【3331】 ミラクル江利子ビーム  (bqex 2010-10-18 01:11:24)


ガチャSファンさまへ

いつもお世話になっております。
流石に三つは無理なので話を三つに分けて、
『ミラクル江利子ビーム』
『泣かないでお姉さま』
『眼がくらみます』
の計三話で話を書いて、
キーを引いた時にあげることにしました。
勝手に使ってごめんなさい。
不都合があれば権利者削除や変更など
申しつけください。応じます。

             bqex拝
追伸
重ねて厚かましいお願いですが、
このシリーズの作者名義を
お許しいただけるなら
『bqex feat.ガチャSファン(希望があれば別の名前でも)』
にしたいのですが、いかがでしょうか?



『ミラクル江利子ビーム泣かないでお姉さま眼がくらみます』1/3
【これ】【No:3355】【No:3420】
念を受け取り損ねてまさかのBGN(笑)【No:3336】



 薔薇の館。

「ええと、つまりどういうことですか?」

 紅薔薇さまこと福沢祐巳は目の前の人物の説明が飲み込めず、もう一度聞き返した。

「ちゃんと飲みこんでくれなくては困るわ。あなたは山百合会の代表の一人なんですから」

 ため息をついてそう言ったのは現在はリリアン女子大に通う小笠原祥子さま、祐巳のお姉さまである。

「お言葉ですが、妹の私でさえ理解できないことを他の者に理解してほしいというのは酷ではありませんか」

 紅薔薇さまとして負けるわけにはいかない祐巳は祥子さまに切り返した。

「祐巳ちゃんも言うようになったわね。いいわ、今度は私から説明するから」

 祥子さまの肩に手を置いてそう言ったのは卒業生の水野蓉子さまだ。

「リリアン女学園高等部に同窓会があるのは知っているわね」

「はい」

 卒業生たちでつくる会で、高等部卒業と同時に迎えられる。こうしてリリアン女学園で過ごした人の輪はひと時の幻にならず延々とつながっていくのだ。

「卒業して年数が間もないからそこでは私たちはお姉さま方の言う事には逆らえない。それをいいことにお姉さま方は私たちにこういう企画を持ってきたの」

 蓉子さまの見せた書類にはこう書かれていた。


『夢の対決! 現役山百合会vs卒業生山百合会』


「だから、どうして私たちが対決しなくてはならないんですか?」

 うんざり、というような顔で黄薔薇さまこと島津由乃さんが聞く。

「それは、こっちだって聞きたいよ」

 ボソッとつぶやいたのは由乃さんの従姉妹で卒業生の支倉令さまである。

「仕方ないでしょう。私たちのところにもお姉さまから電話がかかってきて、更にお姉さまのところにもそのまたお姉さまから電話があったみたいで」

 珍しくため息をついてそんな事を言うのは卒業生の鳥居江利子さま。

「つまり、下っ端ゆえに押し付けられちゃったんですね」

 怖いもの知らずの白薔薇のつぼみ、二条乃梨子ちゃんが言う。

「の、乃梨子」

 乃梨子ちゃんのお姉さまで白薔薇さま、藤堂志摩子さんが慌てる。

「いや、その通り。むしろよく言った」

 あいの手を入れたのは卒業生の佐藤聖さまだった。

「では、この部屋にいる卒業生の皆さまと、私たちが戦うということになるんですか?」

 紅薔薇のつぼみ、松平瞳子が確認する。

「ええ。具体的な内容はまだ聞いてはいないけど、お姉さま方としても私たちと現山百合会が何らかの形で対決したということになれば納得するでしょう。まあ、顔を立てると思って」

 諦めの表情が浮かぶ蓉子さまを見て、現薔薇さまは抵抗は極めて難しいことを察した。

「あのう、企画者である何代か上のお姉さま方の企画を止められそうなそのまた上の世代のお姉さま方に話をつけて止めていただくわけにはいかないんでしょうか?」

 手をあげて、学級会のように発言したのは黄薔薇のつぼみの有馬菜々ちゃんだった。

「企画者はどれくらいの世代のお姉さまなんでしょうか?」

「書類に書いてあったかも」

 聖さまがとりだした書類を見て、一同は一瞬固まった。


『企画:上村佐織、立案:二条菫子、協力:小笠原清子……』


「何やってるんだ、菫子さーん!!」

「がっ、学園長が……」

「お母さまが協力って聞いてませんわよっ!!」

「あなたね! ちゃんと読んでから書類は受け取りなさいよ!」

「私はここに来る五分前にお姉さまから書類を受け取ったから読む暇なんてなかったんだっ!!」

「他にもこれ、先生の名前じゃない?」

「お母さんも伯母さんも薔薇さまでもなんでもないのになんでちゃっかり協力してんのよっ!?」

「なんでこんな事に、なんでこんな事に……お母さ〜ん、叔母さ〜ん」

「母や柏木の伯母さまの名前まであるなんて……」

 ここにいる全員にとって頼れそうな卒業生の名前が『協力者』の中に書かれていた。薔薇さまとは縁遠かったはずの祐巳の母の名前まで書いてあるってことはこういうことを見越しての措置だろう。

「これって、腹をくくれってことでしょうか?」

 くらくらしながら祐巳が聞く。

「諦めるのは早いわ。対決内容はこっちで決めてしまいましょう。ジャンケンとか、腕相撲とかそれぐらいのレベルで」

 そういう蓉子さまだったが、急にやつれたように見える。

「じゃあ、何か企画を――」

 書類を見ていた江利子さまが固まった。
 全員で覗き込むと、書類には裏面があった。


『夢の対決! 現役山百合会vs卒業生山百合会

・現役山百合会(子)と卒業生山百合会(鬼)のサバイバル鬼ごっこ。

・子は鬼に捕らえられると薔薇の館に閉じ込められる。

・子を全員薔薇の館に捕らえると鬼の勝ち。

・鬼は濡れると変色するゼッケンをつける。

・鬼はゼッケンを変色させられるとリタイア。

・鬼の全員のゼッケンを変色させたら子の勝ち。

・子は水鉄砲で鬼のゼッケンを攻撃してよい。

・水鉄砲は支給されたものを使用する。給水は一時間に一度。

・鬼はガード用ウチワを使用してよい。

・薔薇の館に子が捕らえられている間は濡れると変色する旗を掲げる。

・捕らわれていない子が旗を変色させると捕らわれている子は薔薇の館を出てよい。

・薔薇の館にいる子は競技に参加してはいけない。

・ルール違反者は強制リタイア。

・場所はリリアン女学園高等部、対決時間は早朝から日没までを想定。

・タイムオーバーの時は残り人数が多い方が勝ち。同数なら引き分けとする……』


「そういえば、こんな感じのバラエティ番組見てた」

 乃梨子ちゃんが遠い目をしていった。

「うちも」

「おかしいと思ったのよね。日頃テレビを見ない人がそういう番組なんか見ちゃって」

「……それって、かなり前から仕組まれてたって事ですか?」

 このお姉さま方は一体いつからこんな事を可愛い後輩たちにさせようとたくらんでいたのやら。
 全員が重いため息をついた。

「これって、誰が得するんでしょうか?」

「さあ……」

「……ルールは『缶けり』に近いですね」

 ぽつん、と志摩子さんが呟いた。

「何それ?」

「やった事ない」

「え? 知らない?」

 蓉子さまが聞くと、知っていたのは志摩子さん、乃梨子ちゃん、蓉子さま、菜々ちゃんの四人。他は知らない派で、説明を受ける。

「子供らしい遊びなんてほとんどやらなかったから、名前しか知らなかったけど、そういう遊びだったんですのね」

 祥子さまがそういった。

「小学生ぐらいまでだったら喜んでやったかもしれないけど」

 今、いくつだと思ってるの、と蓉子さまが笑う。

「小学生ぐらいだったら私は病弱すぎて参加できませんよ」

 しみじみと由乃さんが言う。

「白薔薇さまはこういうのご存知ないかと思っていました」

「家がお寺で近くの男の子が遊びに来てたから混ぜてもらったことがあるの」

 菜々ちゃんに聞かれて当時を思い出したようで志摩子さんは楽しそうな顔をする。

「あのっ」

 祐巳は立ち上がった。

「どうかして?」

「この話、受けましょう」

「ええっ!?」

 全員が祐巳の言葉に驚いて、祐巳の顔を見る

「ちょ、ちょっと祐巳さん!? 私たちに相談しないで勝手な事言わないでよ!」

 由乃さんが慌てて祐巳に迫る。

「祐巳ちゃん、なぜそんな気になったの?」

 蓉子さまが聞く。

「面白そうだから、です」

 祐巳の答えに蓉子さまはポカンとした顔になった。祥子さまは呆れたように祐巳の顔を見ている。
 しかし、聖さまと江利子さまは笑いだした。

「祐巳ちゃん、随分と立派な薔薇さまになったもんだ! いや、素晴らしい、素晴らしいよ!」

 聖さまは祐巳の肩を叩く。

「祐巳ちゃんも、いつの間にかこんなに成長してたのね」

 いい子いい子、というように江利子さまが祐巳の頭をなでた。

「お二人とも、何を言ってるんですか!? 祐巳もふざけるのはいい加減になさい」

 バシン、と祥子さまがテーブルを叩く。

「お姉さま、私はふざけてなんていません。これは私たち現在の山百合会が同窓会のお姉さま方に課せられた試練です。お姉さまが参加されなくても私は逃げません」

「祐巳、あなた本当にふざけているの? 私が、この小笠原祥子がこれしきのことでしっぽを巻いて逃げると思っていて? 後で泣いてわびても許さなくってよ!」

 じっと互いから目をそらさない祥子さまと祐巳に周りの空気まで張り詰めていく。

「なるほど。祐巳ちゃんは受けるのね。で、あなたたちはどうするの?」

 それを流して蓉子さまが志摩子さんと由乃さんに聞く。

「私もお受けします」

「志摩子さん!」

 きっぱりと返事をする志摩子さんに思わず乃梨子ちゃんが叫んだ。

「あのっ、菫子さんが関わってるからって、無理に参加するのは――」

「乃梨子、誤解しないで。みんなと話しているうちに私も祐巳さんと同じ結論に達しただけなのよ。あなたの大叔母さまの事は関係ないわ」

 あまりにはっきりと言われて、乃梨子ちゃんは逆に落ち込んだくらいだった。

「由乃ちゃんはどうするの? 薔薇さま二人が参加するならある程度顔は立つからどうでもいいけど」

 本当にどうでもいい、というように江利子さまが聞いた。

「まあ、江利子さまは私をどこまで馬鹿にしておいでなんですか。もちろん、黄薔薇さまとしてのプライドをかけて参戦いたしますとも」

「現役薔薇さま三人は参加。こっちは祥子と私と――」

「あ、私もやる」

「なんか面白くなってきたから私もやるわ」

 蓉子さま、聖さま、江利子さまが続けて参加表明する。

「お姉さま、私も参加していいんですよね?」

 わくわくしたような顔で菜々ちゃんが由乃さんに確認する。

「現役山百合会なんだから当たり前でしょう? 乃梨子ちゃん、瞳子ちゃん。妹を作ってこっちの手数を増やすのはOKでも減らすのは許されないんだからねっ!」

 じろり、と由乃さんが二人を睨みつける。

「由乃さま、私は大叔母が立案人として関わってるんですよ? 妹の件は置いておいて、逃げられないじゃないですか」

 トホホ、という表情で乃梨子ちゃんが答える。

「乃梨子。別に逃げたってチクチク言われるだけで大した事ないんでしょう? やる気がないなら足手まといになるのが目に見えてるからお断りするわ。当日になって痔が悪化したとか、仏像が枕元に立って一日逆立ちすることになったとか適当な言い訳でボイコットして。親友として追い出されないように口添えぐらいはしてあげるから」

「好き勝手言うな! そんな言い訳でボイコットするぐらいならでるよ。瞳子こそ、どうするのさ?」

「私のお姉さまはやる気だけは素晴らしいお方ですが、私が全力でフォローして差し上げなくては真っ先に囚人確定のお方ですもの。参加いたしますわ」

「瞳子、やる気だけって。返事もいいとか、愛想も悪くないとか付け加えて」

「祐巳さん、それはフォローになってないと思う」

 現山百合会の漫才を聞いて参加表明をしたお姉さま方は腹を抱えて笑っている。

「で、令はどうするの?」

 すっかり忘れていたが、令さまはお母さまと叔母さまに裏切られたショックで突っ伏していたのだった。

「どっちでもいいわよ」

「じゃあ、参加でいいわね」

 その場にいた全員が参加することが決まると、なんだか部屋の空気が明るくなった。一人を除いて。

「お姉さま〜、由乃〜。私に選択権はないの〜?」



 当日。
 薔薇の館。

「……で、なんで蔦子さんと真美さんまでいるわけ?」

 運動着に着替えた祐巳たち現役山百合会が最初に見たのはメガネと七三でおなじみの二人組だった。

「私たちは審判よ。現役の生徒でないとわからないこともあるから協力してって」

「ふーん。ついでにお役得で写真撮ったりリリアンかわら版に載せちゃうわけ?」

 由乃さんがそう聞くと、一人はメラメラと燃え上がり、一人はがっくりと落ち込んだ。

「あとで同窓会誌に載せる写真で勝負しましょうって申し込まれたんだけどさ。相手は現役のプロカメラマンなのよ。わかる? 私、プロに認められたのよっ!」

 こんな蔦子さん見たことないってくらい興奮している。

「これは同窓会の行事で、薔薇さまはゲストだからリリアンかわら版に載せられないのよ」

 こちらはがっかりな真美さん。

「よく二人が指名されたわね……待って、同窓会誌の編集にもしかして――」

「もしかしなくても、築山三奈子さまは同窓会誌の編集に携わってるわよ」

 真美さんが言うのだから間違いない。
 この勝負、受けたのは軽率だったか?
 二人を相手にしていると、階段を昇ってくる足音がする。

「ごきげんよう」

「ごきげんよう」

 現れたのは今日の対戦相手の卒業生山百合会の皆さま方。同じブランドのスポーツウェアを着ているのだが、シャツの色は現役時代の薔薇の色にちなんで紅、白、黄色で、既にゼッケンをつけてある。
 そして、もう一人現れたのはリリアンの卒業生としても有名なこの方。

「山村先生」

「水鉄砲を配布します。一人一丁ずつで好きなのを選んで」

 大きいの、飛びそうなのを一人一丁ずつ選ぶ。
 その場で給水し、六人の水鉄砲は満タンになる。

「では、鬼はここに残って。子は外へ」

 卒業生たちを残して、現役組は玄関の前に集合した。

「最終確認です。チャイムを合図に皆さんは逃げてください。一分後に卒業生の皆さまが追ってきます」

 全員で頷き合う。

 ――キーンコーンカーンコーン……

「スタート!」

 水鉄砲を抱えて祐巳たちはダッシュした。
 怖い怖いお姉さま方との鬼ごっこは日没まで。
 果たして、逃げられるのか?

 ◆◇◆

 範囲は高等部の敷地内。
 今日は貸し切りなので他の部はいないので遠慮なく逃げ隠れ出来るのがありがたい。
 向こうは五人、こっちは六人。一人のアドバンテージを生かし、現在それぞれの姉妹で逃亡中。
 由乃は菜々を連れ校舎内に入った。

「そろそろこっちに誰か来るはずよ」

「はい」

 来客用玄関にヤマを張り、待ち伏せて仕留める作戦に出た。
 息を殺して待っている時間が何十分にも感じられる。

(来たっ!)

 姿を見せたのは令ちゃんだった。
 令ちゃんはウチワでゼッケンを隠しながら慎重にこっちに向かってくる。
 射程内に入った。

「菜々っ!」

 次の瞬間、由乃は後ろから突き飛ばされていた。

「え……」

 由乃を突き飛ばしたのは祥子さまで、聖さまが菜々とやり合っている。
 水鉄砲を拾い上げたのは駆け付けた令ちゃんで、攻撃手段を失った由乃を無視して祥子さまが聖さまに加勢しようと動く。

「今よっ!」

 由乃は起き上ると同時に祥子さまに組みついた。

「くっ」

 ところがそれをどう解釈したのか菜々は逃げだした。

「え? ええっ!?」

 由乃としては抑え込んでる間に祥子さまか聖さまに攻撃してほしかったのだが、全然通じなかった。
 三人は無傷で、由乃はそのまま捕らえられた。
 令ちゃんが携帯電話を取りだしメールを打った。
 高等部まではリリアンに持ち込み禁止だったのでケータイなんて持ってなかったけど、大学に行った令ちゃんは解禁になったのだ……って、待て。

「ケータイ使って何やってるのよっ!? ずるいっ!!」

「あら、いつからケータイを使ってはいけないルールになったのかしら?」

 祥子さまは平然と認めた。
 確かに。そこのところは書いてなかったので想定はしていなかった。
 これで後五人になった事を蓉子さまたちも知った事になる。

「あなたたちはここの生徒で直前までいろいろな『トラップ』を仕掛けることだってできたでしょう? これぐらいのハンディは貰わないとね」

 更に聖さまがそう畳みかける。

「祥子さまや聖さまだって大学に通ってるじゃないですかっ!」

「高等部の敷地には入ってないわよ」

 もう、何を言ってもとりつく島もない。
 こうなったら諦めたふりをして薔薇の館前に控えている白薔薇姉妹と菜々の救出を待つしかない。
 由乃が薔薇の館のサロンに着くと祥子さまが窓から合図の旗を出す。
 ぞろぞろと三人が出ていく。
 山村先生と二人になった。

「島津さん、言っておくけれどここから『薔薇の館には誰もいない』って叫ぶのはルール違反になるから」

「わかってます」

 そんなことしなくたって、そろそろ動くはず。

 ◆◇◆

 由乃さんが捕まって、聖さまたちが再び薔薇の館を出てきたが、警戒しているうえ人数も多いので今は攻撃しないでやり過ごし、確実に由乃さんを助ける作戦に出る。

「乃梨子はあっち、私はこっち」

 念のため二手に分かれて同時に旗を狙う。
 同時に飛び出した瞬間に信じられないことが起こった。

「食らいなさい、ミラクルビーム!」

 薔薇の館の前から江利子さまが飛び出してきて、乃梨子の顔に強力なライトで照らしたのだ。

「うわあっ!!」

 乃梨子が思わず目を閉じてひるんだ瞬間、志摩子は転ばされていた。

「あっ」

 水鉄砲が飛んでいく。
 自分の方に攻撃が集中すると察した乃梨子は打ち合わせ通り撤退した。

「あっさり妹に見捨てられたわね」

 志摩子を取り押さえながら蓉子さまが言う。

「……いつから薔薇の館の前に? 外に出てからずっと見てましたが、皆さんで向こうに行ったはず」

「隠れてるのに攻撃してこないって事はおそらくこういうのを狙ってるんだろうって思ったから」

 初めから気付かれていた?
 気づかれないように何度かリハーサルまでやったのに。
 江利子さまと蓉子さまに取り押さえられ、志摩子は薔薇の館のサロンで由乃さんと顔を合わせた。

「江利子さまの声がしたと思ったら……うう、これで一人ビハインド」

 二人が出ていくとがっくりと由乃さんは肩を落とす。

「打ち合わせ通り乃梨子と菜々ちゃんが組んで行動出来たらまだなんとか」

「鬼は一人ずつ確実につぶすつもりみたいね。次は祐巳さん狙いかな? ケータイのメールで連絡取り合ってるみたいだからもう二人捕まったってわかってるはず」

「ケータイ?」

「そう。ルールで禁止されてなきゃOKだって屁理屈言ってくるのだもの。気づかなかったのはうかつだったわ」

 志摩子は黙った。
 実は由乃さんが捕らえられる数分前、志摩子は何かの機械音のようなものを聞いたのだ。
 あれはもしかして、蓉子さまのケータイのバイブ音だったのではないだろうか。

「志摩子さん?」

「な、何でもないわ。そ、そうね。ケータイ。もっと早く気付くべきだったわね」

 志摩子は心の中で仲間の足を引っ張ってしまったことを詫びるのだった。


〜【No:3355】へ続く〜


一つ戻る   一つ進む