【3333】 島津祐巳ヘタレと呼ばないでお姉さまとあたし  (クゥ〜 2010-10-18 21:44:48)


 やっとキーが出たという事で、水野とは違うもう一つの実姉妹のお話です。



その一【No:2045】
その二【No:2058】
その三【No:2098】【No:2101】【No:2109】【No:2123】【No:2167】
その四【No:2229】【No:2236】【今回】



 島津由乃と島津祐巳は双子の姉妹である。
 双子なのに似ていないのは、由乃がお母さん似で祐巳がお父さん似だからだ。
 由乃は黄薔薇のつぼみの妹。
 祐巳は紅薔薇のつぼみの妹。
 ……なのだけれど。
 問題が起きていた。








 「……オネエサマ」
 「聞こえな〜い!」
 祥子さまは意地悪そうにニヤニヤしている。
 「お……おねえさま…」
 「あら、空耳かしら?」
 祥子さまから少し離れた所には、紅薔薇さま、白薔薇さまがニヤニヤ。
 「お姉さま」
 「う〜ん、誰か呼んでるわよ」
 祥子さまは祐巳の後ろを見る。
 そこには志摩子さん、令姉ちゃん。
 さらにその後ろに、蔦子さん、真美さんの報道コンビ。菜々たち中等部と高等部の剣道部生の面々。
 「お姉さま!」
 「はい」
 やっと祥子さまは振り向いてくれた。
 でも……。
 その瞬間、沸きあがる歓声。
 これは何の羞恥プレイ?
 どうして……こんな事に成ったのか。
 ……きっとアレだ。

 「あぁ」

 祐巳は、思い出していた。
 あの時を……。




 由乃が入院し手術をすることに成った。
 正直、驚いた。
 子供の頃から、由乃は手術を嫌がっていたからどんな心境の変化があったのか?
 まぁ、それはいい。
 由乃が手術をする気に成ったのだ。
 でも!
 どうしてそれを祐巳が祥子さまよりも後に聞かせられ、令姉ちゃんに伝えたのが祥子さまなのかと言う問題だ。
 双子とはいえ実の姉のことを、どうしてリリアンでの姉妹の姉より後に教えられないといけないのか?
 「なんだか祥子さまはよく由乃のお見舞いに行っているみたいだしさぁ」
 「……」
 「令姉ちゃんにも由乃のこと報告しているみたいなんだよ」
 「……」
 「それって私の仕事だと思わない?」
 「……」
 「……て聞いているの菜々?!」
 「は、はい」
 ビックリして立ち上がる菜々。
 由乃が手術のために入院して、何故か由乃は祥子さまに連絡を居れ令姉ちゃんの様子などを聞いているようだ。
 「聞いていなかったわね」
 ジト目。
 「聞いています!聞いてます!」
 「何で二度も繰り返すのよ。いいわよ、所詮は愚痴だしさぁ」
 祐巳は溜め息を着く。
 令姉ちゃんはボ〜としているし、祥子さまは由乃と令姉ちゃんの間を行き来している。
 由乃も何を考えて祥子さまに連絡をいれたのか?
 正直、ワケが分からなくなって、たまたま見つけた菜々を捕まえ。ジュースを奢るからとミルクホールで愚痴に着き合わせたのだ。
 「でも、祥子さまも本当によくわかんないよ」
 「……」
 「なに?」
 不思議そうな目で祐巳を見ている菜々に気がつく。
 「いえ、祐巳さまは誰に怒っているのかと。聞いていると由乃さまのようで実は祥子さまに怒っています?」
 「……」
 「それとも嫉妬ですか?」
 「……」
 菜々はちゃんと聞いてくれていたようだ。
 祐巳は、誰に怒っているのだろう?
 今まで何でも話してきたのに、今度は除け者にされている由乃に?
 祐巳の代わりに、妹の祐巳を差し置いて由乃と何かしている祥子さまに?
 「う〜ん」
 「あの祐巳さま?」
 「そうかぁ……私、嫉妬してたんだ」
 イチゴ牛乳のパックを掴んだまま、祐巳は呆然としていた。
 「はい?」
 「そうかぁ……」
 祐巳は菜々を無視して天井を見ていた。
 ……。
 「私、祥子さまと由乃から外されて嫉妬していたんだね」
 何故、二人とも祐巳を除け者にしたのかはよく分からないけれど、それに対し祐巳は怒るのではなく。何か秘密を共有している二人に嫉妬していたようだ。
 「気がついていなかったんですか?」
 「うん」
 祐巳は素直に頷く。
 まずいなぁ。
 祐巳は、ずっと嫉妬してきた。
 令姉ちゃんに守られる由乃に……。
 由乃を守る令姉ちゃんに……。
 「それで今度は祥子さまかぁ」
 小笠原祥子さま。
 奇妙な縁でロザリオ姉妹の姉になった人。
 「あの…祐巳さま」
 「菜々、今日はありがとうね」
 祐巳は立ち上がり、菜々を置いて去っていってしまう。
 ポツンと一人残された菜々だった。


 「……祥子さまは今日も由乃のお見舞いですか?」
 「えぇ」
 菜々と別れた祐巳は、偶然にも帰宅する祥子さまと一緒になってしまった。
 そのままバス停にまで一緒だったけれど。
 バス停で祐巳は由乃のことを切り出した。
 「そう言う祐巳は全然、由乃ちゃんのお見舞いに行っていないみたいね。どうして?」
 「うっ……どうしてと言われましても」
 祥子さまを由乃が入院している病院で見て以来、祐巳はお見舞いに行っていない。
 「由乃ちゃんも祐巳が見舞いに来ない事には何も言わないし」
 そうかぁ、由乃も黙っているんだ。
 祥子さまの言葉にそんな事を思う。
 「祥子さまは由乃のお見舞い楽しいですか?」
 「楽しい?」
 祐巳の言葉を少し考える祥子さま。
 「そうね、楽しいわ」
 祥子さまはニコッと本当に楽しそうな笑顔で答える。
 「祐巳も行かない?」
 「いえ、試合も近いですから道場の方に行きたいので」
 祥子さまのお誘いを祐巳は断る。
 「そう?……ダメね。一緒に来なさい祐巳」
 祥子さまはジッと祐巳を見ていたが、突然、祐巳の手を掴みバスに乗り込ませる。
 「えっ?えぇ?さ、祥子さま!?」
 戸惑う祐巳を乗せてバスは走り出してしまった。
 ……き、気まずい。
 「あの……祥子さま?」
 「祐巳、何度もお姉さまと言うように言っているでしょう」
 い、いえ。今はそんな事を話しているのではないのですが?
 「ところで、どうして祐巳は由乃ちゃんのお見舞いに行かないのかしら?」
 「そ、それは……」
 ここでまさか祥子さまが見舞いに行っているからなどと言いにくい。
 「それは……ですね…」
 「プライベートなことなの?まぁ、いくら私が祐巳のお姉さまでも実姉妹のことにまでズカズカと踏み込むのはどうなのかとも思うわ。でもね、今の祐巳はなんだか潰れそうなので心配なのよ」
 「潰れそうですか?」
 「えぇ」
 まさか祥子さまからそんな風に見えていたなんて、思ってもいなかった。
 「すみません」
 「何故、謝るのかしら?」
 「いえ、なんだか心配かけたみたいで」
 祐巳は困ってしまう。
 「いいのよ、だって私は祐巳のお姉さまだもの」
 優しく笑う、その笑顔に祐巳は顔が赤くなるのを感じた。


 「それで連れて来たんですか?」
 「そうよ、由乃ちゃんも令の事は聞くのに祐巳のことははぐらかしていたでしょう?気に成っていたの」
 どのくらいぶりだろう祐巳の前に由乃がいた。
 お互い気まずいって感じ。
 「それじゃぁ、少し私は席を外すから」
 祥子さまは病室を出て行ってしまう。
 残された。
 まぁ、予想はしていたけれど。
 「祐巳」
 「な、何よ。お姉ちゃん」
 つい、お姉ちゃんと呼んでしまった。
 「はぁ、どうせ私が祥子さまを呼んで令ちゃんのことを相談していたのを勘違いして、私と祥子さまが仲良くなっているとか考えていたんでしょう?」
 由乃は祐巳のことをよく分かっていた。
 「お姉ちゃんなんて呼ぶことがその証拠、祐巳は不安なときにだけ呼んでくれるものね」
 「……うっ」
 本当によく分かっている。
 「お、お姉ちゃん!?」
 由乃が不意に祐巳の手をとって引っ張り抱きしめた。
 「別に祥子さまを取るなんてしてないし、祥子さまもそんな事は思ってないの。ただね、祥子さまも不安なんだって気がつきなさい」
 「不安?祥子さまが?」
 あの人に不安なんてあるのだろうか?
 「……私も令ちゃんときちんと向き合うし、令ちゃんも向き合ってくれるみたいだから……祐巳は祐巳で祥子さまに向き合わないとね」
 「祥子さまと向き合う?」
 「ほら」
 由乃に促され後ろを見ると祥子さまが居た。
 「祥子さま、祐巳をお預けします」
 「祐巳は、私の妹よ?返して貰うわ」
 なんだか二人の視線に火花が見える気がするけれど……気のせいだよね?
 とか、思っていると祥子さまに引っ張られて、今度は祥子さまの腕の中。
 「えっ?えぇぇ?えぇぇ?」
 「あっ、祐巳。祥子さまに色々祐巳のこと教えておいたから」
 ニヤニヤ笑う由乃。
 何を教えたのだろう?
 「色々?」
 何故か祥子さまの顔が赤い。
 「祥子さま、言ったとおり祐巳はここぞというときはヘタレですから」
 「えぇ、今日の事で確かめられたわ」
 そう言う祥子さま。
 本当に何を教えたのか?
 「な、何なの?」
 祐巳は混乱したまま、祥子さまと由乃の病室を出た。
 祥子さまと二人、暗くなった病院を下りていく。
 「?」
 「どうしたの祐巳?」
 手を繋いでいたので、祐巳が立ち止まると祥子さまも引っ張られて立ち止まる。
 「あっ、いえ」
 一瞬、黄薔薇さまを見た気がした。
 ……まさかね。
 気のせいとそのまま祥子さまと病院を出た。
 病院の前には祥子さまをお迎えに来たらしい黒塗りの車。
 「祐巳、乗りなさい。送るわ」
 「は、はい」
 祥子さまの横に座る。
 車は揺れも無くゆっくりと走り出した。
 由乃の病室から祐巳は黙ったままだ。
 何をどう話して良いのか分からないし、どう祥子さまに向き合えば良いのかも分からない。
 「祐巳」
 切り出したのは祥子さまの方だった。
 「は、はい!」
 祥子さまを見ると優しく笑っていた。
 「私はね不安だったの、祐巳と姉妹になったと言うのに祐巳のことが分からなくって、それなのに由乃ちゃんや令は祐巳のこと分かっていて」
 「でもそれは」
 「えぇ、私も分かっていたのよ。あの二人とで付き合って来た歳月が違う事は、それでも祐巳を一番理解しているのは私でありたかったの」
 祥子さまは顔を真っ赤にして照れている様子。
 「し、仕方ないでしょう。私のお姉さまである蓉子さまには何でも見抜かれていて、それなのに私は貴女のことが分からなくって焦っていたのよ。でも!祐巳も悪いのよ」
 責任が突然祐巳の方にとんで来た。
 「貴女が令の事を、令姉ちゃんとか呼んでいるのに私の事は祥子さまのままで、由乃ちゃんもお姉ちゃんで、お姉さまと何時までも呼んでくれないから」
 「えっ、そ、それでですか?」
 「それでって……私には大事な事なのよ」
 祥子さまは顔を赤くしてツンと横を向く。
 なんだか可愛いと思ってしまった。
 「でも、由乃ちゃんからそれは祐巳が恥ずかしがっているだけって教えてもらったから、少し安心はしたの。私は令のことがまだ諦められないのではと思っていたから」
 由乃……祥子さまに何を吹き込んだ?!
 祐巳が、祥子さまをお姉さまと呼ばなかったのは確かに恥ずかしいからだと思う。でも、祥子さまが言うようにどこか心の片隅に令姉ちゃんのことが残っているのかもしれない。
 「あっ、あの、祥子さま!」
 つい大きな声を出してしまった。
 「私、今度の試合に先鋒で出させてもらえるんです!」
 もう、勢いのまま話すしかない。
 試合の日、それは由乃の手術当日。
 両親は由乃の方についていくと言っていた。
 「凄いじゃない。一年生でレギュラーなんて、勿論、行かせて貰うわ。大事な妹の晴れ姿を見られるんですもの」
 「えぅ?」
 「何よその変な声は?由乃ちゃんからもお願いされているから、試合の方に行くわよ。それに祐巳が出場するなら尚更だわ」
 そう言って祥子さまは祐巳のタイを直した。



 試合の日。それは由乃の手術の日。
 「令さま」
 「祐巳」
 令姉ちゃんも由乃からロザリオを返されてから、自分で色々と考えていたらしい。それがどんな結論に達したのかは分からないけれど、今は良い顔をしている。
 「そう言う祐巳は?」
 「へっ?」
 「祥子と何かあったように見えていたけれど?」
 驚いた、あんな状態の中で祐巳のことも令姉ちゃんが見ていたことに。
 祐巳は、二階の観客席を見る。
 少し探すと、リリアンの制服を着た応援団の中に祥子さまが紅薔薇さまと座っているのが見えた。
 祐巳が見ているのに気がついたのか、お二人が手を振ってくれた。
 「うん、大丈夫」
 「そうか、祐巳も向き合うものがあるみたいだね」
 「向き合う……」
 令姉ちゃんの言葉は少し違う気がするけれど。
 「そうだね」
 頷いておく。
 「……中等部も来ているね」
 高等部の試合には必ず中等部応援に駆けつけることに成っている。
 祐巳も去年まで応援に駆けつけていた。
 呑気に菜々が手を振っていた。
 試合が始まる。
 祐巳は一年で唯一の選手。任されたのは先鋒。
 「はい!」
 名前を呼ばれ、祐巳は立ち上がった。

 お姉さまが見ているのだ、無様な試合はしない。



 「ん〜!はぁ!終わった〜」
 バスの揺れから解放され、外に出て背を伸ばす。
 「祐巳さん、お疲れ様」
 応援に来てくれた仲間たちが、剣道部より早く学園に戻って来ていて祐巳たちを取り囲む。
 「祐巳さま、あの小手のタイミング凄くよかったです」
 「うん、アレは自分でもよかったと思うよ」
 会場では話など出来なかったので、ようやく開放感で話し込む。
 菜々の言うように、今回は全体的によかったと思う。
 「祐巳」
 そこに祥子さまが薔薇さま方とやってこられた。
 十戒のように生徒たちが道を開く。
 「お疲れさま、頑張ったわね。令もね」
 「私はついでなの?」
 祥子さまの言葉に、令姉ちゃんはクスクスと笑っている。
 「あら……そうでもないわよ」
 祥子さまも笑っていた。
 「あ、あの、お姉さま」
 令姉ちゃんと話している祥子さまに声をかける。
 「えっ?祐巳」
 「あっ、あの」
 ……私何しているのよ?!このタイミングで呼ばなくてもいいじゃない。
 どうやら緊張し過ぎているようだ。
 物凄くタイミングが悪いこと、今、気がついた。
 「祐巳。貴女、今、お姉さまって言った?」
 「は……はい」
 祐巳は真っ赤になりながら、俯く。
 「なに?祥子。まだ、祐巳にお姉さまって呼んでもらってなかったの?」
 「そうよ……悪い?」
 「いや、そういう事はないけれど。祐巳も何しているんだか」
 悪かったね!
 「祐巳、呼ぶならもっとハッキリと呼んで頂戴」
 「そうね、今のは聞き難かったわ」
 「そうだよ、祐巳ちゃん。お姉さまとハッキリ言ってあげないと祥子泣いちゃうよ」
 「泣きません!」
 「祥子、固いわ」
 薔薇さまお二人が楽しそうに煽り立てる。
 「……こっほん!祐巳」
 祥子さまは咳払いをして、祐巳を見る。
 こんな大勢に見られているなかで、本当に失敗したと感じていた。
 チラチラと周りを見る。
 試合を取材に来た新聞部の真美さんと写真部の蔦子さん。
 応援に来てくれた、志摩子さん。
 紅薔薇さまと白薔薇さま。
 高等部と中等部の剣道部一同。
 先生。
 令姉ちゃん。
 そして……祥子さま。
 「祐巳」
 祥子さまが真っ直ぐに見詰めてくる。
 誰も何も言わない。
 「あっ……うっ…」

 小さく息を吸った。

 「……オネエサマ」
 静かになる。
 「祐巳」
 「……祐巳」
 「祐巳さま」
 「祐巳ちゃん」
 「祐巳さん」
 口々に祐巳の名前が出る。
 「祐巳さま、ヘタレなんだから」
 この声は、菜々だ。
 くっそ〜!
 祥子さまは少し不満そう。
 「決めました、祐巳。私はこれから祥子さまと呼ばれても返事しませんから」
 「えっ?」
 「あらら」
 「祥子ったら、フフフ」
 「で、でも、こんなに大勢の前で!?」
 恥ずかしくって、つい的外れなことを言ってしまう。
 「大勢って」
 「祐巳ちゃん」
 呆れ顔が広がっている。
 分かっています。
 妹が姉を『お姉さま』と呼べないでどうすると言うのか?

 深呼吸。

 「……オネエサマ」
 「聞こえな〜い!」
 祥子さまは意地悪そうにニヤニヤしている。
 「お…おねえさま…」
 「あら、空耳かしら?」
 祥子さまから少し離れた所には、紅薔薇さま、白薔薇さまがニヤニヤ。
 「お姉さま」
 「う〜ん、誰か呼んでいるわよ」
 祥子さまは後ろを見る。
 そこには志摩子さん、令姉ちゃん。
 さらにその後ろに蔦子さん、真美さんの報道コンビと菜々たち中等部と高等部の剣道部員。
 「お姉さま!」
 「はい」
 祥子さまは優雅に微笑み。
 沸きあがる歓声。
 何事かと足を止めて見ていた生徒たちも何やら参加して拍手している。
 「祐巳さま〜、可愛い!」
 菜々の茶々に祐巳は振りかえる。
 「菜々!あんた妹にするから覚悟しておきなさいよ!」
 照れ隠しに菜々に八つ当たり。
 「あら、祥子。もう孫が出来たわね、フフフ」
 「……お姉さま、ふふふ。どうでしょうか?ふふふ」
 祥子さまたちだけでなく皆が苦笑するなか、慌てていたのは菜々だった。
 「マリアさま!祐巳さまに来年素敵な妹を紹介してください!」
 本気で、マリアさまに祈りを捧げていた。
 「菜々!」
 「ひぃ!」
 そこまで嫌かと悲しくなるが……周囲は大きな笑いに包まれていた。
 逃げ出す菜々を祐巳が追いかける。
 「シゴキの鬼の妹はイヤァァァ!」
 菜々の声が夕暮れのリリアンに響くのだった。



 それから……。

 令姉ちゃんと家に帰ると由乃の手術が成功したことを聞いた。

 翌日、新聞部の真美さんに情報をリークしリリアン瓦版に載せてもらった。

 令姉ちゃんもお見舞いに行き、由乃と何か話したらしい。

 それからしばらくして由乃は退院し、少しの自宅療養の後。学園に復帰した。

 そして……。

 「妹にしてください」

 妹からの逆申し込みをやってのけたのだった。



 「まったく、何を考えているのかしらね」
 祥子さまはご立腹。
 先ほどまで、こちらも復帰した黄薔薇さまに今回の一連のことを聞かれていたらしい。
 大変だったのだろう。
 でも、ご立腹の原因はそれではなく、黄薔薇革命で別れた姉妹が由乃の影響か、復縁者が続出していることだ。
 当事者の親族としては肩身が狭い話ではあるけれど。
 「……でも、凄いのは、それぞれのお姉さまたちだと思いますよ。だって、皆さま許しておられるのですから」
 祐巳が今回のことで認識したのは、お姉さまたちの寛容さ。
 正直、凄いと思う。
 「変な事に感心しているのね」
 「そうですか?」
 「えぇ、そうよ。そんな事当たり前でしょう、だって、お姉さまですからね」
 祥子さまは、しっかりと分かっておられた。
 「まぁ、いいわ。それよりも寒いから早く行くわよ」
 祥子さまの後に着いて行く。

 「はい、お姉さま」


 寒空に祐巳の声が響いた。






 終わっていなかった話を終わらせるという事で、今回は島津姉妹のお話でした。
 読んでくださった皆さまに感謝。

                              クゥ〜。


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