青田買い同好会とはリリアン学園高等部の一年生で構成されたこれから高等部にあがってくるであろう可愛い中等部の子を口説き落とし妹内定を取り付けることを目的とした同好会である!
「というわけで乃梨子さん、青田買いへGOですわ」
「なにがというわけだっ!」
「乃梨子さん、妹は欲しくないのですか?」
「そうですわ可愛らしい天使のよな妹を今のうちのゲットしておくのですわ」
「っていうか瞳子は演劇部だし、あんたらは聖書朗読クラブだろーが!!」
放課後、乃梨子はお嬢様三人娘に囲まれていた。
「いやですわ、掛け持ちくらい当たり前ですわ」
「そうですわ。学園生活を最大限エンジョイですわ」
「さあ乃梨子さん、いざ秘密の花園へ」
「こら羽交い絞めにするな敦子と美幸も両腕を固めるなー!」
「あらいやだ呼び捨てにしていただけるなんて」
「喜んでもらえて嬉しいですわ」
「喜んでないっっ!!」
「乃梨子さん?」
三人に固められて教室から引きずり出されたところで可南子にぶつかった。
「あー、可南子、この子達何とかしてよ」
「乃梨子さんは祐巳さまのような可愛らしい後輩をゲットしたくは無いですか?」
「はぁ?」
「「「会長!」」」
「おまえもかー!!」
結局。
ここはリリアン学園中等部の昇降口。
「……来てしまった」
「乃梨子さんもいいかげんに認めたら良いのに」
「なにを認めるっての?」
瞳子が言う。
「考えて御覧なさい。祐巳さまのようなほわんとした性格で」
「ほわんとした性格?」
「そしてちょっと人見知り。お姉さまに紹介しようとすると真っ赤になって乃梨子さんの後ろに隠れてしまう」
「うっ」
想像してしまった。もちろん後輩の顔は祐巳さまだ。
「そして、後ろに隠れながら乃梨子さんの制服の袖を指先でちょんとつまむ」
うぁー。
「乃梨子さん鼻血が」
「きゃー」
というわけで。
「あ、あの子結構可愛いかも」
「いえいえあちらの方のほうが美人って感じですわ」
「ちょっときつそう」
「なかなか居ませんね。祐巳さま似の後輩って言うのは」
昇降口近くの茂みに隠れて行き交う女子中学生を物色、もとい観察しているのだ。
「あ、ねえねえあのおでこを出してる子」
「あら、可南子さんみたいな額ですわ」
「結構いけてるかも」
黒髪で目がくりっとして可愛らしい。
それでいて一本しっかりとしたものが通った感じがする眼つきがなにか好感が持てる。
「それなら声をかけましょう」
「ええっ!?」
「何を驚いていますの? この会の趣旨をお忘れ?」
「あ、まあそうだけど……」
こんなところ志摩子さんや他の山百合会の人たちに見つかったらただではすまないと思うんだけど。
だが『祐巳さまのような後輩』にほだされて一緒に中学生達の品定めをしてる乃梨子が共犯なことは言うまでもない。
「じゃあまず私達が行きますわ」
先鋒は敦子・美幸ペアだ。
二人はちょうど靴を穿いたところのかの少女の前で言った。
「はあい彼女、お姉さん達と聖書朗読しない?」
おまいらどこの宗教の勧誘だ。
だいたいなんでいつものお嬢様言葉じゃないんだ。
「まにあってますので」
あ、きっぱり断られた。
まあ、あんな突込みどころ満載の誘い方じゃ無理か。
なんか目が点になって固まって中学生達のさらし者になってる二人は放っておいて次。
「ふふ、私の出番ですわ。女優瞳子の実力とくとご覧あれ」
すっと茂みから出た瞳子の前をさっきの少女が通り過ぎる。
そのタイミングで瞳子は張りのあるいい声で言った。
「お待ちなさい」
流石に腹式呼吸の良く通る声にその少女は振り返った。
「私、ですか?」
「そうよ、呼び止めたのは私で、その相手はあなた。間違っていなくてよ」
おい。ここでそれをやるのか。
なんでしょうかと寄ってくる少女に瞳子は。
「持って」
「何を?」
あんた手ぶらでしょうが。
どうやら瞳子は小道具が足りないことを無視するつもりらしい。
両手を少女の首の後ろに回し、カラーに手を這わせてから胸元のリボンを結びなおした。
「タイが曲がっていてよ」
「はぁ」
高等部のカラーと構造が違うから首の後ろに手を回したのはあまり意味が無のだが。
というか身長があまり変わらないので抱きついているみたいでかえって滑稽だった。
「身だしなみはいつもきちんとね。マリアさまがみていてよ」
そう言い放ち、瞳子は颯爽と歩き去るのであった。
って、
「去ってどうするっ!」
「あ、白薔薇のつぼみさま?」
「え?」
思わず突っ込みに茂みから飛び出した乃梨子の正体をその少女は知っていたのだった。
「なにをしてらっしゃるんですか?」
「え、いや……気にしなくっていいよ何でも無いから」
「「「乃梨子さん!」」」
「うわっ!」
復活した敦子・美幸ペア。
向こうから戻ってきた瞳子。
「裏切りは万死にあたいしますわ」
「せっかくお近づきになれたのに何でも無いとはなんですの」
「瞳子の演技は乃梨子さんにとって気にしなくって良いくらいのものでしたの?」
「ちょとそんなに迫らないで瞳子も泣かないでわかってんのよ演技なんでしょ!」
おまえら落ち着け。
「はあ、とにかく、もう終わり。これ以上人様に迷惑かけると志摩子さんに言って活動停止にするよ?」
「まあ、職権濫用ですわ」
きりが無いのでいちいち相手にしない。
きーきー騒ぐ三人を無視して、なにやら物珍しそうに乃梨子たちのやり取りを見ていた少女に向かって言った。
「あなたも引き止めてごめんね。もう行っていいよ」
「もう終わりなんですか?」
「は?」
「せっかく盛り上がってきたのに」
何を言いだすこの娘は。
「ここで帰れなんて生殺し」
この子もどこかおかしいぞ。
「あのね、こんなところで騒いでいると他の人に迷惑だし」
それに高等部の生徒がこんなところでたむろしてたら目立つことこの上ない。
「だったら場所を変えましょう」
「あのね」
「……青田狩りですか」
「なに説明してんのよ」
とりあえず校舎から離れた一年生ズ+ナンパされた少女(?)
瞳子たちが少女に同好会の説明をしたいた。
「祐巳さまのような中学生を探していましたの」
「まあ、紅薔薇のつぼみさまのような?」
「って可南子、どこにいたの?」
「ずっと居ましたが?」
「気配が無かったんだけど」
「断ってましかたら」
そういうことを平然といわないで欲しい。
そして。
「そういうことでしたら戻って続けましょう」
「どうしてそうなるのよ」
「だって楽しそうだし」
その少女に引きずられるように校舎の方へ移動しようとしたその時だった。
「……あら、楽しそうね」
っと、聞き覚えのある、でもここにいないはずの人の声が響いた。
恐る恐る、ぎぎぎと音を立てそうにゆっくりと、首だけ振り向いた。
「よ、由乃……さま?」
竹刀を片手に携えて仁王立ちする由乃さまだった。
「ねえ、なんで、乃梨子ちゃんとこの子が一緒にいるのかしら?」
ヤバイ、なにが逆鱗に触れたのか、マジで怒ってる。
笑っているようで目が笑っていないよ。
「あ、由乃さま、青田狩りなんですよ」
ちょっとあなたそんな楽しそうに……
「青田狩り? ふうん?」
由乃さま妖怪みたいに振り向かないでください。
というかあいつら逃げたな。
いつの間にか瞳子たちの姿は見えなくなっていた。
可南子はその辺に居るのかもしれないけど気配は無い。
少女は何が嬉しいのかまだ話を続けていた。
「それで、紅薔薇のつぼみさまのような中学生がいないかこのあたりで品定めを」
あ、由乃さま、表情消えた。
……。
志摩子さん。やっぱり私は志摩子さん一本に絞ります。もう妹なんかに心を動かしません。だから助k
追伸:同好会は廃止になりましたとさ。