【321】 ロープ際の攻防  (いぬいぬ 2005-08-07 15:12:20)


きっかけは何だったろう?
・・・そうだ、私のあの一言だ。
「令、何度もリクエストしてごめんなさいね?このメープルシロップのシフォン、あんまり美味しいものだから。まったく、こんな凄腕ケーキ職人がお隣に住んでるなんて、由乃ちゃんが羨ましいわ」
こうして薔薇の館で令のメープルシロップ・シフォンを食べるのは三度目だったろうか?話を聞いてみると、令は自宅で様々なシフォンを試作しているらしかったので、私は純粋に羨ましくなって、由乃ちゃんにそう言っただけなんだけど・・・
彼女にはそれがゴングに聞こえたらしかった。その証拠に、こんな言葉でファイティングポーズをとったのだ。
「あら江利子さま。私も初めて食べますわ、このシフォン」
笑顔が引きつりまくっていた。どうやら由乃ちゃんは、メープルシロップ・シフォンは焼いてもらった事が無いようだ。
ああ、無言で令をにらむ顔がとても可愛いわ。令には何でも私より優先してもらわないと気が済まないのね?
私は様子見のジャブを放ってみる。
「あら令、

こ れ は、私 だ け に 焼 い て く れ て た の ね 」

「うぐ・・・」
小さなうめき声。
ジャブがテンプルをかすめ、由乃ちゃんがふらつくのが判った。
ガードの意識が首から上に向いたようなので、私はボディ目がけて、入る確率は低そうなショートフックを繰り出してみる。
「でも、やっぱり羨ましいわ。他のケーキをいっぱい焼いてもらってるんでしょう?由乃ちゃん。

シ ン プ ル で 美 味 し い ガ ト ー ・ ク ラ シ ッ ク と  か・・・ 」

「・・・・・・いいえ。それもまだ」
あら・・・試しに打ったのに、意外とクリーンヒット?
令が先月持ってきた時に「初めて焼いてみたんですけど・・・」とか言ってたからまさかと思ったんだけど。
由乃ちゃんは、ボディへの一撃に足が止まったみたいね?
「よ、由乃!今度、カマンベールチーズを使ったスフレ・チーズケーキを作ろうと思うんだけど、良かったら試食してくれない?」
令が「ブレイク!」って叫ぶレフェリーみたいに割って入ってくる。
まったく・・・あなたも由乃ちゃんが可愛くて仕方ないみたいね?
「それよりプリンが食べたい・・・」
あらあら、折角レフェリーが止めてくれたのに、由乃ちゃんもうグロッキー?ずいぶんと可愛い事を言い出したわね。

「令ちゃんがウチで焼いてくれる

焼 き た て ア ツ ア ツ の プ リ ン が 食 べ た い 」

・・・・・・今のはちょっとアゴに入ったわね。確かに令がウチにケーキを焼きに来た事はないわ。
悲しいかな、令がどんなケーキを持ってきてくれても、それは焼きたてとは程遠いしね。
由乃ちゃんの瞳に力が戻ってきている。逆転を狙ってるわね?それなら再び足を止めないと・・・
「まあ、羨ましいわね、焼きたてだなんて。

令 、今 度 ウ チ に も 作 り に 来 て ね ? 」

レフェ・・・いえ令。そんな「急に何てこと言い出すんですか・・・」みたいな情けない顔しないの。
おや、由乃ちゃんにも闘志が湧いちゃったかな?私の攻撃をかいくぐり、カウンターで迎え撃とうとしてる。
でもね、私の攻撃はまだ途中よ?

「 ・ ・ ・ で き れ ば 由 乃 ち ゃ ん と 一 緒 に ね ? 」

予想外の角度からの攻撃に、由乃ちゃんの前進がピタリと止まった。
ふふふ。由乃ちゃん驚いてるわね?でもね、由乃ちゃん。私は令と、令の向こうから本気で殴りかかってきそうなあなたが大好きなんだから。
・・・ホントよ?そうは見えないかもしれないけどね。
「今度、由乃を連れて伺います。お姉さま」
令が嬉しそうに試合終了を宣言する。
もう・・・ホッとした顔しちゃって。頼りないレフェリーね?
あんまり頼りない顔してると・・・
「そうね、二人でいらっしゃい。でも令、

今 度 は ウ チ に パ ン ツ 忘 れ て い っ ち ゃ ダ メ よ ? 」

ほら、こんな私だから、レフェリーにも攻撃しちゃうわよ?


今回は私の反則負けかしら?でも、向こうで由乃ちゃんもレフェリーに(実際に)攻撃しようとしてるし、ドローよね?  


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