「ごきげんよう」
「ごきげんよう」
さわやかな挨拶が、澄みきった青空にこだまする。
マリア様のお庭に集う乙女たちが、今日も天使のような無垢な笑顔で、背の高い門をくぐり抜けていく。
汚れを知らない心身を包むのは、深い色の制服。
スカートのプリーツは乱さないように、白いセーラーカラーは翻らせないように、ゆっくりと歩くのがここでのたしなみ。
もちろん、遅刻ギリギリで走り去るなどといった、はしたない生徒など存在していようはずもない。
そしてここ
リリアン女学園高等部、中庭に立つ薔薇の館・・・2階執務室。
「ごきげんよ〜」
ビスケットの扉を元気に開ける少女が一人
白薔薇のつぼみこと、二条乃梨子
お昼と言う事もあり乃梨子以外の山百合会のメンバーが揃ってお弁当を広げ始めていた。
だが、自分のお弁当を覗き込み挙動不審な少女が一人
紅薔薇さまこと福沢祐巳である。
「祐巳さん、どうしたの?」
「祐巳さま、どうかされました?」
「お姉さま?」
祐巳は、頭を掻きながら
「あはは、おかずだけ持ってきて・・・ごはん忘れた。・・・」
「あ、それなら、瞳子の・・・。」
瞳子が言い終わる前に立ち上がる祐巳
「ミルクホールで、パンでも買ってくるわ♪」っと、ビスケットの扉の方に向かう。
ちょうど、ビスケットの扉を閉めながら話を聞くとなく聞いていた乃梨子が、
「祐巳さま、それなら、私が買って来ます。」
「乃梨子ちゃん?それはわるいよ〜」っと言いながら期待に目を輝かせる祐巳。
「いえ、私もパンを買う予定でしたから。」
「あ!乃梨子ちゃんもごはん忘れたの?」
「いえいえ、昨晩炊飯器が壊れてしまいまして。」
「じゃ、お願いしていい?」
「はい、祐巳さま♪」
祐巳は、財布から出したお金を乃梨子の手を握らせて・・・見詰め合う・・・。
「お礼代わりに私が だ・い・て あげるね。」、
「え!い・・・いいんですか♪・・・ポ!」こ、こいつ、ポ!ってしてるよ、ポ!って。
2つの影が行きよいよく立ち上がる。同時に2つの椅子が豪快に倒れる。
ガタタタン
黄薔薇さまこと島津由乃は、たまたま口に含んでいた紅茶を豪快に吹き出していた。まるで、空気を読んだかのように
「ぶは!」
黄薔薇のつぼみこと有馬菜々は、平然と由乃がテーブルに吹き出した紅茶をハンカチで拭き、そのまま由乃の口元を拭いていた。
「ふきふき」べつに、擬音を口にしなくてもいいと思うのだが・・・
豪快に立ち上がった1人、白薔薇さまこと藤堂志摩子が
「の、乃梨子」っとひと言いって、固まる。
紅薔薇のつぼみこと松平瞳子がこぶしを握り締め、ぷるぷる震えながら
「おおおおおおおお、お姉さま、とととと・・・」
菜々が瞳子に平然と
「瞳子という者がありながら・・・瞳子もまだなのに・・・ですか?」
こくこく。
「え!」っと瞳子、顔からボンっと音が・・・。
祐巳は、ゆっくりとふりむく・・・。ギギギギ〜と、
「どどどど・・・。」
菜々が祐巳の方に視線を移しながら。
「ど〜したの、額に血管が浮かせて・・・まるで、鬼の形相そのもの・・・ですか?。」
「だ、だれが、鬼の形相ですか。」っと再起動した、瞳子。
菜々は、ティッシュを差し出しながら
「とりあえず、鼻血を拭いてください、乃梨子さま」
黄薔薇のつぼみこと有馬菜々は自らの手を頬に当て、わざとらしく大きなため息をついて。
「だいて」は、富山弁で「おごる」って意味です。
先ほど、祐巳さまがおっしゃた、
「お礼代わりに私がだいてあげる」は、富山弁で「お礼代わりに私がおごってあげる」という意味です。
「お・ね・え・さ・ま」
「祐・巳・さ・ん」
祐巳は、頭を掻きながら
「いま、おばあさまが遊びに来ていて、富山弁がうつっちゃったみたい・・・えへへ!」
えへへといいながら、そっと執務室を出て行く祐巳。
「さてと、パンでも買ってこよ〜っと♪」
志摩子と瞳子に壁際に追い詰められている・・・乃梨子。
「ち、ち・が・うお〜、おごってくれるって・・・祐巳さまが〜祐巳さまが〜」
私立リリアン女学園高等部、中庭に立つ薔薇の館、今日も平和な日常であった、っておい!
「「ごきげんよ〜」」
「島津由乃で〜す。有馬菜々です。2人合わせて黄薔薇シスターズで〜す。」
「紅茶を豪快に吹き出して「ぶは!」は、最高でした、お姉さま。まるで、空気を読んでいたかのようでした」
由乃が無い胸を張って
「でしょ〜長年の感?見たいな物が働くのよ、いま、紅茶を口に含んでおかなければ、ってね!・・・。?え、今無い胸って言った?」
「お姉さま、ナレーションに突っ込んでは駄目です。」
「そ、そうなの?」
「はい、お姉さま」
「でも菜々、テーブルを拭いたハンカチで私の口拭くのはどうかしら?」
「はい、私も空気読んだんですよ〜」
「・・・。」
「と、ところで、祐巳さんには驚いたわね〜。いきなり だ・い・て だもん」
「祐巳さまは、皆が誤解するだろうって、知ってておしゃったんですかね〜」
「きっとそうよ、天然のふりして意外と黒いから・・・?。」
「そんなこと、言っていいんですか?」
「菜々が、黙っていれば大丈夫よ」
「み〜な〜さ〜ん、」
「こ、こら!」
「えへへ」
「ところで?菜々は、どうして知っていたの?」
「あ!私が祐巳さまに・・・。」
「って、冗談ですよ〜」
「菜々が言うと冗談に聞こえないんだけど。」