【3368】 水野祐巳シリーズ愛らしくて不思議な気持ち  (クゥ〜 2010-11-05 21:54:36)


 ごめんなさい、確信犯です。



水野祐巳のお話。中等部【No:1497】【No:1507】【No:1521】【No:1532】【No:1552】【No:1606】
           高等部【No:3191】【No:3202】【No:3263】【No:3303】【今回】





 雨が降っている。
 雨音に混じって、電話の音が響いたので急いで取りに向かう。
 「はいは〜い、ちょっと待って」
 相手に聞こえるはずもないのに、こんな事を言ってしまうのは何故だろう?
 カチャと音を立てて、受話器を取り上げる。
 「はい、水野ですが」
 『あっ、祐巳?』
 聞き覚えのあるその声で、血が顔に昇り真っ赤になる。
 「さ、祥子さま?!」
 祥子さまは最近突然に祐巳のことを呼び捨てにし始めた。
 理由がよく分からないけれど、祐巳の方は慣れないのですぐに顔に血が昇りぱなしだ。
 『お姉さまは、いらっしゃる?』
 「は、はい!少々、お待ちください」
 電話を子機に移動し、二階へと駆け上がる。
 「お姉ちゃん、電話。祥子さまから」
 お姉ちゃんの部屋をノックもせずに開け、子機を差し出す。
 「祐巳〜、どんなに急いでいてもノックくらいしなさい」
 お姉ちゃんは子機を受け取りながら注意を忘れない。
 「ごめ〜ん」
 「あっ、待ちなさい」
 子機を渡して部屋を出ようとすると、お姉ちゃんに止められた。
 「あっ、なに、祥子?……そう、うん、そうね。フッレンツ煎餅かローマ饅頭ね」
 「?」
 何の話をしているのだろう?
 「祐巳?えぇ、捕まえているわよ。代わって欲しいの?」
 お姉ちゃんは嬉しそうに、祐巳の方を見る。
 「どうしようかな〜」
 お姉ちゃんはニヤニヤ。
 「冗談よ、ふふふ。はい、祐巳」
 「ほぇ?」
 よく分からないうちに電話を代わる。
 「祥子が祐巳に聞きたいことがあるんだって」
 「う、うん……あっ、もしもし代わりました」
 『祐巳、ごめんなさいね』
 「いいえ、それでどのような用事でしょうか?」
 『私たち二年生は明日から修学旅行なのだけれど』
 そうだ、明日から祥子さまたち二年生はイタリアに修学旅行。お姉ちゃんも去年行って変な置物を祐巳のお土産に買ってきた。
 『祐巳の好きな色って何かしら?』
 「色ですか?」
 予想とは違う質問。
 『えぇ』
 「そうですね……紅……ですかね」
 それは、お姉ちゃんの色、祥子さまの色。
 『紅ね、分かったわ』
 もう一度、姉に代わってと言うので受話器をお姉ちゃんに返す。
 「はい……それでは楽しんでいらっしゃい」
 そう言って、お姉ちゃんは電話を切った。
 「ねぇ、祐巳」
 「なに?」
 「祥子って何時から祐巳のこと呼び捨ての言うように成ったの?」
 電話を切ったお姉ちゃんは、呼び方を不思議に思ったようで聞いてきた。
 でも……。
 「う〜ん、よく分からないんだ。何時の間にか呼び捨てになっていた」
 「なによそれ」
 お姉ちゃんは呆れ顔。
 「たぶん体育祭後くらいからだと思うけれど」
 「ふ〜ん、橋でも焼いたかしらね」
 「?」
 今度はニヤニヤしている。
 何だかその笑いが全てお見通しって感じで少し嫌だった。


 祥子さまは明日から修学旅行だ。


 祥子は受話器を置いた。
 「はぁ」
 溜め息。
 溜め息は幸せが逃げるというけれど、コレは幸せの溜め息だから問題は無い。
 明日から修学旅行。
 場所はイタリア。
 お父さまと何度か行った事はあるけれど、友人たちと行くというのはこれはまた別の楽しみがある。
 飛行機は少し憂鬱だけれど。
 荷物はもう纏めてあるし、後は眠るだけという段階になってフッと蓉子さまに電話をと思い立ったのだ。
 電話出でたのは祐巳だった。
 少し前までは祐巳ちゃん。
 今は祐巳。
 そう変えるだけでどれだけの時間を要したか知れない。
 「……祐巳」
 お姉さまと呼ぶのと同じくらい心が暖かくなる。
 明日は修学旅行。
 早く眠らないとと思いながらも、しばらく寝付けそうに無かった。



 「ふぁ」
 やはり少し寝不足気味に成ってしまった。
 送迎の車で空港まで送ってもらい、すでに集まってきていた生徒たちに合流する。
 「祥子」
 早々に声をかけてきたのは令だった。
 「ごきげんよう」
 「ごきげんよう、今ついたの?」
 「えぇ、令も?」
 「いや、私はK駅から直通のバスで来たから少し早かった」
 それでしばらく暇を持て余していたらしい。
 「あっ、祥子さん。ごきげんよう」
 「ごきげんよう、三奈子さん」
 嬉しそうに近づいてきたのは、新聞部の三奈子さん。
 隣には写真部部員。
 「出発前の紅薔薇のつぼみと黄薔薇のつぼみのツーショットが欲しいのだけれどよいかしら?」
 三奈子さんの提案に令と顔を見合わせる。
 令は仕方ないと言う様に肩をすくめた。
 写真と簡単な出発前のコメントを取って、三奈子さんは去っていった。
 出発前、取材には忙しい時間だ。
 「それじゃ、機会があったら」
 令と別れ、松組の方に向かった。
 出発の時間を見ながら、酔い止めを飲んで飛行機に向かう。
 乗り物は嫌いだから、とにかく眠るのに限る。
 祥子は体にかかる重力を感じながら、眠りについた。

 ……。
 「んっ」
 令は読みかけの本を閉じると、席を立ち。機体の後部に向かって歩く。
 「……おっ」
 途中、祥子が眠っているのを見つけたが、そのままスルーすることにした。
 ……今は、トイレが先。




 「雨、降り出したね」
 「そう……」
 二年生の居ないリリアン女学園高等部は何処か寂しい。
 「白薔薇さまは?」
 「妹とデートじゃない?」
 学園祭に山百合会で披露する劇の台本を見ながら、黄薔薇さまは受け答えを返してくる。
 「なら、いいけれど」
 「……」
 「なに?」
 「いいえ、いいわ」
 黄薔薇さまは微笑んだ。
 「ところで祐巳ちゃんは?」
 「さぁ、そのうち来るとは思うけれど」
 「そうか、由乃ちゃんは来ないみたいだし、志摩子も来ない」
 二年生不在なので、一年の三人には来なくても良いと言ってある。
 「あら、志摩子は白薔薇さまとデートではなかったの?」
 黄薔薇さまの言葉をそのまま言い返す。
 「あっ、そうだったわね……ふふふ」
 やはりさっきの言葉は、嘘というよりも適当に冗談を交えて返しただけだったようだ。
 「雨、強くなりそうね」
 「……大丈夫でしょう」
 「向こうは晴れかしら?」
 「暑いみたいよ」
 「祥子たちは、今頃はローマかしら」
 「知らないわ、ホテルで眠っているかもね」
 他愛無いやり取り。
 「……そう言えば、祥子。祐巳ちゃんを呼び捨てにしていない?」
 「今頃、気がついたの?」
 黄薔薇さまは、台本をめくる手を止める。
 「あぁ、やっぱり。でも、ロザリオの授受はまだでしょう?それとも旅行前に姉妹に成ったの?まだ、報告受けていないけれど」
 「まだ、でしょう」
 祐巳の様子に変化はない。
 それに流石に報告があるはずだ。
 「祐巳は突然、呼び捨てになったと言っていたわ」
 「突然ね……何か覚悟でもしたのかしら?」
 「黄薔薇さまもそう思う?」
 「そうね、それが普通じゃない」
 二人でクスクス笑いあう。
 「姉としては、どんな気分?」
 「それは、どっちの?」
 「当然、両方よ」
 黄薔薇さまは楽しそうだ。
 「さぁ、ね」
 蓉子は、ただ微笑んだ。
 「ごきげんよう!お姉ちゃん迎えに来たよ!……て、黄薔薇さま?!」
 蓉子にとってはタイミングよく。
 祐巳とってはバッド・タイミング。
 「あっ!え〜と、よ、蓉子さま。一緒に帰りませんか?ごきげんよう、黄薔薇さま」
 祐巳は完全に混乱しているようで、言葉が支離滅裂だ。
 学園で人目があるときは、祐巳は出来るだけ「お姉ちゃん」と言わないようにしているが、家と学園での使い分けが上手くいっていないことも多く。
 こうして後で慌てる姿はよく見る。
 その姿に、黄薔薇さまは顔を歪め。
 「ぷっ!」
 噴出した。
 「あはははは、相変わらず。祐巳ちゃん最高!あははは」
 黄薔薇さまのつぼに入ったようだ。
 その後、薔薇の館に黄薔薇さまの笑い声が響き続けた。



 「祥子さん」
 「?」
 ピサの斜塔を眺めていると、後ろから声をかけられる。
 「静さん、ごきげんよう」
 後ろを向くと、そこには静さんが立っていた。
 「今、お一人?」
 「えぇ、皆さん。斜塔に登りに行っていますわ」
 「私の方もなの、祥子さんは高いところは?」
 「苦手なのよ」
 「私も同じ」
 お互い顔を見合わせ笑う。
 「祥子さん、もし時間があるなら少し付き合いません?」
 「どこか行くの?」
 「えぇ、礼拝堂に」
 「礼拝堂?」
 どうしてと少し興味の沸いた祥子は、静さんと共に礼拝堂に向かった。
 その間、色々な事を話す。
 一年のときに白薔薇のつぼみの妹候補とまで言われていた。
 合唱部に所属し、歌姫と言われ。
 留学が決まっているとも聞く。
 「ここよ」
 「ここ?」
 静さんと礼拝堂に入る。
 「少し待っていて」
 「えぇ」
 静さんは係りの人に何か頼みごとをしているようだ。
 少しすると、礼拝堂に蒸気が満ち始め。
 静さんは、その中央で唱を披露した。
 祥子は声もなく、ただ震え。
 唱が終わったのを、拍手で気がついた。
 「祥子さん、どうでした?」
 「えぇ、とても素敵でしたわ」
 「そう、よかった。実はね祥子さんに声をかけたのは偶然ではなかったの」
 「?」
 「私、留学が決まってはいるのよ。場所はこのイタリア……」
 なるほどそれでイタリア語が堪能だったのか。
 「でもね、この前、ほんの一時だけれど素敵な出会いが学校であったの」
 「素敵な出会い?」
 「そう、夕暮れの音楽室でその一年生はピアノを弾いていたわ。決して上手いわけではなかったけれど、私は彼女のピアノの音に合わせ唱を披露したの」
 あぁ、何だか聞いたことがある。
 合唱部の生徒たちですら、その歌声の素晴らしさは今までにない程素敵だったと。
 ……一年生。
 「一年生なら、妹候補?」
 「妹……そうね、それも素敵よね。でも、彼女は私の方には向いていないの、ある一人の先輩を見ているわ。片思い……白薔薇さまの時もそうだったけれどどうも私には出会いの運が無いようね」
 「そんなことは……」
 確かに白薔薇さまは志摩子を選んだ。
 「でも、せっかくの出会いだから頑張っては見るつもり」
 何で静さんは、祥子にこんな話を告白するのか?
 「だから、今日のは宣戦布告」
 「宣戦布告?」
 「そう、私が出会ったのは水野祐巳……紅薔薇のつぼみの妹候補」
 そう言った静さんは懐から一枚の写真を取り出す。
 夕焼けの光の中、謳う静さんとピアノを弾く祐巳。
 それは心が繋がった二人の姉妹のような姿。
 静さんの表情は自信に満ち溢れていた。




 「暑いわね」
 今朝の天気予報を見ていたら、何でも熱波が来ているらしく。三十度を超えるとのこと。
 修学旅行。
 それは何時もとは違って、自分の趣味だけで歩き回るわけにはいかない。
 祥子は正直、観光というのが嫌いだ。
 人が多い。
 理由はそれだけだが、それで十分。
 何度かイタリアには来ていても、観光地に行く事をしない程に。
 でも、修学旅行ではそういうことは出来ない。
 基本団体行動。
 でも、個別に空き時間が必ず出来る。
 祥子は人ごみを避けて、バスの側に戻って来ていた。
 考えたい事があるのに、暑さで上手く纏まらない。
 「……」
 駐車場の近くにはいくつもの露店が並んでいた。
 この状態では、考えるのは無理と露店を覗く事にした。
 そして、様々な物が売られている中にロザリオがあった。
 「おっ、ロザリオ」
 「……?」
 祥子の横からロザリオを覗き込んで来たのは、令だった。
 「令」
 「ごきげんよう、祥子」
 「ごきげんよう」
 二人で並んで同じように覗き込む。
 令には由乃ちゃんという妹が居る。今さらロザリオなんか必要はないはずだ。
 「ロザリオ見ていたの?」
 「たまたま、目に入っただけよ」
 「ふ〜ん、私はてっきり妹用に物色していたのかと思っていたんだけれど?」
 「そう言えば令は由乃ちゃんには新しいロザリオを渡したのよね」
 「うん、お姉さまのロザリオを渡しても良かったんだけれどね。由乃のイメージに合った物を見つけて「これだ!」って思ったから……それとね。もともと、由乃を妹にするのは幼い頃から決めていたから、私が選んだものをとも思っていたのよ……それで私が選んだものを渡したわ。で、祥子はどうするの?」
 「どうするって?」
 「妹」
 令は個人名を出してこない、それは彼女なりの気配りか?
 「作るわよ、当然でしょう……それと祐巳のことを隠さなくてもいいわよ」
 「そう……あれ?」
 「なに?」
 「いいや、祐巳ちゃんのこと呼び捨てにしだしたのだなって」
 楽しそうな令。
 「いいじゃない……」
 祥子は令から顔を反らし、一つのロザリオを取る。
 赤いガラスがはめ込まれたそれは中が空洞なのか、日にかざすと赤い光が透けて見えた。
 綺麗だとは思う、でもコレとは感じない。
 「思ったようにいかないわね」



 「本当に、思ったようにいかないわ」
 修学旅行も終盤、ヴェネツィアに移動。
 祥子たちのグループは、他のグループ同様にゴンドラに乗る事になった。
 祥子としては、乗らなくても観光地は見て回れると思っていたが、ここで一人乗らないと我がまま言うほど子供ではない。
 でも、昨日を超える暑さの中。
 ゴンドラに乗るために並ぶなんて、祥子には限界だった。
 「あら?」
 ユラユラと逃げ水が見える、その先に、白いゴンドラが泊まっていた。
 「新しい観光用かしら?」
 かなり目立っている。そんな事も思うけれど、祥子としてはこれ以上並ぶのは耐えられない。
 「ねぇ、あのゴンドラ。空いているのではないかしら?」
 白いゴンドラには、ワンピースの白い服を着た漕ぎ手が乗っていた。
 「聞いてみましょう」
 観光用でも構わない、とにかく祥子はこの暑さから早く解放されたかった。
 「こんにちは」
 声をかけようとして向こうから声をかけられた。
 しかも、日本語。
 観光用に覚えたにしては、滑らかだ。
 「お乗りになりますか?」
 しかも、珍しい事に女性。日本の方か少なくともアジア系。
 見た目の年齢は、二十歳くらい?
 少し童顔、誰かに似ている気もする。
 「えぇ、お願いできる?」
 祥子は交渉など考えてはいない。
 「五人ですね、一万で七十五分コースなんていかがでしょう?……猫さん付きで」
 「猫?」
 見ればゴンドラの先端の方に、でっかいまるまると太った猫が居た。
 「猫?」
 「狸みたい」
 「どうですか?」
 彼女は優しく微笑んでいる。
 好感の持てる笑顔に祥子は、このゴンドラで良いと思うがコレは団体行動。他の人にも聞いてから判断する事にした。
 「と、言う事だけれど。皆さんはどう?」
 「良いんじゃない」
 「えぇ」
 祥子以外の四人は少し戸惑いつつ頷いた。
 「それでは、どうぞ」
 「あの……日本の方ですか?」
 「どうでしょう」
 「女性でもゴンドリエに成れるんですね」
 「残念ながら、ウンディーネと呼ばれます」
 「ウンディーネ……水の妖精」
 「何だかピッタリですね」
 その言葉に、祥子も頷く。
 「では、参りましょう」
 白いゴンドラはゆっくりと岸を離れる。
 運河の上は、信じられないほど涼しい。
 こうまで気温が変わるとは思えないほど、暑さが遠のいていった。
 ……納涼舟とか、舟遊びとか。
 これなら確かに楽しいだろう。
 ウンディーネの彼女の案内は、丁寧だった。公開しているガーデニングの家を案内するなど。今の街の楽しさも伝えてくる。
 勿論、旧跡や観光場所の説明や案内も忘れては居ない。
 舟謳=カンツォーネも披露し、その歌声は礼拝堂で聴いた静さんの歌声に勝るとも劣らない素晴らしいものだった。
 七十五分という時間は、気がつけば終わっていた。
 「お疲れ様でした」
 彼女は、一人一人の手を取りながら下ろしていく。
 最後まで気配りは忘れないようだ。
 「お疲れ様でした」
 「ありがとう、とても楽しかったです」
 「そう言って頂けると、こちらも嬉しくなります。ところで、不躾な質問ですが何か悩み事がありますか?」
 彼女は、先に上がった友人たちに聞こえないように囁いてきた。
 「どうして、そう思われるのですか?」
 失礼だが、いまほんの少し出会っただけの相手のことを心配するのは意味がないように思える。
 「いえ、少し悩んでいるような表情をされたので、楽しんでいらっしゃらないのかなと思いまして」
 あぁ、そう言う事か。
 「いいえ、とても楽しませてもらいましたわ」
 これは本当。
 今までは乗る必要があるのかと思っていたが、その考えは一種の食わず嫌いだったようだ。
 「そうですか、失礼しました」
 「いいえ」
 優しい微笑みに、こちらもつられて微笑を返す。
 白いゴンドラは、祥子を降ろしゆっくりと岸を離れていく。
 「あぁ、そうそう……最後に一つ……貴女方に素敵な未来があることを……ごきげんよう」
 祥子が何かを言う前に、白いゴンドラは岸から遠く離れ。
 暑さで浮かぶ陽炎の中に消えていく。
 残された祥子は、しばらく白いゴンドラを眺めていた。
 ……。
 …………。
 「そんなゴンドラ全然見なかったよ」
 白いゴンドラのウンディーネから、美味しい昼食が食べられるお店を紹介してくれたのでそちらに向かっていると、昼食をどうしようかと迷っている令たちに出会い。一緒に食事と成った。
 話は当然、この修学旅行のこと。とくに令たちもゴンドラに乗ったはかりだと言うので話題はそちらに流れたのだが……。
 「白いゴンドラなんて、本当なの?」
 令たちは白いゴンドラなんて見ていないと言っている。
 だが、祥子たちは乗っているし、ゴンドラに乗っているときも何艘かの白いゴンドラとすれ違ってもいた。
 「写真もあるの」
 祥子のグループの一人のカメラを画像にして差し出す。
 そこには確かに、祥子たちと白いゴンドラと彼女が写っていた。
 「本当だ、観光推進用かな?あぁ、私たちもこっちが良かったか、しかも値段も安いし」
 令のグループは、祥子のグループと同じ五人。
 ゴンドラは二万で四十五分だったらしい。
 交渉上手なグループだと負けて貰ったりしていると令は言っていたが、令たちのグループには交渉上手はいなかったようだ。勿論、祥子たちのグループにも居ないが、そう考えれば彼女は最初からかなり良心的だったのだろう。
 紹介してくれた、このお店もなかなかに値段も安く味も良い。
 「来年、由乃が修学旅行に来るなら、教えておこうかな」
 令の言葉に、それなら私はと祥子は思いをはせた。


 「……」
 そして、帰りの飛行機の中、令が手洗いに立つとグッスリと眠っている祥子を見つけた。






 修学旅行からあけて月曜日。
 薔薇の館に集まり、令と共同のお土産として薔薇の館にチョコレートを置き。二年生の居ない白薔薇姉妹にお揃いのキーホルダーを令と一緒に渡す……コレは令の提案。
 「それでお姉さまにはコレを」
 大好きなお姉さまに綺麗に包まれた箱を渡した。
 「開けてもいいかしら?」
 「どうぞ」
 紅薔薇さまが祥子から貰ったのは小さなオルゴールだった。
 「あら、綺麗ね」
 紅薔薇さまはキリキリとぜんまいを巻いて音楽を鳴らす。
 「おっ」
 「あら」
 その音色は何処か懐かしいものだった。
 「素敵な贈り物をありがとう、祥子」
 「いえ……ところで、祐巳は」
 今日の薔薇の館には祐巳は居なかった。
 「祐巳?」
 「あぁ、祐巳さんは遅れてきます」
 「遅れて?」
 「はい、何でも掃除場所の先輩に用事を頼まれたとかで」
 「祐巳の掃除場所は?」
 「音楽室です」
 「祥子?!」
 志摩子の言葉に、祥子は部屋を出て行こうとする。
 「きゃ!」
 「んっぎゃ!」
 ドッスンと音が響く。
 「さ、祥子?」
 祥子が部屋を出ようとした瞬間、扉が開き倒れこむ。
 「お〜い、生きてる?」
 「祥子の五十キロに潰されるなんて悲惨ね」
 「て!祐巳!?」
 流石は実姉妹、紅薔薇さまは一早く気がついて駆け寄ってくる。
 「……祐巳」
 「は、はい」
 祐巳は数センチしか離れていない祥子のアップにドギマギしている。
 「……あ、あの〜」
 祥子は何故か、祐巳の制服の上から胸周りをペタペタと触っていた。
 「はぁ」
 何だか祥子に溜め息をつかれてしまい、祐巳は困惑する。
 「あの」
 「立って」
 祐巳が声をかける前に祥子は立ち上がる。
 「先にコレを渡しておくわ」
 そう言って祥子は手提げから小さな袋を取り出して祐巳に渡す。
 「修学旅行のお土産」
 「あっ、ありがとうございます」
 「はぁ」
 祐巳がお礼を言うと祥子は溜め息をつく。
 「あの……」
 「ごめんなさい。少し気分を落ち着けたいの……お姉さま」
 深呼吸した祥子は、お姉さまである紅薔薇さまを見た。
 「私は口出しはしないわ」
 紅薔薇さまはニコニコしている。
 「?」
 祐巳には良く分からない。
 「祐巳」
 「はい?」
 祥子は、祐巳の前に立ち首にかかったロザリオを外した。

 「私はここに水野祐巳を妹にすることを宣言します」

 「祐巳、私の妹に成りなさい」


 祐巳は、ただその言葉を聞いていた。











色々と確信犯です。
                    クゥ〜。


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