【3191】 福沢、改め水野祐巳約束  (クゥ〜 2010-06-22 22:32:22)


 水野祐巳第八弾。


 【No:1497】【No:1507】【No:1521】【No:1532】【No:1552】【No:1606】【No:1904】






 祐巳は家の前で静かに、静馬さまと見詰め合っていた。
 「これでお別れです」
 やっぱり、パーティーは断った。
 「そう、残念ね」
 「そうでも、ないですよ。また、何処かで出会う事もあるでしょうし……」
 その時に、静馬さまの横に大事な人がいることを願う。
 「それでは、ごきげんよう」
 最後の挨拶をして、静馬さまの車を見送る。
 本当に好い人だった。
 でも、きっと祐巳ではダメだと思う。
 それに……祐巳は、同時に二人の相手と向き合えるほど器用ではない。
 「よし!」
 自分自身に気合を入れなおした。








 そして、待ちに待ったリリアン高等部入学式。


 「……」
 「新入生代表あいさつ!」
 壇上には、何故か祐巳が上がっていた。
 そして、目の前にはお姉ちゃん。
 姉妹で向き合っている。
 「……なぜ?」
 この上なく恥ずかしい。
 受験勉強していたので入学時の成績は悪くはないと思うけれど、主席を取れるような成績ではないはず。
 主席の生徒が、壇上に上がるのを嫌がったらしい。
 それなら次の生徒だろうと思うのだが、どうも先生方がお姉ちゃんが主席で紅薔薇さまなのをいいことに企んだとしか思えない。
 中学の卒業のときの答辞がきいているのかも知れない。
 どんな理由でも、正直、キツイ!
 同じ水野の姓が呼ばれたので、生徒の席は少しざわついている。

 もう一度、文句を言おうと決意した祐巳だった……意味ないかも知れないけれど。


 「祐巳〜」
 入学式あとのホームルーム終わりに現れたのは……お姉ちゃんだった。
 「げっ、お姉ちゃん!」
 教室がざわつく。
 幼稚舎からの付き合いが多い同級生たちは、相手が祐巳の実の姉であることを知っている人もそれなりにいるけれど。
 それでも山百合会の幹部である紅薔薇さまが登場しては騒がない方が無理というもの。
 「な、何しにきたのよ!」
 「何しに?いやぁね、可愛い妹に会いに来ただけでしょう?」
 「お姉ちゃ……蓉子さまは何時からそんなに妹思いに成られたのでしょうか?」
 高等部ということで言い直す。
 「あら私は何時も妹思いよ、もう一人の妹も本当に可愛がっているし」
 ……。
 祥子さまに少し同情。
 どうせ口では敵わないので、早々に話を切り上げた方が良いかも知れない。
 「それでは顔も見たでしょうし、これで」
 「まぁまぁ、そんな冷たい事を言わずに付き合いなさい」
 お姉ちゃんは祐巳の手を強引に掴むと引っ張っていく。
 「だから!お姉ちゃんといると目立っちゃうの!」
 目立つ事この上ない。
 「騒いだ方が目立つわよ〜」
 紅薔薇様に引っ張られていく、下級生。
 ヒソヒソ話が本当に良く聞こえた。
 ……。
 …………。
 「まったく!」
 「いいじゃない、祐巳とせっかく同じ学校に通っているのに話もしないなんてつまらないでしょう」
 「今日じゃなくても良いでしょう!」
 ただでさえ目立っているというのに……。
 「はい」
 お姉ちゃんはイチゴ牛乳を差し出す。
 「ありがとう」
 イチゴ牛乳を受け取りながら、周囲に視線を向けると一年生ばかりか二年生、三年生たちらしき人たちが奇異の目でこちらを盗み見ている。
 「はぁ、私の高校生活終わった」
 「大げさねぇ」
 お姉ちゃんはカラカラと笑っていた。
 「ところで、本当に話だけ?」
 「そうよ、なに、祥子でも来ると思った?」
 「別に、そんな事じゃないけれどね」
 「ふふふ、まぁ、いいわ」
 お姉ちゃんは余裕の笑みで笑っている。
 何だか悔しい。
 「それならせっかくだし聞いてあげる……貴女、祥子と向き合う気はあるの?」
 ブッ!
 「汚いわね」
 「お、お、お姉ちゃん!ストレート過ぎ!」
 「貴女、ストレートに言わないと逃げるでしょう?」
 「うっ……」
 流石は、お姉ちゃんよくお分かりで。
 本当に嫌に成るくらい、祐巳のことを知っている。
 「それと学校では、蓉子さまか紅薔薇さま」
 「は〜い」
 「はい……でしょう」
 「はい、紅薔薇さま」
 イチゴ牛乳を一口。
 「本当、貴女と祥子は似ているところがあるわね」
 「そ、そんな事ないでしょう」
 「そうかしら……まぁ、いいわ。それで向き合うの?向き合わないの?」
 その答えは簡単だ。
 「そんなの決まっているじゃない」
 「……そう、本当に貴方たちは似ているわね」
 そう言って、お姉ちゃんは黙ってしまった。
 ……。
 …………。
 あの後、他愛無い話をして薔薇の館に向かうお姉ちゃんと昇降口まで付き合う。
 「あっ!、紅薔薇さま」
 聞き覚えのある声に、姉妹同時に振り返る。
 声をかけてきたのは、黄薔薇の蕾である令さまだった。
 「ごきげんよう、令さま」
 「ごきげんよう」
 「ごきげんよう、紅薔薇さま、祐巳ちゃん」
 「何か用なの、令」
 「あっ、はい。今日は大きな仕事はないんでしたよね」
 「えぇ、入学式も終わったし、後急ぐのはマリア祭だけれどもう少し先だしね」
 「それなら今日は早く帰りたいのですが、よろしいですか?」
 令さまは何かソワソワしている。
 「由乃ちゃんね」
 「あっ、はい」
 由乃ちゃん……あぁ。
 「わかった、でも明日には薔薇の館に顔を出して報告するのよ」
 「はい、では、ごきげんよう」
 令さまは、挨拶をすると早々に去っていった。
 「紅薔薇さま、由乃さんって」
 「たぶんロザリオを渡すのでしょうね」
 「ロザリオ?」
 早い!
 確かに中等部の頃に何度か会って、お二人はそうなるのかなとか思ってはいたけれど。
 「凄いね」
 「そうね……黄薔薇さまは何も言わなかったみたいだし。まぁ、姉妹のことはそんな簡単に口出しできる事ではいないしね」
 「ふ〜ん」
 「まぁ、ウチには関係ないとは言わないけれどね……それよりもこっちの方が大変だから」
 「……こっち…大変?……お姉ちゃん?」
 お姉ちゃんの目が笑っている。
 「姉妹の妹と実姉妹の妹の二人のことを考えないといけないのよ」
 「先ほど、姉妹の話には口出ししないとか言いませんでしたか?」
 「自分の妹の話になれば別」
 「別って……」
 「ふふふ」
 「はぁ」
 お姉ちゃんの笑顔に、祐巳は少し不安を感じていた。

 ……何をする気?




 数日後、黄薔薇の蕾の妹に由乃さんが成った事がリリアン瓦版に載っていた。
 「それじゃぁ、行こうか」
 「えぇ」
 祐巳はクラスメイト数人と部活の勧誘のお披露目会へと向かう。
 「志摩子さんはどんなクラブに入るの?」
 初めて同じクラスに成った藤堂志摩子さんと話しながら祐巳は、クラスメイトたちの最後を歩く。
 「私は部活よりも委員会とかに入ろうかなって思っているの、でも、何かしてみた気もあるのよ」
 「まだ、未定ってこと?」
 「そうね……」
 少しうつむきかげんで呟く志摩子さんを見て、祐巳は本当に綺麗な人だなと感じていた。
 お姉ちゃんも美人だし、祥子さまは……。
 「どうしたの?」
 「あはは、いや、何でもないよ。本当に」
 祐巳は慌てて妄想を消す。
 「顔、真っ赤」
 「えっ、えへへへへ」
 「変な祐巳さん。ふふふふ」
 二人見つめ合いながら笑った。
 同じクラスに成って、志摩子さんとは意外に気が会うのかよく話すようになった。


 「えっ?」
 それは新入生歓迎会の夜の事。
 久々に見た祥子さまのことを思い出しているときの事だった。
 お姉ちゃんが、祐巳の部屋に来て口にした言葉にキョトン?と成った。
 「なんて言ったの?」
 「だから、藤堂志摩子さんて祐巳のクラスにいるわよね」
 「いるよ……それがなに?」
 「どんな子?」
 「どんな子って……美人さん」
 「そんな事聞いていないわよ!」
 いや、分かってはいたのだけれど……珍しいこともあるなぁと思っていた。
 「成績は優秀、今年初めて同じクラスに成ったけれど。大人しく物腰は柔らかいかな、でもなんだか芯はしっかりしている感じ」
 「姉妹はいるの?」
 「いないと思う」
 「思うじゃ不確かね……まぁ、いいわ。それで祐巳は話す方?」
 「そうだね、最近話すようには成ったかな?」
 お姉ちゃんは何か考え込んでいるようだ。
 「どうしたの?」
 「志摩子ちゃん連れて、薔薇の館に来ない?」
 「はっ?」
 「なに……その、この姉馬鹿じゃない、何を分け分からん事のたまわっているのって感じの眼差しは!?」
 そこまでは思っていない。
 「あのねぇ」
 「お願い、祐巳」
 ……。
 「それで、志摩子さんを山百合会に引き入れるの?」
 「……それは相手次第ね。今度は少しお節介をしようと思っただけよ」
 「お節介ね」
 誰に対してなのか、少々不安だが……。
 「それで志摩子さんの方のメリットは何かあるの?」
 「そちらは少し漠然としているわね、でも、上手くいけばきっと素敵に纏まると思うわよ」
 ふむ。
 「まぁ、いいよ」
 お姉ちゃんが何を企んでいるか知らないけれど、その辺はお姉ちゃんの事を信頼しているし。
 祐巳の方としても思うところがあるので渡りに舟と請け負う事にした。

 ……あっ、でも、志摩子さんに何て説明しよう?


 志摩子さんは以外にあっさり応じてくれた。
 まぁ、由乃さんも呼びに来たというのが大きかったかもしれないけれど。
 「そうだ、由乃さん」
 「なに?」
 「遅ればせながらだけれど、令さまとのことおめでとう」
 「おめでとう」
 祐巳に続いて、何故か志摩子さんも祝福した。
 「止めてよ、ベッドの横でだよ。ロマンなんてありはしないのよ……それよりも、祐巳さんの方はどうなの?」
 由乃さんの言い方に少し驚く。
 「どうかした?」
 話し方が、イメージと違うとは言えない。
 「うぅん……ところで、どう?とは」
 「祥子さまのこと」
 「あぁ……さぁ、それこそ分からないよ。入学して祥子さまとは一度も話してていないし」
 「そうなの?」
 「うん」
 本当に……。
 お姉ちゃんが何か言ったのかな?とは想像がつく。
 「さっ、どうぞ」
 由乃さんが薔薇の館の扉を開く。
 中等部のときに、何度か来た事はあったけれど、こうして訪ねるのは初めてだ。
 少しドキドキする。
 ビスケットに似た扉を開くと。
 正面にお姉ちゃんが座っていた。
 「ようこそ薔薇の館に、藤堂志摩子さんと水野祐巳さん」
 お姉ちゃんの隣に座る黄薔薇さまが優しく微笑んでいる。
 黄薔薇一家とお姉ちゃん。
 白薔薇さまと祥子さまの姿はない。
 ……祥子さま居ないんだ。
 「んっ?」
 下の方から激しく扉が開く音がして、階段を誰かが駆け上がってくる。
 音を立てて扉を開いたのは、ココに唯一いなかった薔薇の館の住人である白薔薇さま……そして、祥子さま。
 「お姉さま!これはいったいどういうことですか」
 祥子さまはどうやら怒っている様子。
 「はぁはぁ……私も聞きたいわ。これはどういうことなの」
 息を整えながら話す白薔薇さま。
 祐巳はアレ?と思う。
 中等部の卒業式に見た白薔薇さまではなく、祐巳のよく知っている佐藤聖さまだった。
 なるほど、お姉ちゃんのお節介の相手は聖さまだったか。
 そこに祐巳と祥子さまを加えたのかな。
 聖さまはお怒りの様子。
 祥子さまもお怒り。
 特に白薔薇さまは、お姉ちゃんと黄薔薇さまを相手に怒鳴りあっている。
 その様子に、志摩子さんは驚いた様子を見せているが、祐巳にも驚きだった。
 聖さまこと白薔薇さまに対する祐巳の印象は、斜め上から物事を眺めているような冷めた人だったから、一人の生徒に対してこうまで荒々しい姿を見せるなんて思っていなかったからだ。
 ……いや、栞さまがいたっけ。
 栞さまと白薔薇さまのことは、一切の他言無用とお姉ちゃんから言い渡されている。
 でも……こんな一面もあるんだ。
 白薔薇さまの意外な一面に祐巳は少し驚いていて、その白薔薇さまに、外に出て行くように言われ志摩子さんは黄薔薇さまと部屋を出て行く。
 祐巳も着いて外に出た。
 薔薇の館を出ると、黄薔薇さまが、志摩子さんにお手伝いの確約を取り付けているところだった。
 どうやら志摩子さんはお手伝いを了承したようだ。
 「と、言う事で祐巳ちゃんも明日からよろしくね」
 「えっ?」
 黄薔薇さまの言葉に祐巳は一瞬躊躇した。
 「少し待ってください、私は紅薔薇さまに言われて志摩子さんを薔薇の館に連れてきただけで……」
 「祐巳ちゃん」
 「さ、祥子さま!?」
 何時の間にか祐巳の後ろに祥子さまが居た。
 「祥子、祐巳ちゃんに薔薇の館のお手伝いを頼むつもりだけれど?」
 祥子さまは少し目を瞑り。
 「はい、分かりました」
 と、答え。
 「祐巳ちゃん……お手伝いお願いできるかしら?」
 祐巳は祥子さまと向き合うと決めていた。少々強引だけれど、これはお姉ちゃんの祐巳へのお節介。
 「……分かりました、お受けします」
 こうして祐巳と志摩子さんは薔薇の館のお手伝いを承諾した。


 祐巳は志摩子さんと薔薇の館のお手伝いを始める事と成ったのだけれど。

 何もしない白薔薇さまと。

 積極的に二人を受け入れようとする祥子さま。

 完全に対応が分かれた二人と付き合いながら、祐巳は志摩子さんとお手伝いを続ける。

 「すみません、ここは……」
 「祐巳ちゃん、ここはね……志摩子は大丈夫?」
 「えぇ」
 何時しか志摩子さんは呼び捨てに成っていて、祐巳は未だにちゃん付けのままだった。

 事態が動いたのは、梅雨の頃だった。
 空は今にも雨が降りそうなほど曇っていた。
 「えっ?」
 「だから、祥子さまが志摩子さんにロザリオを差し出したって」
 「祥子さまが……」
 驚いたと同時に、あぁ、そうなのかなって思った。
 ショックではあった。
 でも……志摩子さんは美人だし山百合会の仕事もよく出来た。
 祥子さまが祐巳ではなく志摩子さんを選んだとしてもそれは仕方がない気がした。

 これは祐巳と祥子さまが、志摩子さんと祥子さまが向き合った結果なのだろう。

 「……そう」
 「そう……て、祐巳さん。それでいいの?」
 「仕方ないじゃない、選んだのは祥子さまだよ。私はそうね……次のお姉さまでも探すわ」
 「祐巳さん……」
 「なに?」
 「積極的過ぎない?」
 桂さんは、不信な目で祐巳を見ている。
 「だって、せっかくさぁ。リリアンに残ったのにこんな事で暗くなっていても仕方ないじゃない」
 祐巳は手を前で組んで背を伸ばす。
 「祐巳さん……強いのね…素敵だわ」
 桂さんの頬が紅い。
 「よしてよ……そんなんじゃないよ……」
 祥子さまに捨てられたとか嫌われたとかそんな事は感じていない。
 ただ、祥子さまが選んだのは志摩子さんだっただけ。
 志摩子さんが祥子さまの姉妹になった以上。祐巳が薔薇の館に行く必要はないだろう。
 「さて」
 「祐巳さん、何処行くの?」
 「うん、ちょっとね」
 祐巳は桂さんを残し、教室を出た。
 向かうのはお姉ちゃんのところ。

 薔薇の館でのお手伝いを断りに……。



 フッと窓の外を見れば、今にも泣きそうだった空模様はついに涙を流しだしていた。





 ……えっ?
 「志摩子さん、白薔薇さまのロザリオ受け取ったの?」
 「そうよ、それで祥子さまは振られたって事ね」
 薔薇の館のお手伝いを断りに、お姉ちゃんのところに行くと。志摩子さんの最新情報を教えられた。
 「そうかぁ」
 何となく志摩子さんが白薔薇さまのロザリオを受け取ったことには納得した。
 それでも祥子さまが志摩子さんを選んだのには変わりない。
 「一応、紅薔薇さまの思惑通りに成ったと言って良いんでしょうか?」
 「私と言うよりも、祥子のお蔭かな?」
 「祥子さまの?」
 どういうこと?
 「それで、お手伝いは辞めるの?」
 「それは……」
 祥子さまは志摩子さんに振られた。
 ……。
 ……あれ、私、喜んでいる?
 祥子さまが振られて喜んでいる?

 ……最低。


 祐巳は苦々しく呟き。





 「うん、終わりにする」


 祐巳は薔薇の館のお手伝いを辞めた。












 ほったらけ〜、ホッタラケ〜、ほったらけの島〜。
 ほっからかしのSSを終わりにしようと〜やってきて〜続ける馬鹿〜。
   ……せっかく静馬さまを切ったのに、志摩子さんを絡めてしまった……
   しかも、さぁ……とほほ。 

古いの一つ。

                              クゥ〜。


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