『もしも桂さんが勇者だったら』
最初から【No:3054】
セーブしたところから【No:3060】【No:3063】【No:3070】【No:3073】【No:3081】【No:3085】【No:3098】【No:3104】【No:3114】【No:3116】【No:3118】(黄)【No:3119】(白)【No:3120】(紅)【No:3124】【No:3136】【No:3140】【No:3155】【No:3159】
黄薔薇編エンディング【No:3166】
白薔薇編エンディング【No:3167】
->紅薔薇編エンディング【これ】
【これまでのあらすじを祐巳さんと水奏さんがやるようです】
リリアンを救う勇者桂さんは『並薔薇さま』として認められ、仲間の蔦子さん、真美さん、ちさとさんと最終決戦に挑むことになりました。
ん? なんでこの組み合わせって? 勘のいい人はラスボスの正体に気づいてるみたいだけど、みんなには内緒ね。たぶん、合ってるわ。その予感。ふふふ……。
桂、蔦子、真美、ちさとは薔薇の館にいた。
「ところで、リリアンの危機ってどんな存在なんだろうね?」
──ガクウン!!
不意に薔薇の館が大きく揺れる。
「きゃあ〜っ!!」
四人は引っくり返る。薔薇の館が揺れ続ける。ビスケットの扉が開く。
「ここはまずいわ! 今すぐ逃げて!」
祐巳さんが駆け込んできて叫ぶ。
四人は階段を降りて外に出ようとする。
「強烈攻撃スキル『ピンポイントショット』を『並薔薇さま』に!!」
背後から祐巳さんが桂を攻撃する。
「ええっ!?」
「『チョコレートコート』を桂さんにっ!」
桂と入れ替わるように祐巳さんが祐巳さんの攻撃を受けて倒れた。
「ええっ! 祐巳さんが二人?」
「くっ、邪魔するなよ」
攻撃した祐巳さんが言う。
桂たちは薔薇の館の表に出る。
そこには水奏さんがいる。
「あら、失敗しちゃったの?」
水奏さんが聞く。
「祐巳が乱入して失敗だよ」
不機嫌そうに祐巳さんが答える。
その後ろから這うようにして攻撃を受けた祐巳さんが出てきた。
「ゆ、祐麒っ、いくらなんでもこれは卑怯よ」
這うようにしている祐巳さんが祐巳さんの足をつかむが、ふりはらわれる。
「ゆ、祐麒!?」
「あっ!」
蔦子が思い出したように声を上げる。
「祐巳さんの弟で花寺学院生徒会長の福沢祐麒くん!」
「あああっ!! たしかに瓜二つだったっ!」
真美も声を上げる。
「ちょっと女装したらたしかに区別つかないかもっ!」
ちさとがまじまじと顔を見て言う。
「いたっ! そういえばいたっ!」
桂も声を上げた。
立っている方の祐巳さんはにやりと笑って言った。
「そう。君たちの言うとおり俺は福沢祐麒。福沢祐巳の同学年の弟だ」
祐巳さん改め祐麒くんはあっさりと認めた。
「ええっ!? まさか、ラスボスって……花寺学院生徒会メンバー!?」
「その通り」
祐麒くんは答える。
「それにしても、お姉さんそっくりに女装してリリアンに入り込むなんてやり過ぎよっ!」
桂は抗議する。
「だが、そっくりに女装しただけで、騙されるリリアンの人達もどうかな? 守衛さんなんて、俺の顔見ただけで祐巳だと思い込んで、他のメンバーを生徒会の用って言っただけでロクにチェックもしないで通したんだから」
「うわーっ、守衛さんってば何やってるのよっ!?」
桂は頭を抱える。
「この顔は便利だ。どこに行ってもほぼ顔パスで通れる。『紅薔薇仮面【No:3105】』の警備が厳しい小笠原邸にだって余裕だ」
「な、なんて事を……」
「あああっ!!」
ちさとが不意に叫んだ。
「わかったっ!! 『紅薔薇仮面』の祐巳さんってば、キスされた割には冷静だと思ったら、そうか、そうだったのよっ! あのキスされた祐巳さんはこの祐麒さんだったのよっ!」
「な、何ですって!?」
桂は驚く。
「だって、『お釈迦さまもみてる』の『紅か白か』でキスされて冷静だったじゃない! あああっ! そうなるとさらに、紅薔薇仮面の正体もわかったっ!」
興奮してちさとは続ける。
「紅薔薇仮面の正体は柏木優さんの変装よ! SSの瞳子ちゃんの台詞で柏木さんがいるって言っていたものっ! 祐麒さんがキスして平静でいられる相手って彼よっ! 蓉子さまにキスされたら、いくら祐麒くんでも動揺せずにはいられないんじゃないかしらっ!」
「あああっ!! それはそうかもっ!」
「たしかに、それは言えるっ!」
桂、真美が同意する。
「ちょっと、あなたたち、蓉子さまにキスされたこと、あるの?」
蔦子が突っ込む。
「……ないけど」
桂、真美、ちさとは落ち着きを取り戻した。
「まあ、それはさておき最終決戦を開始しよう。毎年毎年引き分けてるが、今年こそは『花寺学院』が勝つ! そして、『好きなメンバーを指名してデートに誘える権』を行使させてもらうっ!!」
「な、何なのよ、それはっ!」
思わず桂は聞き返す。
「『好きなメンバーを指名してデートに誘える』権利、そのままだけど?」
きょとんとした顔で聞き返す祐麒くん。
「桂さん! お願いっ! 勝ってリリアンの危機からみんなを守って!」
祐巳さんが叫ぶ。
「ええっ、それが『リリアンの危機』?」
「ちょっとデートするだけでしょう? それだったら……」
「待って。考えようによってはかなり危険よ」
「蔦子さん?」
「だって、指名されたら指名されたであの飢えた狼のような花寺メンバーの生贄になるわけだし、指名されなかったら指名されなかったで乙女としてのプライドがざっくりぐっさりばっさり傷つくじゃない」
「ああっ!」
「たしかに、それは言える……」
「こ、これは全力で行かないと……」
四人は身構える。
祐巳さんは「わが弟が飢えた狼」とちょっと落ち込んでいた。
「じゃあ、行動順は……こちらからか。行け、アリス!」
「え?」
「カマドウマのスキル『いたっ!』発動! これで『カマドウマの領域』を展開してバトルフィールドをこちらのものに」
背後の水奏さんが宣言する。
「更に、『真ん中を走る』で行動順、行動済み、未行動にかかわらずただちに行動! 『花寺の合戦』で花寺パーティーはただちに行動でき、かつ、行動済みにならない!」
「み、水奏さん!?」
「言ったはずだけど? 他のメンバーも来てるって」
祐麒くんが言う。
後ろにいるのは水奏さんではなくアリスだった。
「しまったっ! 水奏さんだと思って『お蔵入りパン事件』使わなかったっ!」
「ぎゃーっ!」
手遅れな勇者パーティー。
「君たち、守衛さんの事言えないんじゃないの?」
くすくすと祐麒くんは笑う。
「おや、もう降参ですか?」
「少しは楽しませてくれるんだろう?」
両脇から二人の男子が出てきた。小林くんと高田くんだった。
「くっ、こうなったらなんとしても攻撃を防がないと……」
「高田っ、いけっ!」
「おう! 攻撃スキル『スマッシュ』を『バーサーカー』で全員に!」
高田くんの攻撃を必死にかわす四人だが、避け切れずにダメージを負う。
「『マシンガンショット』! 覇権の証『薔薇ポイント』使用!」
「ぐふあっ!」
同じくダメージを受ける勇者パーティー。
「やっぱり普通の攻撃じゃそんなものか。では、真の『花寺エディション』のスキルをお見せしよう。まず、パーティー強化スキル『光の君』で花寺パーティーを全員強化!」
小林くんが宣言する。
「お、『お蔵入りパン事件』で『光の君』は取り消し!」
「『生徒会室で合宿』で現在行動していない人の代わりに行動する!」
続けて祐麒くんが宣言する。
「『お蔵入りパン事件』で取り消し!」
「『生徒会室で合宿』!」
アリスが宣言する。
「『お蔵入りパン事件』!」
「『生徒会室で合宿』!」
高田くんが宣言する。
「『お蔵入りパン事件』!」
「『生徒会室で合宿』!」
小林くんが宣言する。
「ま、また! 『リベンジ』で『お蔵入りパン事件』!」
ちさとは取り消しスキルを使い切る。
「では、『真ん中を走る』で強引に行動させてもらいましょう! 『生徒総会の余興』でただちに花寺パーティー行動!」
小林くんが宣言する。
「『リベンジ』で『お蔵入りパン事件』を復活させて取り消し!」
蔦子が勇者パーティーの最後の取り消しスキルを使い切る。
「『真ん中を走る』で『生徒総会の余興』!」
祐麒くんが宣言する。
「うう、これは……」
「モンクの攻撃スキル『日光月光』を『双子』で強化して『バーサーカー』で全体攻撃!」
「『三つ葉のクローバー』でそのスキルを私が発動した事にするっ!」
桂が宣言する。
「『お蔵入りパン事件』で取り消し!」
祐麒くんが宣言する。
「うわ〜っ!」
桂たちはダメージを受けた。
「『エモーションクェイク』に『マジックサークル』! これに『薔薇ポイント』を乗せる!」
「『三つ葉のクローバー』!」
「『お蔵入りパン事件』!」
「きゃ〜っ!!」
桂たちはダメージを受けた。
「うう、こっちがやるべきことをやられている……」
「まずい、このままでは……」
「おおっと、負けを認めますか? 降参したら即デートですよ」
小林くんがニタニタと笑う。
「俺は勝ったら、とっ、藤堂さんを指名させてもらう!」
高田くんが宣言する。
「俺は祐巳ちゃんがいいな」
小林くんが言う。
「こら、俺と同じ顔だぞ?」
「ユキチだって、勝ったら誰にしようとかいいながら妄想してにやけてたじゃないか」
「にやけてないっ!」
「えー、私は由乃さんとショッピングに行こうと思ってたのに」
ああでもない、こうでもないと盛り上がる男子四人。
「……」
「……やっぱり、山百合会かよ」
「なんか腹立つ。なんかムカつく」
「ここで使うべきなの? 切り札」
「あ、切り札と言えば……」
ちさとは二枚の『黄色いカード』を出した。
他に『紅いカード』が一枚、『白いカード』が一枚あった。
「これ、どうやって使えばいいの?」
「あ、中に書いてある」
【次期薔薇さまのカード】
このカードを使用するものはあらゆるスキルを習得していてもいなくてもただちに使用できる。
ただし、使えるスキルはひとつだけである。
なお、このアイテムは使い捨てである。
四人は一枚ずつカードを手にした。
「『黄色いカード』使用! 『白き花びら』で祐麒くんを制御する!」
桂は『黄色いカード』を使用した。
「『白いカード』使用! 『白き花びら』でアリスを制御する!」
蔦子は『白いカード』をアリスに使用した。
「『紅いカード』使用! 『白き花びら』で高田くんを制御する!」
真美は『紅いカード』を高田くんに使用した。
「『黄色いカード』使用! 『白き花びら』で小林くんを制御する!」
ちさとは『黄色いカード』を小林くんに使用した。
「な、何だこれはーっ!?」
花寺のメンバーは動けなくなった。
「な、何なんだ、これは?」
「リリアンの山百合会が私たちに貸してくれた力の結晶のアイテムよっ!」
「そ、そんなアイテムがあっただなんて、聞いてないっ!」
「駄目だーっ! 何という事っ!!」
「くっ! ならば行動可能、不可能に関わらず使用できるスキル『困ったことがあったら言え』使用! このスキルは、烏帽子親を持つものが使用すればいつでも烏帽子親がバトルに参戦するスキルっ! 俺の烏帽子親、柏木優カモン!!」
「祐麒、その手は使えないわよ」
背後で倒れていた祐巳さんが言う。
「な、何だと!?」
「お姉さまの『ビスケットの扉を開けたら紅薔薇のつぼみ』の発動条件、それは『柏木さんがバトルに参加する時』なのよっ!」
リリアン女学園正門前。
前紅薔薇さまの小笠原祥子さまが大学の講義を終えて下校するところであった。
「あっ、急に貧血が……」
祥子さまは倒れた。
「祥子さまっ!」
『偶然にも』通りかかったのは親戚の松平瞳子ちゃんであった。
「ああっ! しっかりしてくださいっ! 誰かっ! 誰かっ!」
そこにこれまた『偶然にも』通りかかったのは二人の従兄でもある柏木優氏であった。
「どうしたんだ、瞳子?」
「祥子さまが倒れたんです。ああ、なんとかしないと」
「よし、僕の車に乗るんだ。家まで送ろう」
「優さん、こんなところに用もなく通りかかるわけないでしょう? 何か用があったのではないの?」
フラフラになりながらも健気に言う祥子さま。
「何を言ってるんだ。男なら当然困っている女性を助けるのが当たり前じゃないか」
さわやかな笑顔で白い歯を光らせ、そう言うと、優氏は祥子さまを抱え、何故かリリアン女学園正門前に止められていたいつもの真っ赤っかのスポーツカーの後部座席に座らせた。
「大丈夫かい? すぐにつくからね」
「ありがとう、優さん」
「優お兄さま、私も付き添います!」
「そうかい。瞳子が付き添ってくれると心強い。さ、乗って」
優氏は瞳子ちゃんを祥子さまの隣に乗せるとスポーツカーを運転して去って行った。
「何だとおおーっ!!」
「今こそ『並薔薇さま』のスキル発動の時! 『クリスマス』!」
桂はスキルを唱えた!
「うわーっ!」
祐麒くんはHPが0になった。
アリスはHPが0になった。
高田くんはHPが0になった。
小林くんはHPが0になった。
勇者パーティーは花寺パーティを全滅させた!
勇者パーティーは勝利した!
「え……」
「勝った……の?」
「勝った、みたいね」
桂たちは茫然としている。
「皆さん、よくやりました」
学園長が涙を流して喜ぶ。
「おめでとう! 見事に桂さんはリリアンの危機を救ったわ!」
山村先生が両手を広げて祝福してきた。
「ありがとう桂さん! あなたはリリアンの英雄よ!」
香取先生が手を叩く。
「桂さん! よくここまで頑張ったわ!」
保科先生が駆け付ける。
「桂さん、おめでとう!」
「桂さん、ありがとう!」
「桂さん、最後まで素敵だったわ!」
「桂さま、私、感動しました!」
「桂さま、私、尊敬します!」
「桂さん、やったわね!」
「桂さま、素晴らしい戦いをありがとうございます!」
「桂さま、本当にあなたが勇者でよかった!」
「桂さま、ばんざーい!」
これまで協力してくれたみんなが駆け付ける。
典さん、本物の水奏さん、繭さん、笙子ちゃん、日出実ちゃん、環さんも、百ちゃんも。可南子ちゃんもやってきた。恭子ちゃんも現れる。
山百合会のメンバーもやってくる。
「桂さんならやってくれるって信じてたよ」
祐巳さんが感動しながら言う。
「桂さん、私……もうなんて言っていいか……」
志摩子さんは涙ぐんで言葉にならない。
「何泣いてるのよ! 桂さんは私たちの見込んだ『並薔薇さま』よ! 当たり前じゃないのっ!」
由乃さんがちょっと照れたように言う。
「伝説の『並薔薇さま』私はずっと忘れません」
瞳子ちゃんがキラキラと瞳を輝かせる。
「私たちだって、いつか『並薔薇さま』のような立派な『薔薇さま』になってみせます!」
力強く乃梨子ちゃんが言う。
「あの、よかったら、今度稽古をつけてください! 『並薔薇さま』!」
菜々ちゃんが照れたように言う。
「お姉さま」
「瑞絵」
瑞絵が抱きついてくる。
「よかった! 無事で本当に良かった!」
「瑞絵……心配かけてごめんね。でも、これで全部終わったから」
「はいっ! 私、信じてました。だって……お姉さまは私の絶対無敵の勇者ですもの!」
その時、真美が言った。
「瑞絵ちゃん、恥ずかしい台詞禁止!」
「何ーっ!」
「ここで使うかーっ!」
「だって、リクエストされてたもの」
真美はすまして言う。
「何言ってるのよっ! 前にもその台詞言ってるわよ!」
「え?」
真美は慌てて読みなおしてくる。
「お姉さま、自分の台詞に責任を持てないなんて……やっぱりキスはしてたんですかっ!?」
日出実ちゃんが叫ぶ。
「なんでそーなるっ!!」
新聞部姉妹の喧嘩を見つめながら桂は瑞絵に言った。
「……帰ろうか」
「はい。お姉さま」
リリアンの危機に立ち向かった勇者桂の物語はこうして幕を閉じた。
福沢家。
「くそーっ、もうちょっとだったのに……」
「祐麒、あんたのせいで不愉快なもの見ちゃったじゃないのよ」
ふくれっ面で祐巳が祐麒に迫る。
「な、何を言っているんだ祐巳。そりゃあ、勝手に制服を持ち出した事は謝る! だが、俺は花寺の生徒会メンバーとして戦略上必要に駆られて女装しただけで、学園祭の手伝いがきっかけで病み付きになったわけじゃないっ!」
「別にあんたの女装が不愉快って言うんじゃないのよ。私が不愉快なのは、柏木さんとお姉さまと瞳子が車で立ち去った事!」
「そ、そっちか。(ほっ、ブラジャーやパンティまで持ち出したことはバレてないみたいだな)安心しろ、祐巳。先輩は祐巳とデートしたいって言ってたくらいだから心配するな」
「柏木さんなんてどうだっていいのよ!! お姉さまと瞳子と一緒にドライブ出来なかった事がショックなのよっ!」
バシン、とテーブルを叩く祐巳。
「祐巳、それは女子高生としてどうなんだ?」
「そっちこそ、高校生としてどうなのよ?」
「な、何が?」
うろたえる勇気。
「人の下着まで持ち出して女装するなんて……柏木さんにそこまで応えるだなんて……」
「んなわけあるかーっ!!」
「あ、下着の件はお父さんとお母さんにちゃんと言っておいたからね」
「ぎゃ〜っ!!」
祐麒は断末魔の声を上げた。
その後、彼がどうなったのかは別の話。
『もしも桂さんが勇者だったら』
=THE END=
長い間ありがとうございました。