【3369】 演じきってみせる祐巳を保護すーぱー  (クゥ〜 2010-11-05 22:00:19)


 お釈迦さまもみてる?薔薇さまin花寺。





 「ユキチが男だったら良かったのにな」
 「!」
 ボソッと呟かれた一言に、祐麒は慌てて周囲を見る。
 よかった、気がつかれてはいない。
 「……何を突然、のたまわっているのですか?」
 耳元で不穏な発言者に囁く。
 「いや、欲望のままに」
 「そうですか……」
 このホモが!と祐麒は心の中で吐き捨てた。
 「あっ、そんな事を思うんだったらバラすぞ」
 「いいですよ、その代わり道連れにしますから」
 「何てヤツだ、最初の頃はあんなに可愛かったのに」
 「オレの正体知って手の平返した人が言わないでください」
 「へいへい」
 これで学院では『光の君』なんて言われているような人だから、祐麒なんかが道連れにしようとしても無理だろうとは判断できる。
 「……それで女装コンテストなんて思いついたのですか?」
 「まぁ、そうだな。祐麒も出るか?」
 「アリスが張り切っていますから止めておきます、負けでもしたら精神的に半端なく落ち込むのが見えていますから」
 「そうか?もう少し髪伸ばして、こう左右に結べば可愛らしい子狸の祐みょ!!」
 祐麒は、相手の言葉が終わらないうちに鳩尾に一発入れていた。
 「その言葉は禁止ですよ。光の君」
 「けふけふ、本当に容赦ないヤツ」
 祐麒は、満足したのかニヤッと笑う。
 「それで、柏木先輩の目下の悩みは何です?」
 柏木先輩は驚いた顔で祐麒を見る。
 「分かるのか?」
 「これでも烏帽子子ですから」
 柏木先輩と祐麒は、烏帽子の親と子。
 「愛情の成せる力かい?」
 「いえ、純粋に子だからです。俺、ガチホモは嫌いですし」
 「でも、ユキチだとそれはない」
 確かに祐麒では、それは成立しない。
 「まぁ、こちらの問題はいいさ。それよりも頼みたいことがあるんだが」
 「何です?」
 嫌な予感がするが、子が親に勝てるはずもなし。
 「今度の学園祭に招待するリリアンから生徒会のエスコートをして欲しいんだ」
 「生徒会?」
 確か薔薇さまとか言う人たちだ、生徒会長が三人いるとか。全員美人とか、小林がそんなことを言っていた。
 「合気道の有段者にはうってつけだろう?」
 本当は違うだろうと言いたい所だが、ここは素直に頷いておく。
 「いいなぁ!祐麒は」
 「ちくしょう!光の君、俺は?!」
 「お前はダメ。むさ苦しいから」
 「おぉぉぉ!なぜだぁ!」
 高田が吼えまくる。
 だから、むさいからだよ高田。
 ……それにしても、リリアンのお姫さまたちの相手か。
 まっ、柏木先輩クラスがそう居るわけもなし。
 気楽に行こう。



 学園祭の当日。
 祐麒は何時もよりも朝早く家を出た。
 休日はバスの数が減る。
 うかつな時間にバスに乗ると、通称リリアンバスと言うリリアンの女子生徒の群れの中に入りかねない。
 正直、視線の冷たさが半端ないのだ。
 痴漢に間違われたりするのは正直さけたいから、花寺バスと呼ばれる方に乗る。
 ちなみにリリアンバスは花の香り。
 花寺バスは汚泥の香り。
 と、小林が評しているほど……だ。
 「どうして朝から汗臭いんだよ!」
 悪態をつきつつ、どうにか花寺についていつも通りに左から校舎に向かった。


 「来た」
 高田たち露払い隊も動き出している。
 祐麒はエスコート役。
 教師の車で送迎されたリリアンの生徒会長たちを向かい出る。
 「こちらが皆さんの身の回りの世話を仕切る福沢祐麒です」
 「福沢祐麒です。本日は皆さまのお世話をさせていただきます」
 「こんにちは祐麒さん、よろしくお願いしますね」
 小林の情報では確か赤の薔薇さまが、代表して挨拶に立つ。
 来られたのは六人。
 赤の薔薇さまと妹。
 黄の薔薇さまと妹。
 白の薔薇さまと妹。
 「?」
 赤の薔薇さまの妹さんは何か気分が悪そうに見える。
 ……本当に綺麗な人たち。
 無理だよね。
 祐麒は誰にも見られないように笑った。

 エスコート役と言っても実情はリリアンの生徒会さんたちのリクエストに応えるのが主な仕事。
 基本のお相手は、柏木先輩が行っている。
 しかも、この場で明らかになったが赤の薔薇の妹さんは柏木先輩の元許婚だということ。
 妹さんが高校に上がるときに、何かあって許婚を解消したらしい。
 ガチホモでもバレたのか?
 まぁ、そんなことはどうでもいい。エスコート役を仰せつかっている以上、気分が悪いのは見過ごせない。
 「あの、ご気分が悪いようですが、よければ保健室に行かれますか?」
 「大丈夫よ、ありがとう」
 「いいえ……」
 赤の妹さんと話をして顔を上げると、不思議そうな表情に出会う。
 「あの、何か?」
 「いえ、少し驚いて」
 「そうね」
 「?」
 何だろうと思っているうちに、時間が来た。いよいよ最大のイベントの開幕が近づいている。
 予定通り、少し遠回りで皆さんを案内する。
 提案したのは祐麒。
 予定通り、会場よりも先にお手洗いに案内する。
 「時間は余裕がありますので」
 「ありがとう」
 皆さんがお手洗いに入った後。その前をガードするように立つ。
 「あの〜、祐麒さんちょっと」
 「はい、何かありました?」
 「ですから、ちょっと」
 ちょっとと言われても入っていく事など出来ない。
 「何かいるなら……」
 「あぁ!面倒!」
 「ぎゃ!」
 突然、手を掴まれ引き込まれた。
 「令、志摩子。誰も入れさせないように見張っていて!」
 「ちょ、ちょっと白薔薇さま?!」
 「二人も手伝いなさい!」
 白は赤と黄を呼んだ。
 「ふっぎゃ!」
 多勢に無勢で、祐麒は制服を剥かれる。
 「……えっ?」
 そこに居る全員が目を開く……いや白は違った。
 「この子?」
 「やっぱり、女の子だ」
 そこには大きくはないものの胸のある女子が居た。
 「えっ?えぇ?」
 「何で男子校に、女子が居るのよ?」
 今日、会ったばかりの相手にこんなに簡単に見破られるなんて!
 「貴女、本物?」
 「……」
 赤さまは当惑顔。
 まさか柏木先輩クラスがいるとは油断した。
 「……すみません、この事黙っていただけると助かります」
 「理由しだいね」
 「理由って、他校の話ですよね?ダメですか?」
 「……そうね、確かに他校の話だわ。それじゃ、黙っていてあげるから少し質問させて」
 それ以上は譲らないと言う顔。
 「分かりました」
 「それじゃ、名前は?祐麒さんは本当の名前?」
 「いえ、福沢祐巳が本当です」
 「どんな字を書くの?
 「しめすへんに右を書いて祐、巳は巳年の巳」
 「祐巳さん?」
 「はい」
 本当の名前なのに、聞きなれない名前。
 「何時から花寺に?」
 「少等部の頃からです」
 「そんなに前から?」
 「はい」
 「よくもバレなかったわね」
 それはもう徹底して、危険を避けてきた。
 その努力は、自分でも褒めたいほど。
 「それでは最後、どうして性別を偽ってまで花寺に通っているのかしら?」
 「……それは……すみません!そればかりは言えないです!」
 祐麒……祐巳は深々と頭を下げる。
 それだけは言えない。
 唯一、見破った柏木先輩さえ教えていない。
 ここはひたすら懇願するだけ。
 リリアンの皆さんは顔を見合わせ頷きあう。
 「まっ、本当の名前を聞けただけでもいいわ」
 皆さんはどうにか納得はしてくれたようだ。
 祐巳は制服を急いで正して、祐麒に戻る。
 「お姉さま、よろしいのですか?」
 「約束だしね」
 赤の妹さんは不満が残っている様子。
 元とは言っても柏木先輩の許婚。
 気になるのかも知れない。
 ……ガチホモに興味はないんだけれど。
 「それでは案内をします」
 「よろしくね」
 何だか皆さんの笑顔が増したような気がしつつ、会場へと案内した。
 
 そして、イベントは無事終了した。

 イベントは、まぁ、その、なんだ。
 祐巳としても祐麒としても、あまり見たくない話ではあった。
 「どいつもこいつも女装する人間を選べよ」
 つい愚痴も出るというものだ。
 しかも、祐巳の正体を暴いたリリアンの皆さんは祐巳を側に置いて、あれこれと聞いてきて余計な神経まで使った。
 だから、帰るときにはもの凄く安堵したのだが……。
 「それでは祐麒ちゃん、またね」
 ちゃん?!
 ニッコリと微笑むその六つの笑顔はもの凄く怖かった。


 「なぁ、もしかしてバレたのか?」
 「はい」
 「そうか、だからあんな話をしてきたんだな」
 「話?」
 凄く嫌な予感。
 「ユキチもリリアン学園祭の生徒会主催の劇に出て欲しいそうだ」
 その言葉に祐麒こと祐巳は固まる。
 「狙われているぞ、祐巳」
 ニヤニヤ笑っている柏木先輩。
 「その名で呼ぶな!」
 祐麒は柏木先輩の鳩尾に一発入れていた。


 どうやらまだ波乱がありそうだ。






と、言うことで花寺男装祐巳のお話を思いつきで……ごめんなさい。
                            クゥ〜。


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