被っていたら、ごめんなさい。
薔薇の花かんむりを読んでの思いつき。
「ふんふん〜」
佐藤聖は手にした少し重い薬局のレジ袋を片手に大学の敷地から、高等部の敷地へと進んでいく。
同じ敷地にあるというのに、こう何だか入りづらい壁のようなものがあって大学生が高等部の敷地に入る事は少ない。
特に高等部は姉妹制度や薔薇さまたちが居るために、不可侵な感じさえある。もっとも、姉妹制度は大学生に成ったから切れるものではなく。実際に姉妹でリリアン大だとそのまま続いている人たちも多い。
まぁ、そんな事は今の聖には関係ない。
せっかくの差し入れが温くならないうちに、手渡したい。
受け取ってはくれると思う。
何せ、探しているのは孫なのだから。
だから、孫を見つける前にその姉や仲間に見つかってはせっかくの作戦が水泡に帰することもある。
「今回は祐巳ちゃんたちじゃ、ダメなんだよね」
祐巳ちゃんは面白く、聖が可愛がっている後輩だが、今回は会うのは不味い。
もっとも、次期薔薇さまの三人が薔薇の館を今の時期留守をすることが少ない事を知っているので、こうして堂々と高等部の敷地をはいかいしているのだけれど。
「見っけ」
目的の相手が見つかった。しかも、おまけも付いていた。
「は〜い!」
明るい声で声をかける。
「せ、聖さま?!」
「えっ?」
先に名前を呼んだのは、おまけのドリルちゃん。
「ごきげんよう、白薔薇のつぼみ、紅薔薇のつぼみの妹」
態々、役名で呼んであげる。
そう、聖の目的の相手は志摩子の妹の乃梨子ちゃん。もし叶わなかったら、祐巳ちゃんの妹に成ったドリルちゃんだったのだ。
「はい、差し入れ」
この時期、薔薇の館を離れられない次期薔薇さまの代わりに動き回っているのは、その妹たち。
それも分かっていたから、まぁ、勝算のあることではあった。
「あ、あの……コレは?」
「ん?親切なサンタさんがくれましたとでも言っておいて」
「はぁ」
薬局の袋をそう言って乃梨子ちゃんに手渡す。
「ありがとうございます」
「いいよ〜、それよりも二人はどうするの?」
「?」
「何がでしょうか?」
聖の脈絡も無い言葉に流石に?マークを飛ばす二人。
「いや、だから、薔薇さまのお別れ会のときの出し物」
「はい?」
「何ですか、それ?」
「聞いてない?由乃ちゃんは仕方ないとしても、志摩子や祐巳ちゃんは二人のお姉さまでしょう?」
言い方が気にいらなかったのか、二人は同時にムッとした。
なかなかに面白い二人である。
「それで何なのですか?」
「だから……かくし芸よん!」
「はい?」
「はっ?」
聖の言葉に、更に?マークが飛んでいる。
「由乃ちゃんは手品、志摩子はマリアの心で日舞を舞ったわ。んっで、祐巳ちゃんはクスクス……」
「な、何なのですか?!」
ドリルちゃんが反応を示す。
面白いはダメか……可愛いにしておこう。
「ドジョウすくい」
ドリルちゃんが固まった。
「更に言えば、令は片手でのりんご潰し、祥子は自ら歌いつつダンスしたよ」
ドリルちゃんは未だに固まっているが、乃梨子ちゃんは完全に怪しんでいる。
「お姉さまたちから一言も聞いていませんが……」
「まっ、よく考えたら可愛い妹に自分たちの恥なんて教えないでしょう?」
最もあの三人は楽しそうだったが……。
「でも、きっと祥子も令も楽しみにしているからさ」
そろそろ良いだろう。
「それじゃ、頑張りなさい。ごきげんよう」
固まった一人と未だに不信感丸出しの一人を置いて立ち去る。
……それにしても、志摩子たち教えていなかったのか。
意外といえば意外だった。
でも、これできっと楽しい伝統が一つ加わる気がする。
あの凸凹コンビなら、きっと楽しいかくし芸を披露するだろう。
「……しまった、私が見れない」
少々、勿体無いかなと思いつつ聖は大学の敷地に戻っていった。
薔薇の花かんむり。サンタの差し入れより。
クゥ〜。