【3291】 容赦無いトドメ  (ex 2010-09-18 00:33:34)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:これ】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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☆★☆ 5月14日(土曜日) 前半 ☆★☆

 5月14日の早朝、いつものように、水野蓉子、支倉令、島津由乃の3名はマリア様の前で登校してきた生徒を迎えていた。

 佐藤聖、鳥居江利子、小笠原祥子、福沢祐巳、藤堂志摩子は、スクールバスの警備に当たっている。

 5月2日の異空間対策本部の発表以降、さらに異空間ゲートの発生箇所の絞り込みが行われていた。

 5月9日のS大学前での戦闘から13日までの間に異空間ゲートが発生したのは、いずれもI公園から半径1km以内。
 その他の区域ではまったく異空間ゲートが発生していなかった。

「広範囲だった異空間ゲートの発生箇所がI公園とその周囲に集中した、ってことですよね」
「つまり、4月から5月初めまでは、ぼんやりと広い範囲に広がってた区域が、I公園に集中してきた。
 もともと、I公園がなんらかの影響で狙われていて、その周辺はとばっちりを受けていた、ってことでしょうね」
「なにか、I公園で起るんでしょうか」
「そう考えるのが、自然、だわ」

 現在、リリアンに電車で通学してくる生徒はいない。
 I公園に近いM駅と、K駅は9日のS大学前の戦闘後、無期限の閉鎖となっている。
 中央本線などは、中野駅と国分寺駅で折り返し運転になっていた。

 5月10日に政府は、I公園から半径1km以内に避難勧告を出した。
 この範囲に住んでいた住民は近隣の避難所に移転することになった。

 この避難勧告地域内にある、F女子高、M学園高校、H大学、M病院などから人が消える。
 この地域を通る道路は総て全面通行止めになっている。
 完全にこの区域はゴーストタウンと化し、魔法・魔術騎士団以外に、この地域へ足を踏み入れるものはいない。

 ただし、リリアン女学園は幸いなことにI公園から離れているため、安全地域になっていた。

 リリアンの敷地内に仮設の学生寮が急遽建築され、危険地域から非難した生徒が30名ほど居住を始めている。



 5月に入ってからのI公園内での異空間ゲートの出現数は異常だった。

 9日以降は、毎日、3回から6回の異空間が出現。
 そのたびにC級、D級の魔物が現れ、魔法・魔術騎士団との戦闘が行われた。

 すでに、5月になってから50回を数える戦闘に、魔法・魔術騎士団にも負傷者が増えていた。

 I公園が危険であることはわかっている。
 しかし、I公園に踏み込み、異空間ゲートをしらみつぶしにしていかなければ、5月9日のS大学前のように、B級、あるいはそれを超える魔物が現れかねない。
 魔法・魔術騎士団は、生命の危険の恐怖にさらされながらも、住民の安全のためI公園を警備し続ける。

「近いうちに、公園内で大きな動きがある」 この予想を疑うものはもう誰もいなかった。



 東京都心、千代田区や新宿区は異空間ゲートがI公園に集中したことから、平穏な生活が営まれていた。
 しかし、ここにも、危険地域から流入してきた人も数多くいる。
 都心部のホテルはすべて長期宿泊契約の客で埋まっていた。
 しかし、この地域でも、緊張感は大きい。
 万が一、I公園に展開する魔法・魔術騎士団の防衛網を魔物が突破した場合、一番危険になる地域がここだからである。

 4月以降、危険地域である東京から避難する人が増えた。
 魔物を討伐するよりも、逃げたほうがいい、と。
 しかし、B級の魔物であるフラロウスが出現したことから、人々の危機に関する認識が変わる。

「どこに逃げても一緒。魔物を倒すか封じ込めるしか手はない」

 自分の身の安全だけを考えて逃げても、人間界が魔物の跳梁跋扈する世界になれば、すでにそこは魔界。
 人間界を魔界に落とすかどうかの瀬戸際。 それが今である、と人々は考えるようになった。

 魔法・魔術騎士団に対する期待はますます高まり、それ以外にも魔法が使える人々や、格闘家への援助・支援要請が相次いでいる。

 そして、魔法・魔術の名門、リリアン女学園へも、人々のあつい期待が集まりつつあった。
 人の口に戸は立てられない。
 リリアンの戦女神たちの噂が、次第に人々の中に浸透し始めていた。



 午後2時過ぎ。都心に程近い魔法・魔術騎士団本部。

 ここに、藤堂志摩子、福沢祐巳の2名が江利子の長兄の車で到着した。
 志摩子も祐巳もいったん福沢家に帰り、私服に着替えている。

「鳥居隊長、お疲れ様です」 玄関先で警備に当たっていた騎士団員が挨拶をする。
「うん。ごくろう」 軽く挨拶して本部に足を踏み入れる。

 福沢家での約束どおり、志摩子に剣を、祐巳に魔杖を渡す日になっていた。

「鳥居隊長、って言ってましたね〜」
「これでも、拳闘士部隊の隊長をおおせつかっているんだよ」
「すご〜い。わたしも『隊長』って言っていいですか?」 と祐巳が笑いながら言う。
「あはは、いいですよ」 と、江利子の兄もにこやかに笑って返す。

「志摩子さん、いい剣が見つかるといいね」
「そうですね。名刀と呼ばれるものも何本かありますが、本人に合った物でないと使いにくいでしょうから」
「はい。楽しみです」
「祐巳さんの魔杖については、志摩子さんの剣が決まってから、ということにしてくださいますか?」
「はい、わかりました」

 志摩子と祐巳の二人を引率して歩く江利子の兄。

 騎士団本部の廊下を歩いていると、行き違う騎士団メンバーは驚きの顔また顔。

「あのフラロウスと切り結んだ子達だ」
「うわ、あんなに華奢なのか。 映像より細いな」
「しかし、二人とも美人だねぇ。 何年か先が楽しみだ」
「一度、お手合わせ願いたいね」

「君たちの事はここの全員がアナライザーの映像で知っているんですよ。 ちょっと騒がしいけど、我慢してください」
「あの・・・。かなり恥ずかしいんですけど・・・」
「あ、こちらのエレベーターです。どうぞ」

 案内されて着いた先は、『剣士用武器倉庫』のプレートがかかっていた。
 指紋認証システムとパスワードを入力。
 自動でドアが開く。
「セキュリティ、しっかりしてますね〜」
「さすがに、騎士団本部だからね」 にっこり笑って中に案内する江利子の兄。
「私が見ていると選びにくいでしょうから、外で待っています。ごゆっくりどうぞ」



 剣士用武器倉庫には、日本刀、バスタードソード、フランベルジュなどが揃っていた。
「いろいろ種類があるね〜」
「ええ、それにしても全部手入れが行き届いているわ。それに造りも素晴らしい業物ばかり」
「志摩子さんには、どれがいいかなぁ? あ、これって十字架っぽいね」
「どれ・・・あぁ。これはクレイモアね。 すごく・・・綺麗」

 志摩子は、一本のクレイモアの前で立ち止まる。
 薄く黄色がかった白色に光るなめし皮の鞘。
「まるで、象牙のような色の鞘だね」
「そう・・・・ね。」
 鞘の上部と、最下部は、金属で覆われ、微細な彫刻が施されている。
 そして、剣の柄は長く、白銀に煌く。3方は四葉のクローバーの文様が浮かぶ。
「実際に抜いてみてもいいのかしら」
「抜いて、振ってみて、初めてあってるかどうかわかるんだから、ね」
「そうね」

 志摩子は鞘から刀剣を僅かに引き出した。思ったよりも抵抗が少ない。
 あらわになった刀身は光を反射し、その表面に塗られた油がその光彩をなだめるように柔らかくしている。
 そして、刀身には、不思議な文字が紋様のように彫られている。

「志摩子さん・・・これ・・・すごいや」
 志摩子も、震えが来るほどに感動した。
「これ、触っただけでわかる・・・わたしを待っていたみたい」
「うん。私もそう思う。これ、志摩子さんの剣だ」
「祐巳さん・・・」 
「やったね!!!」
「うん!!!」

 二人で、ハイタッチ! その歓声を聞いて、江利子の兄が顔を出す。
「お。決まったようだね。 なるほど・・・その剣を選びましたか」
「はい、いい剣が見つかりました!ありがとうございます」
「この剣の銘には、『理力の剣』と書かれていますね。 どうぞ大事に使ってください」
「理力、ですか?」
「ええ、でもわたしは専門外なので、なぜそう呼ばれているかわかりません。ここの銘を見ただけですから」 と笑う。

「では、次は祐巳さんの魔杖にいきましょうか。 あぁ、誰も使う人がいない杖なので・・・気に入らなければ断ってくださってかまいません。 ただ、ある人から「どうか?」と勧められただけですから」
「え?」 誰だろう・・・と祐巳は首をかしげた。



 江利子の兄に案内された先は、「魔道具保管庫」とプレートの掛かっている部屋だった。
 ここのセキュリティも指紋認証とパスワードでなされている。

「一本しかないので、気に入るかどうか、だけ言ってください」

 そういいながら、ガラスケースから、一本の魔杖を取り出す。
 細く、50cmほどの木の枝。 握りの部分にサーモンピンクの宝石がはめ込まれている。

「すごい・・・これ」 祐巳が驚いた顔で見ている。
「ものすごい力を感じます。 お姉さまの『ノーブル・レッド』に近い感じ」
「これは、マイト・ワンドと呼ばれる杖です。ここに、詳しい説明が書かれていますが・・・
 なんでも、1000年を生きるといわれる木の精霊、ドリアードに属するエルダーウィローの・・・言ってみれば子供です。
 木の精霊の幹から削りだすのですが、精霊自体が魔力の公式で存在しているので、魔法を使うには最高の素材なのだそうです。
 ただし、エルダーウィローは世界に存在するエレメントを養分に生きています。
 つまり、この杖を使う以上、使用者の魔力を奪い続けることになります。
 これが、この杖を誰も使わない理由・・・なんです」

「うん・・・それ、感じます」
「このワンドの柄についているサーモンピンクの宝石がありますね。これに魔力が蓄積されます。
 ここに蓄積された魔力がなくなると、この杖自体がこの世から消えてなくなる、と言われています。
 それで、騎士団の魔法使いが交代で魔力を時々注ぎ込んで維持しています」
「それって・・・。祐巳さんに厄介ごとを押し付けてるみたいです!」
「志摩子さん、違うよ」
「祐巳さん・・・」

「この杖はね。みんなに愛されてきたんだ。わたしにはわかるよ。ほら、こんなに暖かい」
 祐巳は、杖を受け取り、そのまま自分の魔力を杖に注ぎ込む。
 とたんに、宝石が明るい輝きを見せ、あたりに暖かな空間が広がる。
「ほんとだ・・・」

「だからね・・・このマイト・ワンド、名前はきっと、『フォーチュン』・・・ 違いますか?」
「なぜ・・・なぜ、わかるのですか?」
「志摩子さん、この杖はね。わたしたちに『幸運』をくれるんだ。 だからね、『フォーチュン』」
「祐巳・・・さん」 祐巳の異様な雰囲気に驚く二人。
「この子がね・・・私に教えてくれるの。『僕はフォーチュン、よろしく』って」
 祐巳は杖を大事そうに胸に抱く。

「ありがたくいただきます。 紹介してくださった方にもお礼を言いたいのですが」
「いえ、その方は名前は伏せてほしいと・・・ 失敗でした。余計なことを言ってしまいましたね」
「わかりました。では、お礼を言っていたとだけお伝えください」
「はい、お任せください」

(誰なんだろう?) 祐巳はまったく心当たりがないその人のことを考えていた。



「では、ご自宅まで送ります。こちらへ」 江利子の兄が駐車場まで祐巳と志摩子を案内する。

 と、ヴィーーーーーン!ヴィーーーーーン!と騎士団本部に緊急警報が鳴り響く。

『お知らせします。現在、I公園で異空間ゲートが複数同時出現するとの予報が出されました。
 騎士団のメンバーで動けるものは、全員I公園に出動してください。繰り返します。騎士団のメンバーで動けるものは、全員I公園に出動してください』

「まずい。祐巳さん、志摩子さん、僕は至急出動しなければなりません。申し訳ありませんがここで待機いただくか、信頼のおける方に迎えに来てはもらえないでしょうか?」
「あの・・・、わたしもご一緒してはいけませんか?」
「祐巳さん・・・」 志摩子が驚く。
「危険だわ。騎士団の方にお任せしましょう?」
「うん・・・そうするのがいいと思う。 だけどね・・・『フォーチュン』をいただいた御礼もしたいの・・・。 なんだかね、行かないといけない、って言われてる気がするんだ」
「誰も、そんなことは言わないわ!」
「あのね、ごめん・・・上手くいえないんだけど、この子が行くって言ってるんだ。 だからわたし、行くよ」
 祐巳は志摩子の言うことに耳を貸さない。

「隊長、お願いです。連れて行ってください! 置いて行かれたら走ってでもついていきます。 わたし、足、意外と速いんですよ」
「わかりました・・・けど、危険なことはしないと約束してください。 あなたのことは私が責任を持って守ります。 私から離れないでくださいね!」
「はい! ありがとうございます! 志摩子さん、ごめん、行ってくる!!」
 呆然とする志摩子を置いて、祐巳は駆けて行った。


 
 はたして、ここは現世なのか・・・

 魔法が飛び交い、音速を超える矢が飛び交う。
 魔物の咆哮が響き、残虐な爪が地を引き裂く。

 モンスターの下敷きになった団員を救おうと、鉄拳がモンスターの額を砕く。
 団員が跳ね飛ばされ、地面を転がりまわる。
 悪臭を放つ魔物の内蔵が飛び散り、腕を切り裂かれた団員の血が地面にしみ込む。

 魔物のものであった首が引きちぎれ、空を舞い爆発する。
 一瞬にして凍った地面に彫像のように固まるモンスターを、きらめく刃が粉々に叩き壊す。
 高速で飛んできた麻酔針の餌食となり、動くこともかなわずその場で死の牙が迫るのを恐怖で見つめるしかない団員がいる。

 まさに、一進一退。
 人と魔物の生存をかけた争い。
 I公園は、悪夢に色どられたこの世の地獄になっていた。



「隊長!」
 祐巳と共に駆けつけた拳闘士隊隊長に希望の声がかかる。
 刹那、「テトラカーン!」 祐巳の物理反射障壁がパピルサグの麻痺針を叩き返す。
 一気にパピルサグに詰め寄った拳闘士隊長の剛腕が唸る。
「ゴッドハンド!」 かたい鎧を纏ったパピスサグが10数メートル吹っ飛ぶ。

「祐巳さん、助かりました!」 祐巳を振り返ることなく拳闘士隊長は体に真紅の覇気を纏う。
「うぉぉぉぉ!アカシャアーツ!」
「マハラギオン!」 祐巳の高温魔法が隊長に飛びかかろうとしたオルトロス3体を燃え上がらせる。
 バキバキバキィィイ!! 瞬間、燃え上がったオルトロスが隊長のアカシャアーツの攻撃を受け四散する。
「魔神斬!」 「ギガンフィスト!」 
 後ろから飛びかかってきたキマイラを2人の切り落としと鉄拳が地面に叩きつける。

 祐巳は左手に魔杖『フォーチュン』を構え、右手一本で金剛杖を振るう。
 隊長はアカシャアーツを身に纏い、光速拳で魔物を叩きつぶしていく。

「すごい!」
「なんて子だ!」
 祐巳と拳闘士隊長の2人の攻撃が 魔物たちを蹴散らし、なぎ倒してゆく。

拳闘士隊長の大声が響き渡る。
「今の状況は!」
「はいっ!異空間ゲートが6個同時発生!」
「うち、4個に異空間操作装置が作動中! 16チームが守備をしています!」
「残り2個は!」
「異空間操作装置がモンスターに破壊されました!」
「残った異空間操作装置は!?」
「現在操作中の4基だけです!」



 祐巳と江利子の兄である拳闘士隊隊長がI公園に到着した時、すでに戦闘が始まっていた。
 6箇所の同時異空間ゲートの発生。
 公園内を警備・パトロールしていた魔法・魔術騎士団は、6人の小隊が40チーム、計240人。
 4チームに1個の割合で配備されている異空間操作装置の数は10個。

 4箇所では、出現した魔物の数が少なく、人間側の優勢に戦闘が進み、間もなく異空間ゲートは塞がる目処が立っていた。

 しかし残りの2箇所では魔物が異常にあふれだし、人間側が防戦一方になっている。
 この2箇所では騎士団員の負傷者や戦死者が幾人も出てる。
 さらに、異空間操作装置も破壊され、次々に魔物があふれ出す。

 祐巳と拳闘士隊隊長が戦っている場所。 それがこの場所である。

 異空間操作装置の残りは、操作中の4基のみ。
 4ヶ所のゲートのうちどれかを封鎖しない限り、残り2箇所からの魔物の進出は止められない。
 さしもの魔術騎士団員にも焦りと疲労の色が浮いている。

「もうすぐ援軍も来る!あきらめるな!」
「この防衛線を死守する!公園から魔物を出すな!」
 各小隊のリーダーたちが団員を鼓舞し、自ら先頭に立ちモンスターに挑む。

「ジオンガ!」 祐巳の雷撃でオルトロスが吹っ飛ぶ。
「テトラカーン!」 祐巳の物理反射障壁が騎士団員を守る。
「マハラギオン!」 祐巳の高熱魔法でキマイラが燃え上がり爆発する。

「すごい・・・・すごすぎるっ!!!」
 魔術騎士が束になっても押しとどめることのできなかった魔物の進軍を祐巳の魔法が叩き伏せている。

「この子が・・・リリアンの戦女神・・なのかっ?!」
「勝てる・・・!勝てるぞ!!」
 急激に魔術騎士団の闘気がわきあがる。

「負けてられんぞ!」 「おうっ!」
 雷の矢が、炎の矢が、氷の矢がモンスターに浴びせかけられる。
「ファイヤー・ボルト!」 爆炎の魔法がモンスターを燃え上がらせる。
 人間側に勝機が見えてきた。

「隊長、4ヶ所の異空間ゲート、封鎖完了!」
「よしっ!奥のゲートに戦力を集中させろ!そっちに一基回せ!」
「はっ!」
「こっちのゲートは俺が行く!」
「はい!」
「ゲートまで俺が道を作る!装置が着き次第ゲートをふさげ! いくぞ!続け!」
 隊長が先頭を切りゲートまで駆ける。
 ゲートまで30m・・・20m・・・10m・・・

「危ない!」 バシッ! バシッ!
 突如飛んできた麻痺針を金剛杖で叩き落とした祐巳は、その回転のまま横から現れたパピルサグの脳天を叩き割る。
「ぐうっ・・・」 後ろで隊長のうめき声が聞こえる。

「隊長!」 後ろから団員の悲痛な声が上がる。
 祐巳は、一歩飛び退くと同時に体を反転し呪文を唱える。
「ジオンガ!」 さらにそのまま空中で反転し必殺の切り落とし 「魔神斬!」

「隊長!」 再度団員の悲痛な声が上がる。

 祐巳は隊長の真後ろにいたパピルサグを両断し、隊長に駆け寄る。
「祐巳・・・・さん・・・・。最後・・・まで守りたかったんですが・・・。ここまでの・・・」
 隊長の唇から、ドバッと血の塊があふれる。

「隊長!」 「隊長ー!!」 団員が隊長に駆け寄る。
 隊長の体には、毒々しいパピルサグの鋭い針を持った尻尾が突き刺さり、背中から腹までを貫通していた。
 本体を失った尻尾からは、赤黒い魔物の血液がドロリドロリと流れ出している。

「おね・・・がいします・・・。いって・・くだ・・・さい」
「た・・・・隊長・・・・」 絶句する祐巳・・・・
 しかし、異空間ゲートを見据え、さらにそこから出てこようとする魔物の群れを見た瞬間、祐巳の体が弾ける。
「うぁぁっぁぁっぁぁぁぁ!!」 
 それは、悲鳴なのか・・・雄たけびなのか・・・


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