【3166】 薔薇の館陥落!  (bqex 2010-05-04 22:04:44)


『もしも桂さんが勇者だったら』

 最初から【No:3054】
 セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】【No:3104】【No:3114】【No:3116】【No:3118】(黄)【No:3119】(白)【No:3120】(紅)【No:3124】【No:3136】【No:3140】【No:3155】【No:3159】
->黄薔薇編エンディング【これ】
 白薔薇編エンディング【No:3167】
 紅薔薇編エンディング【No:3168】


【これまでのあらすじを黄薔薇姉妹がやってみた】
 リリアンを救う勇者桂さまは『並薔薇さま』として認められ、仲間の蔦子さま、真美さま、ちさとさまと最終決戦に挑むことになりました。頑張れ、桂さま! お姉さまも応援して……どうなさいました、お姉さま?
 これが『黄薔薇編』だなんて認めないわっ! なんで私が主役じゃないのよっ!!
 ……主役は桂さま、ですよ? いちいちいじけないでください。
 このうp主の黄薔薇の扱いは悪すぎるっ!! 最近の話は『黄薔薇の扱いが悪いネタ』ばかりだし、過去の話だってロクな扱いされてないっ! 過去の連載【No:2956】で死亡扱いにされたこと忘れてないわよっ!!
 えーと、お姉さまの怒りでお話が終わってしまう恐れがあるので、この辺で。では、スタート。
 菜々っ!! ここは怒りなさいよっ!!



 桂、蔦子、真美、ちさとは薔薇の館にいた。

「ところで、リリアンの危機ってどんな存在なんだろうね?」

 ──ガクウン!!

 不意に薔薇の館が大きく揺れる。

「きゃあ〜っ!!」

 四人は引っくり返る。薔薇の館が揺れ続ける。ビスケットの扉が開く。
 そして、桂は吹っ飛んで階段の下に落下した。



「……」

「……桂さん……桂さん」

「……う、うう」

 桂は起き上る。
 何故かまだ明るい時間のはずなのに辺りは真っ暗になっていた。
 目の前には祐巳さんがいる。

「祐巳さん……」

「くすくす。桂さん、苗字もないくせによく頑張ったね」

「ちょっと、『苗字もないくせに』って何よっ!」

「ふふふ。でも、本当に桂さんごときがここまで来るとは思わなかったわ」

 背後から志摩子さんが現れたそう言った。

「ちょ、ちょっと」

「○○などというふざけた苗字の桂さまなんかに勝ちを譲ってもよろしかったのですか?」

 乃梨子ちゃんが言う。

「私なら苗字が○○という人間に負けるような演技は女優として頼まれてもプライドが許せませんわ」

 瞳子ちゃんが吐き捨てるように言う。

「中の人は『三枝』って言ってましたよね三枝桂……ベタですよね」

 興味なさそうに菜々ちゃんが言う。

「な、何よおっ!?」

 桂が一歩下がると祐巳さんが回り込んで立っている。

「みんなひどいんじゃない? せめて『空気』とか、『虚無』とかにしてあげなよ」

 志摩子が言う。

「もう、いっそ桂桂でいいじゃない」

「うふふふ」

「あははは」

 全員が桂を指差して嘲笑する。

「そ、そんな……」

「桂さん、落ち着いて。私はあなたの味方よ」

 背後から現れた由乃さんが言う。

「よ、由乃さん!?」

 由乃さんが桂の肩を抱く。

「桂さんは、このまま○○桂で一生過ごす気?」

「そ、それは困る……」

「じゃあ、取り返しましょうよ、苗字」

 ニコ、と由乃さんが笑う。

「ど、どうやって!?」

「カード持ってたでしょう。紅、白、黄のカード」

「うん」

「あれを一枚使うごとに桂さんの苗字が一文字ずつ取り返せるのよ。四枚あるから、全部取り返せるわよ」

「カードで苗字が……」

「あはは。桂さんに苗字って! 由乃さん、またまた御冗談を!」

「由乃さま、無茶しすぎですよ!」

 全員が桂と由乃を嘲笑する。

「桂さん。あの人たちを信じちゃ駄目よ。さあ、私を信じて。カードを開くの」

 桂の手の中に四枚のカードがあった。
 手が止まらない。
 桂はカードを開いていた。カードにはカードの使用説明が書かれていた。


【次期薔薇さまのカード】
 このカードを使用するものはあらゆるスキルを習得していてもいなくてもただちに使用できる。
 ただし、使えるスキルはひとつだけである。
 なお、このアイテムは使い捨てである。


「これで使用するスキルは『烏帽子名』といって名前をつけられるスキルよ。その気になれば『福沢』でも『藤堂』でも好きな苗字にしても構わないんだから」

「う……」

「さあ、桂さん」

「……」

「桂さん」

 由乃さんの声が響く。

「でも、これは……」

「桂さん、言っておくけれど、このカードを使う以外の方法であなたの苗字を取り戻す方法はないの」

 由乃さんがささやく。

「瑞絵ちゃんだって、お姉さまの苗字が○○じゃあ肩身が狭いんじゃないの?」

「……」

「さあ」

 桂はカードを見つめていた。

「さあ、桂さん」

 桂は操られるようにカードを一枚取り出して、使おうとした。

「……ぐあっ! 何だっ! まだ、カードがあったとでもいうのかあっ! しまった! 本物が直接干渉してくるとはっ!」

 由乃さんが急に苦しみ出してうずくまる。

「な、何!?」

 桂は我に返る。
 不意に由乃さんが叫んだ!

「桂さん! アイテムの『薔薇のシャープペン』は薔薇さま専用アイテム。つまり、『並薔薇さま』の桂さんも使用できるアイテムなのよっ! これで薔薇の館の二階に脱出して! 早く!」

 由乃さんが『薔薇のシャープペン』を差し出してきた。

「ええっ? 何?」

「早くっ! 取り返しのつかなくなる前にっ!!」

 桂は『薔薇のシャープペン』を使った!



 薔薇の館、階段の上。
 桂は不意に会議室兼サロンに飛ばされた。

「何なのよぉっ!?」

「桂さあん!」

「よかった! あの結界から脱出したのね!」

「間に合ってくれてよかった!」

 蔦子、真美、ちさとが桂の手をとって喜ぶ。
 桂が階段を見ると、闇に包まれていた。

「あの、今の状況は?」

 ──バキッ!

 ──ドゴオオォン!

 ──ズガガガガッ!

「現在、ラスボスの薔薇の館は暴走していて、まもなくクラブハウスにぶつかるわ!」

「な、何ですってえっ!?」

 桂は驚愕した。

「それで、衝突を遅らせるために山百合会と今まで協力してくれた人たちが薔薇の館を攻撃して押し戻そうと努力してるけど……やっぱり、人じゃないし、館だし」

 蔦子は首を振った。

「一体、どうすれば……」

 真美がふと思い出す。

「そうだ! 『いばらの森』はどうだろう? あれって、呪縛の対象はルール上人間だけじゃないよね」

「じゃあ、試してみよう!」

「でも、どこに?」

「今、薔薇の館で明らかにおかしいのはあの階段のところだから、そっちにつかってみたら?」

「そうだね」

 桂はうなずくと階段の方に向かってスキルを使った。

「『いばらの森』!!」

 黒い結界が収縮して、明かりとりの窓のステンドグラスの薔薇の一つに紅色がさしてくる。
 薔薇の館の揺れが小さくなる。

「もう一度、『いばらの森』!!」

 黒い結界が収縮して、明かりとりの窓のステンドグラスの薔薇の一つが白みを帯びてくる。
 薔薇の館の揺れが小さくなる。

「更にもう一回、『いばらの森』!!」

 黒い結界が収縮して、明かりとりの窓のステンドグラスの薔薇の一つが黄色く染まってくる。
 薔薇の館の揺れが完全に止まった。

「でも、薔薇の色が完全に戻ってはいないから、何かのきっかけでまた黒くなって動き出すかも」

「いや、私たちにはまだあのスキルが残ってる!」

 桂は波留先輩のラケットを握りしめると明かりとりの窓のすぐ下に立った。

「……いきます! 『クリスマス』!」

 桂の周りにテニスボールくらいのサーモンピンクの光が現れた。
 打ってくれ、とでもいうように光は桂の側を回り始め、桂はそれをラケットで打った。

 ──パコーン!!

 光は三つに分かれると明かりとりの窓の薔薇に命中した。

「おおっ!」

 紅い薔薇が輝いた。
 白い薔薇が輝いた。
 黄色の薔薇が輝いた。
 三つの薔薇が輝いて、強いエネルギーをもった光に包まれていく。

「こ、これは!?」

 光の中に先程の闇の中にいた偽者の薔薇さまとつぼみたちがいた。

「ありがとう『並薔薇さま』これで私たちは解き放たれます」

 笑顔で菜々ちゃんが消える。

「私たちは生徒の憧れと尊敬と同時に嫉妬や畏怖の対象でもある存在です」

 微笑んで瞳子ちゃんが消える。

「その黒い心は黒い薔薇になって薔薇の館に根ざしてこんなに大きくなってしまいました」

 穏やかな表情で乃梨子ちゃんが消える。

「その黒い薔薇を摘み取ることが出来るのは三薔薇と同じくらいの輝きをもった心を持つ『並薔薇さま』にしか出来ないこと」

 志摩子さんが大きく息をして消える。

「でも、忘れないで。黒い薔薇を育てたのは人の心。黒い薔薇を摘み取るのも人の心。人の心がまたこの黒い薔薇を育ててしまうということを」

 祐巳さんが目を閉じて消える。

「ク……クク……『並薔薇さま』これからが本当の試練かもしれないわよ」

 うずくまり、胸元を押さえるようにした由乃さんはそう言って消えた。

「由乃さん?」

 光が弱まり、気がつくと桂は明かりとりの窓の下に立っていた。
 明かりとりの窓にはめてある紅、白、黄の薔薇は美しく輝いている。

「桂さん! 薔薇の館が止まったわ!」

「やったよ! 勝ったよ!」

「これでリリアンは救われたんだね!」

 喜ぶ仲間たち。

「ちょっと待って」

 桂は制した。

「嫌な予感がするの」

 四人は薔薇の館の外に出た。
 由乃さんが倒れていて、それを取り囲むようにして皆が泣いていた。

「ど、どうしたのっ!?」

「由乃さんが……由乃さんがっ!」

「暴走する薔薇の館を止めるため、井川亜実さんの『白いカード』を借りて、薔薇の館に特攻したんですが、薔薇の館が制止すると同時に意識を失って……」

 白薔薇姉妹が泣きながら説明する。

「私、ラスボスの結界の中で由乃さんに助けられた……このシャープペン」

 桂は『薔薇のシャープペン』を見せた。

「それは、お姉さまの!」

 菜々ちゃんが叫ぶ。

「ラスボスの結界の中で、由乃さんそっくりの悪い人がいて、何度も誘惑してきたと思ったら急に本物の由乃さんみたいになって、これをもらったの」

「たぶん、それは『白いカード』で入れ替わりスキル『チョコレートコート』を使って悪い人と入れ替わった黄薔薇さま。でも、黄薔薇さまはそれに耐えられるだけのHPがなかった……」

 涙ぐみ、祐巳さんが説明してくれた。

「黄薔薇さま!」

「黄薔薇さま!」

 全員が涙する。

「みんな、待って!」

 桂は言った。

「私たちにはこのカードが四枚も残されているの! これを使って……由乃さんを復活させる!」

「か、桂さん!?」

 思わず祐巳さんが叫ぶ。

「何を言っているの! そのカードを使わないと桂さんの苗字は○○のままよ!」

「何言ってるのよおっ!!」

 桂は叫んでいた。

「苗字なんかどうだっていい! 由乃さんが生き返るなら、苗字なんか! 苗字なんか!!」

 桂は『紅いカード』『白いカード』『黄色いカード』を掲げて宣言した。

「カードよ! 由乃さんを復活させて!!」

「桂さあーん!!」

 祐巳さんの絶叫が響く中、カードは力を発揮した。

「……ん、んん」

 由乃さんがゆっくりと目を開いた。

「由乃さん!」

 桂は由乃さんに抱きついた。
 次の瞬間、由乃さんは叫んだ。

「桂さん! なんてことやっちゃったのよおっ!」

「……はい?」

「HPと実際の生命力は違うって【No:3063】でやったじゃないのよっ!」

 あちゃあ、というような顔をして祐巳さんが見ている。

「へ? え、と」

「これは、ラスボス戦で勇者を導く役目を担った姫とか賢者とかが倒れるお約束演出よっ!」

「はあっ!?」

「黄薔薇のテーマは『感動のエンディング』だったのにいっ! もうっ! もうっ!」

 全員が同情を含んだ目で桂を見つめる。

「あ、あの……じゃあ、由乃さんは死んだわけじゃないの?」

「HPが0になっただけだけど」

 祐巳さんが小声で補足する。

「私は手術で丈夫な体を手に入れて、週の半分は剣道部でバリバリ鍛える体育系少女に生まれ変わったんだから、この程度へっちゃらよ!」

 無い胸を張って、由乃さんは言う。

「あの、じゃあ、私の苗字は……」

「カードが残ってる枚数分しか戻らないわよっ!!」

「ええええええぇーっ!!!!」

 桂の絶叫が響き渡った。



 卒業式。

「三年藤組……筒井環さん……藤堂志摩子さん……○ま○○桂さん……」

 ……ざわ……ざわ。

 参列している父母たちの視線が痛い。
 結局取り戻せた苗字は一文字、それもランダムで開いてしまったため、桂は非常に恥ずかしい目に遭い続けていた。
 だが、無情にも時は過ぎ、苗字を取り戻せないまま晴れの日を迎えてしまい、すっかり晒し者である。

「うう、こんなことなら、勇者なんてやるんじゃなかった……」

 桂、涙目。
 式はどんどん進み、答辞になった。

「卒業生代表。三年松組、島津由乃」

「はい」

 昨年のリベンジで一人壇上に進むと由乃さんは答辞を読み上げた。
 凛とした声が響き、いい答辞だな、と桂も思う。

「……さて、この場でどうしても皆さんにご紹介したい方がいます」

 由乃さんの答辞がリハーサルと変わる。

「その方は、リリアン女学園の危機に立ち向かい、最後まで戦い抜いて、信じた人を救うため多くの代償を払った勇者、○ま○○桂さんです!」

「えっ!?」

 驚く桂に視線が集中し、スポットライトが当てられる。
 志摩子さんがそっと桂を立たせる。

「彼女の苗字はご存知の通り○ま○○です。本来は取り戻せたハズの苗字を失ってまで、彼女はその誇り高い苗字のうち三文字を捨てたのです!」

 由乃さんの説明に、会場は一瞬シンとなり、次の瞬間すすり泣く声がする。

「しかしっ! このまま彼女を送り出していいのでありましょうか? いいえ、そんな事をしたらリリアン女学園最大の過ちになります!」

 力強い由乃さんの演説に会場から拍手が送られる。

「私たちは彼女の功績をたたえ、リリアン女学園として彼女にその誇り高き三文字を新たに捧げようと思います! ご賛同の皆さまは起立を!」

 会場中の人が立ち上がり、拍手する。

「さあ、桂さん」

 志摩子さんに連れられて、桂は壇上の人となった。

「桂さん。これを」

 祐巳さんが運んできた三方から由乃さんは桂の苗字の三文字を恭しく取り出して、桂に手渡した。

「……あ」

 そして、桂はついに苗字を取り戻した。

「おめでとう桂さん!」

「おめでとう桂さん!」

「おめでとう桂さん!」

 会場から沸き起こる「桂コール」に桂はすっかり舞い上がってしまっていた。

「ど、どうしよう……」

「普通に、苗字を名乗ってみたら?」

 由乃さんが桂にマイクを向けてきた。

「ありがとう、皆さん。私は──」

 桂は堂々と苗字を名乗った。
 全員の拍手はいつまでも鳴り響いていた。



 ここまで読んでくれた読者の皆さんへのお願い。

 と、いうわけで桂さんの苗字が復活しました。

 その苗字は皆さんで考えてあげてください。

 桂さんのフルネームは

   ____ 桂 といいます。



『もしも桂さんが勇者だったら』

=FIN=

長い間ありがとうございました。


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