【3354】 それでも護ると決めた希望をもたらす者  (ex 2010-10-30 20:40:57)


「マホ☆ユミ」シリーズ   「祐巳と魔界のピラミッド」 (全43話)

第1部 (過去編) 「清子様はおかあさま?」
【No:3258】【No:3259】【No:3268】【No:3270】【No:3271】【No:3273】

第2部 (本編第1章)「リリアンの戦女神たち」
【No:3274】【No:3277】【No:3279】【No:3280】【No:3281】【No:3284】【No:3286】【No:3289】【No:3291】【No:3294】

第3部 (本編第2章)「フォーチュンの奇跡」
【No:3295】【No:3296】【No:3298】【No:3300】【No:3305】【No:3311】【No:3313】【No:3314】

第4部 (本編第3章)「生と死」
【No:3315】【No:3317】【No:3319】【No:3324】【No:3329】【No:3334】【No:3339】【No:3341】【No:3348】【No:これ】
【No:3358】【No:3360】【No:3367】【No:3378】【No:3379】【No:3382】【No:3387】【No:3388】【No:3392】

※ このシリーズは一部悲惨なシーンがあります。また伏線などがありますので出来れば第1部からご覧ください。
※ 4月10日(日)がリリアン女学園入学式の設定としています。

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〜 10月2日(月) 12時 暗黒ピラミッド内部 〜

「聖さま・・・。 聖さま」
 聖は、自分を呼ぶ静かな声に目をあける。

 かたわらに志摩子の姿。 その手には薄いブルーの液体が入った瓶をもっている。

 志摩子は 『ソーマの雫』 を自分の口に含み、口移しに聖に飲ませたのだ。

「気分はいかがですか?」

 はっ、と一瞬にして聖の意識が覚醒する。
 思わず飛び起きて周囲を見渡す。

 その視線の先には先ほどと変わらずうつぶせに倒れ伏す令と由乃の姿。

 ・・・そして、床に寝ころぶ祐巳と視線が合う。

 祐巳は情けなさそうな顔をしながらも心配そうに聖を見ていた。

「祐巳ちゃんっ!! 大丈夫?! 痛みはない?!」
 聖が祐巳に駆け寄り声をかける。

「えっと・・・。 痛み止めは飲んだんですけど、滅茶苦茶痛いです〜」
 こんな時だというのに、どことなくのんびりした祐巳の声。

 そして、祐巳の右腕があった場所は・・・。 ぽっかりと空いた空間。

「祐巳ちゃん・・・。 あなた右腕・・・」

「あの〜。 再生するだけの時間も体力もなかったんでとりあえず傷だけふさぎました」
 情けなさそうな声で答える祐巳。

「でも、聖さまのほうこそ、大丈夫ですか?」

(自分の右腕がなくなったというのに・・・。 こんな時にも私の心配をするというの?)
 聖の眼がしらが熱くなり、ポタリ・・・、と涙が一筋流れる。

 その涙を残った左手でぬぐう祐巳。

「大丈夫ですから・・・。 わたしは大丈夫。 それより令さまと由乃さんを帰してあげてください」
 とても穏やかな祐巳の声。

「このまま、令さまと由乃さんをここに放って置いちゃダメです。
 いつまた魔王たちが来るか知れない・・・。 地上に帰してあげてください。」

「わかったわ。 じゃ、『妖精の翼』で入口まで戻ろう。 みんなボロボロだしね。
 いったん出直そう。 祐巳ちゃんの腕も治療しないといけないし」

 思ったよりしっかりとした祐巳の声に聖も安心したのか穏やかに言葉を返す。
 しかし、祐巳の次の言葉に聖は愕然とする。

「いいえ。 地上に戻るのは聖さまと令さま、由乃さんだけでお願いします。
 わたしと志摩子さんはこのままソロモン王を倒しに行きます」

「何言ってるの?! 祐巳ちゃん、あなたいま自分がどうなってるかわかってるの?!
 このまま私だけ帰るわけには行かないわよ! 君たちも帰るんだ! もう一度出直すんだよ!」
 聖は祐巳の口から出た言葉を信じられない思いで聞くとすぐさま否定した。

 さすがに祐巳も聖の反応はわかっていたのか、
「わかりました。 では聖さま。 二人を送り届けたら帰ってきてください。 わたしたち、ここで待ってます。
 でも、私たちは地上に帰れません。
 だって・・・。 この姿で地上に戻ったら、二度とここに帰って来れませんから」
 と、静かに言う。

 たしかに・・・。 と聖は思う。

 たった3人で挑んだこの暗黒ピラミッド。
 そこで、片腕を失うほどの戦闘を行った祐巳がここに再度来ることはかなわないだろう。
 
 すべての人々に止められるのはわかりきっていた。

 そして・・・。 たとえ片腕を失おうとこの祐巳が祥子を・・・。 山百合会の仲間を見捨てることが出来るわけはない。
 それに、片腕であってもこの場で最強の戦闘力を持つのが祐巳だ、ということもわかっていた。

 不思議なことに聖の傷はすべてふさがり、打撲の跡すらない。
 すべてが万全な自分が令と由乃をいったん地上に連れ帰れば、また3人でこの魔王の巣を攻略するために戻ってくることも出来るだろう。

(私の傷・・・。 治してくれたのは祐巳ちゃん? それとも『ソーマの雫』? ひょっとしてシルフィードたちが守ってくれたの?)
 聖にはそのことだけが不思議だった。
 自分が気を失っている間に起こったこの不思議な出来事。
 だが、その事を今ここにいる祐巳と志摩子には聞いてはいけない気がしていた。

「えっと、由乃さんなんですけど、皮膚の表面の傷はたいしたことありません。
 ただ、脳震盪を起こしてるのと背中が火傷してるんでその治療をお願いします。
 それと、多分・・・。 その傷が治ったとしても生命力が極端に落ちてます。
 全身麻酔で眠らせて、あと拘束着を着せて、結界の中で眠らせてあげてください。 お願いします」

 祐巳は、由乃の治療について不思議な指示を聖に与える。

 聖は祐巳の不思議な言葉に疑問を抱きながらもしっかりと頷く。

「それから、令さまですけど・・・。 令さま絶対に背中を向けてくれなかったので両膝を折っちゃいました・・・。
 そのあと、背中の ”五芒星” を切り取ろうとしたんですけど根が深くて・・・。
 かなり手加減したんですけど、内蔵の近くまで抉り取らなければなりませんでした。
 令さまにも、全身麻酔と拘束着、それに結界をお願いします」

 祐巳の顔色がだんだん悪くなる。 祐巳の額に脂汗が浮かび始める。

「志摩子さん・・・。 もうちょっとちょうだい」
 祐巳が志摩子に 『ソーマの雫』 をねだる。
 祐巳も体をだましだまし話しているのだ。

 志摩子は祐巳の頭を自分のひざの上に乗せ、『ソーマの雫』を口移しで飲ませる。

 祐巳の喉がごくん、とソーマの雫を飲み込んだあと、すこしの静寂。
 しかし、その少しの時間さえ惜しむように祐巳が聖に話しかける。

「聖さま、二人を送り届けた跡、すこし薬と食べ物、お願いできますか?
 えへへ・・・ さすがにちょっときついんで少し・・・眠ります」

 祐巳は穏やかに話しをしてたんじゃない。 腹の底から声が出せないほど衰弱していたのだ。
 最後に小さく呟くように聖に頼み事をした祐巳は、静かに眼を閉じた。

「志摩子・・・」
 聖が志摩子を振り返りながら声をかける。

「祐巳ちゃんは、大丈夫なの? わたしが寝てる間になにがあったの?」

 志摩子は、祐巳の髪を撫でながら静かな声で答える。

「祐巳さんの腕は癒しの光を受けたわたしの剣で切り落としました。 それで治療を始めると思ったんですけど・・・。
 あまりにもひどい激痛で・・・。 さすがの祐巳さんも耐え切れなかったんです。
 なんとか肩口で出血を止めて皮膚の再生をするところまでで限界でした」

 ポロポロと涙がこぼれる。 志摩子は自分の罪を悔いながらも聖に説明を続ける。

「そのあと、『ソーマの雫』と、痛み止めを飲んで・・・。 信じられないくらいいっぱい飲んで・・・。
 それでも痛みと戦いながら令さまと由乃さんの傷を見てました。
 祐巳さんは、 ヒトデみたいなのを 『ソロモン王のスペルだ』 って言ってました。
 ”Te” ”Tra” ”Gram” ”Ma” ”Ton” と、文字が浮き出した ”五芒星” です。
 それが令さまと由乃さんの体に埋め込まれていたそうです。
 きっと、その 『ソロモン王のスペル』 で、令さまと由乃さん、操られてたんじゃないかと思うんです。 祐巳さんは何も言いませんでしたけど」

 そして最後に志摩子は、
「多分時間が無いんです。 祥子さまたちにも 『ソロモン王のスペル』 が埋め込まれてるかもしれない。
 そうなっていたらすぐにでもここに来て私たちを襲うかもしれない。
 もし、祥子さまが祐巳さんを襲ったら、祐巳さん、ぜったいに戦えない。
 それに、まだ祥子さまたちが大丈夫だとしても、時間が無いんです。
 早く助けないと・・・。 祐巳さん、絶対に最後まであきらめません。 だからわたしもあきらめません」
 と、一気に聖に思いのたけを吐き出す。

「お願いします。 祐巳さんの言うとおりにしてあげてください。
 令さまと由乃さんのことも・・・。 もう二人とも・・・。 ダメかもしれないんです。
 でも、祐巳さんはまだあきらめてない。 きっと助かる方法があるんじゃないかと思うんです」

 志摩子の瞳から、とめどなく涙が溢れる。
 零れ落ちる涙は志摩子のすぐ下で眠る祐巳の頬にも伝わる。

 しかし、志摩子の瞳には強い光で満ちていた。

「うん、わかった。 志摩子、祐巳ちゃんを守ってね。
 二人を送り届けたら必要なものを持って急いで戻ってくるから、ね」

 聖は、志摩子に力強い笑みを浮かべる。
 すっくと立ち上がった聖は傍らに転がっていた祐巳の薔薇十字、 『セブン・スターズ』 を拾い上げ志摩子のひざで眠る祐巳の横に置いた。

 「この薔薇十字は、七星を統べるもの。 お守り代わりにはなるでしょう」

 そういい残した聖は令と由乃を掻き抱くように両脇に抱きかかえると 『妖精の翼』 をバキッと折り、一瞬にして志摩子の前から姿を消した。



〜 9月30日(土) 暗黒ピラミッド内 〜

 時は少々遡る・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「キャーーーーー!!」
「助けてーーー!!」
「聖っーーーーー!!」

 魔王・ベリアルの居た小部屋は薔薇十字所有者、水野蓉子、鳥居江利子、小笠原祥子、支倉令を乗せたまま地下に崩れ落ちていく。

「蓉子ーーーー!!、 江利子ーーーー!!、祥子ーーーー!!、令ーーーーー!!」

 聖の必死の呼びかけが聞こえる。

 急に足元が崩れたためにバランスを崩した4人であったが、さすがに対処は早かった。
「落下の衝撃に備えて覇気全開! 祥子っ! なんとかしなさいっ!」
 
「はいっ!」
 祥子は蓉子の檄に答え 『ノーブル・レッド』 を振るう。

「モラムレアッ! (この先にあるものよ柔らかくなれ!) 」

 祥子の呪文による魔法陣が完成し地下に伸びる。 次の瞬間、ボフッ! と何かに包み込まれるような衝撃が4人を襲う。

 さすがの祥子の柔軟化魔法も、この短時間での詠唱に無理があったのか、それとも300m以上の落下による急激な重力の衝撃を相殺できなかったのか・・・。

 肺の中の空気をすべて吐き出したような・・・。 胃の中のものがすべて逆流するような強烈な衝撃。
 
 薔薇十字所有者がいくらその覇気による鎧を纏ったとしても意識を飛ばすには十分な衝撃だった。



〜 9月30日(土) 12時 暗黒ピラミッド最下層 〜

 祥子が目を開けたとき、すぐ横に蓉子、江利子、令の3人が見えた。

 3人とも怪我もなく、また疲れた様子もない。

「祥子、目が覚めたね?」 と、穏やかな令の声がする。

「え・・・ええ。 ここはどこなの?」
 祥子は、令の問いに答えながら周りを見渡す。

 大きな部屋だった。 壁にかけられている松明は星の数ほどもあるがすべて数十メートルは先にあるようだ。
 そして自分たちの周りにはトーチのような松明が幾本も立ち並んでいる。

 そして、令たちが見つめる先、約20mほど離れた場所に階段状に高くなった玉座。 その玉座に座る王らしき人物。
 傍らに控えるのは細身で金髪・長髭の青褪めた老人。肩に大鷹をとまらせている。 
 そしてもう一人、魚の鱗のような皮膚、半魚人のような耳を持った美しい女。

 王は蒼い服の上に金の肩掛けを纏い、手には細い杓仗のようなものを持っている。
 頭には茨のようなとげが突き出した金の王冠。 左右の人差し指には豪華な指輪。

 聡明そうな瞳に他を圧倒するオーラ。

「・・・ソロモン王・・・」 小さく祥子は呟く。
 その偉大な姿はイタリアで見た中世のどんな王の肖像よりも堂々としたまさしく ”真の王” の姿だった。

「間違いないわね」
 蓉子が祥子の小さな呟きに答える。

「お姉さま、ここは・・・。 どうやってここにきたのでしょう?」
 ささやくような小さな声で祥子が蓉子に問う。

「わたしたちもついさっき目覚めたばかりなのよ。 あなたと大差ないわ。
 起き上がったらあの3人がこちらを見ながらしゃべっていた、ってわけ。
 何語か聞いたこともない言葉なのでさっぱり意味はわからないわ。
 ただ、敵意は感じない。
 だいたい、みんな自分の武器を持ってるでしょ。 武器を取り上げられてはいないのよ・・・。 まぁ令は仕方ないけど」

 令は、先ほどのベリアルとの戦闘で黄薔薇の十字剣、自慢の超長刀を弾き飛ばされたため丸腰だった。

『ようこそ、勇者たちよ』 
 ふいに玉座に座る王から声が掛かる。 それは厳かにして流暢な日本語だった。

『少々お待たせした。 汝らの言葉を知らなかったのでな。 ここいいる”アガレス”に言葉を貰っていたのだ』
 と、わずかに視線を金髪の老人に走らせる。

 細身で金髪・長髭の青褪めた老人。 ソロモン72柱の魔王の次席にしてすべての言語を操る、魔神・アガレス。
 その力はベルゼブブを除くすべての魔王を超え、ゆえに 「魔王」 ではなく 『魔神』 と呼ばれる。
 魔界において31個軍団を率いる、地獄の23人の公爵の主席。

 ソロモン王はアガレスの能力を使役し、自らも日本語を操れるようになった、ということだろう。
 ソロモン王の視線を受けたアガレスはもう一人、傍らに控えていた女を伴い王の背後に消える。

『余は、そなたたちのような勇者を待っておった。 よく来た』
 
 蓉子たちにとってそれは信じられない言葉。
 ソロモン王は現世を魔界に落とし、魔物による 『千年王国』 を築く野望に燃えているのではなかったのか・・・。

『余はそなたたちを歓迎する。 そなたたちは祝福されるであろう』
 ソロモン王は言葉を続ける。
 蓉子たちは厳かに話を続けるソロモン王に聞き入っていた。

『余は、この世に、”神に祝福され万民が幸福に生活できる王国” の建設を進めておった。
 だがそれは愚かな誤りのもとに進んでしまった。
 民衆は贅沢に暮らし、飽食になれ、怠惰な生活に堕ちていった。
 余の理想は閉ざされた。 それがなぜだかわかるかね?』

 ソロモン王は静かに過去を振り返りながら述懐する。

『民衆は享楽にふけり自らの責任を果たそうともしない。 為政者の庇護が強力であれば強力であるほどなにもしないのだ。
 惰眠をむさぼり進歩することをやめる。
 余が後継者として選んだものですら自らの欲望に落ちてゆくのだ。
 ・・・余は孤独であった。 国のことを考える国民が一人もいない国の王など何の意味があったであろう』

 王は自虐めいた笑みを浮かべる。

『余は心に決めたのだ。 余自身が未来永劫変わらぬ君主としてこの世を統治すること。
 そして、その統治する土地には余自身が認めたものたちだけの楽園を作ろうと。
 豚以下の人間など、生きている価値すらない。
 真に生きる価値のある人間のみでこの世の楽園を作り上げ、余がそのものたちを導いていくのだ』

 王は4人の薔薇十字所有者、一人ひとりを視線に収めながら言葉を続ける。

『そなたたちは余の楽園の最初の住民となるに相応しい。
 そなたたちには永遠の若さ、永遠の生命を与えよう。 
 我が王国の建国に力を貸してはくれぬだろうか』

 王は、4人の返答を待つ。 しかしその目には”否定は許さない”、という強い意志が見て取れる。

 ふっ、と蓉子が笑う。
「あきれた選民思想だこと。 どうしてこの人たちはこうなのかしら?」

「まぁ、仕方ないんじゃないの? 豚以下の人間がたくさん居るのは真実だしね」
 江利子も蓉子に笑い返す。

「それにしてもソロモン王、私たちはあなたの配下の魔王をもう何体も倒しました。
 三大魔王の一人、ベリアルも倒した私たちをあなたは歓迎するつもりですか?」
 祥子も言葉は丁寧だが冷笑を浮かべながらソロモン王に問う。

『そなたたちの言葉はいまいち理解できんな。 魔王? それがどうした。
 魔王などその力を余のために捧げるだけの存在。 意のままに動かせばいいだけのもの。
 そなた達が何体倒そうと別にかまわん。 ただ少々不便にはなるがな。
 現に、アガレスがいなければそなた達とこうして話も出来ぬ』

「なるほど。 あなたの統治の対象は ”人間” であって ”魔王” じゃない、ってことね?
 で、あなたに従う ”出来のいい人間” だけの世界を作りたいって? ふっ、お笑いぐさだわ」
 蓉子は、唯我独尊、底の浅いソロモン王の考えに失笑を漏らす。

 しかし、ソロモン王はあくまでも余裕の笑みで答える。
『まぁよい。 すぐに良き返事が来るとは思っておらぬ。 余には時間は有り余るほどにある。
 しばらくここで好きに過ごすが良い。 余に忠誠を誓う気になればここに会いに来い』

「そう・・・。 好きにしていいのね?」
 蓉子が笑いながら江利子、祥子、令に目配せをする。

「じゃ、お言葉に甘えて・・・。 行くわよ!」
 蓉子の合図で三人は散る。
 祥子と江利子は玉座の下から魔法と弓で、令と蓉子は玉座に駆け上がる。

「『アギダインっ!』 、 『刹那五月雨撃ちっ!』 『衝撃手!』 『修羅虎突き!』」
 薔薇十字所有者4人による一斉攻撃がソロモン王を襲う。

 祥子の高温魔法がソロモン王を燃え上がらせ、江利子の矢が次々に王の体に突き刺さる。
 令の掌底の一撃が腹を抉り、蓉子の突きが喉を切り裂く。

 並みの魔王であれば影も形も残らないほどの強烈な攻撃。

 しかし、驚き飛び退いたのは薔薇十字所有者4名。

 いったんボロボロに崩れたソロモン王の体が瞬く間に復元していく。

『素晴らしい魔法。 素晴らしい攻撃。 素晴らしい闘気。 一糸乱れぬ攻撃を生むその統率力。
 何もかもが素晴らしい。 まさに余の理想とするものだ。
 ・・・だが、覚えておくが良い。 余にはそなたたちのどのような攻撃も効かぬ。
 余は不死にして万能。 すべての智恵を持つものである。 余に服従せよ』

 これだけ攻撃したというのにソロモン王は蓉子たちに敵意すら見せない。

 さすがの蓉子もこれではお手上げである。
(まいったわね・・・。 これじゃどうしようもないじゃない・・・)

 蓉子はソロモン王にゆっくりと背中を向ける。

「それでは王よ。 私たちはお言葉に甘えしばらく考える時間をいただきます。
 その結果、あなたに服従すべき、と考えるようになればそういたしましょう。
 そうですね。 期限は3日。 その期限が切れたら私たちを好きにしなさい」

「お姉さま!」 祥子が驚いた声を出す。

「仕方ないわ。 今は蓉子に任せましょう」
 江利子も何か考えがあるのか蓉子の考えを支持するようだ。 令はもちろん江利子の言葉に頷く。

『では三日後の正午、またこの場所で返事を聞こう。 もちろんそれより前であっても一向に構わぬ』

 ソロモン王の言葉はあくまで厳粛に響く。 
 それは支配することに慣れたものの声。 絶対君主の威厳を持っていた。



 蓉子たち4人はソロモン王の前を去る。
 王に背を向けた蓉子は自分たちの背後に開いていた扉から外にでる。

 そこはわずかに上方に向かって伸びるスロープになっていた。

「で、蓉子、このあとどうするつもり?」
 スロープを上りながら小さな声で江利子が蓉子に話しかける。

「そうね。 好きにしていい、ってことだから好きにさせてもらいましょう。
 とりあえずは・・・。 そうね。 ピラミッドを探索しながら魔王退治、といきましょうか」

「「魔王を退治するのですか?!」」
 祥子と令が驚いて蓉子を見る。

「えぇ、聖たちがここに来るためにはまだ70体近くの魔王と戦わないといけないわ。
 さすがにそれは無理でしょう? わたしたちでできるだけその数を減らしておきましょう」
 蓉子は平然と言い放つ。

「あの・・・。 聖さまがここにくるのですか? かなりひどいお怪我をしていたようですが・・・」
 祥子は信じられない、という顔で蓉子の顔をのぞき見る。

「わたしたちが魔王の数を減らしておけば、間違いなく聖は2日以内にここまで来る。
 何か突発的な事故が起きた時のことも考慮して3日、って言ったのよ」

 蓉子の顔は確信に満ちていた。



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