【3238】 乃梨子、鼻血で貧血  (福沢家の人々 2010-08-02 20:12:32)


「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 さわやかな挨拶が、澄みきった青空にこだまする。

 マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。

 汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。

 スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。

 もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。










 そしてここ









 リリアン女学園高等部、中庭に立つ薔薇の館・・・2階執務室。










「ごきげんよ〜」










 ビスケットの扉を元気に開ける少女が一人

 白薔薇のつぼみこと、二条乃梨子










 お昼と言う事もあり乃梨子以外の山百合会のメンバーが揃ってお弁当を広げ始めていた。

 だが、自分のお弁当を覗き込み挙動不審な少女が一人

 紅薔薇さまこと福沢祐巳である。










「祐巳さん、どうしたの?」

「祐巳さま、どうかされました?」

「お姉さま?」










 祐巳は、頭を掻きながら

「あはは、おかずだけ持ってきて・・・ごはん忘れた。・・・」




「あ、それなら、瞳子の・・・。」




 瞳子が言い終わる前に立ち上がる祐巳

「ミルクホールで、パンでも買ってくるわ♪」っと、ビスケットの扉の方に向かう。




 ちょうど、ビスケットの扉を閉めながら話を聞くとなく聞いていた乃梨子が、

「祐巳さま、それなら、私が買って来ます。」




「乃梨子ちゃん?それはわるいよ〜」っと言いながら期待に目を輝かせる祐巳。

「いえ、私もパンを買う予定でしたから。」

「あ!乃梨子ちゃんもごはん忘れたの?」

「いえいえ、昨晩炊飯器が壊れてしまいまして。」

「じゃ、お願いしていい?」

「はい、祐巳さま♪」










 祐巳は、財布から出したお金を乃梨子の手を握らせて・・・見詰め合う・・・。

「お礼代わりに私が だ・い・て あげるね。」、

「え!い・・・いいんですか♪・・・ポ!」こ、こいつ、ポ!ってしてるよ、ポ!って。




 2つの影が行きよいよく立ち上がる。同時に2つの椅子が豪快に倒れる。

 ガタタタン




 黄薔薇さまこと島津由乃は、たまたま口に含んでいた紅茶を豪快に吹き出していた。まるで、空気を読んだかのように

「ぶは!」




 黄薔薇のつぼみこと有馬菜々は、平然と由乃がテーブルに吹き出した紅茶をハンカチで拭き、そのまま由乃の口元を拭いていた。

「ふきふき」べつに、擬音を口にしなくてもいいと思うのだが・・・




 豪快に立ち上がった1人、白薔薇さまこと藤堂志摩子が

「の、乃梨子」っとひと言いって、固まる。




 紅薔薇のつぼみこと松平瞳子がこぶしを握り締め、ぷるぷる震えながら

「おおおおおおおお、お姉さま、とととと・・・」




 菜々が瞳子に平然と

「瞳子という者がありながら・・・瞳子もまだなのに・・・ですか?」

 こくこく。

「え!」っと瞳子、顔からボンっと音が・・・。




 祐巳は、ゆっくりとふりむく・・・。ギギギギ〜と、

「どどどど・・・。」




 菜々が祐巳の方に視線を移しながら。

「ど〜したの、額に血管が浮かせて・・・まるで、鬼の形相そのもの・・・ですか?。」

「だ、だれが、鬼の形相ですか。」っと再起動した、瞳子。




 菜々は、ティッシュを差し出しながら

「とりあえず、鼻血を拭いてください、乃梨子さま」










 黄薔薇のつぼみこと有馬菜々は自らの手を頬に当て、わざとらしく大きなため息をついて。

「だいて」は、富山弁で「おごる」って意味です。

 先ほど、祐巳さまがおっしゃた、

「お礼代わりに私がだいてあげる」は、富山弁で「お礼代わりに私がおごってあげる」という意味です。










「お・ね・え・さ・ま」

「祐・巳・さ・ん」










 祐巳は、頭を掻きながら

「いま、おばあさまが遊びに来ていて、富山弁がうつっちゃったみたい・・・えへへ!」




 えへへといいながら、そっと執務室を出て行く祐巳。

「さてと、パンでも買ってこよ〜っと♪」










 志摩子と瞳子に壁際に追い詰められている・・・乃梨子。

「ち、ち・が・うお〜、おごってくれるって・・・祐巳さまが〜祐巳さまが〜」















 私立リリアン女学園高等部、中庭に立つ薔薇の館、今日も平和な日常であった、っておい!




















「「ごきげんよ〜」」

「島津由乃で〜す。有馬菜々です。2人合わせて黄薔薇シスターズで〜す。」

「紅茶を豪快に吹き出して「ぶは!」は、最高でした、お姉さま。まるで、空気を読んでいたかのようでした」

 由乃が無い胸を張って

「でしょ〜長年の感?見たいな物が働くのよ、いま、紅茶を口に含んでおかなければ、ってね!・・・。?え、今無い胸って言った?」

「お姉さま、ナレーションに突っ込んでは駄目です。」

「そ、そうなの?」

「はい、お姉さま」

「でも菜々、テーブルを拭いたハンカチで私の口拭くのはどうかしら?」

「はい、私も空気読んだんですよ〜」

「・・・。」

「と、ところで、祐巳さんには驚いたわね〜。いきなり だ・い・て だもん」

「祐巳さまは、皆が誤解するだろうって、知ってておしゃったんですかね〜」

「きっとそうよ、天然のふりして意外と黒いから・・・?。」

「そんなこと、言っていいんですか?」

「菜々が、黙っていれば大丈夫よ」

「み〜な〜さ〜ん、」

「こ、こら!」

「えへへ」

「ところで?菜々は、どうして知っていたの?」

「あ!私が祐巳さまに・・・。」

「って、冗談ですよ〜」

「菜々が言うと冗談に聞こえないんだけど。」


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