【3374】 運命なんじゃない  (弥生 2010-11-07 15:21:55)


ごきげんよう、お姉さま方
×××
【No:3351】【No:3365】の続きです。

「栞…栞はどこにいるの…会いに来たよ…」
(ロサギガンティア!?なぜここに?)

祐巳が驚くのも無理はない。無関係の筈の山百合会の住人が現れたのだ。

(何故だ?何故此処に居る?)

答えを捜そうとするが、頭の中を堂々巡りする。仕方がないので二人を観察することにした。

「栞はどこ…」
「聖…私はここよ…」

聖が呼びかけると、『工場』の奥から『管理人』が現れた。

名は確か『久保栞』シスター志望で、昨年までリリアンに在学していた。九州の方に転校と言われていたが、調査の限りそんな事実はなかった。行方不明扱いもされてはいなかった。ここに居るからだ。

「栞…会いたかった」
「私もよ…聖…」

そう言うと二人は唇を重ねた。

(えっ!?女同士なのに!?)

思わず身を乗り出しそうになったが、何とか自分を律する。

「栞…この新種の薔薇の研究は、上手くいってるの?」
「ええ、順調にいってるわ。色合いも変わってきたし、青い薔薇も作れると思うわ」

(薔薇?どう見ても違うだろ。図鑑を見たことが無いのか?それとも知ってて惚けているだけか…)

「学園長の粋な計らいのお陰で、私達は幸せでいられる…」
「そうね…あの時聖が学園長に直談判してくれたお陰で、私達は離ればなれに成らずに済んだ…」
「…やっぱり、こんな交換条件なんて無視して駆け落ちしよう…」
「私もそうしたいけど…ここにいれば、いつでも聖に会える…誰にも邪魔されない…」
「でも、この花は何時まで経っても青く成らない…やっぱり騙されたんだ…青い薔薇なんてやっぱり作れやしない」
「例え青く成らなくても構わない…聖に会えること…私にはそのことが何よりも大切な事…」
「栞…」
「聖…」

二人は再び唇を重ね、奥にある建物の中に消えていった。何が行われるかは想像したら赤面した。覗きたい誘惑に駆られるが、体が動いてくれない。帰らなくては、と思っても頭の中がガチ百合の妄想で一杯になった。妄想していたら、声が聞こえてきた。

「素敵よ…聖…」
「栞…もっと…私を感じて…」

祐巳は逃げ出した。耐えられなくなったのだ。逃げながらも頭の中は妄想で一杯だった。

くの一である以上は、そちら方面の教育課程もあるが、『実技』はまだ受けていなかった。祐巳も抵抗があったし、みきも実の娘に『実技』を受けさせることに抵抗があったからだ。

(えぇ〜、えぇ〜っ、ホントにヤッてるの〜っ、きゃーっ!!)

人が居るかどうか確認もせずに、螺旋階段まで来たが、前を見ずに走っていたため、壁に激突した。

ドコッ!

顔面を強打した祐巳は悶絶する。

(×○△◇☆!!♪■!?)

痛みでのたうち回るが、自業自得だ。前を見なかった方が悪い。

お陰で何とか正気に戻ったと同時に血の気が引いた。『敵地』だということを忘れ、ここまで来てしまったのだ。思わず涙ぐむが、後の祭り。慌てて隠れようとするが、隠れる場所はもちろん無い。

しばらくムダにパニクったが、疲れたのか冷静になった。やっと盗聴器の存在を思い出し、周波数を合わせる。

(誰も居ない…良かった〜)

幸い、学園長室にも人は居なかった。
『脱出するなら今しかない』
そうなのだ、いつでもここにいてはいけない。聖が戻ってくる可能性もあるためだ。

階段を登りながら、先ほどの出来事を思い出す。

(えーと、『工場』に入って、それから…!)

思わず赤面したが、頭を振る。二人の逢い引きは任務に関係ない。改めて『工場』の内部を思い出す。

『温室』があり『花』も咲いている。『管理人』も確認したが、写真を取り忘れた。予想外の客が来るとは思わなかったが…

だが、客のお陰で予想外の事も聞くことが出来た。花を青色にするという事だ。

(『アレ』の青色ねぇ…見たこと無いけど)

見たところ、二人に中毒症状は無い。本当に只栽培しているだけらしい。確かに日本にも『園芸用』は存在する。もちろん青くない。園芸栽培が盛んなヨーロッパでさえ、青色は存在しない。二人は知っているのだろうか…知っていようと、知らなかろうと、いずれにしても大問題ではあるが。

祐巳は『隠し扉』まで戻ってくると、盗聴器の周波数を合わせ、辺りを確認する。

(学園長も居ない…今がチャンス)

祐巳は音を立てずに後にする。

祐巳はこの時、学園長室が余りにも長い間、主が不在であることを疑問に思うべきだった。





「と、言うことがありました」

夜、祐巳は今日の出来事を報告する。

「へぇ〜、リリアンの地下にねぇ。祐巳も気になるのがいれは、連れ込んでヤッちゃえば?祥子さんとか」
「死ねっ!変態!」
祐巳は手裏剣を投げるが、あっさりよけられる。
「当たるわけ無いだろ?そんな見え透いた攻撃」
いつもの兄弟ゲンカが始まるが、みきは意に介さない。

「報告は以上ね?」
みきの言葉に二人は慌てて正座する。お仕置きが怖いのだ。
「はい、以上です」
「そう、わかったわ。これで裏が取れた以上、『上』も動くでしょう。『向こう側』の『妨害』次第でしょうけど」
「…あの」
「何かしら?」

祐巳は気になったことを率直に聞くことにした。

「あの二人は…どうなりますか?」
「…知りませんでした、騙されました、で済まされる年齢ではないし、図鑑にも載っているからね、年少送りでしょう」
「…そうですか」
「…貴女の任務は何だったかしら?」
「…ルートの…解明…です…」
「忍に情けは禁物…忘れた訳では無いわね?」
「…はい…」
「…まあ、いいわ…幸い、先ほどもう一人からも報告があったことだし、貴女の任務を変更しましょう」
「もう一人…ですか?」
「…貴女は知らなくてもいいわ」

任務の変更は嬉しかったが、祐巳単独と聞いていたために、少し納得がいかなかった。

「それで、任務の変更、受けるの?受けないの?」
「…受けます…」
「宜しい。貴女には、少女の救出及び、山百合会の潜入を命じます。少女については、もし『黒』であれば貴女が始末なさい。山百合会については追って連絡します。以上」
「…始末…ですか…」
「当たり前だろ?知られるわけだからな。だから半人前なんだ、祐巳は」
「ぐっ…」

祐麒に言われたが、言い返せなかった。祐麒は一人前と認められている為、花寺のVIPの護衛の任務を与えられている。もちろん、そのVIPは知らないが。

「解散!その前にカレーの材料買ってきてね」

なんとも気の抜けること。
解散させた後、みきは一人ため息をつく。
「我が娘ながら、何と優しいこと…任務…いや…試験内容を変える私も、娘のこと言えないわね…学園長に何て報告しようかしら」

祐巳は気付いていないが、『工場』の情報があり、尚且つ監視カメラ等が無い時点で疑うべきであった。何故なら、祐巳は背後に『試験官』がずっと付いて来ているのを気付くことが出来なかった。みきがうっかり口を滑らせたが、『もう一人』とは『試験官』のことであった。

祐麒は試験の意図を直ぐ見抜いた為、合格した。もちろん、祐巳は知らない。やはり半人前である。



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