それが少し引っかかり、祥子は言った。
「岩盤浴は行かないけれど、お風呂にならいいわよ。軽く汗を流したいし」
「じゃあ、それで」
令は露天風呂を選んだ。
さっと汗を流して、幾分空いている内風呂の小さい浴槽に二人で入る。
「それで?」
祥子が聞いた。
「ん?」
「話があるんでしょう?」
祥子の言葉に令はちょっと驚いていた。
「わかる?」
「こんなに強引に誘ってくるっていう事は、なんとなく」
祥子は苦笑する。
令はあたりを見回してからいう。
「菜々ちゃんの事だけど」
「菜々ちゃん?」
「なんていうか、由乃の妹なわけだけど、どう接していいのかなって。祥子は親戚っていうのもあるけれど、瞳子ちゃんにうまく接してるでしょう?」
ああ、とも、なんだ、ともとれるようなため息をついた後、祥子は言った。
「気にすること、ないんじゃない?」
「そうかな」
「妹の妹なんて無責任に可愛がられる『孫』みたいなものだってお姉さまもおっしゃっていたわ。ちょっと遠くに住んでいる『孫』だと思って、猫可愛がりしたっていいんじゃないの?」
「そう、かな」
「あなた、そんな事で将来由乃ちゃんが誰かと結婚することになったらどうするの? あなたも一緒にウェディングドレス着て、由乃ちゃんのお相手のところに一緒に嫁ぐわけ?」
令は青くなって、次に赤くなった。
しばらく令の思考が飛んでいる間に、不意に水音がした。
──チャプン
令がふと隣をみると、祥子が半分眠っていて、顔を水面に突っ込んでいた。
「さ、祥子っ!?」
「ん?」
「このまま寝たら溺れるよ。出よう」
「寝ないわよ。失礼ね」
祥子はそう言うと湯船を出た。なんとか身体を拭いて浴衣を着たが、かなり眠そうである。
「部屋まで一緒に」
「心配性なんだから」
と二人でフロント前を通った時に令はK先生に呼ばれ、電話がかかってきたので江利子を探してくるようにと言い使わされ、祥子と別れた。
その祥子はK先生に保護され、無事に部屋に送り届けられると、髪を巻く、巻かないという話など忘れて眠ってしまった。
湯船で祐巳と聖がはしゃいでいるのを蓉子が叱っていた時、脱衣所から入ってきた者がいた。
「蓉子さま」
「どうしたの、令」
そこには浴衣姿の令がいた。
「お姉さまが至急フロントに助けに来てほしいと──」
令が全部を言い終わる前に蓉子は湯船から出た。
「すぐに行くから、そう伝えて」
蓉子は慌ただしく体を拭くと浴衣を着て、フロントに向かった。
令はいなかったが、江利子が電話をしていた。
「あっ、来た来た。今代わるから」
江利子は蓉子を見つけると受話器を差し出して言った。
「父が電話かけてきて、『みんなで来てるんなら、証拠に蓉子ちゃんを出せ』ってしつこいのよ」
ちらりと江利子の顔をみると、蓉子は受話器を受け取って江利子の父と話し始めた。
蓉子の声を聞いて安心したのか、江利子の父はすぐに電話を切ってしまった。
「あら……切れちゃったわ」
蓉子はやれやれと受話器を戻した。
「いいわよ。別に今さらあの親父と話す事なんてないし。それよりごめんなさいね。お風呂に入ってたんでしょう?」
江利子がさすがに申し訳なさそうな顔になる。
体は拭いてきたが、髪はかなり濡れていた。
「仕方ないわよ。相変わらず大変ね」
ふふ、と蓉子は笑ってタオルで髪を押さえた。
「まったく、自分の娘の私より、蓉子を信じるってどういう事かしら? 私は嘘をついた事もなければ隠しているような事もないのだけれど」
はあっ、と江利子は大きくため息をついた。
「と、言うより、隠し事すらないんでしょう?」
「言ってくれるじゃないの。……その通りだけど」
江利子は渋い顔をして答える。
「じゃあ、キスなんか……まあ、あの熊男がキスなんかするとは思えないわね」
「ええ。キスどころか、手ぇすら握ってないわよ」
どうせ、というように江利子は視線をそらす。
「そこから? 手ぐらい自分から握ればいいじゃない」
「……握れるもんですか。これでもずっと女子校育ちの純情な乙女ですもの」
思わず蓉子は吹き出す。
「何笑ってるのよ。失礼ね。蓉子こそ、中学生以上になってから男子と付き合ったことあるわけ?」
「どうして小学生以下を除外するのよ?」
「もうすぐ二十歳になる人間が、小学生のお子様の体験を参考にするなんてありえないでしょう。そんなもの参考にお付き合いなんかしたら、変な男に引っかかって騙されて、貢いで尽くして捨てられるわよ」
ふふん、と小馬鹿にしたように江利子が蓉子をみる。
「変な未来予想図を描かないで欲しいわね」
「で?」
真面目な顔をして江利子が聞く。
「何?」
蓉子が聞き返す。
「ここだけの話、蓉子ってリリアンに入って以降、恋愛対象として誰かを見たことあるの?」
「失礼な聞き方ね」
苦笑して、蓉子は流そうとする。
「誤魔化さないで、ねえ」
いつもとは違って真面目に江利子が聞いてきた。
蓉子は真面目に答えようと思いを巡らせて、言った。
「……ない」
「今の『間』は何?」
「秘密」
「ずるいわね」
「ええ、そうね。私はずるくて臆病で不器用だから、優等生な答えしかできないのかもしれないわね」
笑いながら認める蓉子に、江利子は気をそがれたのか話題を変えた。
「それより、お風呂途中だったんでしょう? これから入り直さない? 私も令に呼ばれて慌てて出てきたのよ」
「それはいいわね」
二人は微笑みあうと浴場の方に向かった。
露天風呂。
由乃と菜々が露天風呂につかっていた。
「はあ〜」
由乃は天を仰ぐが、屋根の裏が見えるだけだった。
「お姉さま、諦めましょう」
「どっちを?」
縦ロールの生成過程を知る方か、それとも縦ロールモデルから逃れる方をか。
「どっちをって、そりゃあ……」
菜々はそう言って口ごもる。
「あなた、面白いから私の頭にコロネがつけばいいとでも思ってるんでしょう?」
じろり、と由乃が菜々をみる。
「仮にそうだとしたって、本人には言いませんよ」
「こらっ!」
由乃は菜々を捕まえて湯船に沈めようとするが、菜々も抵抗して、由乃を引きずり込もうとするので、結局二人でバシャバシャと暴れて他のお客さんに冷たい視線で見られる。
「ああ、もうどうしようかな〜」
しかし、由乃の心配は無駄になった。
いろいろと考えながら戻ってくると、向こうから、蓉子、江利子、祐巳、瞳子が歩いてきた。
一瞬顔をひきつらせる由乃に江利子が歩み寄ってきて、勝ち誇った顔をして言った。
「由乃ちゃん、私の長年……でもない疑問は見事に解決したわ!」
「え……」
瞳子はいつものように縦ロールを巻いていた。
「あの」
「いや〜、見事! 実に見事な手際だったわ。ああやるとは」
由乃はがっくりと落ち込んだ。
入浴後、江利子はたまたま瞳子と遭遇し、その時に縦ロールの形成を見たのだろう。
絶好のチャンスを逃したことを悟った由乃はもやもやとしたものを抱えてしまった。
何たる不覚、何たる不覚っ!
部屋に戻って由乃が枕にげんこつを何発か食らわせていると、志摩子とH先生が戻ってきた。
「あら、由乃さん。向こうの部屋でみんなで寝る前に少し話でもって言ってたのよ。一緒に行きましょうよ」
志摩子に全く落ち度も罪もなかったが、こうなったら誰かを巻き込まずにはいられないブラック由乃は、目の前の彼女に標的を定めた。気になりすぎて悶絶して何かの弾みに自爆したら笑ってやろうという悪意がそこにあった。
「志摩子さん」
ん? と志摩子は首をかしげる。
「瞳子ちゃんの縦ロールってどうやってるんだろうね?」
「さっき一緒にお風呂に入った時に見たのだけど、結構簡単にやっていたわ。毎日やっていると手早くできるものなのね」
由乃の作戦は簡単に破綻した。
「あれは今後の参考になったわ」
というH先生もみたらしい。
モヤモヤとどんよりが増す由乃だった。
ルームナンバー4021。
部屋に戻ると、薄暗くなっていた。
K先生が口に人差し指を当てて「お静かに」というポーズをとった後、小声で教えてくれた。
「祥子、最近早寝早起きを心がけていて、この時間になると眠気に襲われるんですって」
祥子は就寝中だった。
「祐巳に伝言なのだけど、明日の朝は二人で一緒に露天風呂に行きましょうって」
旅行に行く前、早朝に露天風呂から朝日が昇るのを眺めたらさぞ気持ちがよいだろうというような事を祐巳は祥子に話した。それを実行するためにも早寝した、ということなのだろう。
「お姉さま、どうなさいますか?」
瞳子が祐巳に聞いた。
少し、お菓子でも食べながらお喋りでもしようと盛り上がって、ルームナンバー4023に行く前にちょっと部屋に荷物を置いて、祥子とK先生を誘えたらと思いながら部屋に来たのだ。
「朝に弱いお姉さまがちゃんと起きて、私が起きられなかったら困るから、私はもう寝る。瞳子は?」
瞳子は答えの代わりにK先生にこう言った。
「K先生、私たち、眠る前にもう少しみんなで過ごそうと思いまして、今からルームナンバー4023の部屋に集まることになっているんです。ご一緒しませんか?」
「誘ってくれるの? 嬉しいわ」
K先生は嬉しそうに微笑んだ。
「お姉さま、ほどほどで戻ってきます。皆さんにはちゃんと言っておきますので」
瞳子はそう言った。
「ありがとう、瞳子。おやすみ」
「おやすみなさい、お姉さま」
ルームナンバー4023。
仕掛け人は聖だった。
どうせ両先生はビール片手に参加するだろう。でも、未成年の自分たちはジュース、コーラ、お茶ぐらい。それはちょっとつまらないな。
そう思った聖は売店のアルコールコーナーの隅にあった「アルコール分0%」を謳うビール風味清涼飲料をいくつか買った。未成年がこれを飲んでも法律上はまったく問題はない。
だが、それだけでは満足できないイケナイ聖はこっそりイタズラすることにした。
本物のお酒を買ったのだ。
スタッフ、並びに両先生に渡す分として購入し、実際に何本かはそうした。
だが、こっそりと冷蔵庫に入れ、清涼飲料に混ぜていき……面白くしてやろう。
聖はほくそ笑んだ。
部屋にはスタッフの用意したお菓子とジュース類が並んでいた。
聖は清涼飲料の缶を開け、グラスに注ぐ。
「聖、ちょっとそれ……」
やっぱり江利子に見つかった。
意外かもしれないが、江利子は『ルールを破ること』ではなく、『ルールという枠の中でギリギリの事をやること』を好むのだ。たとえば、門限が7時なら、帰る時間は1分前とか。他にも、熊男とのデートを報告するよう父親に言われたなら、ちゃんと隠さず報告はする。ただし、親父殿がやきもきして途中で聞かなくなるような言い方を平気でするけど。
「これ? これはアルコール0%の清涼飲料。だから、法律上は飲酒に当たらないからまったく問題ない。ね?」
と聖は蓉子にふる。
「そう。法律上はね」
蓉子は素早く缶をチェックして、それが清涼飲料であることを見抜いていたので騒がなかったのだろう。詳しいな、蓉子。
「あ、私ももう飲めないから、そっちで」
K先生は聖から清涼飲料を受け取って飲む。
「飲んでみる? 清涼飲料だし」
聖は勧める。
「あ、みんなも分もあるよ」
と、冷蔵庫からまずは清涼飲料をだして、「手伝います」と進み出る可愛い後輩たちをうまく言いくるめ、自らグラスに注いで渡す。その時にこっそり半分くらいアルコールを混ぜる。(注:もちろん法律違反ですのでいけません)
断る者もいれば、受け取る者もいる。
乃梨子は断っていたが、志摩子は素直に受け取っていた。
「へー、ビールってこんな味なんだ」
「大人みたい」
「本物そっくりなのね」
途中、由乃と目があったが、意味あり気にニヤリと笑っただけで由乃は何も言わなかった。気付いたが、黙認するようだ。(注:こういうのも法律違反ですので真似しない)
「ささ、蓉子さんどうぞどうぞ」
うるさそうな蓉子は先に潰してしまおうと聖は蓉子に本物だけを注いだグラスを渡した。(注:しつこいようですが、蓉子はこの時点ではたぶん十九歳なので法律違反です)
「あら、ありがとう。サービスいいわね」
グイ、と蓉子は飲んだ。いい飲みっぷりだ。
「ふうん、こんなものなのかしら」
蓉子はグラスを見つめる。
「まあ、清涼飲料だから。さあ、江利子さん江利子さん」
「気持ち悪いわね、急に『さん付け』だなんて」
と言いながら、江利子にも本物だけを注いだグラスを渡す。(注:江利子もたぶん十九歳なのでNGです)
こちらはちびちびと飲み始めた。
皆が楽しそうに飲むので、始めは遠慮していた乃梨子や菜々も飲みだした。
そのうちに清涼飲料がなくなって、本物のビールだけを出す。(注:くどいのでこれで最後にしますが、法律違反です。お酒は二十歳になってから!!)
もう遅いからと両先生が引きあげたころ……一部に期待していた変化が現れた。
「きゃはははは」
楽しそうに笑いながら隣の乃梨子をバシバシ叩いているのは瞳子だった。
何が楽しいのかさっぱりわからないが、酔って手加減なく乃梨子をバシバシ叩いているため、さぞ乃梨子は痛かろう、と思ったが、こちらも酔っているせいかあまり反応がない。
──ガクン!
不意に乃梨子は崩れ落ちた。
聖は一瞬急性アルコール中毒にでもなったのかと思って焦ったが、疲れもあって眠っただけのようだった。
志摩子が適当な布団に乃梨子を寝かせていた。
「由乃お〜っ!」
令は真っ赤になって、セクハラ令として見境なく皆に抱きついている。
ちなみに、今抱きつかれているのは由乃ではなく、聖である。
「全然違うけど」
「こっちだあ〜!」
と志摩子に抱きつく。
「全然違うって!」
バシバシと瞳子が令を叩く。しかもタメ口で突っ込む。
かくん、かくん、と菜々が何度も崩れ落ちそうになる。
「菜々ちゃん、眠いなら寝ていいのよ」
蓉子が気遣う。
「こっちがっるさいなら、私と代わりましょお。向こおの部屋で寝てもいいのよぉ」
ろれつが回らなくなってきた志摩子が言う。
「菜々、連れていってあげる」
由乃が菜々を立たせる。
「由乃さまが菜々ちゃんをお持ち帰りで〜す」
楽しそうに瞳子がコールする。
「ひゅーひゅー」などと囃したてる酔っ払いたち。
「姉妹ですから、これくらい。では、おやすみなさい」
由乃の耳が真っ赤になったのは何もアルコールのせいではあるまい。
二人は部屋を出た。
「では、私もおやすみなさぁい、お姉さまぁ」
志摩子が甘えるような口調で聖に言う。
「はい、おやすみなさい」
聖が答えると、志摩子は自然に乃梨子の寝ている布団に入って眠ってしまった。
「いーなー、志摩子。いーなー。私も志摩子欲しい!」
江利子が志摩子の髪を引っ張る。
「令を忘れないであげてっ!」
ちなみに今突っ込んだのは瞳子です。
「ひどいよお! お姉さまあ」
令が江利子に抱きつく。
「私にはあなただけよお」
江利子が令を抱き返す。
「いよう、あついねえ、おふたりさん!」
聖が両手をメガホンを作るように口元にあてて言う。
「はい! 私たちはこれから新婚旅行に行って参ります! ごきげんよう、皆さま!」
と令は江利子を連れて部屋を出ていった。
「どこ行くのかしら……」
不安そうに蓉子が呟いた。
──バタン!
強く何かが倒れるような音がして振り向くと、乃梨子の布団の横、志摩子とは反対側に瞳子が倒れるように眠っていた。限界に達したらしい。
蓉子は瞳子の乱れた浴衣を直して布団をかける。
「よおこ、のんでる?」
聖が蓉子の背後から、おぶさるように抱きつく。
「ずっと飲んでるわよ」
重いから避けなさい、というようにポンポンと蓉子は聖の肩を叩く。
「そお? よおこ、つよいね?」
全く動かないで、聖が耳元でささやくように言う。
「何が?」
「おさけ」
「お酒? これ、清涼飲料じゃないの?」
「ん〜」
聖はそのまま眠ってしまった。
「仕方ないわね」
呟くと蓉子は聖をゆっくりと離して布団に寝かせた。
数合わせのため、蓉子は瞳子の部屋、つまり、祥子と祐巳が寝ている部屋に移って寝ることにした。
灯りを消して、部屋を出る。
(それにしても、みんな酔っぱらったみたいになっちゃって。清涼飲料でも気分で酔っちゃうのかしら?)
本物であることに気づかない蓉子。
気づかなかったのは酔っているからなのか、それともそれほど強いのか。
ルームナンバー4021の扉をそっと開けて、空いている布団にもぐりこんだ。
大浴場。
令と江利子はそのまま大浴場まで来ていた。
夜中なので人はいない。
脱衣所で浴衣を脱ぎ始める。
その時、人が入ってきた。
小父さんだった。
「うわっ! し、失礼しましたっ!!」
小父さんはすぐにUターンした。
「あらら、間違えたのね」
「『女』って書いてあるのにねえ」
と二人でのれんをみると書いてあったのは『男』。
夜中に大浴場は男湯と女湯の入れ替えがあり、二人がフラフラと入ってきたときにはもう入れ替わっていたのだ。
「『男』」
二人は綺麗にハモった。
「やだあ、令! こっちは男湯じゃないのっ!」
照れたように笑って江利子は令を叩く。
「間違えましたあ」
と脱いだ浴衣を抱えて、令は脱衣所を出ようとする。
「あなた、浴衣くらい羽織りなさいよお!」
江利子が令に浴衣を羽織らせるが、帯は適当にしめているので、はだけてかなり危ない格好になっている。
「ああ、ごめんなさい」
令はその格好で今度はちゃんと女湯に向かった。
途中で、先程間違えたかと思って引き返したあの小父さんとすれ違ったが、困ったように視線をあっちに向けていた。
その後、はしゃいだり、眠ったりしながら入浴を済ませ、浴衣を着ると令と江利子はルームナンバー4023に戻った。
「今、何時?」
「もう四時ですよ。朝の四時」
「あらあ、じゃあ、寝ましょうか」
令と江利子は空いている二組の布団に仲良く並んで寝た。
次回最終回。
→【No:3165】