【3203】 足りないもの最後の一口を  (クゥ〜 2010-07-14 18:22:17)


もの凄く古いの一つ。


 こんなの書いて放置していたんだぁと言う事で美夕のOVAのクロス。
 一応、ラスト?
【No:1571】【No:1618】【No:1636】【No:1848】







 祐巳は瞳子ちゃんを抱きしめていた。
 「ゆ、祐巳さま……何をなさっているのですか?瞳子をどうしたんですか!」
 乃梨子ちゃんは、大事な友人の様子に慌てている。
 「んっ、大丈夫。ただ……その後ろの人たちと同じ」
 祐巳は金色の瞳で、山百合会の仲間達を見た。
 「それにしても、乃梨子ちゃん凄いね。仏像愛好家だからかなぁ……」
 祐巳は、手を真っ直ぐに伸ばすと炎を作り出した。
 「熱くないから」
 ニッコと笑った笑顔は、それは乃梨子ちゃんが知る祐巳の笑顔。
 「えっ?」
 乃梨子ちゃんが事態を把握する前に、炎が周囲を飲み込む。
 「きゃぁぁぁぁ!」
 乃梨子ちゃん、そして、山百合会の皆の声が響いた。
 「あ、あれ?」
 「熱くないでしょう?」
 「ゆ、祐巳さま!」
 いつの間にか目の前に移動して来ていた祐巳に、乃梨子ちゃんは顔を引きつらせていた。
 「ごめんね、怖いでしょう?私」
 「い、いえ!」
 乃梨子ちゃんは戸惑っている。本当に良い子だ。
 「あ、あれ?」
 「ゆ、祐巳?」
 「私たち何時の間に?」
 乃梨子ちゃんが祥子さま達の様子に気が付いたようだ。
 「皆さん……」
 「乃梨子ちゃんには効かなかったみたいだけれど、お姉さま達はコレに操られていたんだよ」
 そう言って祐巳はその手に絡んだ白い糸を見せる。
 「祐巳」
 「……」
 祥子さまが青い顔で祐巳の側に来る。
 「乃梨子ちゃん、瞳子ちゃんをお願い」
 祐巳は気を失っている瞳子ちゃんを、乃梨子ちゃんに渡し、それを見た令さまが慌てて側に寄る。
 祐巳は、三人を確認すると祥子さまに向き直った。
 「……祥子さま」
 「祐巳……もう、お姉さまと呼んでくれないの?」
 祥子さまの声は震えている。
 「まだ、お姉さまと呼んでも良いのですか?」
 「当然でしょう、貴女は私の妹なのだから……そうでしょう。祐巳」
 「……はい、お姉さま」
 祥子さまは震えながらゆっくりと祐巳を掴み、強く抱きしめた。
 「あぁ、やっと……やっと、貴女を抱きしめられた。もう、何処にも行かないのよね。祐巳」
 祥子さまの嬉しそうな声。
 でも、今の祐巳にそれは答えられない。
 「祐巳?」
 「申し訳ありません、もう少し勝手をさせて貰います」
 そう言って祐巳は、その手に絡んだ白い糸を祥子さまに見せた。
 「大事な人なんです……姉妹ではないけれど、それにも近い程に」
 祥子さまの手が離れる。

 「美夕!」

 祐巳の声に、白い着物の美夕が姿を現す。
 「力を貸して、あの人を取り戻すから」
 祐巳も赤い着物に服装を変え、手に絡んだ白い糸を引いた。
 周囲の色が変わる。

 その中に浮かび上がったのは、白いリリアンの制服を着た一人の少女だった。

 「メイさま……メイ…」
 「ユ……ミ……ユミ」
 無数に広がる白い糸。
 祐巳と美夕は除けながら炎で焼き尽くしていく。
 「ラヴァ!!」
 祥子さまたちに向かう白い糸は、美夕の僕であるラヴァが阻止をする。

 「黄昏時……妖魔妖怪が跋扈する時間」

 「凄い」
 祥子さまたちには、一方的な攻撃に見えただろう。
 実際、正体を現した神魔に対して祐巳と美夕が後れを取る事はほぼない。
 全ての糸を焼き尽くし、祐巳は神魔に迫った。
 金色の瞳が、白い少女を映す。
 「ごめんなさい、メイ。私は貴女を救えたと思っていたのね」
 祐巳は白い神魔に触れる。
 「ユ……ミ…祐巳!」
 白い神魔の姿に色が戻ってくる。

 白いリリアンの制服は深い緑色へ。

 白い髪は、美しい黒髪に。

 頬には赤く血が通う。

 「……あぁ、祐巳なの」
 「メイ……鳴」
 「あぁ、やっと会えたのね」
 「そうね」
 「ごめんなさい、貴女が逃がしてくれたというのに、私は神魔の誘いに乗ってしまった」
 色を取り戻した少女はそう呟く。
 「いいの、私たちは友人でしょう?」
 「えぇ、そうよ……そう……私たちは友人……ねぇ、祐巳」
 色を取り戻した少女は、祥子さま達を見ていた。
 「……ロザリオ受け取ったのね」
 「うん」
 鳴は、祐巳に姉妹を持つように言っていた。

 それは裏返しの想い。

 それでも祐巳は姉妹を持つ事はなかった。
 その祐巳が、お姉さまを持ったのだ。
 「そう……よかった。ねぇ、祐巳」
 「なに?」
 「私を貴女の世界に連れて行って、このまま神魔として闇に葬らないで」

 鳴と呼ばれた少女は、その身を差し出すように首筋を祐巳に晒す。

 「祐巳!ダメよ!」
 「祐巳さん!」
 少女の声と祥子さまたちの悲鳴にも似た叫びが重なる。
 美夕は何も言わずにただ見ていた。

 「鳴……貴女に覚めない夢を」

 祐巳はゆっくりと少女の首筋に牙を立て、友人の妹の吸血する姿など見たくなかった祥子さま達は悲鳴も上げることなく呆然とその姿を見ているしかなかった。
 祐巳の腕の中に崩れる少女は、その姿を消していく。
 「還ったの?」
 「うん」
 美夕の言葉に、祐巳は静かに頷いた。
 そして、ゆっくりと祥子さまたちの方に振り返る。
 一度は受け入れると言ったものの、目の前で吸血する姿を見たのだ。そして、吸血された相手はその姿を消した。
 人であれば、それは本能的な恐怖を引き起こすのに十分な光景。
 「……これが、本来の私なんです」
 祐巳は、優しく微笑んだ。
 「ゆ、祐巳……彼女は…何者だったの?」
 祥子さまは、混乱しながらも祐巳を受け入れようとしているのか。
 質問を投げかけてくる。
 「……彼女は友人でした。彼女はその当時、白薔薇のつぼみと呼ばれていて私はただの生徒で……ちょうど入学時の乃梨子ちゃんと志摩子さん。二人と同じ関係といえばよいでしょうか。当然、あの時も周囲は姉妹にと思う声が聞こえてきていたのですが、私たち……いいえ、私は……友人関係以上は求めませんでした」
 そう言って、祐巳は志摩子さんと乃梨子ちゃんを見比べる。
 「それが悲劇を呼びました……彼女は、私にそれ以上を求め、その心にはぐれ神魔が入り込んだのです。そして、その彼女の手で私は……」
 祐巳は、美夕を見る。
 「その後、私に流れる祝部の血に気が付いた美夕によって助けられ、私は美夕の娘として、その血と名を貰い。その血の力で、神魔に取り憑かれた彼女を、神魔を取り除き助けたはずだったのですが……結果は、彼女自身が神魔を取り込んでしまったていたようです」
 「はぐれ神魔は狡猾、自身が消えると感じた瞬間。彼女に取り込まれる事を考えたようね」
 「そう、そして、その事に気がつかないまま、私も美夕もココを去ってしまった」
 「でも、待って、そうなのなら彼女はずっとリリアンに潜んでいたという事?」
 祥子さまは、皆が感じた思いを口にする。
 「そうです、そして、彼女が目覚めた切っ掛けは、間違いなく私でしょう」
 そう言ったのは祐巳だった。
 「最初こそは人に紛れて、人として暮らしていたので誤魔化せていたのでしょうが、僅かに香る私の気配についには目覚めたという所でしょう。私は最初こんなに長居する気は無かったから……」
 「それは私がロザリオを渡したからなの?」
 「受ける事を決めたのは私です」
 祥子さまの寂しげな様子に、祐巳は笑顔を見せる。
 「志摩子さん……本当にココを去らなくてはいけなかったのは私なの、ごめんね。騙していて」
 「騙すなんて……祐巳さんも同じだったのでしょう。ここに大事な物が出来て、居心地がよくって、離れられなくなった。私、良く分かるの」
 志摩子さんは少し悲しい笑顔。
 「うん、そう言ってくれると助かる。でも、私の場合はそれでも去らなくてはいけなかったの」
 人である志摩子さんと祐巳の立場は違いすぎる。
 「だから、これでお別れ」
 祐巳はゆっくりとロザリオを首から外す。
 「祥子さま」
 祐巳は、祥子さまを見つめた。
 周囲は、すっかり暗くなってしまっていた。

 「イヤよ」

 祥子さまのハッキリした声が響く。
 「貴女は私の妹、それは変わらないと言ったでしょう!」
 それは何時もと変わらない、祥子さまの少しヒステリックな声。
 「そ、そうよ!祐巳さんは私の友人なんだから」
 「そうね、祐巳さんがココを去る理由はないわ。少なくとも後、一年は」
 「それに瞳子ちゃんはどうする気?このまま見捨てるの」
 祥子さまに続くように、由乃さん、志摩子さん、令さまと続き。
 乃梨子ちゃんは瞳子ちゃんを抱きしめたまま、睨んでいる。
 「祐巳、何処にも行かないで……」
 祥子さまは祐巳を抱きしめた。
 甘い血の香りが祐巳の鼻孔を擽るが、それ以上に祥子さまの抱きしめが心地よい。
 「私には貴女が必要なの」
 「……お姉さま」
 「そして、きっと瞳子ちゃんにも」
 そう言われて気を失ったままの瞳子ちゃんを見る。
 「祐巳さん」
 「祐巳!」
 志摩子さんは優しく。
 由乃さんは力強く。
 「二人とも、私はここにいて良いの?」
 言葉はなく、ただ頷きだけが帰ってきた。


 「そう、瞳子ちゃんが……」
 薔薇の館。
 祥子さまは祐巳から瞳子ちゃんの話を聞いていた。
 祥子さまが、ご自分で淹れたお茶が温かい湯気を上げている。
 選挙が終わり。
 祐巳は、瞳子ちゃんの事を祥子さまに報告していた。
 「えぇ、時間を置いてみようかなと」
 「それも一つの手ね。それにしても貴女、正体を証したのに本当に何も変わらないのね」
 「すみません、地ですから」
 「本当にもう、貴女、私たちよりも年上なのでしょうに仕方ないこと」
 「そうですね」

 「ふふふふ」

 「あはは」

 優しい笑いが薔薇の館に響いていた。

















 ……。
 …………。
 そして、もう一つ。


 「ごきげんよう」
 乃梨子はビスケット扉を開いた。
 「あぁ、乃梨子ちゃん。ごきげんよう」
 「……ごきげんよう、祥子さま」
 乃梨子の足は止まる。
 「聞いて、祐巳たらね」
 祥子さまは微笑みながら、目の前を見る。

 そこには、冷めたお茶が一つあるだけだった。









 ……ドキドキ。
 あ、あの……言い訳許されるなら、美夕だし……美夕だから……。
                          ……ねっ!クゥ〜。


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