【3376】 やらずにはいられないキャラクター立ってる  (bqex 2010-11-07 21:16:03)


2010年11月10日に《マリア様がみてる》の1巻から8巻までを箱詰めしただけの第一期豪華BOX(8冊セット)が発売されるよ!! 
その内容をネタバレ全開で振り返ろう! 先人の皆さまとネタが被ってたら、ごめんなさいm(_ _)m


■マリア様がみてる■(通称、無印)
  《胸騒ぎの月曜日》
 訳もわからず、それでも豪華メンバーの前に引きずられるようにして連れていかれた。
「お姉さま方にご報告があります」
「みなまで言うな。その辺歩いてた姉のいない一年生を手っ取り早く捕まえて妹にって。祥子、勘弁してよ。んもー」
(まあ、いったい何が始まるの?)
 紅薔薇さま、心の声と台詞が逆になってます。

  《波乱の火曜日》
 部活のない祐巳は放課後の数時間を山百合会のために提供してしかるべきである、という結論に達した、と。
「そんな無茶苦茶な」
「無茶苦茶なものですか。薔薇のお姉さま方だって、そのことは承認済みよ。それに」
 祥子さまは祐巳の顎に人差し指をかけて、顔を正面に向けた。
「手ぐらい握るし。肩だって抱くし。キスだって」
「ちょ、調子に乗るの、おやめになったら!」
 しーん。
 決まった、……かな? いや、全然だめらしい。祥子さまは笑っている。
 
  《水曜日の物思い、金曜日のバトル》
「あ、お湯が出ないのか」
「冬は温泉が出るわよ」
「へえ……!」
 驚いた。
「大晦日には年越しそば用の麺つゆが出るわよ」
「へえ……!」
 驚いた。
「バレンタイン限定でホットチョコレートも出るわよ」
「へえ……!」
 驚いた。
 何より、祐巳の独り言をちゃんと聞いていたことに。

  《辛くて渋い週末》
「ここまでの印象を聞いているの」
「印象ですか」
 祐巳は柏木さんをチラと見た。彼はすでに半分ほど食べ終わっていた。性格なのだろうが、カレーは白も赤も均等に減っていた。
「『お釈迦さまもみてる スクールフェスティバルズ』を読むかぎり、上の空なのに、白も赤も均等だなんて、無意識のうちに源平に気を使っちゃうとは柏木さんもそれなりに大変なんでしょうね」
 白薔薇さまは、祐巳の言うことを「ふんふん」とうなずきながら聞いていた。

《熱い二週目》
 そんなの祥子さまじゃない、と蔦子さんはハンカチを噛みしめた。
「あの方はね、たとえ自分の用事でも他人を呼びつけるのがお似合いなのに」
「お似合いとか、お似合いじゃないとかじゃないんじゃない?」
「呼び出すにあたって、自分のお姉さまを使いっぱしりにしたり、更にその使いっぱしりにされたお姉さまはその辺にいた王子を運転手としてこき使ったりするのがお似合いなのに」
 蔦子さんの美的感覚も、独特だから。

《ワルツな日曜日》
 祥子さまが差し出したのは、楽屋の隅に置いてあった紙袋。中を開けると、入っていたのは何と65Dカップのゴージャスな絹ブラジャーだった。
「肩パットがずれたら、目も当てられないでしょ? 新品でなくて悪いけれど、よかったら使って」
「祥子さまのブラジャー!」
「何、悩んでるの、祐巳ちゃん。ああ、もどかしいわね。みんな押さえつけて、つけさせちゃえ!」
 黄薔薇さまの号令で、祐巳は強引に愛用のコットンブラジャーをはぎ取られ、身に余る豪華なブラジャーをつけさせられた。
「エロシーンを一手に引き受けるとは」
「うらやましいわ。あなたにはR指定も適応外ということね」
「そんなことないですよ」


■黄薔薇革命■
  《ベストスール》
 由乃は「祐巳さんかぁ」と感慨深げにつぶやいた。
「何、祐巳ちゃんが気になるの?」
「うん。これから地道に攻略していく予定なんだけど、まず友達から始めて、色々あってラブラブになって、修学旅行で……」
 あまり特定の人間に興味を示さない由乃だけに、その答えは意外だった。
 ……もう、ロザリオ早く返せ。

  《返されたロザリオ》
「どっちだろう」
 外に出たものの、リリアンの敷地は広い。こんな事なら桂さんに詳しく聞いてくるんだった、なんて思ってももう遅い。
「こいつはうっかりだ!」
 いつかドラマで聞いたことがあるセリフをつぶやいて、祐巳は北に向かって走り出した。

  《思わぬ余波》
 皮肉なものだ。
 令さまと由乃さんが、全校生徒の憧れの姉妹でさえなければ。全校生徒に『ヘタ令』と『イケイケ青信号』という本性が知れ渡り、実のない痴話喧嘩の延長であると周知の事実になっていれば――。こんな風に、他の生徒たちに飛び火することもなかっただろうに。

  《いったい、どうなってるの?》
「何かあったの? 祐巳さん」
「……私、今、黄薔薇さまを見た」
「え?」
「そうよ。キャラクターデザインが全く別人だけど、P123のイラストは黄薔薇さまだったんだわ!」
「そういえば、私も見た」
「え!?」
「見た、っていうか。見たような気がした、っていうか。ストーリーの方に集中してたから、そのまま忘れていたけれど――」
 たぶん、それは黄薔薇さまだったのだ。凸じゃなければ気づけないかもしれない。

  《戦う乙女たち》
「剣道に詳しいんですね」
「優さんがやっていたから」
「――」
 優さん、っていうのは、フルネームが柏木優。祥子さまと瞳子の従兄弟で、花寺学院高校の三年生で、生徒会長をやっている、頭が良くてハンサムな青年だ。それでもって、祐麒のファーストキスの相手で、祐巳にむりやり脱がされる未来を持つという……。とにかくすごい人。

  《終わりよければ》
「まさか祐巳ちゃんも、私が妊娠でもしたって思っていた?」
「えっ!? 黄薔薇さま、妊娠なさっていたんですか!?」
「まさか、って言ったでしょ。しているわけないじゃない。相手もいないのに」
「いらっしゃらないんですか」
「いらっしゃらないわね。幼稚舎から女子校で、どうやってお知り合いになるの? 蓉子に阻止されて、山辺さんとの出会いが半年遅れたばっかりだし」
「ばっかり、ってわけでも……」
 四ヶ月後、リリアンかわら版を見たお父さんが、パニックを起こして息子たちをひきつれて押しかけてくるのだ。
「いいお父さんじゃないですか」
「どこが?」


■いばらの森■
 【いばらの森】
  《期末試験と文庫本》
 白薔薇さまっていったら、やっぱりあの白薔薇さまのことだろうか。
(顔が日本人離れしていて、美術室の石膏像みたいなくせに、中身は意外と繊細で、修学旅行で日程モロカブりになって妹に気を使って涙ぐましい努力をしたり、妹の妹に接触するまで半年を要したり、ほぼ一年ぶりの妹との再開にはしゃぎまくって蓉子さまと江利子さまを唖然とさせたという、あの佐藤聖さま?)
 まあ、彼女以外に白薔薇さまがいたらむしろ問題なんだけど。

  《シロイバラ》
『そうか……私だけがわからないわけじゃないんだ。何だか混乱して、私自分の感受性に欠陥があるのかと心配しちゃった』
「落ち付いてよ、由乃さん。由乃さんに欠落してるのは『ブレーキ』とか『赤信号』でしょ?」

  《須賀星は誰だ?》
 何だか美味しそうなプチケーキが、菓子皿に綺麗に盛り付けられていた。
 不意のお客さまに、これだけのおもてなしができるかと問われれば、正直いって祐巳にはできそうもない。
「令さまってオトメンみたい」
 外見は完璧美少年のその人は、両手両膝をついた姿勢で涙した。

  《イブに会えたら》
 折り紙を切って作ったイカリングのような鎖とか、紙テープ丸めて作ったクッキーみたいな星とか。紅薔薇さまなんか楽しそうに、画用紙にホイル貼ってこしらえた王冠被って「3番と5番引いた人はポッキーの端と端をくわえて食べきるように」なんて予行練習までしている。
(王様ゲームやるんだ……)

 【白き花びら】
  《春のバイ蕾》(バイは草かんむりに倍という字です。出なかった)
 仕方ない。ここは天使たちの牧場なのだ。
 だから、二股の分かれ道にいるマリア様は、私にとっては仁王像にさえ見えた。
 マリア像の中に、観音像は見出せなかった。
「……君の登場は二年後だから」
「ちッ」

  《夏の温室》
 少なくとも、私は栞とつき合うようになってから、彼女の影響で真面目に授業に出るようになったし、遅刻や欠席もしなくなった。特攻服も焼いたし、族旗を返して解散宣言もした。誉められこそすれ、非難されることではないはずだった。
(……そこまではグレてないッスよ)

  《秋の恋情》
「栞さんが高校卒業後、修道院に入ることになっているって、あなたがどうして知らないの」
「――え」
「彼女、シスターになるのよ」
「嘘」
「なんで、私が嘘をつくの。友達に嫌われる損な役回りまでして」
「でも、どうして蓉子は知ってるの?」
「……聞きたい?」
「……」
「聞かなきゃよかった、忘れてしまいたいけれどしっかり頭に焼きついてしまったって内容だとしても聞きたい?」
「……栞に聞かないと」
 蓉子は私の肩にそっと触れて、「あれは先々週の事じゃった――」とババア口調で話し始めた。
「アーアー聞こえない!」
 私の精神は決して大丈夫ではなかったが、どうにかそれくらいのことはできた。

  《冬の残花、そして》
 うとうとしていたらしい。一瞬時間の間隔をなくしていた。
 呆れた様な微笑みを浮かべ立っていたのはなつかしいお姉さまだった。
「どうして」
「死神の代わりに、迎えにきたの」
「『マッチ売りの少女』じゃないんですから、やめてくださいよ!」
 ……。
「な、何てかわいそうな話なんだ」
 ベッドの上に寝転がった祐巳は、手を伸ばして枕もとのボックスティッシュに手を伸ばした。まず、頬から顎にかけてドーッと流れた涙を拭い、それからチーンと鼻をかんだ。


■ロサ・カニーナ■
 【ロサ・カニーナ】
  《寂しいぬくもり》
 志摩子さんは思い返すように、静かに天井を見上げた。つられて祐巳も見上げた。あ、時空が裂けて異空間の入り口が開いて平安時代の街並み? って、この話どこへくのっ!?

  《黒薔薇さま?》
「彼女。栞さんに似ていたかしら」
「栞さんはともかく。中学の頃から目立っていたから、私なんかはいずれ彼女の方こそ薔薇の館の住人になると思っていたけど」
「栞さんがいなかったら、白薔薇さまは蟹名静さまを妹にお迎えになったんでしょうか」
「それはどうかしら。栞さんと出会う前の白薔薇さまは、人との接点をあまり持たれないタイプだったし。栞さんがいたからこそ、今の白薔薇さまになったのよ」
「だから、どうして私の前でそういう話をするの?」
 フワフワした巻き毛が、傾げた頭の動きに合わせてバウンドした。
 志摩子さん、いろいろとごめんなさい。

  《君、何思う》
 だってロサ・カニーナといったら、祥子さまをはじめ令さまや志摩子さんの敵であるわけで。できればわかりやすいキャラであってほしい。どっちかっていうと、蟹の着ぐるみ着て、悪の組織の構成員を引きつれて、「あなたたちもここまでよ!」って言うのが似合う上級生をイメージしていた。でもそうなると、今度は歌姫のイメージとはかなり離れてしまうけど。

  《姉妹の存在意義》
 紅薔薇さまのために何かできないか、って。でも、祥子さまの場合、お姉さまの戦ってる相手は大学入試という第三者には手も足も出せないものだったからさあ大変。
 同じ大学を志望する受験生への不幸の手紙や無言電話は一人じゃかけきれないだろう、とか。
 試験日に早起きして大学周辺を封鎖して蓉子さま以外の受験生を入れないようにしようか、とか。
 受験生に人気があるアイドルを買収して同じ受験日の別大学に受験させて倍率を下げる、とか。
 いろいろ考えているうちに、結局小笠原の力がないと何もできないということを改めて思い知って落ち込んでいたという。

  《ささやかな秘密》
 こんな時なのに、志摩子さんは環境整備委員会の定例会議があるとかで薔薇の館にはこなかった。
 薔薇さまたちの姿も見えない。由乃さんの話では、祐巳が来る前に紅薔薇さまと黄薔薇さまが薔薇の館に現れたけど、「買収工作は成功したから」っていい残して帰ってしまったらしい。

 【長き夜の】
  《一月一日》
「白薔薇さまから」
「え?」
「白薔薇さまでしょ? 佐藤さん、って。やっぱり薔薇さまともなると、女心のツボを知り尽くした口説き文句が板についてて素敵ねぇ」
(いったい、何を?)

  《二日に神社で初詣》
「志摩子は特別」
 白薔薇さま、ってば。いつもは放ったらかしにしているくせに、やっぱり志摩子さんのこと誰よりも大切に思っているんだろうな。自慢の妹だもん、当然か。
 まさか、半年もしないうちに志摩子さんが趣味仏像鑑賞の妹とべったり甘甘の姉妹生活を開始するとは思ってもいないんだろう。

  《天敵のいる風景》
「白薔薇さま、以前にもいらしたことが?」
「はいな。今年、いや、もう去年の夏ってことになるのか。遊びに来ましたよ。紅薔薇さまも一緒だったけど」
「ふーん」
「面白くない?」
「姉妹水入らずになれなくて、お可哀想な紅薔薇さま」
「その意趣返しに剣道交流試合のときにこっちに来るんだから、たまったもんじゃないよ」
 立ち止まって、白薔薇さまは私の頬を突っついた。

  《お姉さまの隣》
「……これで怪談したり、好きな人の名前告白したり、ちょっぴりアレな体験語ったりしたら、完璧に合宿ですね」
「いいね、やろうか」
「ご勝手に。私はつき合いませんからね」
 ――確かに。祥子さまに怪談や好きな人の名前告白やちょっぴりアレな体験語ったりは、ちょっとミスマッチ。


■ウァレンティーヌスの贈り物(前編)■
【びっくりチョコレート】
  《リサーチ》
 予想通りというかなんて言うか。志摩子さんの対応ったら、どう見ても例年の二月十四日、誰かにチョコレートを進呈している女の子のそれとは違う。
「嫌だ、祐巳さん。私だってバレンタインデーくらい知っていてよ」
 ああ、よかった、と祐巳はほっと一息ついた。
「聖バレンタインデーの虐殺、血のバレンタインとも呼ばれるわね。アル・カポネが指揮したと言われる事件なのだけど、全米中のマスコミの注目を集め、大衆の人気者だったカポネは一転憎悪の的になったのよ」
「ふーん」
 志摩子さんの説明、何だか本格的。格調高くさえある。
 惜しむらくは、シカゴで聞けなかったことだ。

  《珍客の手土産》
「あのっ、今、築山三奈子さまがっ」
「失礼ね、それじゃまるで敵襲を知らせる家臣じゃない」
「前線、突破されたぞおっ!!」
「何をしているのっ、弾幕足りなくってよっ!!」
「薔薇の館はブゥトンが死守します! お二人は薔薇さま方に増援の要請を!」
「了解っ!!」
(……そこまで毛嫌いしなくても)

  《部外者》
 自分がどこに隠すかなんて、祐巳は考えてみたこともなかった。で、ついでだから、目の前にいる人の隠し場所を想像してみた。
「静さまなら、蟹の甲羅の中とか?」
「簡単すぎない? それに、その日の授業で使ったらすぐばれてしまうわよ」
「うーん」
 なるほど、誰でも思いつく場所じゃ意味ないわけだ。宝を隠すのって難しい。

  《二月十三日》
「ど、どうしたの祐巳ちゃん」
「なんでもないわ。早いところ最終会議をしてしまいましょう」
「なんでもないって、……ねえ」
「ええ」
「あなた方も、やっぱり私を一方的に悪者にするつもり!?」
 三奈子さまと令さまは顔を見合わせた。
「悪者、というよりは悪の首領?」
「むしろラスボス?」
「やめて頂戴。泣きたいのはこっちの方よ」
 ヒステリックな叫び声が、階段の上の方から聞こえてきた。

  《ウァレンティーヌスの悪戯》
 しばし考えるような沈黙の後、祥子さまは指を組み、上目遣いで言った。
「夕方でいいかしら? 宝探しが終わった後」
「はい」
「場所は?」
「できればあまり人のいないところで……。古い温室はいかがですか?」
「な、なぜバレたのっ!?」
(温室?)
 祥子さま、あなたも心の声と台詞が逆になってます。

【黄薔薇交錯】
  《十八時五十分、江利子》
 黄薔薇さまこと、鳥居江利子は自宅の自分の部屋で悩んでいた。
 目の前には田○模型の、組み立てると力強い走りを見せるミニ四駆が置かれてる。
「これ、本当に私宛かしら」

  《十九時十八分、由乃》
 島津由乃は、自宅の自分の部屋で悩んでいた。
「……おかしい」
 去年はH&K MP5くらいの大きさはあった。だから今年はGD FIM92"スティンガー"ぐらいのサイズを覚悟していた。なのに。
「S&W M29"44マグナム"ぐらいじゃない。どうなってるの」

  《十九時三十分、令》
「お父さんと一緒に、すぐお風呂に入っちゃいなさい」
 お母さんがそういうので、令は部屋でバスタオルとか替えの下着とか準備してから風呂場に向かった。

  《二十三時十分、江利子》
 由乃ちゃんの好み、ってこんな感じなのだろうか。
 結構イケイケだったから、ただ「ふーん」とだけつぶやいた。

  《二十三時十分、由乃》
 結局、令ちゃんから電話はかかってこなかった。間違って渡された44マグナムだったとしても、もういい。どうせこの時間になっていたなら、黄薔薇さまだって犯行に及んだ後だろう。

  《二十三時十分、令》
「そういえばお姉さまは、犬耳メイド姿でご奉仕して欲しいようなこと言っていたっけ」
 令がそれを思い出したのは、夜の十一時。ベッドの中に入ってからのことだ。


■ウァレンティーヌスの贈り物(後編)■
【ファースト デート トライアングル】
  《オーダー》
「白薔薇さまとの初詣がデートと呼べるものならね」
「あー、それ。絶対に盗撮したかった。なんで呼んでくれなかったのよ」
「そんなこと今更言われても」
 堂々と「盗撮」なんて言っている人、恐ろしくて呼べますか。どこかでポリスに職質されてしょっ引かれているかと思うと、気が休まる暇がなくておちおち初詣だってできやしない。

  《オードブル》
 色々悩んだけれど、祐巳はやっぱり自分が誘った手前、デート費用は自分が出すのが当然だと結論づけていた。
 しかし祥子さまは、お姉さまである自分が払うのだと言って聞かない。
 で、結局中をとって割り勘ということで双方手を打った。チョコレートのお礼はというと、春休み中は何もなく、梅雨頃は延び延びになった揚句姉妹破局寸前までいき、夏には「行かないわよ」と言われ、行事が目白押しの秋を通りすぎ、ようやく十二月の試験休みに叶うと思ったら柏木さんと祐麒は乱入するわ、お姉さまは倒れるわでそれどころじゃなくなり、なんとか三月にリベンジを果たすのだった。

  《メイン》
「幼稚舎の頃なんか自我が目覚める頃でしょう? からかわれると、その度にムキになって生活を改善したりしたものよ」
「生活を改善?」
「ライダーベルトの使い方を覚えたり、変身して悪の組織と戦ったり、謎のライダーと共闘したり……。でも今思えば幼稚園の子供が無理してやらなければならなかったことではなかったわね」
「はあ」
 そんなすごい話を聞かされてしまったら、祐巳なんかもう「はあ」くらいしか、言葉の返しようがない。

  《デザート》
「よし、完璧」
 修正を加えながらリピートすること五回。やっと形が出来てきた。しかし。
「今のはお手伝いさんが出た時バージョンでしょ。じゃ、次は、お母さまが出た時バージョン」
「で? お父さまお祖父さまが出た時バージョン、ってのも順次練習するわけ? 祥子さん」
 突然背後からの声に振り返れば、ドアから身体半分はみ出させて母が立っていた。

【紅いカード】
 祥子さんは温室の中に滑り込むように入っていった。
 いくら私がストーカーギリギリの行為をしていたとはいえ、温室の中にまで入る勇気はもちろんない。
「どうしてお入りにならないんですか。だって、あのヒステリー、ヒステリーのくせに祐巳さまにベタベタして」
「ヒステリーのくせに、っていうのやめなさい。って、いうか。あなた、あとがきにすら出てないでしょう?」
 その少女は、悲鳴のような叫び声をあげると、そのまま駆け出した。

【紅薔薇さま、人生最良の日】
「江利子……」
 蓉子は立ちつくした。並んで立っていた江利子が、蓉子の手をギュッと握った。
「ええ。なんて素敵なのかしら」
 薔薇の館の二階が一面テレビ父さんのイラストで埋め尽くされていたのだ。
「いい光景でしょ?」
「……ええ」
「蓉子のリクエスト」
「ええ……」
 見たかったのはこの光景だった。


■いとしき歳月(前編)■
【黄薔薇まっしぐら】
  《ことの発端》
「これ……探偵事務所とか興信所とかの仕事だよ」
 いかにも隠し撮りしましたという写真ばかりである。
 高級料亭。高級ホテルのプール。
「す、すごい」
 高級のオンパレード。
「でもさ、蔦子さん。立ち入るだけでもものすごい料金を取られそうな場所にどうやって?」
「そう、うらやましがるな、って。あのさ、祐巳さん。この世の中、ただでいい思いができると思う?」
 「自分で考えなさい」の意味なのか、それとも単に言いたくないだけなのか。蔦子さんは、それ以上教えてくれなかった。

  《ウサギとネコとオオカミと》
「祐巳ちゃん」
 無邪気に手を振って、黄薔薇さまが近づいてくる。
「黄薔薇さま、ごきげんよう」
「ごきげんよう。久しぶりね。由乃ちゃんには時々、残忍で狡猾で充分な屈辱を与えられるような罠をしかけたりしてたけれど――」
(えっ!?)

  《傘はり浪人の妻》
「ロ……!」
 あまりに驚いて、その先の言葉が飛んでいってしまった。そこにいたのは、紅薔薇さまだったのである。
「ロ? じゃ、『ろくでなし。あなたなんかと結婚するんじゃなかったわ』」
「わ、『わかりもしないで偉そうに。何さまのつもりだ』」
「『黙っていればいい気になって。外であなたが何してるか私が知らないとでも思っているの?』」
「の……『飲みにいくのだってつきあいなんだよ! 亭主の気持ちも知らないで』」
「で、凸。――ここに写っているの、江利子よね」
 紅薔薇さまったら、勝手に始めたしりとりをこれまた勝手に終わらせてしまった。普通は「ん」がつくまで続けるもののはず。

  《イエローローズ騒動》
「ごめんなさい、お姉さま。相談しようかとも思ったんですが、お姉さまが」
「私が、何」
「なんて言うか、男女の、その恋愛のようなお話はご不快そうだったので」
「ご不快? ご不快ですって?」
 祥子さまはとうとう握っていた核のスイッチを、テーブルの上に思いきり投げ捨てた。
「後からこういう形で耳に入った方が、何百倍もご不快だってなぜわからないのっ!」
「ひゃあ」
 とうとう爆発した。祐巳は頭を抱えたが、三年生の二人は「おー、ついに」なんて囃したてている。

【いと忙し日日】
  《月曜日》
「『こんな調子じゃ、卒業式は本番の方が、実感わかなかったりして』……でしたか?」
「それより、もっと前よ」
「じゃあ、『タイが曲がっていてよ』ですか」
「そんな前じゃないわ。もう、しっかりしてよ。こっちまでわからなくなってしまう」

  《火曜日》
「私、笑いなんかとれないわよ」
 志摩子さんが困った顔をした。
「いいわよ、別に」
 由乃さんは、志摩子さんの肩をポンポンと叩いて安心させた。
「志摩子さんは、そうね。そのままでも笑いが取れるんだから」
「……ええ」
 訝しそうにうなずく志摩子さん。それに対して、由乃さんは何だか楽しそう。

  《水曜日》
「祐麒」
「ん?」
「これ、なーんだ?」
 弟の部屋を訪ねて私が指し示したのは、例の美少女戦士の衣装だ。
「……」
 無言ではあるが、目が泳いでいる。明らかに動揺していた。犯人みーっけ。

  《木曜日》
「あ、ごめんなさい。他のクラブと同じノリで声かけちゃっただけで、今日は私、合唱部とは関係ない用事で来たの」
「合唱部とは関係ない用事?」
「土曜日に薔薇の館で大砲を借りたいって話があったでしょう? 音楽の先生に聞いてみたら五台までなら貸せる、って許可が出たからお知らせに。で、何台いるの?」
「大砲?」

  《金曜日》
 白薔薇さまはすでにコートを着て、鞄を引っ掛けて来ていた。だから「連れて帰る」は教室ではなく、まぎれもなく自宅にという意味だとすぐわかった。
「佐藤さんが、付き添ってくれるの?」
「ええ。どうせうちのクラス自習ですし。この子の飼い主からも、頼まれまして」
「飼い主? ああ、小笠原さんのこと」
「はい」
 先生と白薔薇さまは、私の前で無遠慮に笑った。しかし、飼い主って。確かに、祥子さまには下僕と呼ばれていますけれど。

  《土曜日》
「わ、祐巳さん大変」
「何? ギャッ!」
 私は怪獣の子供全開で叫んだ。花束から練り上げた納豆が滴り落ちてきてしまったのだ。

  《おまけ》
 これは、いったい何のだろう。――私、水野蓉子は目と口を開けたまま思った。しばらくは状況が理解できなかった。
 由乃ちゃんが、マジックをしている。
 その後ろで、志摩子が大砲に押し込められ、人間大砲としてぶっ放されている。

【一寸一服】
 彼のどこに惹かれたか、なんて。
 一言でいえることではない。
 あえて言うなら、存在自体。
 サイド7で、「V作戦」の極秘ファイルを入手した瞬間みたいな、そんな気持ちの高ぶりが、彼と出会ったとき私の心に訪れた。


■いとしき歳月(後編)■
【will】
  《忘れ物》
「じゃ、すすり泣いていたように見えたのは」
「鼻をすすってました。体育館は結構響くでしょ。鼻をかむ音、って迷惑かなと思って」
「ああ、そうなの。じゃあ、祐巳さんにはこっちね」
 志摩子さんは、ハンカチをポケットにしまって、入れ違いに鼻栓を出して「どうぞ」と差し出した。
「あ、……ありがとう」
 祐巳はお礼を言ってからもらって、それで思い切り鼻に栓をした。

  《お餞別》
「妹、ね。……とても考えられないけれど」
 志摩子さんは、窓の外に視線を移した。
「相性の合う下級生と巡り合えるかどうか、ということもあるけれど。私が妹を持ったら、その子は一年生で白薔薇のつぼみにならないといけないでしょう」
「志摩子さんだってそうしてきたじゃない」
「もちろんそうだけれど。でも、なんとなく私は妹を持ってはいけないのではないかと思うのよ」
 祐巳は急に不安になった。
「乃梨子ちゃん」
 窓の外にいた乃梨子ちゃんの手を、祐巳はガシッと握った。
「び、びっくりした。え、……何?」
「乃梨子ちゃん。中学浪人しないでね」
「祐巳さま……?」
「志摩子さんにこんな事言われちゃってるけど、『チェリーブロッサム』のとおりにリリアンに入学してきてね。乃梨子ちゃんがいなきゃ、私嫌だから」
 乃梨子ちゃんが、こんな言われ方をしたがために中学浪人を決意してしまうような気がした。だからどうしていいかわからず、とりあえず捕まえていなくちゃ、って夢中だった。

【いつしか年も】
  《直前の卒業生》
 そこに熊男こと山辺氏の姿だけがない。
(来る、って言ったのに)
 『釈迦みて』の進行で遅れるかもしれないとは聞いていたが、このエピソードの裏側が語られる確率はとても少ない。所詮、その程度の扱いなのだろう。

  《江利子・聖・蓉子》
 江利子が最初に蓉子の名を知ったのは、中等部の入学式の時だった。
 クラスが発表された模造紙上には、「水野蓉子」という四文字は事務用マジックペンでくっきり描かれていたはずなのだが、「戦争」とか「賢一郎」とか「振門体」といったとんでもない名前にばかり目が留って、当然覚えていない。

  《送辞と答辞》
 序盤は退屈だったが、終盤は結構おもしろかったな。――と、聖は卒業式を振り返った。
 祥子の涙でぐちゃぐちゃになった顔も拝めたし、ここぞという時に子供向け番組のアクションヒーローさながらに令が登場したシーンも堪能できたし。欲をいえば、蓉子がド派手なコスチュームに着替えて「宇宙を破壊してやる」などの悪あがきを見せてくれれば最高だったのだが、言い始めたらキリがないのでやめた。

  《光の中へ》
 祐巳ちゃんがこそこそと祥子を輪の中から連れ出した。
(何をしているのかしら)
「お姉さま、これ」
 祐巳ちゃんが、祥子に鼻栓を手渡していた。
 結構度胸があるじゃないか、と蓉子は感心した。
 鼻栓をつけて顔を上げた祥子は、とてもいい表情をしていた。

【片手だけつないで】
  《春の風》
「ねえ。私今でも後悔することがあるの。あなたと栞さんのことよ」
「栞のことは言わないでよ」
「いいえ、この際だから言わせてもらう。もちろんあなたには遠く及ばないけれど、私だって傷ついたのよ。あなたはお節介っていうけれど、もっとお節介すればよかった、って。そうしていたら、あなたが階段を昇ってくるタイミングに合わせて抱きついて焼きもちをやかせたりして遊べたかもしれない、そんな風に今でも考えることはあるわよ」
 衝動的に、私の右手は振り上げられた。

  《秋の絆》
「山百合会に必要だから妹にする、っていうの?」
「どんな理由なら納得していただけるのかしら。顔で選ぶお姉さまが学年ごとの美少女ナンバー1をコンプリートしたいと泣きついてきたからとでもお答えした方が、説得力がありまして?」
 私はカッとなって、思わず手を挙げそうになった。



松平瞳子さんの感想
「これで終わりですって!? どうして瞳子の出番がないんですのっ! あとがきにはちゃんと出てたのに! うp主、出てきなさいっ!!」


一つ戻る   一つ進む