窓から入ってくる夕日が、写真部の部室を綺麗に染め上げていた。
写真部の部室は、写真雑誌やアルバムが雑多に積まれている。
そんな中、その本に埋もれるように、写真部のエース武嶋蔦子さまは眠っていた。
現像作業を終えて、暗室から出た笙子は、その姿を見て、そっとカメラを構える。
笙子はしばらくの間ファインダーから眠る蔦子さまを見ていたが、シャッターを切らずにカメラをおろした。
「蔦子さま」
笙子はそう声を掛けた。
でも、その声は眠っている蔦子さまには届かなかったようで、その声に反応はない。
笙子は蔦子さまのすぐそばに座ると、蔦子さまが掛けている眼鏡をそっと取り、折りたたんで机の上に置いた。
寂しそうな寝顔。
その寝顔を見ながら、笙子は思う。
蔦子さまと一緒にいてわかったことがある。
蔦子さまは誰に対しても、一歩引いた立場から物事を見ている。
それは写真部の内部でも一緒だ。私が写真部のに入ったとき、写真部内の記録者も蔦子さまが任命されていた。
蔦子さまは誰に対しても、一歩引いた立場から物事を見ている。
記録者としてそれは正しいこと。蔦子さまはいつでも記録者であるがために、仲間の輪からいつも少し離れたところにいる。
記録者と言う立場は基本的には部外者だ。当事者にはなり得ない。
常に部外者と言う立場は寂しくはないんだろうかと笙子は思う。
もし寂しいのであれば、それを隠しているのであれば、私が一緒にいたい笙子はそう思っている。
常に部外者であっても、二人集まれば寂しくないのではないか。笙子はそう思っているから。
だから………。
「妹にして下さい」
そういえればいいのに。何度そう思ったことか。
祐巳さまや、由乃さまには簡単に言える言葉が、蔦子さまには、どうしても言えない。
それはきっと、私が蔦子さまのことが大好きだから。もし断られて、今の関係が崩れることが怖いから。
蔦子さまは、妹は作らないと聞いているから。
眠っている蔦子さまを見て、その寂しそうな寝顔を見て、笙子は思わず呟く。
「蔦子さま、私は蔦子さまのことが大好きです。きらきらとした写真を撮る腕前は尊敬しています。でも、写真を撮ってる蔦子さまは、時々、寂しそうなお顔をしています。だから、妹にしてくれませんか? 二人で写真を撮ったらきっと寂しくないと思いますから」
眠っている蔦子さまからは当然返事はない。笙子も返事を期待していない。
この言葉を、いつか蔦子さまに正面から言いたい。
そう思いながら、笙子は眠れる森の美女を飽きることなく見つめていた。