【3324】 サンクチュアリ絵になる風景異世界へ  (ex 2010-10-14 21:11:20)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:これ】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:3354】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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〜 10月1日(日) 午後 リリアン女学園 〜

「ロサ・ギガンティア、どうしてリリアンに来たんですか?」
 祐巳が不思議そうに聖に尋ねる。

「妖精王に会いに行くって言ってたのに。 何か準備でも?」

 聖は、祐巳、志摩子、由乃の3人を連れてリリアン女学園の中庭を歩いていた。

「妖精王に会うために必要なのは、わたしと薔薇十字だけだよ。
 準備なんていらないわ。 あとはそうね・・・心構えくらいかな」

「はい。 心構えなら出来てます・・・けど」

「それに、妖精王に会えたからといって必ず薔薇十字を授けていただけるわけじゃない。
 妖精王が認めてくれなければ追い返されるだけだよ。
 薔薇十字所有者になった人は、あきらめない気持ちがあったから授けられたんだ。
 過去にも、2度、3度と挑戦した人が居るって話だよ。 だから今回はもらえなくても落ち込まなくていい」

「あの・・・。 いただける薔薇十字は自分で選べるんですか?」
 由乃が聖に聞く。
(ぜったい、令ちゃんよりかっこいいのもらうんだから!) と、由乃は思っていた。

「ううん。 妖精王がその人にあった物を授けてくれるんだよ。
 それと、顕現する武器は、同じ薔薇十字からでも全然違うものになる、って言われているわ。
 祥子の 『ノーブル・レッド』 は、以前の所有者が顕現したときは日本刀だったそうよ」

「へぇ〜。 ノーブル・レッドが日本刀とか、考えられないですね〜」
 祐巳は祥子の杖の印象が強いので、どうもイメージできないようだ。

「妖精王に会ったら何をすればいいんでしょう? なにかテストのようなものがあるんですか?」
 ぼんやりしてしまった祐巳をあきらめて、志摩子が聖に次の問いを投げかける。

「それは、行って見ればわかるよ。 妖精王が何を考えているかなんてわたしには全然わからないもの」

「それで、妖精王はどこにいらっしゃるのですか?」

「うん。 ほら、あそこだよ」
 聖の指し示した場所。 それは・・・古い温室だった。



「温室には妖精が棲んでいる、って話、聞いたことない?」
 古い温室に3人を導き入れながら、聖が悪戯っぽく笑って3人の1年生を見る。

「あります・・・けど、それってただの噂じゃないんですか?」
 3人とも不思議そうな顔をする。

「そうね。何時もは眠っているから気がつかないよね。 じつはここに来た生徒全員が妖精を見ているはずなんだよ」

「「「 えっ!?」」」
 3人は驚きの声を上げる。
 
 佐藤聖、このトリック・スターの言うことは時々想像を絶する。 何もないところから花を出してみたりは日常茶飯事。
 この人が悪戯っぽく笑っているときにろくなことはない。

「まぁ信じられないのはわかるけど。 祐巳ちゃんなら気付かない?」

「えと・・・。 あれ、なんかこの木・・・」
 祐巳は、温室の真ん中に堂々と立つ巨木を見つめる。

 巨木は、青々とした葉をたくさん茂らせ、日差しを和らげている。

「この木の感覚、『フォーチュン』と同じです。 どうしてかなぁ?」

「それはね、この木が、エルダー・ウィローだからだよ。 お久しぶり、『エルダー』」

 聖が、薔薇十字をはずし、巨木の幹に押し当てる。
 そのとたん、 ザワッ、 と葉が揺れ、幹の中心に老人の顔のような模様が浮かぶ。

「そう、これがこの温室に棲む樹木妖精、ドリアードの一種、エルダーウィローの本体さ。
 多分、祐巳ちゃんの杖も、おばばさまの杖も、この木の子供とか親戚とかじゃないかな?」

「そうだったんですか。 始めまして、福沢祐巳です。よろしくお願いいたします」
 祐巳は、巨木に礼をする。 あわてて志摩子と由乃も揃って頭を下げた。

「あ〜、この木はしゃべらないのよ。 そのままじゃ声も届いてない。 精霊の力を借りるか、薔薇十字の力を使わないと意思疎通が出来ないの。
 だから、妖精王に会うには薔薇十字所有者と薔薇十字が必要なんだよ」

「まさか、妖精王がこの木だったなんて。 知りませんでした」
 3人は驚いて巨木を見上げる。

「いや、違うって・・・。 前に妖精王には怖いお后様が居る、って言ったよね?」

「あ・・・そうでした。 え〜っとお后様はどこに?」

「祐巳ちゃん・・・。 あなた、やっぱり本物の”天然”だわ。 だからこの木は妖精王じゃないの!」

「ほえ?」 ますますわけがわからない祐巳。

「もう、その間の抜けた返事、気をつけないと祥子にしかられるよ。 ・・・ 『エルダー』、妖精王への道を開けて」
 聖は、薔薇十字を押し当てながら巨木に語りかける。

 すると、巨木の大きな根が左右に分かれ、地面に人一人が通れるくらいの穴と階段が見て取れた。

「さぁ、これが妖精王へと続く道。 『エルダー』 の力で何時もは隠されているの。 では気をつけて行ってらっしゃい」
 聖が優しく微笑みながら3人を見る。

「「ありがとうございます、ロサ・ギガンティア」」
 由乃、志摩子が聖に感謝の言葉をかけながら一礼をして地下に降りていく。

「さぁ、祐巳ちゃんも」
 聖は、少し考え込んでいる顔の祐巳にも声をかける。

「あ、はい」
 祐巳は返事をしながら、 『フォーチュン』 を取り出し、エルダーの巨木に押し付ける。

「この杖、エルダー様の子供でしたら・・・。感謝します。 私にこの子を下さって」

 祐巳は、聖がこの木を 『フォーチュンはこの木の子供か親戚』 と言ったので感謝の気持ちを伝えたかったのだ。
 すると・・・

(・・・この子は、わたくし自身でした。 わたくしからこの子は出来たのですよ。 この子もあなたのことが大好きなようです。 ありがとう・・・)

 祐巳は思わずエルダーの巨木を見上げる。 

「ロサ・ギガンティア、今、エルダー様が返事をくださいました・・・」

「そうなの・・・。 祐巳ちゃん、あなた精霊に好かれてるんだね〜。 なるほど・・・。 わたしのシルフィード達もあなたに触れると喜ぶはずだわ」

 聖はそういってニカッと笑うと、祐巳の頭をクシャクシャっと乱暴に撫ぜた。

「なぜ祐巳ちゃんを見ると抱きしめたくなるのかわかんなかったけど、そうか〜。 祐巳ちゃんの精霊に好かれる性分が原因だったとは。 あはは」

「いや、それ、ゼッタイ違うと思います・・・」
 祐巳は最後にジト目で聖を見ながら、
「では、ロサ・ギガンティア、行ってまいります」

 最後に元気良くぺこりと頭を下げ、祐巳も妖精王へと続く地下階段を下りて行った。



 祐巳が階段を下りていくと、周囲がどんどん明るくなった。
 祐巳の周りを光の精霊が飛び回り、周囲を明るく照らしているのだ。

「みんな、ありがとう。 えへへ、嬉しいなぁ」
 精霊も、祐巳のそばに居ることが嬉しいのか、キャピキャピと小さなざわめきが起きる。

 地上ではあまり姿を現さない精霊たちであるが、この地下へと続く階段は、すでに妖精の世界なのだ。

 階段を降りきった先に、由乃と志摩子が並んで立っている。

「祐巳さん、遅い!」 と、ビシッと指を突き出す由乃。

「それにずるい! 祐巳さんばっかりそんなに明るくして! 私たちが降りたときはぼんやりとしか明るくなかったんだから!」

「あら、由乃さんは怖かったのかしら?」
 志摩子が由乃を見ながら言う。

「ばっ、馬鹿なこと言わないでよ。 怖くなんてなかったんだからね!」

(うわ〜。 こりゃ触らぬ神に祟りなし・・・だわ)
 志摩子と祐巳は顔を合わせて苦笑した。



 3人が光の精霊たちに導かれながら進んでいくと、目の前にアーチ状の両開きの木製の扉が現れる。
 扉には、まるでシェークスピアの戯曲 『真夏の夜の夢』 のワンシーンのような美しい絵が彫られていた。

 中央に光り輝く薄絹を纏った女王と、女王に手を差し伸べる美しい王、その周囲にはおびただしい数の妖精たち。
 右手には巨木、エルダーウィローの姿も見える。

「この扉を開けた先が、妖精たちの王国になっているのね」
 志摩子がすこし緊張した声で言う。

「でも、呼び鈴も何もないね〜。 ノックすればいいのかな?」
 祐巳が扉に近づいて手を伸ばした瞬間、静かに妖精の国への扉が開いた。

 ・・・そこは、煌々と満月の光に照らされた幻想的な世界。

 美しい花が咲き競い、その花の間を小さな妖精たちが飛び回っている。

「わ〜。 ピーターパンにでてくるティンカー・ベルみたいだね〜。 可愛いな〜」

 3人が妖精たちに目を奪われていると、白銀の鎧に長槍を身につけた美しい青年が歩み寄ってきた。

”Welcome to the fairy king Oberon's country.  The report has been received from Elder.  Please here. ”
 (ようこそ、妖精王オベロンの国へ。 エルダーから報告は受けています。 どうぞこちらへ)

「あ、ごきげんよう。 福沢祐巳と申します。 本日はよろしくお願いいたします」
「ごきげんよう、藤堂志摩子ともうします」
「ごきげんよう、島津由乃です。 よろしくおねがいいたします」
 流暢な英語でしゃべりかけられた3人は、思わずリリアン流の挨拶をしペコリと頭を下げる。
 
 3人の可愛らしい挨拶に相好を崩した青年は笑いながら答える。

”Please.  You may not be strained.  I will send it to original of the fairy king. ”
 (どうぞ。 緊張はなさらなくて結構ですよ。 妖精王のもとまでお送りいたします)

「「「ありがとうございます」」」
 3人は再度お辞儀をする。

「あ、今のって英語だよねぇ・・・」
「何をいまさら・・・。 それにしても、こっちが日本語でしゃべっているのにわかってるのかしら?」
「全部英語で答えたほうがいいの?」
「妖精の言葉が英語だって知らなかったなぁ。 わからない単語が出てきたらどうしよう?」
「ちょっと・・・。 1年主席の祐巳さんが心配することないでしょ?」

 3人がぺちゃくちゃとおしゃべりしている間に、白銀の鎧の青年は ピーッ!! と口笛を鳴らす。

 すると、風のように静かに2頭立てのチャリオットが姿を現す。

「うわ〜。 綺麗な馬」
「まさか、この馬・・・。 灰色の馬と黒色の馬のチャリオット、白銀の鎧、それに長槍! この人、クー・フーリンだ!!」

 『クー・フーリン』と名前を呼ばれた青年は、
「どうも失礼しました。 私の名前をおっしゃっていただくまでは英語で通そうかと思ったので」
 と、悪戯っぽく笑った。

「あ・・・あのっ! ひょっとしてその槍、ゲイボルグですか?」
「ええ、ご存知ですか?」
「わ〜。かっこいいー!! 本物だー!」
 由乃がキラキラとした目で見る。

「あれ? 由乃さん、詳しいね〜。 由乃さんの好きなのって時代劇だけだと思ってた」
「何言ってんのよ! クー・フーリンといえば侍の中の侍! たとえ日本人じゃなくてもかっこいいものはかっこいいの!」
「いや、まぁそうだけど」

「お嬢さん方、そろそろ急ぎませんと。 妖精王もお待ちです。 どうぞ」

 さすがに女子高生が3人寄るとおしゃべりで先に進まなくなってしまう。
 3人は真っ赤になりながら、クー・フーリンの操るチャリオットに乗り込んだ。



 クー・フーリンのチャリオットは3人を乗せ風のように走る。
 周囲の風景はまるで中世の壁画のように美しい。
 ふと下を見ると、水面をすべるように進んでいる。

「うわ〜、いま水の上を飛んでるよ!」

「このチャリオットは空を翔け、世界のどこへでもいくことができます。
 ここは現世と妖精の棲む世界の狭間ですよ。
 妖精は現世にもたくさん居ますが、やはり安心してすごすことが出来るのはこの世界なのです。
 それに、今は魔界の瘴気が現世に溢れようとしているので妖精王はお怒りです」

「妖精王は現世においでになることがあるんですか?」

「ええ、夏至の夜には必ず。 妖精王は現世の夏の夜を愛しておいでです。 妖精王は美しいものの守護者ですから」

「わたしたち、現世を魔界から守るために 『薔薇十字』 を授けていただきたいんです。 
 でも、どうすれば授けていただけるのかわからないので困っていたんです」
 3人は心配そうな顔でクー・フーリンに問う。

「そうですね・・・。 まず薔薇十字に相応しくないものであれば、薔薇十字所有者は道を示しません。
 いえ、示せないのです。 薔薇十字を所有しているものはそれだけの責任を持たされているのです。
 それに、相応しくない人間が来てもエルダーは道を閉ざします。
 第一、わたしの操るこのチャリオット、心の正しい人間でなければ乗ることさえ出来ません」

「で・・・でも、2回も3回も妖精王の試練にチャレンジした人がいると伺いました。
 ここに来るだけでは、戴けないこともあるのでしょう?」

「ええ。いくら薔薇十字に相応しい資質があったとしても、そのものが幼すぎた場合には妖精王は薔薇十字を授けません。
 自らを鍛錬し、正邪を見抜く目を育て、相応しい武力を身につける、そのすべてがそろってはじめて妖精王に認められるのです」

「あとは、私たち次第、そういうことですね」

「ええ。 それに妖精王がその者を気に入った場合、薔薇十字以外にも宝物を与えることがあります」

「あの、どんな宝でしょうか?」

「1年ほど前に来られた方で、 『他人の考えを見抜く力』 を与えられた方がいますね。
 最近では、 『妖精の真言』 を受け取った方がいます」

「あ・・・!!」
 3人は思わず顔を見合わせる。

「それって・・・。 ロサ・キネンシスだよね!」

「おかしいと思ってたのよ! そうか・・・。 それに、『妖精の真言』って、祥子様ね」

「それで、あの魔法なのか〜。 お姉さま、すごいなぁ」
 祐巳は、妖精王に祥子が気に入られた、と知って嬉しそうな顔になる。

「その他にも、 『必中の眼』 などですね。 最近の薔薇十字所有者はみな、なにがしかの宝を与えられています。
 妖精王は、様々な宝を持っています。 あなたがたも受け取ることができればいいですね」

 クー・フーリンは優しげな目で3人の少女を見る。

「このようにお話しするのは久しぶりです。 あなた方は私の心を暖かくしてくださいました。
 これまでの方々とは違う力を感じます。 大丈夫、安心して妖精王に謁見なさい」



 クー・フーリンのチャリオットはやがて煌々と満月に照らされた美しい庭に舞い降りる。

”It is the fairy king presence.  It is up to here that I guide.  I am wishing your luck.. ”
(さあ、妖精王の御前です。 私がご案内するのはここまで。 幸運を!)

「「「ありがとうございます」」」
 3人は感謝をこめてここまで案内をしてくれたクー・フーリンにお辞儀をする。

 3人は、おびただしい数の妖精たちが集う庭園を見渡す。

 その目の前にひときわ美しい王が、神々しい気を纏った王妃の座る豪華な椅子の横に立ってこちらを見ていることに気付いた。

 妖精王・オベロン、そしてその麗しい妻・ティターニアに違いなかった。

 すべての妖精たちが敬う妖精たちの王と、すべての妖精たちがかしずく妖精王の妻。

 オベロンは、わずか90cmほどの身長しかないが、美しい顔、アゲハチョウのような羽。
 頭には豪華な王冠をかぶり、腰には細いサーベルを刷いている。

 ティターニアのその瞳は月の光よりも美しく、その唇は薔薇よりもなお紅い。
 シルクよりも煌く翠の薄絹のようなドレスで優雅に微笑んでいる。

 祐巳は、ティターニアの姿を見つけると、思わず駆け出しそうになるほどの気持ちを抑えきれないで居た。

 祐巳は、つとめて気持ちを落ち着けながらティターニアの前に進み、膝をついて挨拶をする。

「王妃・ティターニア様、ごきげんよう。 わたしは福沢祐巳と申します。 このたび、ぜひ薔薇十字を授かりたくまかり越しました。
 それと・・・。えっと、何時もお助けいただいてありがとうございました」

「「祐巳さんっ!」」 
 志摩子と由乃は祐巳の様子を見て驚いて声をかける。

 王妃・ティターニアは嬉しそうに微笑みながら、
「よく来ましたね。 祐巳。 待ってましたよ。 それに私の助けがわかったのですね?」

「はい。 何時も子供の頃から見てくださっていたのですね? 子供の頃から感じていたんです。 誰かがそばに居るって。 王妃様の雰囲気、それと同じものでしたから」

「おいでなさい」 と、ティターニアが祐巳を手招きする。

「子供が最初に笑うとき、その笑顔から妖精が生まれます。
 あなたの生み出した妖精は ”エアリアル”  
 彼女はまさに大気に満ちる意思そのものです。 
 ゆえに彼女は地球上の何処にでも現われ、また同時に別の場所に存在できます。
 あなたの性質と同じく、無色透明な空気のように純粋な彼女を私は愛しています。
 だからあなたこことも何時も見ていたのですよ」

「ありがとうございます。 ティターニア様」
 祐巳が王妃に微笑を返す。

「それで、ティターニア様。 今、現世では魔界からの侵略に怯える日々が続いています。
 妖精王様から薔薇十字をいただきたいのですが、王様はどこにいらっしゃるのでしょう?」

(ちょっと、祐巳さん!妖精王ならそこにいるじゃないの! 失礼なこと言わないの!)
 志摩子と由乃は祐巳の言葉に驚いたが、さすがにここで声を上げるのはためらわれた。

「あら、こんなに簡単にわかってしまうなんて。 あなた、もう楽しんだでしょう? 出ておいでになったら?」
 王妃は笑いながら広場の入口に向かって声をかける。

「やれやれ、そっちの影武者に挨拶させようと思っていたのに。 まぁよい」
 そう言いながら近づいてきたのは、先ほどまで案内役を務めてくれたクー・フーリンだった。

 クー・フーリンが歩みを進め、ティターニアに近づくにしたがって姿が妖精王・オベロンに変わっていく。
 オベロンの持つ、『思ったものに姿を変える』 能力だ。

「どうしてわかったのだ?」
 オベロンが祐巳に聞く。

「えっと、なんていうか、そこにいらっしゃった妖精王様の影武者?の方から、オーラのようなものを感じなかったので・・・」

「なるほど・・・。 人の本質を見る目は既に持っているようだな。 そちらの二人はどうだ?」

 そう言われて、志摩子と由乃は思わず顔を赤くして下を向いた。

「まあよい。 では3人が薔薇十字を持つに相応しいかどうか見定めよう」

 妖精王・オベロンを見つめる3人。 はたして3人は薔薇十字を授けられることが出来るのであろうか。




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